ヴィゼンの飼い猫(ジュリア・イン・サイレンス)
ACT.3
「それでは、準決勝第一試合、はじめっ!」
セツとヴァルキュリアがそれぞれ剣を交える。
それぞれの後ろで、二人のカードマスター、フゥとバッシュが次の攻撃に備えてカードを構えている。
「なんでカード構えてるのに使わないのー?」
「二人とも“カウンター・ポスト”だからよ。」
ネコの質問に、ジュリアは答える。
「かうんたーぽすとぉ?」
「うーん・・・カウンターっていうのは、相手の攻撃に合わせて対応して反撃するタイプってこと。いわゆる“待ち”の戦法ってことね。冷静な判断と、的確な戦略が必要なの。フゥちゃんのはセツちゃんをメインにした“カウンター・セツ”。バッシュのは“カウンター・ヴァルキュリア”って感じかな。」
「へぇ・・・。単細胞のジュリアちゃんには死んでもできな・・・いったぁいっ!」
叩かれた頭を押さえているネコに向かって、ジュリアはぷんぷんしながら説明する。
「いい?僕のは“ウィニー”っていうれっきとした速攻戦法の一種なの。僕のは9つの使徒(レベル)を使った速攻攻撃だから“リベリオン(レベル・ウィニー)”って呼ばれてるんだからぁ。」
「あ、二人とも動き始めたよー。」
ジュリアの言葉をさらりと流して、ネコが武舞台を指差す。
「“アイスブランド”!」
先に動いたのはバッシュだった。彼のカードからキラキラとした氷の結晶が放たれ、ヴァルキュリアの手の中で氷の剣となる。
「これでっ!」
ヴァルキュリアの持つ氷の剣から、先鋭な氷河の破片が飛び散り、セツを襲う。氷の一粒一粒がセツを切り刻むが、彼女は全くひるまずにヴァルキュリアに突っ込んで行く。
「バカな・・・彼女は死を恐れないのか!?」
バッシュは今までにないタイプの精霊(実際はセツは精霊ではないのだが)に、驚愕する。が、その認識は間違っている。セツに感情と呼ばれるものはない。よって死を恐れることはないのである。そして、それ以前に、彼女は死ねない存在なのだ。既にもう、ヴァルキュリアに迫る彼女の身体に、氷で受けた傷は無くなっている。
「こんどはこっちだよ!“月光の大鎌”!!」
フゥのカードから一つが抜かれ、頭上にかかげられる。カードが輝きと共に消え、同時にセツの手に、本人の背よりも大きな大鎌が現れる。三日月を思い起こさせる刃がキラリと光る。その姿は、セツの漆黒の死装束と合わせて「死神」を連想させるに十分だった。
ヴァルキュリアの懐に潜り込んだセツは、鎌を一振りする。女騎士は素早く後ろに飛び退き、かろうじて致命傷を避けたものの、鉄の肩当てが弾き飛ばされる。左腕の付け根から血が流れているのも見える。しかし、ヴァルキュリアは全く表情を変えない。その鋭い眼光はずっとセツを補足している。
「くっ、ダメージを受けない身体・・・か。ヴァンピレスのような闇属性系というわけか・・・。なら・・・。」
再びバッシュがカードを取り出す。
「・・・彼女の動きを封じるのみっ!“からみつく鉄線”!!」
カードから現れた鉄のチェーンが、生き物のようにセツの身体に巻きつき、ギリギリと締め上げる。
「させないっ、“対抗呪文”!」
フゥのカードが煌き、セツの身体にからみついた鎖が、分子となって消滅する。
フゥの「対抗呪文」がバッシュの「からみつく鉄線」を打ち消したのだ。
「わかっていたさ!ヴァルキュリア!!」
彼女はアイスブランドを地面に突き立てる。すると、幾つもの氷柱が天空に昇るように武舞台から突き上がる。その氷柱の一つに、セツは閉じ込められた。
「アイスブランドにはこういう使い方もある。この剣をあまり見くびらないことだな。」
「あの鎖は囮だったというわけですね・・・でもっ!」
氷の中で一瞬、月光の大鎌が閃くと、氷柱は砕け散り、キラキラと舞う氷の粒の中から大鎌を持ったセツが現れる。身体中に重度の凍傷を患っていたが、それも見る見るうちに回復していく。
