今から545年前、
魔術師狩り全盛の時代、
追い詰められた魔術師たちは、
大魔術時代末期の究極魔術と、
未知の大陸フィネンスの機械技術、
二つを合成させた巨大な鎧を完成させ、
民衆達への切り札とした。
力を持たぬ民衆たちは、
それでも自分を信じ、神を信じ、仲間を信じ、
勇気という名の武器を持って、
鎧の兵に立ち向かった。
全てが終わったとき、
人々は称賛と敬愛を込め、
彼らをこう呼んだ。
MIST BRAKERS
(霧を晴らす者たち)
と・・・。

イーラ PBM 「フロス島」エリア
霧幻想
MIST BRAKERS
−ミスト ブレイカーズ−

 エリア担当 川本 直紀

    第一話「太陽が始まるとき」

ACT.1


 神聖都市エルローク、「太陽のはじまりの地」とも称されるこの都市はイーラ大陸の東端、フロス島に存在する。
 だが、人々の中でこの都市をそんな別称で呼ぶ者は少ない。なぜならここには大陸の中で知らないものはいないとも言われる宗教、「ローク教」の総本山があるからだ。
 街の中央に高くそびえる大神殿には、敬虔なローク教徒が毎日礼拝にやって来ている。ローク教徒なら一度は訪れたい場所、それがここ、エルロークなのである。
 物語は、その街から少し離れた海岸から始まる。

        

ACT.2


 「腹・・・減ったなぁ・・・。」
 青年は砂浜に寝そべってじっと空を見つめていた。突き抜けるような青い空、目を落とせば真っ青な海。その先には小さな島が見える。ヒューム島だ。
 ローク教の聖地、天帝ロークが降りたというこの島の中央には「ヒューム山」という山があり、その山の頂上に作られている神殿には、極限られた人間しか入ることは出来ない。ローク教の人間なら一度はこの神殿に入ることを夢見たはずだ。
だが、この青年にとっては真っ青な空も、美しい海も、そしてもちろん神聖なる聖地の島影も、空腹という大問題の前では全く興味の対象外でしかなかった。
「おい、そこで何をしている。」
 突然彼に掛けられた命令調の質問。普段の彼ならそんな言葉に耳を傾けることはないのだが、青年は素直に起き上がり、その声の主の方へと顔を向けた。
 なぜならその声は透き通るような美しさの中にも、一本凛とした線の通った強い口調の女性の声だったからだ。
「別に・・・、俺はただ腹が減って動けないから、ここにただ寝そべっているだけさ。誰の迷惑にもなってないはずだけど。」
 そう言いながら青年は、彼に声を掛けた女性を見つめる。
 潮風に、彼女の長い髪が流れている。それを気にして、手で頭を押さえてはいるけれど、その瞳はじっと青年を見つめていた。線の細い華奢な身体。そんな姿に不釣り合いなほど長く、大きな剣が腰に下がっている。
 彼を見下ろす彼女には、明らかに人を蔑んだ表情がありありと浮かんでいた。
「誰の迷惑にもならないですって!?ふん、こんな所で行き倒れでもされたらこの街が迷惑なの。
よりによって最も神の国に近い神聖都市で、餓死者なんぞ出してみなさい。世間のいい恥さらしでしょ。」
 そう言って彼女は彼の手を強引に引っ張り上げる。
「おいおい、俺をどこに連れていくんだ?まさか街の外で餓死させようとでもいうのかい?」
「馬鹿ね、あんた。とにかく付いてきなさい。食べ物を恵んであげますよ。」

        

ACT.3


 エルロークの中央にある大神殿。ここは礼拝の場所だけでではなく、身体の不自由な人や、身内のいない子供たちなどの保護施設としても使われている。その資金は大体が信者たちからの寄付金だ。彼女が彼を連れてきた所は、その施設の一角である。
「いやー、こんなうまい飯久しぶりに食ったなぁ・・・。」
「ちゃんと感謝して食べなさい。これが食べれるのも、信者の人達の大事な寄付金があってこそなんだから。」
 出された食事を片っ端から平らげる男の食欲に、彼女は半ば呆れながらも、不思議そうな目で彼を見つめていた。
「ところでさぁ・・・えーと・・・君の名前なんていうのかな?」
 食うだけ食って一息ついた青年は、ふと彼女に話しかける。
「ああ、自己紹介がまだだったわね。私の名はブロウィン・・・。ブロウィン・ウインド。この街を警備する神官戦士のひとりよ。」
「なるほど、だからそんな物騒な剣を持っているんだ。で、ブロウィン?」
「ブロウでいいわ。」
「じゃあブロウ、さっきから俺の顔をじろじろ見てるけど、俺の顔に何か付いているのかい?」
「別に・・・。ただあなたのその灰色の髪の毛、綺麗だな・・・と思って。」
「ああ、これ?別に染めてるわけじゃないんだ。生まれたときからこの色だったらしい。」
 彼はそう言いながら、ぼさぼさの髪を手でかきあげる。
「別に変じゃないわ。それよりあなたの名前、教えて。」
「そうだな・・・君にこの灰色の髪を褒めてもらったから、グレイ・グロリアスなんてのはどうだい?」
「・・・。あなた、私を馬鹿にしてるの?」
「別に。もともと俺はこういう名前だし、結構気に入ってるんだぜ。」
「あ・・・ごめんなさい・・・。本名だったのね。てっきり偽名だと疑ってたから・・・。」
「もちろん、偽名だけど。」
「あなたねぇ!!」
       

