<Books Nigeuma TOPページへ>





掲示板で「ガールズ・ファイター」

 「西海の防人」









南西諸島近海 第11護衛艦隊旗艦 『かつらぎ』CIC




CICのスピーカーからE-767・・・ゴッド・アイからの通信が聞こえる。


ゴッドアイより第11護衛艦隊へ、

まもなくジャンヌ・ダルク隊が合流する。

それまで奮闘せよ。以上。





「了解!」
そう答えると、艦長は通信を終えマイクをホルダーに戻した。
了解・・・・そう答えたものの、彼の置かれた状況は厳しい。

彼の指揮下には、彼の乗る護衛艦『かつらぎ』と、『きさらぎ』、『ふみつき』、『さつき』、『ながつき』の合計5隻の護衛艦がある。
彼の乗る『かつらぎ』は、1970年代に建造されたヘリを3機搭載する5000トン級のDDH・・・ヘリコプター搭載護衛艦であり、『きさらぎ』などの4隻は2500トン級の『むつき』級護衛艦だ。
いずれも1970年代に建造された老齢艦であり、すでに退役しているのが普通だろう。
しかし、これらの艦が今、この海域にいることが、日本の国益にかなうことを、この小艦隊の乗組員たちは皆知っている。
そして、この日・・・・現実にそれを証明することになったのだ。

数日前、対潜哨戒機P3Cが北上する8隻の艦隊を発見した。
連絡を受け撮影された写真を見た彼は、自分の目を疑った。
そこに映っている戦闘艦は、どれも真っ黒に塗られ、国籍を示す旗も掲げていない。
そう、「自分の正体」を隠しているのだ。
しかし、そのシルエットから艦の形式はおおよそ察しが付く。

真っ黒にペイントされたロシア製『ソブレメンヌイ』級駆逐艦が2隻とフランスの『ラファイエット』級フリゲイト艦のコピーが6隻。

いずれにしても、彼の小艦隊にとっては強敵だ。
南西諸島の基地から、その艦隊を牽制するべく出動した彼の小艦隊の状況は、今朝になって一変した。


無線で日本の領海に入らないように警告をした彼の艦隊に向かって、低空で侵入してきた30機ほどのSU-30・・・同じように真っ黒にペイントされ、国籍を示すようなものの全くない戦闘機が、対艦ミサイルを発射したのだ。
直ちに彼の艦隊は応戦を開始したが、彼の手元にはイージス艦のような「艦隊防空」に適した艦はない。
彼の乗る『かつらぎ』も、むつき級護衛艦も対空ミサイル『シースパロー』を備えているが、個艦防御に対応するもので、艦隊防空には荷が重い。
しかし、今はそれを愚痴っている場合ではない。
彼の艦隊は、シースパローと主砲、そしてCIWS・・・バルカン・ファランクスでミサイルを懸命に迎撃したが、その数はあまりに多い。
たちまち艦隊の各艦は被弾し、彼の乗る『かつらぎ』も被弾の影響でエンジンの出力が低下している。
幸いまだ、沈没艦こそ出ていないが、それもいつまで続くか・・・・。
ゴッド・アイ・・・高空からこの状況を見守っている空中警戒管制機・・・からの連絡では、ジャンヌダルク飛行中隊がこちらに向かっているらしい。
彼の予想では、おそらく対空装備の機体が8機に、対艦ミサイルASM-2を備えた機体が8機といったところだろう。
それだけ来れば、かなり状況は変わるのだが・・・・。
その時、CICの管制員の声が、彼を現実に引き戻した。

「ミサイル接近!」
緊張した声に反応した彼は、CICのモニターに視線を向ける。
4発のミサイルが、彼の乗る『かつらぎ』に向かって来る。

「シースパロー・・・・発射!」

彼の声に砲雷長が反応する。

「発射!」

砲雷長がボタンを押すと同時に、ランチャーからミサイルが飛び出し、対艦ミサイルに向かっていく。
レーダー電波に導かれたミサイルは、対艦ミサイルを捉えると同時に爆発する。
直ちに、次のミサイルが発射されるが・・・・。
彼の艦隊のミサイルは、複数目標には対応できない。

