次は何から話したらいいのか
分からないけど
きっと日数の経過はこうだ。

かかしと公園で出会ってから、
しばらく経っていた。
彼は忙しい立場で
部屋に篭もりきりになることも
しばしばなので偶然の遭遇は難しかった。

何度かあの公園に行った。
期待が、なかったわけじゃないけど
特に会いたいと思ってわざとらしく
うろついてたわけでもない。



私は大阪に戻った。
大阪府内の
5階建てマンションに住んでいる。


年が明けて春先のある日、
彼のステージを
見に行く事があった。
と言っても狭いクラブの中で
飛び跳ね騒ぎ酒を煽るものだ
だからたいした期待もせず出かけた

中はぎゅうぎゅう詰めで
息苦しかった。
最後方から眺めていたので、
彼の姿は全く見えなかった。
でも歌は良く聞こえる。
かかしはこのグループ、
ラップを中心に広い音楽観で
活動している'huvcool’の一員だ
メンバーはそれぞれ
異なるスタイルで歌う
でも調和してないわけじゃなく
すべてが決まっていたかのように
かっちりはまる
それにしてもかかしの
客を煽る巧さは素人目に見ても
興奮を誘うものだった

何もかもにおいて
彼らの音楽スタイルは最高だと知った




すべて曲目が終わってから
外の空気が恋しくなり
即座に外に出た。
皆はまだ中で酒の余韻を楽しんでいるようだ

冬まだ浅かったあの日、
かかしと 一つ部屋に
一緒に過ごしてたのが
嘘みたいだと
今日のステージの素晴らしさに
改めて思わしめられた
青白い煙草の煙を面前に漂わせて
顔をしかめながら
息を吐く残像が目を離れない



4ヶ月近く経っても彼を忘れられない。


picture・・



まだ体にこもった音の余韻に浸りながら
入り口に座り込んで
薄く青になりだした空を見上げ
星を一つ二つと発見していく
あ、あそこにもひと・・


その時、裏口の方から誰か出てきた
一人で。
ちょっと古びたドアを乱暴に開け放って
髪を結び直している
長身のその姿はまぎれもなく
かかしだった。

公園で会った時の
ばったり感がよみがえった。

星を指さした手を
降ろせなくて
困っている私を見て
かかしはこの上ないくらい
笑顔で笑った。

私は面食らって言葉も出ないでいた





飯でも行く?と
かかしは言った。
 返事に躊躇した

正直メンバーの人達や
大勢と打ち上げに出るのは
気が引けると思ったし
素人だし音楽の話もできないから。

だがかかしは身支度をして
一人で出てきた。
信じられない。



小さな、だけどお洒落な
和風酒場の個室に通された。
白をメインにした壁と赤い鴨居の
コントラストが美しい。
かかしの部屋が思い出された

私はサラダを頼んで食べた。
とても喋れない
緊張しずぎていたし
目の前の現状が
リアリティを拒んでいた

でもあくまで
平常のふりをした。
そのせいか乱暴な言葉遣いで
かかしと接していた
早く酒でも飲まないと
どんどんドツボにはまってしまう!
そう思うと手が勝手に彼のグラスに酌をした。
こんなに飲ませて一体かかしをどうするつもりだろう
なのに彼はお構いなく次々飲み干し
最近仕事が忙しい事や、
作曲の難しさについても
沢山話してくれた


疲れたー、と満足気だけど
顔に陰をちらつかせて笑った
確かに肌荒れも前よりひどく
やつれているようだった

この時、 初めて、 確実に
胸が焼ける程 鼓動をくりかえした

その後
お互い冗談を言い合って笑った
酒も腹五分と入り、二人とも赤い顔をしていた




「今日は一緒に居たいな」
ふいに
かかしが言った


あまりに唐突なことで
彼の顔色も探れず
探っても何も出てこない笑顔で
困ってしまった。
お酒が入っているとはいえ
この量で酔ったとも思えない
・・・・どうして私なんだろう?



私は確かに今
かかしが好き 


彼ともっと話したいし
触りたいし
知りたい
そんな単純な感情は
きっと、一目見た時から心に宿っていた


だけど
どうして彼は私を誘うんだろう?
彼にはその声が
あまりある才能がある
そのニュアンス
自信に溢れた瞳
ただものではない風貌(良い意味で)

周りには沢山素敵な女性が
いるはず
ふと、ある言葉を思い出した
一夜の恋
地方妻
・・・・そうかも知れない
そうに違いない。
そう思った時、
彼へ向かってどんどん走り始める
気持ちの高ぶりを抑え
返事をすることができた

 また今度、ね

少し冷ややかに微笑み
早口にそう言ってメモに
アドレスを書いてテーブルに置いて、
それからかかしの方を見ないように
席を離れた

ちょっと震える手で
会計シートをわしづかみにして。

・・・かかしは
どんな顔してただろう
プライドを傷つけられたような?
それとも、寂しい・・
顔だったらいいなんて
一瞬でも思ってしまってごめんなさい


帰り道はそれこそ泥酔で、
どうやって
家に辿り着いたか知らない



それからしばらくして夏が来て
たまたまラジオをつけていたら
かかしが出ていた。
奥手な女の子について
一言、苦手
と言っていた

あれからお互い連絡をしていなかったけど
私は連絡先も知らないから当然だけど
辛くて携帯を変えた。








つづく
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