そう寒くないのに
温かさが体中を支配していて、
彼の手が背中に回った時に
ようやく顔をあげることができた。
酔いが醒めると
リアリティが出てきて、
慌てて腕から抜け出た

一部始終に
ちょっと後悔していた。
何で自分から誘うような事したのか
それは酒のせいもあるだろうけど
完全に心の揺らぎだった。
私は立ち上がった


「もう、帰るの?」

何事もなかったように
エンジが聞く。
下から見上げてくる彼の表情は
止めるでもなく拒むでもなく、
全てを許容してくれそうな
澄んだ綺麗さだった。

彼にとっては挨拶程度の、
軽いハグだったのかも知れない。
エンジが本気だったら
きっとあんな口づけはしない

それでもこのまま居れば
心地良さに浸って
後戻りできなくなってしまう。
エンジもまた
受け入れるだろうと思った。
彼は十分、
溺れてしまえる
深さを持っていた


軽く砂を払い
一度うなずいて、
照れてるのを悟られないように
笑顔を作ってから手を振った
また会いたい。
彼に惹かれているからこそ
友達でいようと、固く心に思った


小さな道を挟んで
KARTがすぐ目前に見える


入り口で、白狐が
しゃがんで煙草を吸っていた。
目が合ったけど
今のを見られていたかも
知れないと思うと
挨拶なんかできずに
口を押さえて軽く走り出した


朝4時、
帰ることもできなくて
雑居ビルの前に座り込んだ。
急に止まったせいなのか
鼓動が抑えられなかった

こんな時なのに
 こんな時だからなのか、
不思議とすぐに
ある顔が頭に浮かんできた。

そこで携帯をかけて、
繋がったと思ったら
1秒で切られてしまった。

それから2分後に
着信音が鳴った。


「遅ッ!  つうか遅ッい!!

 今から来る気かよ?ありえねーっ」


繋がるやいなや、
一方的にまくしたてられ
私は一言も返せない。
やけに電話の向こうは静かで
magentaの中?と聞くと
んなわけねーバカ!と即答された

表に出てかけ直してくれたらしい。
恩着せがましく言いながら
もうお開きだからいーけど、と付け加えた。
私の調子は
やはりどこか変だったのか、
電話の向こうは急に
テンションが下がって
どこに居るのかと尋ねてきた

東京だよ、とありったけ
元気を出して笑ったけど
声が震えてしまった。

またハルキ節が炸裂しそうだ、と
身構えたら
大丈夫か、と
一言だけ言ってくれた。



空を見上げると
白く晴れ渡ってきていた


駅から
途中まで始発列車に揺られ、
名古屋に着くともう朝の8時を回っていた

その間に一人で
色んな事を考えた。
先のことは本当に分からないけど
自分の気持ちに、もう嘘はつかないし
逃げるのもやめると決めた。

大阪までは新幹線で、
やっと見慣れた景色に戻ると
そのまま静花の家に行って
優しい言葉をもらって
すぐ爆睡した






つづく
もどる


※magenta − ハルキ氏が専属している大阪のクラブ















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