「・・・月光の大鎌の切れ味も甘く見ないで欲しいです。」
「すごい・・・。二人とも相手の先の先を考えて動いているんだ・・・。」
「少なくとも、ジュリアちゃんよりも頭いいよねー。二人とも。」
「・・・ネコ・・・。あんたいつも一言多いのよ・・・。」
ダッハの遺跡で発掘を続けている女性がいる。ジノクラフトの一人であろう。彼女はわき目もふらずに岩盤に表れた古代の遺産の一部を、慎重に発掘している。
彼女の名前は“アリシア・グラーノア”。ダッハでも指折りのジノクラフトである。
そんな彼女の頭上が一転、影に覆われる。さすがに不思議に思った彼女は、一旦土を掘る手を止め、上空を見上げる。
「あれは・・・。」
空に、太陽の光を覆うほどの巨大な「モノ」が浮かんでいる。雲でも鳥でもない人工のモノ。それは巨大な甲冑だった。
普通の人間であれば驚くであろう。そんなものが空を飛んでいたなら。もちろん、アリシアも驚いた。しかし、その理由は普通の人とは違う。
「バカなっ!?禁断の封印を・・・“士念甲冑”を動かしたのかいっ!・・・いったい誰が・・・?」
それに乗っているのが誰かはわからない。しかし、あの甲冑がどこに飛んでいこうとしているのかはわかる。ノアニードの方向だ。
「ヤバイよ・・・。あんなのがノアニードを襲ったりしたら、“ダッハの虐殺”どころの騒ぎじゃない。あんな小国、一夜にして滅んじまうよ・・・。」
「女王陛下、お久しぶりでございます。」
イヨの前で、白いローブの老人がかしずいている。
「そんなに畏まる必要はありませんわ、バッシュ。ここはお祭りの場なのですから。」
「フフ・・・。あなたも一緒に、あなたの愛弟子を応援しましょ?
・・・まぁ、私はフゥちゃんの方を応援しているのだけれど。」
「ヴァリレア・・・。」
イヨの隣に座る彼女の姿に、バッシュの瞳孔が鋭くなる。
「コウモリごときが・・・。この大会、何を考えている!?」
「あら、若い頃半殺しにしてあげたのに、この歳になってもまだ礼儀を知らないのね・・・。」
ヴァレリアとバッシュの間に、重苦しい緊張感が張り詰めた。
が、そのピリピリした空間をあっけなく破ったのは、一人の少女の脳天気な声だった。
「やっほー、イヨー、ヴァレリアー、お久しぶりー。」
「あら、エイムさん。全然変わってないのね。」
「お久しぶり、エイムちゃん。」
「おい、イヨ。捜していたエイム・Cを連れてきてやったぞ。」
エイムの後ろからストームも顔を出す。
「あとコイツな。」
「ハジメマシテ、“ppp−1”トモウシマス。“スリーピー”トオヨビクダサイ。」
「あら可愛い。」
「よろしくね、スリーピー。」
あっけなくppp−1を受け入れる女性二人。ストームは(エイムにせよ、イヨにせよ、ヴァレリアにせよ)女性の現実感の認識力の強さに感心した。
・・・単に彼女達が楽観的すぎるだけなのかもしれないが・・・。
「あれ、このおじいさんは?」
エイムはイヨの前にいる老人を指差す。
「ああ、こいつはアルバハのカードマスター“バッシュ・ザ・クロニクル”さ。」
「え、アルバハのバッシュって・・・!?」
エイムは武舞台とこの老人を交互に見る。
「・・・つまりは、そういうことだ。」
「・・・そういうことって・・・どういうこと?わかんないー。」
「やれやれ・・・。」
ストームはため息をつく。これがヴィゼンの歴史に名を残す、稀代の知将と呼ばれた少女とは・・・誰も思わないだろう。
ここにいる人間以外は・・・。
「いいか?姫っち。これはもともとイヨがな・・・。」
「ストーム・・・。ここは公式の場だ。女王陛下をなれなれしく呼び捨てにするな。誰が聞いているかもわからん。」
「なんだ・・・?」
ストームはイヨの座っている隣に立つと、彼女の肩をつかみ、ぐっと自分の元へ引き寄せる。
「ちょ、ちょっと、ストーム・・・。」
