しばらく走って
駅裏の物静かな通りまで入ると
やっと手を離してくれた

冬とは言え、
コートを着たまま走ると
汗が頬を伝った。
エンジも
耳から首筋をしめらせて
鼓動に合わせて
一滴喉を伝っているのが見えた

2人ともが
呼吸を整えることに
専念せざるを得なかった

「じゃあ」
息も落ち着かない間に
そう言うと
またも手を差し出すので
今度は私も素直になれなかった。
自然と軽く後図さった
まさかまだ走るんだろうか
そう質問すると
エンジは
軽快に笑って首を振った



22時過ぎ

エンジの手を引いて
大阪の街を歩いている

アーケードはちらほら
開いている店があるだけで
しかし人は夕方に増して多い

傾め後ろにちらりと目をやると
何だか楽しそうで
私のことなど
お構いなしといった様子で
辺りを見回している



とりあえず時間もないので
大阪城を目指した
城まではかなり距離があるけど
人足が少ないといえば
ここくらいしか思い当たらない
22時20分 
終電時刻を気にしながら
地下鉄に乗り込む

本当に不可解なことばかりだ

でも
車窓から真っ暗な外観を
見つめているエンジの瞳には
やはりどこか哀愁があって
放っておけない気持ちになった


公園前で降りると
案の定、
人影は少なかった。

しかし公園に近寄るにつれ
私の額に今度は、
軽く冷や汗が出ていた。

木陰に設置された
ベンチや石段の上・・
ありえない所まで人の気配を感じる。

明らかに怪しい雰囲気で、
夜の公園の実態を知らない
私は自分を心の中で説教した。


「こんな近くで見るの初めて」

薄明かりに照らされたエンジが、
最初に声を発した。
城からの青白いライトが
彼の瞳の色をより美しくして、
短いまっすぐな黒髪は
夜風に吹かれて揺れながら
その艶を増している。


並んで見ると背の高さは
自分とたいして変わらない

エンジの顔がすごく近い所にある

彼の白い頬は
触れてしまえそうな
可能性を抱かせる。それ位 無防備だ。


近寄り過ぎてる。
少し離れよう。
そう思って
一歩下がった途端、
体育で一回転した時みたいに
上下左右が分からなくなってしまった。
ライトの光の鋭い残像が見えた


気が付くと。
うつ伏せに地面に転んでいた。
どうやら足元に
大きな石があったらしい


私は何となく
前の晩のことを思い出していた。
酔っ払った帰り道、
急に雨が降ってきたのだ。
動転した私は
千鳥足にも関わらず
あわてて駆け出した。
その弾みで小さな水溜りに
はまってしまった

起きた時の
胸元の湿りはそれに違いない。
そしてまた、
公園のくぼみに出来た水溜りは
白いワンピースを同じように
濡らしてくれていた


途方に暮れると
さっと目の前に
手が差し出される。
もう何回目だろう
エンジは呆れた顔してるんだろうか
そう思って見上げる

気付かなかったけど
目線の先の腕はとても逞しく
確かに大人の男性のものだった

外見が何となく愛らしいので
勝手なイメージを膨らませていたようだ。
実際は、私より年上で
そういえば出会った時から
何度も助けられている。
ちょっとワガママで
予測不能な所もあるけれど
包容力があって
大人の男の人なんだと
今さらながら気付かされた

体が力強く
引き上げられた。
ライトは逆光していて
エンジの表情は確かめられなかった


公園の時計は23時を
指そうとしていた
エンジは大通りまで来ると
タクシーを止めた
 「送るよ」

現地で別れるつもりだった私は
動揺してしまった。
しかしエンジは
すでに体半分、乗り込んでいて

この茶色に染まった服のまま
一人で帰すのは忍びないのだろう

再び、手をさしのべられると
抗う理由も見つからず
結局、後部座席へと乗り込んでいた








つづく
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