「主砲、ミサイルを迎撃しろ!」

艦長の指示に、乗組員たちが素早く反応する。
主砲が旋回し仰角を上げると、連続射撃を始める。
空に赤黒い爆炎が湧き上がる。
しかし・・・。

「?!」
爆炎を潜り抜けて、2基のミサイルがこちらに向かってくる。
直ちにCIWS・・・ファランクスがサイレンのような音を響かせながら、迎撃を始める。
1基のミサイルが、短時間のうちに多数の弾丸を浴びて空中で爆発する。
しかし、もう1基のミサイルが至近距離に迫っていた。
ファランクスが旋回して迎撃しようとしたが、ミサイルは真四角のヘリ格納庫に命中すると、爆発した。

「くそ!」
むつき級護衛艦『ながつき』の艦長、館野三郎少佐は、CICのモニターを見ながら吐き捨てるように言った。
ミサイルは、この艦隊の旗艦であるDDH『かつらぎ』のヘリ格納庫の側面に命中し、上部に設置されたCIWSを吹き飛ばして海中に叩き込んだ。
これで『かつらぎ』は、後方への対空能力を失ったことになる。

「航海長! 艦を『かつらぎ』の右舷後方500につけろ!」
「了解!」
館野の指示に従って、『ながつき』が旋回する。


『かつらぎ』のCICには、警報音と乗組員たちの状況報告の声が響いていた。
「ヘリ格納庫に被弾! CIWS使用不能!!」
「対潜ヘリコプター、3機損傷、使用不能!!」
「火災発生!!」
次々に報告が入ってくる。
「火災消火、急げ!!」
艦長が指示を出しながら、モニターに視線を向けた。

「クッ?!」

2発のミサイルがこちらに向かってくる。
既にシースパローを打ち尽くし、最初の迎撃は主砲による迎撃だ・・・今度は・・・?
そう思う艦長の思いにこたえるように、砲声とともに主砲が火を噴く。



「『かつらぎ』を援護しろ!」
『ながつき』のCICで館野が叫ぶ。
『ながつき』も既にシースパローは打ち尽くしている。
艦の前方に設置された2基の単装砲が仰角をかけると、海に砲声を響かせる。

空中で砲撃を受けた1基のミサイルが爆発した。
「よし・・・!」
『かつらぎ』のCICで艦長が声をあげた。
しかし・・・?
「ミサイル接近!!」
1基のミサイルが彼の艦・・・・『かつらぎ』に猛スピードで迫る。

「主砲! 迎撃だ!!」
『ながつき』のCICに館野の声が響く。
彼の指示に従って2基の主砲が旋回するが・・・・。
「間に合いません!」
砲雷長の悲鳴のような声が響く。
館野が凍りついたようにモニターを見つめる。

ここまでか・・・・艦長は、モニターに映るミサイルを睨みつけた。
次の瞬間、
「?!」
カメラ目前でミサイルが爆発し、青い影がカメラを横切った。
「ジャンヌダルク隊です!!」
管制員の喜びにあふれた弾んだ声がCICに響いた。


『かつらぎ』を狙ったミサイルを撃ち落としたのは、真田正美中佐の操るF-2だった。
ミサイルを叩き落とし、『かつらぎ』の姿はすでに後方になった。
辺りを見回すと、艦隊・・・第11護衛艦隊、いや、その正式な名前より「南西艦隊」という通称の方が定着しているこの艦隊を狙うミサイル群を、彼女の仲間たちが次々と叩き落としている。
「ジャンヌダルクリーダーより各機へ、これより敵の艦隊を攻撃する!」
「「「「了解!」」」」
彼女の仲間たちの声がインカムに響くと、F-2が次々に翼を翻して“謎の艦隊”に向かっていく。

「ジャンヌダルク隊が敵艦隊に向かいます!」
管制員の報告を聞いた『かつらぎ』艦長・・・第11護衛艦隊“司令官代理”吉岡貴弘大佐は椅子から立ち上がった。
「出せる速力は?」
「20ノットです!」
報告を聞くと、吉岡はうなずいた。
「現在出せる全速力で敵艦隊に向かう!」
そして砲雷長に向き直ると、
「ハープーン発射用意! ジャンヌダルク隊と連携をして、敵艦隊を攻撃する!」
「「「了解!」」」
CICでは砲雷長をはじめ乗組員たちの指示と確認の声が響いている。