よって、イヨは顔をストームの胸に埋めることになる。
「バッシュ、男の嫉妬はみっともないぜ。」
「貴様ぁ・・・。」
バッシュはカードを構える。
「やるか!」
対応してストームもカードを取り出す。
「9枚の使徒を手放したお前に、私に勝てる道理はない。」
「うるせい!少なくとも、俺の“デッド・アイ”と“パラケルスス”はてめぇの“三つのしもべ”なんかに負けはしねぇよ。」
「やめなさいっ!」
その二人の間に入ったのは、ヴァレリアだった。
「折角の紅茶が不味くなってしまうわ。喧嘩なら外でやりなさい。」
「「・・・。」」
二人は無言で、お互い最も離れた席に腰を降ろす。そんな空気を嫌ってか、イヨがみんなに武舞台への注意を促す。
「さ、さぁ、バッシュさんがまた何か仕掛けるみたいですよ。」
「“闇への生贄”!」
セツの足元から闇が吹き出し、彼女を包み込む。このまま闇の世界に連れ込もうとしているのだろう。しかし、
「“日中の光”!!」
フゥの掲げるカードからまばゆい光がほとばしり、セツの身体を照らし出す。その光によって闇は跡形もなく吹き飛ばされた。
「光属性の直撃を受けても何ともないとは・・・。彼女の不死身の能力は、ヴァンパイアの性質ではなさそうだな・・・。」
バッシュは少しづつ、セツのデータを集めていく。
「ねぇ、あいつって確か前の試合の時、相手のカードを出させないカードがあったでしょ?なぜ使わないの?」
この物語のヒロインのくせに、既に解説担当が板についてしまったジュリアがネコに説明する。
「ああ、“ズァーの運命支配”のことね。あれは確かに相手のカードを使えなくさせるけれど、逆に自分のカードも使えなくなる諸刃の剣なの。だから、ある意味自分が優位の場合でなければ使えないカードってわけ。つまり・・・。」
二人は武舞台を見る。
バッシュとフゥの前にはそれぞれ、ヴァルキュリアとセツが立っている。お互い無表情だが、ヴァルキュリアの肩から流れ出る血が痛々しい。
「いい?現状では明らかにフゥちゃんの方が有利よね。このままお互いが膠着状態、つまりカードが使えない状態になったとしたら・・・。」
「純粋にヴァル子とセツちゃんのガチンコ対決ってことよねぇ。」
「・・・。
だれよヴァル子って・・・?まぁいいわ。つまりそういうこと。あまり言い方はよくないけど、ヴァルキュリアとセツちゃんじゃあ、セツちゃんの方が性能がいいのよ。
確かに剣術じゃあヴァルキュリアの方が上だし、武器的にもアイスブランドと月光の大鎌は互角の能力を宿している。でもね、たった一点、唯一にして絶対の優位がセツちゃんにあるの。」
「不死身・・・ってことだよねぇ。」
「そう。それをどうにかしないと、ヴァルキュリアに・・・ううん、バッシュに勝ち目はないわ。
だからこそ、さっきから彼はセツちゃんを封じ込めようといろいろやっているわけ。」
「じゃあ、この勝負フゥちゃんの勝ちだね。」
「今のところは、ね。でも・・・。」
ジュリアは心配そうに武舞台を見つめる。
「・・・フゥちゃんはバッシュにいつも先手先手を取られているわ。何とか凌いではいるけれど・・・。
イニシアティブは今、バッシュにあるのよ・・・。」
「そろそろ勝負を決めよう。」
バッシュは全てを悟ったようにフゥにそう宣言する。
「何を・・・。」
フゥがそう言う間にも、バッシュはカードを行使する。
「フレイムブランド!」
ヴァルキュリアの手からアイスブランドが消散し、その代わりに炎の剣、フレイムブランドが握られた。続けてバッシュはもう一枚カードを使う。
「“太陽の手枷”!」
一瞬のスキを突いて、金の鎖がセツを縛り上げる。
「“解呪”!」
フゥはすぐに彼女の手首から鎖を解除するが、そのカードが効力を発揮する間に、若干のタイムラグが生じる。
「これでっ!“火葬”!!」
