もう かなり状況は悪かった。 ツタが私に関心を移すと かかしは即座にその場から 立ち去ってしまった。 周りにごちゃごちゃ居るので その輪に取り込まれて どこに行ったのか、 まったく確認できなくなった 12月のことは 友達として接しよう そうゆう意味じゃなかったのかな。 ツタが横にいるのに、 思いがけず 涙が出てきたので 慌てて反対を向いた。 するといつから居たのか、 そこに見知らぬ男性が立っていて 目が合ってしまった。 何も気付かないで欲しい。 心の中で祈ったけど その顔が余計にひきつっていたらしく 「どうしたの？」 と話しかけてきた。 さらに 同意も求めず隣の席に座った 相手の質問攻めに 何度も首を振る。 諦めて別の席に 移るだろうと思ったのに、 とにかく私の様子に 興味津々という感じで 引く気配がない 慰めの言葉もより胸をえぐる。 あげくにはどこに住んでるとか 今から暇？とか話が変わり ちょっと怒りの感情も芽生えてきたけど 振り払うだけの元気がなく 頭のグルグルを抑えることもできない とにかく耐えよう。そう覚悟をした 覚悟して １分としない頃だろうか。 とにかくすぐに真後ろから 「おい」と低い声が聞こえたので 先に男性が振り向いた 聞いたことのないくらい低い声に 私も振り返った。 さっき見たばかりの服が そこに見えて ものすごく変に感じた 立っていたのは かかしで、 聞いたことのないような声だけど かかしの声だった。 上着のジップが 襟いっぱいまで閉じていて 下から見ると ほとんど鼻先まで隠れている。 ポケットに 手を突っ込んで 靴の先で２回くらい 足元のポールを蹴ってきた 私の方はまったく見てない。 「氷」という例えそのものの視線は 完全に隣を睨みつけている 何が起こっているのか、 意味が分からなかった。 バーテンが「かかしさん」と 制止するように言ったのが聞こえた 「どけよ」 静かで、低くて、 威圧感のある声で まるで別人のようだった 相手は かかしと知ってか知らずか、 それでなくてもこの背の高さと 目だけで威圧してくる雰囲気に 圧倒されてしまったらしく 即立ち上がり、 何度もペコペコしながら 逃げるように去っていった 気づくと 細ドレッドの子が 呆気に取られて こっちを見ている。 周辺には ちょっとした物見客が出来ていた こっちだって 口を開けて その様子を見ていたけど、 それもつかの間、 空いた隣の席に ポケットに手を入れたまま 足で乱暴に椅子を回転させて かかしが座ったので 思わぬ事態に 視点を戻すしかなかった いつの間にか ジップを胸元までさげていて 口元から首まであらわになっている 室内はそう暑くないのに 首筋に、少しの汗と 青い血管が太く浮き出ているのが よく見えた バーテンは注文を聞かない。 というより ずっとこの定位置から動いてないし 目は伏せているけど 口元がかすかに上がっていて 一部始終を楽しんでいるとしか思えない ツタは居るのか居ないのか、 もう振り返る余裕なんてなくて 確認できない 「何やってんだよ」 不意に話しかけられて 顔をあげる。 まっすぐに こっちに向けられる瞳は 眼光が弱まっていて 少しだけど私の様子を 窺おうとしているように見えた 助けてくれたのかな。 そう思うと気が緩んでしまい 溜まっていた涙が ひとすじ頬を伝った その時のかかしの表情は 一生忘れられない。 耳元に、顔が近付いたと思ったら 彼の口から言葉が流れ込む 何しに来たの？ 何考えてんのか全然わかんねーよ 静かに でも途中から投げつけるように。 「何」を連発されたのも手伝って 頭の中は大混雑で 十分傷ついているのに どうしてか 言っている本人の方が 痛そうな顔していた もう全てが謎だった。 何故にこんなにも分かりあえないのか。 とにかくこの場から 立ち去りたかった でも先に立ち上がったのは かかしだった。 言うことは言い終えた感じで こちらに何を求めることもなく 考えてることが分からない、 それは私の方だ。 ここに来てはいけないなら かかしも私の家に来て欲しくなかった 酒が回ってきたのか、 自己中心的な気持ちになっていると 自分で気付かないまま一人激高した かかしをわがままとか、 自分勝手とか思ったことは 一度もなかった。 でもそれはやっぱり 付き合っていたから 我慢してくれてたんだろうか？ 本来のかかしは こうゆう人なのかも知れない ＤＪがピークタイムに突入して ピッチの高い曲をかけ始めた ふと見ると午前２時を回っている 周りの様子が気になって しばらく立てなかったけど かかしが先に行ったおかげか、 辺りは何事もなかったように 前を向いて踊っていて、 女の子の群れもなくなっていた ツタも居ない。 バーテンにグラスを返すと 大丈夫？と ２回目の心配をされた つづく もどる