「『かつらぎ』に続け!」
『ながつき』のCICで館野が指示を出した。
小さな『ながつき』の艦体は機敏に反応をして、『かつらぎ』の右舷後方についた。
「ハープーン、発射用意!」
「ハープーン、発射用意・・・・データチェック開始!」
CICに管制員の声が響くと、若い館野は砲雷長に向かって微笑んだ。
「さあ・・・はじまるぞ!」

ジャンヌダルク隊のF-2が敵艦隊に向かうと、対艦ミサイルを撃ち尽くした“謎のSU-30”の編隊は、彼女たちの意図を悟って彼女たちと艦隊を分断する位置に迎撃ラインを作り上げた。
E-767のデータと自分の機体のレーダーでその状況を確認した正美の顔が曇る。
「まずいな・・・」
F-2でSU-30を相手に空中戦・・・ドッグファイトをするのは、かなり厳しい。
ミサイル戦で、どの程度落とせるのだろうか・・・そう考えたのは、一瞬のことだった。
「全機、攻撃用意!」
正美の指示で、ジャンヌダルク隊16機のF-2が攻撃態勢をとる。
「ジャンヌ・リーダー、ターゲット・・・ロック・オン!」
「ジャンヌ2、ターゲット、ロック・オン!」
「ジャンヌ10! ターゲット、ロック・オン!」
正美はコクピットから、左右を見た。
彼女も含めて8機のF-2が横一列に並んでいる。
その後方には、岡村や内田が指揮をする2個小隊、8機のF-2がASM-2を抱えて控えている。
「発射!」
正美の号令で、8機のF-2からAAM-4が発射された。
それと同時に、コクピットに警報音が響く。
“謎の戦闘機”もミサイルを発射したのだ。
「全機、回避行動!」
正美は指示を出すと同時に、機体をダイブさせた。
横に並んでいたジャンヌ2・・・石部雅子のF-2は旋回しながらフレアを放出し、ジャンヌ10・・・岩田敦子のF-2は誘導電波を妨害する風船を放出しながら急旋回した。
ミサイルが風船を追いかけていく。
正美が機体を立て直して敵に向かった時には、既に敵は間近に迫っていた。
「クッ?!」
迎撃をするのによいポジションとは言えない・・・・正美の心に一瞬の迷いが生まれたその時、
「待たせたな、正美!!」
梶谷の声がインカムに聞こえると同時に轟音とともに、正美の機体の上を4機のF-15イーグルが通過して、SU-30に向かっていく。
「ユニコーン・・・・!」
正美の顔に、微笑みが浮かんだ。

F-15イーグルのコクピットの中でユニコーン飛行中隊のリーダー、梶谷和久はミラーをちらっと見た。
垂直尾翼にピンク色のライン・・・・リーダー機のサインの入ったF-2が上昇して、仲間たちと編隊を組みなおしつつある。
梶谷はにやりと笑うと、
「編隊各機、ジャンヌダルク隊を援護しつつ突破口を開くぞ!」
「ユニコーン2、了解!」
北田哲彦の声がインカムに響く。
「ユニコーン3、了解!」
新谷正孝が、スコープを睨みつけながら答えた。
「ユニコーン7、了解!」
野口明史が酸素マスクを着けながら答えた。
梶谷の顔から笑みが消え、鋭い視線をキャノビーの向こう側に向けた。
「フォーメーション・オープン、攻撃開始!!」
梶谷の号令と同時に、4機のF-15は散開して、SU-30に向かっていった。