動きの止められたセツに向かって、灼熱の火炎がセツを包み込む。その高温の中では骨さえも灰と化すであろう。全てを無に帰す浄化の炎である。
朽ち果てようとするセツを見ながら、バッシュは「終わりだ・・・。」と呟いた。
「死なない身体・・・。一度は死んだ肉体・・・。心のない躯・・・。彼女は特殊なアンデットだ。
ならばその身体、浄化の炎で焼き尽くすのみ・・・。」
「間違いです・・・その考え。」
フゥはぽつんと、バッシュにそう伝えた。
炎の中から、人の影がむくりと起き上がる。
「馬鹿な・・・!?」
「セツがアンデットなら・・・炎で浄化できる存在なら・・・ボクはこんなにも彼女を殺したいとは思わないです。」
「そんな・・・。くっ、ヴァルキュリア!!」
全ての戦略をカウンターされたバッシュには、もはやヴァルキュリアしか残っていなかったのである。フゥは遂に、バッシュの攻めを凌ぎきったのだ。
今のバッシュには、もはやヴァルキュリアで攻めるしか手はない。それは、カウンター・カードを数多く持つフゥに対しては、無謀な行為なのだが・・・。
おおおおおっっ!!
観客から歓喜と騒然の混ぜ合わさった歓声が響き、
「なっ・・・。」
バッシュもまたこの状況に目を疑っていた。
なぜならフゥがセツを抱きしめ、ヴァルキュリアの剣から彼女をかばうようにその場に二人はしゃがみこんでしまったからだ。
かろうじてヴァルキュリアの剣はフゥの直前で止められたものの、あのままヴァルキュリアが攻撃していたら、フゥは無事ではなかっただろう。
「なぜ・・・?」
「・・・バカ・・・。」
「えっ・・・。」
バッシュは最初、フゥが何を言い出したのかわからなかった。
「女の子にとってはね・・・こんないっぱいの人に裸を見られることは・・・死ぬことより辛いんだからっ!!」
「あ・・・。」
ヴァルキュリアの灼熱を炎をもってしても、セツの身体を焼き尽くすことはできなかった。しかし、その身体を覆う黒装束はその炎にひとたまりもなかったのである。
つまり今、セツは何も纏っていない、裸身を武舞台の上に晒していたのである。
セツが無感情、無表情なのが救いなのかもしれないが、直立不動で動かない美少女が幼い裸身を・・・キズ一つない白く美しい肌を、まだ未発達だが張りのある胸のふくらみを、誰にも見せたことのない下腹部を・・・観衆に見られることは、姉として耐えられなかったのである。
そして、双子は、その身体のつくりもよく似ていると言われている。セツの身体を見られることは、フゥの身体を見られることも同然なのである。
実際フゥは、自分がそのあられもない姿を露出しているような錯覚に陥っていたし、観客の中にも、セツのその姿をフゥに当てはめているような、いやらしい視線を感じていた。
「・・・すまない。」
パサっとセツの身体に白いマントがかけられる。バッシュのマントだ。
「服を着てくれ。それから試合再開だ。」
「いえ、試合は終了ですわ。」
バッシュの提案を、審判であるユーナはやんわりと否定する。
「この勝負、バッシュ選手の勝利ですっ!」
「なぜだっ!?少なくとも、私は勝ってなどいない。もしあのまま戦っていたら、私は負けていたに違いないからだ。」
「しかし・・・もしこれが試合でなくて実戦であればどうだったでしょう・・・?」
ユーナは淡々と言葉を続ける。
「あのままフゥさんはヴァルキュリアによって刺し殺されていたはずです。それまでの過程はどうあれ、結果がそうなってしまった以上・・・。」
「そんな馬鹿な・・・。」
「いえ、お心遣いは結構です・・・。ユーナさまの言う通り、ボクの負けです。」
フゥがバッシュの言葉を妨げる。
「ボクはバッシュさんがマントをセツにかけてくれた、そのお心だけで十分ですから・・・。魔剣は、また自分で探し出します。」
フゥが武舞台から下りていくのを確認し、ユーナは勝ち名乗りを上げる。
「勝者!バッシュ・ザ・クロニクル!」
おおおおおぉぉぉっっっ!!
