寒さが突き刺すような
霜でしめったベンチで
しばらく呆然としていたけれど
涙などは出なかった
思考から感覚から全てが
固まったと言っていい程
私の心は
何も考えられなかった



駅へ戻ることを決意した



途中、上司に電話した
はい、はい、と
口だけが普段通り
事務的な声を発した


今日は休むことにした
葬式だとか嘘をついた


picture・・・




しばらく行くと
あの居酒屋に繋がっている
少し大きな通りに出た
長くまっすぐ続く道の上には
駒のように数人の
会社員が入り乱れ
往来している
携帯の話し声がうるさい

その人の波に
似つかわしくない集団を
見つけた

一瞬ぎくっとして立ち止まる
多分あれは
さっきまで一緒に飲んでたメンバーだ




集団との距離は50mとない
どうしよう
足速やに駆け出そうか
でもそれも失礼だ


そう考えていたら
先手を打たれた




あれ?
と大きい声が響く


それはメンバーの一人、
エンジの声だった。

彼は飲み会中、
挨拶しに来てくれて
その後も
楽しく話してくれた中の一人だ

エンジは好かれる
可愛い顔立ちをしているけど
あまり女性と盛り上がるタイプじゃなく
男性の輪に居る事が多いようだ
今もスタッフの男性と
もう一人のメンバー、数(すう)と
ふらつきながら歩いていた


かかしの…だよね

私との距離を3mまで近づけると
濁した口調でエンジが言った。
そういう彼の顔は
酒のせいか目が爛々として
輝いている


はぁ、と
私は偽物っぽい作り笑いをして
答えるしか術がなかった

だって今
私の存在は
かかしにとって何なのか
全然分からないし
ただ言えるのは
もうかかしに直に
会う事はないって事で



再び頭がグルグルしてくるのを
抑えようと必死になっているのに
そんな事はお構いなく
エンジが話し掛けてくる


かかしに会えた?


彼が言うには
私が帰ってから10分程して
かかしも店を出たらしい

それから
かかしが戻ってこないから
仕方なくお開きにしたとも言った


…かかしは
もどらなかったんだ
どこ行ったんだろう


胸がぎゅっとなる
かかしのあんな態度は初めて見た
よっぽど私に腹が立ったんだろう


かかしが公園から出て行って
20分くらい経過した頃
やっとベンチから立って
ゴミ箱を直しに行った
でもプレートの留め金が
完全に折れてしまっていて
取り付ける事ができなかったので
仕方なくゴミ箱に立て掛けてきた



あのゴミ箱は私だ
余計な考えばっかり頭に詰め込んで
溢れんばかりにしている
溢れたら人に迷惑かけて・・・
壊れた心の留め金は
誰かに治してもらわなければ
自分ではどうしようもない


色んな事を考えて
うつむき加減になっている
私の暗い表情を見取ったのか
エンジは急に
「よし!二次会行こう」
と言いだした

皆ハイテンションで
あっという間に賛成が集まり
ノリを壊すわけにもいかず
私も背中を押されて歩き出した









つづく
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