梶谷の操るF-15Jが猛スピードでSU-30に向かっていく。
狼狽したかのように、真っ黒にペイントされたSU-30がミサイルを発射すると、梶谷は軽くミサイルをかわし、逆に赤外線誘導ミサイル…サイドワインダーを発射した。
SU-30が慌てて旋回をするが、サイドワインダーのセンサーは、SU-30のエンジンが放出している熱をしっかりとらえて猛スピードで迫っていく。
ミサイルはエンジンに命中すると、SU30はバラバラになり、青い海に破片が落ちていった。
北田と新谷の乗るF-15が並んで飛んでいく。
彼らの正面から、2機のSU-30が向かってくる。
スコープを見つめる二人の視線が殺気を含んで鋭くなる。
「くらえ!」
叫ぶと同時に新谷がミサイルの発射ボタンを押す。
SU-30は避けきれずに爆発を起こす。
北田はもう1機のSU-30を追う。
「作者が新シリーズを書かないから、イライラしてるんだよ!」
発射ボタンを押すと同時に、バルカン砲弾が光の尾を引きながらスホーイに吸い込まれていく。
翼を叩き折られたスホーイは、錐揉み状態で海に落下していった。


体勢を立て直したジャンヌダルク隊は、迎撃網を突破し、扇形に散開していた。
「ASM-2発射用意!」
岡村の号令で、8機のF-2が“謎の艦隊”にミサイルの狙いを付けようとした。
「?!」
1機のSU-30が横から突っ込んでくる。
やられる?!・・・岡村がそう思った瞬間、SU-30のエンジンが爆発をして、まるで彗星のように黒煙の尾を引きながら海に落ちていく。
誰が・・・そう思った岡村の前を、ユニコーン7・・・・野口がコクピットの中で親指を立てながら飛び去って行った。
岡村が思わず微笑む。
「サンキュー、ユニコーン!」
そういうと同時に、その顔には微笑みが浮かんでいた。
「ジャンヌ3、ロックオン完了!」
岡村がコールすると、
「ジャンヌ7、ロック・オン完了!」
内田の声が、インカムで聞こえた。
次々に報告が入る。
岡村は一瞬、想像をした。
8機のF-2から放たれた火器管制レーダーの電波で捕捉された真っ黒の“謎の戦闘艦”・・・ミサイルの誘導電波に捕捉されるという、いわば『逮捕状』を突き付けられた艦内の人間は、いったいどんな表情をしているのだろう?
しかし、それは一瞬のことだった。
「攻撃開始!」
岡村はコールすると同時に、
「ジャンヌ3、発射!」
発射ボタンを押すと同時に、2発のASM-2が敵艦隊を目指して飛んでいく。
「ジャンヌ7、発射!」
内田も続く、
8機のF-2から放たれた16発のASM-2は、あっという間に青空の向こうに消えてゆく。



ゴッドアイより各リーダー、たった今北九州基地より

「石川の騎馬武者」がファルコン隊を率いて「出陣」した。

勝算は我にあり。但し、決して油断するな。

南西艦隊は陣形を整え、敵援軍に備えよ。

以上。





「了解!」
ゴッド・アイ・・・AWACS・・・E-767からの通信を終えた“南西艦隊司令官代理”吉岡貴弘大佐は、マイクをホルダーに戻した。
そして今、彼の右手には通信士官から渡された2通の電文が握られている。
一通は、空軍沖縄基地の司令官、成瀬直樹少将からのオリオン、カペラの2個飛行隊を援軍に送ったという電文だ。
オリオンはF-15J、カペラはF-4EJ改で編成された飛行隊だ。
そしてもう一通は彼の上司、防衛艦隊司令長官 小沢総一郎提督からの佐世保基地から第2護衛艦隊が出動したという電文だ。
今の第2護衛艦隊は、かつての第2護衛艦隊とは大きく違う。
単に“水上艦による護衛”だけだった第2護衛艦隊は、今は空母『ずいかく』が加わり航空戦力を持ち攻撃力・防御力とも大きく向上している。
それに加え、あたご級イージス護衛艦『はぐろ』と、空母を保有したため、おそらく最後のDDHになるであろう『とね』と『ちくま』、そして『たかなみ』級護衛艦で編成された強力な艦隊だ。
そして・・・・。
『朝倉が・・・・来るのか・・・?』
『石川の騎馬武者』と呼ばれ、第1次紛争では撃墜王となった男。
いや、それよりも彼にとっては、あの悲惨な戦いとなった『ドッカ反攻作戦』で、退却戦のしんがりをつとめて彼らを無事に敵の罠から離脱させた男。
あの時俺は、この艦隊の護衛艦『ながつき』の艦長として戦った。
そして艦隊司令官は今の防衛艦隊司令長官、あの小沢提督だった。
今の艦隊とは違い、『かつらぎ』とむつき級護衛艦・・・合計8隻の艦隊だったが、敵の罠にはまりネームシップの『むつき』を失った。
あの時、朝倉と小沢提督がいなければ、いったいどうなったのだろう?
吉岡は、思わず身震いした。
そしてその男が自らファルコン隊を率いて駆け付けるというのだ。
あとは、吉岡の艦隊がミサイルを発射すれば勝負がつく展開なのに?
あの時と同じように、あいつは何かを感じているのだろうか?
吉岡は、今頃こちらに向かっているであろう国防大学の同期生の事を思った。
しかし、今は自分がやるべきことをやるだけだ・・・・しかし、警戒はするべきであろう。