大歓声が包み込む武舞台の中で、バッシュは一人沈んでいた。
「・・・こんな勝利・・・騎士道精神に反する・・・。」
「・・・なるほど。女性相手であれば、そういう手も有効であるな・・・。」
武舞台へ続く通路の途中で、貴族然とした、光り輝く宝石を散りばめた服装をした男が、じっと試合の経過を見つめていた。まるで自分が、試合に出るような真剣なまなざしで。
「おいっ!どけよ!ここは俺の花道なんだよっ!」
通路の奥の控え室から、次の試合に出場する“スピリット・ナイト”が怒鳴りながら歩いてくる。
「下賎な者め・・・。この高貴な者の集う大会に、あなたのような下賎な輩は不相当です。ここから消え去りなさい。」
男は、いかにも浮浪者といった格好のスピリットに眉をひそめる。
「キサマァ・・・どっかのおぼっちゃんぽいが、少しは金持っているからって、いい気になるなよ。てめぇなんか一撃で・・・。」
スピリットはその男に「ガネーシャ」のカードを見せびらかす。
が、スピリットより早く、男は“何か”を召喚した。
ギシャアアアァァァァ!!
それは身体中に火炎をまとった馬であった。その目は爛々と輝き、怒りに満ちている。
「なっ・・・うわぁぁぁっっ!」
スピリットはその馬、“ファイアー・メア”の熱い息吹をまともに受け、炭と化す。カードは魔力のスリーブによって守られているため、燃えることなく通路にバラバラと舞い上がった。
「うむ、勝負に勝ったものは“アンティ”(戦利品)として相手のカードがもらえるルールであったな。」
自ら召喚したファイアー・メアが、怒り狂って暴れていることを、まるで対岸の火事のように涼しい顔で、男はスピリットの残した(ジュリア)のカードを拾っていた。
ファイアー・メアがあたり構わず炎を吐きつづけ、通路が火の海に包まれたその時、
「“チル”(寒気)」
という美しい声が響き、ファイアー・メアは氷に包まれ、消滅した。
「あなたは・・・。」
まだ若い、少女のような女性が、いぶかしげに男を睨む。彼女の魔法がファイアー・メアを凍らせ、火事を消したのである。
「ありがとう、“シエラ”。後は私に任せて。」
彼女の後ろからユーナが現れる。
「はい、ユーナさま。」
シエラは深くユーナに頭を下げると、その場から消え失せる。
「さて・・・いったい何しに来たのですか?“ラークサシャ・ハシシュ”さま・・・。」
「ユーナ姫、なぜこの私を大会にお呼びいただけないのですか?ここにはアルバハ、ヴィゼン両大国最強のカードマスターが出場しています。ならば、タイネス最強であるこの私、ラークサシャも参加して当然だと思いますが?」
「・・・あなたがタイネス最強と誰が言っておられるのですか?ただでさえタイネスは混乱しているのです。このような大会に出ている場合ではないと思いますが?」
「やれやれ・・・しかしこのように、次の試合に出場する予定のこの男は消し炭になってしまいました。試合に穴をあけたくないのであれば、この私しかいないのではありませんか?
・・・そのほうが身のためですよ。我々タイネスが本気を出せば、この国などひとたまりもありませんから・・・。」
「・・・わかりました・・・。」
言いたい事は山ほどあったが、ユーナは全てを飲み込み、ラークサシャの提案を受け入れる。タイネスの脅しに屈する気はさらさらないが、折角のお祭りを邪魔されたくはなかったからだ。
「頭のいいお嬢さんだ。その方が長生きできますよ。」
ラークサシャは満足そうにそう呟くと、武舞台の傍でフゥと話しているジュリアへと視線を移す。
「ヴィゼンの影だか何だか知らんが、所詮は女。あの不死身の少女以上の屈辱をお前に味あわさせ、二度と表を歩けない身体にしてあげましょう・・・。」
−準決勝第二試合、ジュリア・イン・サイレンス VS ラークサシャ・ハシシュ−
つづく