−ズズンッ!!−


 思い切りグレイに掴みかかろうとしたブロウだったが、突然神殿の外から聞こえた大音響と振動が、彼女の行動の邪魔をした。
「な、何なの?今の衝撃は!?」
 神官戦士の職務に忠実な彼女は、一目散にその音の元へと走り出す。グレイもその後に続く。
「これは・・・いったい・・・。」
 神殿の入り口の広場にあるモノを見て、ブロウは一瞬絶句した。それは彼女が今まで見たこともない物体だったからだ。
 いや、これよりもっと小さな物なら見たことがある。
 巨大な甲冑(全身を覆う中世の鉄の鎧)。一言で表すならそんなところであろうか。ブロウの第一印象もそうであった。
 その三メートル程の甲冑が、目の前で片膝をついてうずくまっているのだ。背中には大きな翼が付いており、空も飛べることがわかる。さっきの振動は、この甲冑が墜落した時の衝撃だろう。腰には巨大な剣が見える。右手には・・・何だろう?武器らしいが、初めて見る物が握られている。L字型で剣ぐらいの長さをもってはいるが刃は付いていない。ボウガンのようにも見えるが、矢はもちろんなく、小さな穴が開いているだけだ。
       

−ガシャン!!−


もっとその甲冑を調べようと恐る恐る近づくブロウの目の前で、突然甲冑の胸元が開く。
「はっ!」
 小さな悲鳴を上げると同時に、その甲冑の開いた胸元から、一人の女性が彼女に抱きつくように倒れ込んできた。背中には切り傷がついており、そこから血が流れている。
「サァラ・・・?サァラじゃないの!?いったいどうしたのよ、これは・・・?」
「知り合いかい?」
 グレイがブロウの腕の中に抱かれている女性を見て、そう尋ねる。この男には目の前の巨大な甲冑よりも、こっちの衰弱しきっているショートカットの女性の方に興味があるらしい。
「この娘、サァラ・アクトっていってね、ヒューム山の神殿の警備をしているの。でもなんで・・・?」
 困惑するブロウの腕のなかで、サァラは弱々しく声を上げる。
「みんな・・・逃げてっ!ウルザが反逆を起こしたの!もうすぐ奴らが・・・ここを攻めにくるわ・・・お願い!早く・・・。」

        

ACT.4


 話は少し遡る。場所はヒューム山の神殿、限られた者しか入れないこの聖域は、強力な結界と厳重な防備が敷かれている。数少ない礼拝者達の間では、その警備の物々しさから、この神殿を「漆黒の要塞」と呼びあっているくらいだ。
 その神殿の中で、最も結界と警備が張りめぐらされた場所がある。神殿の最奥部の小さな部屋だ。
 今、その部屋に一人の老人が訪れていた。

        

