近所の駅に着くまで、 今まで 走ったことない位の速さで 駆けた。 右足の薬指が軽くつったけど それでも止まらなかった 家から出てすぐ、 堰を切ったように大量の雨が 頭の上に降ってきた。 あっという間にずぶ濡れになったけど 目にかかる水滴だけを払って ただ走った 痺れたままの体を 何とか動かして 身なりは最低限の支度のまま、 慌てていたので 何も考えず ブーツを履いてしまって、 それでも気にせず 走り続けた ホームに入ると1時45分 ちょうど発車する電車が ベルに合わせて動いていた 息切れして よたよたしながら、 濡れた服を哀れそうに 見つめる駅員から 新幹線のチケットを買った。 財布を忘れてなくて 本当に良かった。 それぐらい手には何も、 上着のポケットに 財布と、 あの紙とケースしか 持ち合わせてなかった 列車が停泊すると しばらく開扉を待っていた。 少しだけど呼吸が落ち着く KARTで私を発見した時、 隣の男性を威圧した時、 私に言葉を投げつけた時、 彼がどんな気持ちで 居たのか だんだん分かってきて 想像するには胸が苦し過ぎた。 どうして、 何故手渡してはくれなかったのか 思い悩んだ。 とても小さな包み紙だから、 もしかしたら一生 気付かなかったかも知れない 人の心を先読みして、 言い方は悪いけど用意周到な 彼がした事とは とても思えなかった ドアが開いて新幹線に乗り込む。 窓ガラスに写っている 自分の顔は言葉に表しがたい 表情をしていた 指定席を買ったのだけど どうにも座る気にはなれなかった 服が湿っているのもあるけど 居ても立ってもいられない。 そんな感覚。 3時間近い旅の間、 私は険しく思考を逆立てていた 今、行って 果たしてどうなるんだろう。 12月から半年、 この歳月は 月ほど遠い気がした 彼にとっては すでに決着のついた出来事に なっているかも知れない。 知れないというより確信が持てた。 こうゆうのは 物語の中では「ドラマチック」とか 言うんだろうけど、 実際問題 「残虐な事実」でしかないと感じた。 あの細いドレッドの子かどうか 定かではないけれど 当然新しい出会いが芽生えている 私だけがひきづって いつまでも好きでいる そう思うと 逃げ出しそうになった 疑問もあった。 ツタが言っていた、 私をステージに上げたがらなかった かかしの真意。 それよりも、もう あの部屋に住んでなかったら? 引っ越している可能性はなくもない 番号は覚えているけど 携帯を忘れてきてしまった。 実際あったとしても 顔を見ずに話す勇気はなかった 色んな罵りが頭に 言葉の洪水を生み出してくれた それでも一方では、 胸の高鳴りと嬉しさで 今にも空を飛びそうだった 過去の事にされていても いい。 ただ私は会いたい 会って伝えて声が聞きたい。 結局は その想いに終着した 夕方5時頃、 東京に着くと ホームは溢れんばかりの人だった。 これからちょうど「悪い」時間帯だ 列車を降りるやいなや、 規則的に同方向へ動く 人波に押され、地下へ降りていく。 窮屈さが余計に心臓を躍らせた 慣れた乗り換えの手順。 以前は終電ギリギリに 使うことが多かった。 大阪と、東京の距離は やっぱり遠くて不便だ 地下鉄に変わると 座るどころか立つスペースすら 怪しくて、今から 行くのか帰るのか 不明の人ゴミでひしめいている 首部からそう遠くない 最寄の駅まで 約14分。 ここまで来るともう何も考えられなかった 比較的広々とした 懐かしい駅に到着すると 何も変わっていなかった。 薄暗くなりはじめた 青紫の空に記憶が戻る 手をつないで 家までUターンした事があった。 あの時も空がこんな色していた この場所から本当に たいした距離はない。 胸がおかしい位に騒いでいた 楽しそうに駅を過ぎていく 高校生の笑い声が空に舞う 沢山の人が行き来する 駅前を、道がまっすぐ つき抜けるように通っている 信号で引っかかり、 青白く光りつつある横断歩道の ラインを見つめて息を整えていた。 車道の幅は20mくらいだろうか 私の前後左右には沢山人が居る。 向こう岸にも当然 信号待ちしている人が大勢いて、 なのに何故か、一点の異なる部分に 気が付いて、凝視した。 ここからははっきり見えないので それがどうして違和感を持つのか 分からなかった。 信号が変わる。 依然、気になるその方向を見つめる。 だんだんと向こうから渡ってくる人が 近付いてきて、人が交差し出した。 私と対角線になる位置にいる その「違和感」の主が ようやくはっきり見えてきた。 やっぱり似ている。 服装こそ違うものの、帽子は こないだと同じもので 多分顔立ちよりもその白黒の帽子が 私に思い出させたに違いない そう思っているうちに 相手はあっという間に過ぎてしまい、 信号の青も点滅しだしたので 本人かどうか確かめるすべもなく 渡りきることになった。 いくら何でもここに居るはずがない。 帽子なんて一品じゃないのだから 似たように見えることもあるだろう、と さして思い悩むことなく、前を向き直した その先はただまっすぐな道が続いていて すぐ右手にあの、 心が依っていった公園がある。 時計台。 久しぶりに見るその姿に 胸が熱くなった。 黒い文字盤は相変わらず 綺麗な彫刻が施されて 高い所からまろやかな灯りを放っている 6時かそれ位を指していた 公園の中に人影はない 揺れていないブランコ。 思いがこみ上げ過ぎて 思わず瞳を閉じた ここを道なりに行って 標識を左に曲がれば すぐだ どうか、どうか 色んな事を 見えかけてきた 星屑たちに願って ゆっくりと、進んでいった つづく もどる