ACT.5


 「フフフ・・・、いくら妖魔といえども、こう結界が張りめぐらされてあれば、うかつに逃げることもできまい?なんといってもお前は大事な人質なのだからな。のう、リンネ皇女様。」
 老人はその部屋のドアにある小窓から、中の人物に話しかける。
 中では一人の女性が一本の槍を抱えたまま、じっと部屋の端にうずくまっていた。
 だが、彼女の姿は人のそれとは違う。コウモリのような羽、白銀の髪の間から突き出ている角、そして透き通るような白い肌に、醜く浮かび上がっているウロコ・・・。
 そう、その姿は正に妖魔としか言いようがなかった。
 −巫女王“罪人”リンネ・ファナルキア−
 この大陸を支配するリュイナート帝国の皇女であり、また、ローク教最高の地位にいる巫女王。
 だが、様々な結界の札が貼られたこの小部屋に閉じ込められている今の彼女に、その面影は無い。
 妖魔の姿に変貌してしまったリンネは、もはや皇都ファーレンにはいられない身体なのだ。
「リンネ皇女様は巫女王として、ヒューム山の神殿で御神事をまっとうしてもらう・・・。」
 宮廷魔術師長、ウェスペパラシエのリンネに対する処遇は、体のいい皇都からの追放、そしてヒューム山への幽閉以外の何ものでもなかった。
 そしてそれは、神官長ウルザ・シヴィエルナイトにしても歓迎されることであった。
 ローク教は代々、全ての神官や巫女を統べる最高権力者、大神官や巫女王の地位に、皇族や王族の者をつける。
 しかし、まだその者が若く、未熟な時に限り、その手助けをする神官長という地位がある。
 また、大神官や巫女王が何かの事情で動けない場合、代わって神官長が神官や巫女達に命令を出せるのである。
 つまり、巫女王リンネが幽閉されている今、ウルザがローク教の全てを握っているといっても過言ではないのである。
「ウルザ様、会議の用意が整いました。既に“六花公”達も全員待っております。」
 従者のひとりがウルザのもとへ駆け寄り、そう伝言する。
「うむ・・・。」
 彼はそう返事をすると、もう一度リンネの様子を眺め、そしてこの小部屋のドアから離れていった。
 足音が小さくなっていくのを見計らって、リンネは悲しそうにつぶやく。
「こんな事を・・・している場合じゃないのに・・・。」
 彼女は悔しそうに槍をぎゅっと強く握った。

        

ACT.6


 大神殿の中央の大広間、こここそがこの神殿の中枢なのだ。なぜならば、この広間の奥にローク教の御神体、ロークの輪が納められているからである。だからこそ、この部屋は普段は厳重に警備され、許可無き者は例え国王でも入ることは許されないのである。
 その重い扉が今、ギィっという音を立てて開かれた。そして、先程の従者が一足早く広間の中に入ると、大きな声を張り上げる。
「紅薔薇公、ハールーン・アイケイシア様、御入来。」
 その声と共に、一人の女性が大広間に入ってくる。
 真っ赤な服装だ。長くウェーブのかかった髪も、つり上がった鋭い瞳も赤い。胸には造花らしい赤い薔薇が添えられている。
 彼女は一度周りを軽く眺めた。
 大広間の中央には長机が置いてあり、横の壁からは、ステンドグラスを通って美しく色付けられた光が差し込んでいる。天井には天地創造の絵が一面に描かれており、中央に天帝ロークらしい人物が描かれている。そして奥には、大きな十字架に掛けられた光の輪、ロークの輪が飾られてある。 彼女、ハールーンはその御神体に一礼すると、長机の一番奥の右側に立った。
「黒薔薇公、クロヴ・レシュラック様、御入来。」
 次に、全身を包帯で巻いた男が入ってくる。その上から黒のローブを羽織り、やはり胸元に黒い薔薇を付けている。身体からは強い死臭が放たれ、名前を呼ぶ従者も流石に吐き気をもよおした。
 この男、クロヴはハールーンの隣に立つ。ハールーンはこの男を毛嫌いしているらしく、男から顔を背けた。
「龍胆公、ミシュラ・レン様、御入来。」
 今度は眼鏡を掛けた神経質そうな青年が入ってくる。右手には分厚い本やら、何か書かれた紙などを抱えている。
 ミシュラはしきりに眼鏡の位置を気にしながら、クロヴの隣に立った。
「白百合公、アレンスン・キイェルドー様、御入来。」
 続いてまだ幼さの残る、小柄な少女が入ってきた。純白のドレスに消えそうな程白い肌、そして白銀の髪の毛。彼女は色素のない白子の少女であった。
 アレンスンはオドオドと周りを気にしながら、長机の一番左の奥に立った。
「茨公、スクリブ・スプライト様、御入来。」
 ドスドスと大きな足音を響かせて、見上げるほどの大男が入ってくる。しかもただヒョロッとした大男ではなく、全身筋肉といった感じのがっしりとした体型をしている。素手でこの男と喧嘩して、勝てる自身のある男は少ないであろう。
 スクリブはアレンスンの隣に立つ。小柄な彼女と並んだ姿は、とても対照的に見えた。
「菫公、テフェリー・ドレイク様、御入来。」
テフェリーと呼ばれた青年は、青く長い髪をかきあげながら広間に入ってくる。美しく整った顔は、とても涼しげだが、その鋭い瞳と冷酷そうな笑みは、彼を見る人々にぞくっとするほどの威圧感を与えるであろう。
 テフェリーは、その広間にいる者たち全員を見下したような薄笑いを浮かべながら、スクリブの横に立つ。
 そんな彼の姿を、アレンスンのはかなげな瞳がじっと見つめていた。彼女の白い肌が、真っ赤に染まる程の熱い眼差しをもって・・・。
「最後に神官長、ウルザ・シヴィエルナイト陛下の御入来です。」
 従者の声がひときわ高く大広間に響く。
 そして大広間の扉から、白いローブを羽織った老人がゆっくりと入ってきた。
 長机の左右に立っている六人の者達は、一斉に敬礼をする。
 六人の顔を確かめながら、その老人、ウルザは広間の、長机の一番奥にある玉座に腰を下ろした。同時に六人も各々の椅子に座る。
「よくぞ集まってくれた、私の可愛い“六花公” 達よ・・・。」
        

−六花公−


 ローク教には大陸各地の神殿にいる神官や巫女達を守るため、神官戦士よりも組織だった神聖騎士の集まり、「聖花騎士団」がある。
 その能力は、数で劣るものの、質では帝国騎士団に勝とも劣らないともいわれている。この聖花騎士団に入ることこそが、全ての神官戦士達の夢である。
 この騎士団は各々六つの部隊に別れており、それぞれの部隊に「黒薔薇騎士団」、「赤薔薇騎士団」、「白百合騎士団」・・・と名前が着けられており、それら騎士団の筆頭が、上記の六人なのである。

 「今日皆の者に集まってもらったのは他でもない。遂に大陸に我々ローク教の教えを広めるときが来たのだ。大陸にはまだ、このローク教を信仰しない国や街がある。そこに我々は神の鉄槌を下すのである。」
 六人の口から「おお・・・。」という声が漏れる。
 つまり、大陸への進出である。もともとこのヒューム島と、エルローク、アルロークの街があるフロス島は、帝国の領土ではあるけれど、ローク教が国教である帝国は、ここを独立した国として認めていた。(バチカン市国のようなもの)
 しかし、ウルザはこの小さな領土だけでは飽き足らず、大陸支配の野望にとりつかれたのである。
「恐れることは無い。我々には最強の鎧“ミスト ”がある。これがあれば各国の騎士団など物の数ではないであろう。だが、まだ大陸へ進出するためにはミストの数が足りない。ヒューム島から発掘される物だけでは数に限りがあるからな。そこで、お前たちの誰かにミストが埋まっていると言われている街、エルロークを制圧してもらいたいのだ。」
「お待ちください。」
 ウルザの発言に、ハールーンは声を上げる。
「エルロークは我等ローク教団の街。わざわざ制圧する事もないと思いますが。」
「確かに。じゃがエルロークの担当である副神官長、アズマイラ・ミラージュがミスト発掘に難色を示しているのだ。じゃからあやつに、ミストのすばらしさを見せつけ、エルロークの管理をわしに譲渡させるよう“説得”させるのが、お前たちの使命じゃ。万が一の場合、反逆罪として殺してしまっても構わん。どちらにせよ、ミストの性能を探るよい機会であるからな。」
「なるほど、エルロークはつまりミストの実験場という訳だ。ぐふふ・・・面白い、この任務ぜひ自分にやらせていただきたい。」
「いや、君ではその任務、不相応だと思うよ。」
 ウルザの提案に真っ先に反応したスクリブに、異を唱える者がいた。ミシュラである。
「貴様!この俺が能力不足だとでも言いたいのか?」
「違うよ。君とミストの性格から判断したんだ。ウルザ様はエルロークの“制圧”を望んでおられる。決して“破壊”ではない。対して君のミストは超攻撃的だ。そんなミストでエルロークを制圧しようものなら、住民はともかく、埋まっているミストさえ破壊しかねない。それを危惧しているんだよ。」
「ぐっ・・・。」
 もともと論理的な口論が苦手なスクリブは、そう歯噛みしただけで、黙り込んでしまった。
「ウルザ様、エルロークの制圧はこの私、ミシュラにお任せください。私のドラゴンエンジンは都市制圧に適したミスト。必ずウルザ様のご期待に添えると思います。」
「うむ、お前は六人の中で最もミストに詳しいからな。よかろう、エルロークを制圧し、ミストの実戦データをとってくるのじゃ。」
「はっ、了解いたしました。」
 ウルザはそして再び六人に話しかける。
「よいか、エルロークはまだ始まりにすぎん。そこを足掛かりとして、大陸へと侵攻する。ミストがあれば帝国など敵ではない。さらにこちらには帝国皇女リンネという人質がおるのじゃ。この切り札がある限り、あの気弱な皇帝は手が出せんであろう。勝利は我々のものだ。なぜなら、我々には天帝ローク様がついていらっしゃるからだ。
 全てをローク様のために・・・。
 オール オブ ローク!」
「オール オブ ローク!」
 ウルザの掛け声に六人全員が呼応する。
 その声は、大広間の外へもこだましていた。

                        


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