「各艦、敵の戦闘機および艦隊の動きに注意!」
吉岡は、指揮下の艦隊に命令すると、大きく息をついた。
そして、
「全艦攻撃開始!」
『かつらぎ』のCICに気合のこもった吉岡の声が響く。
「発射!!」
砲雷長がボタンを押すと、艦がわずかに身震いしてランチャーからハープーン対艦ミサイルが飛び出して、水平線の向こうに向かって飛び去っていく。
『ながつき』から、『ふみつき』から、そして『さつき』・・・・「南西艦隊」に所属する5隻の護衛艦から放たれた“反撃の矢”が、水平線の向こうに消えてゆく。
吉岡はCICの情報表示パネルを見つめながら、その時を待った。

上空では、ジャンヌダルク飛行中隊指揮官、真田正美中佐が、レーダー画面を見つめていた。
彼女たちの放ったミサイルと、艦隊からのミサイル。
それらがまっしぐらに敵艦隊を目指している。

“謎の艦隊”の対応は素早かった。
『ソブレメンヌイ』級駆逐艦と『ラファイエット』級フリゲイト艦から次々に対空ミサイルが発射された。
次々にASM-2やハープーンを撃ち落としていく。
しかし、イージスシステムを持たない水上艦では、その対処能力には限界がある。
防空網を潜り抜けたASM-2とハープーンが、“謎の艦隊”に殺到し、次々に命中し爆発を起こし、その船体を引き裂いていった。


「命中!」
護衛艦『かつらぎ』のCICに歓声が沸いた。
「艦長! やりました!」
砲雷長が笑顔で吉岡と握手をした。
「うん・・・・」
握手を返した吉岡だが、その目は情報表示パネルに向けられたままだった。

『嫌な・・・・感じだな・・・・』

そう、彼らの放った対艦ミサイルは、敵艦隊に命中し、今や敵艦は最後の時を迎えつつある。
しかし、吉岡は何とも言えない感覚を感じていた、そう、『ドッカの戦い』で感じたのと同じ感覚だ。
「敵艦隊から目を離すな、対空警戒を厳重にしろ!」
歓声の湧くCICに吉岡の命令が響き、たちまち静かになった。



真っ黒に塗られた戦闘艦が火災を起こしながら傾いていく。
その時、今にも沈みそうな8隻の戦闘艦から、次々にミサイルが放たれた。

「?!」
レーダー画面を見ていた真田正美中佐の表情が凍りついた。
「ジャンヌダルクリーダーから『かつらぎ』へ! 敵艦隊が対艦ミサイルを発射!!」

その情報は、『かつらぎ』のCICでも同時に掴んでいた。
「敵艦隊がミサイルを発射! 多数です!!」
レーダー担当管制官、青山千秋兵曹長が艶やかなボブカットの髪を揺らしながら吉岡を振り返ると同時に叫んだ。
それと同時に、青山の細くしなやかな指は、パネルに取り付けられたボタンを押していた。
『かつらぎ』の艦内に警報音が鳴り響く。
「主砲およびファランクス発射用意! 射程内に入り次第迎撃せよ!」
吉岡は迎撃を指示すると同時に、
「各艦、チャフロケット発射! ミサイルのレーダーをかく乱しろ!」
緊張した表情で指示を出した。




ゴッドアイより南西艦隊へ緊急。水中ソナーに反応多数。

現在この海域に友軍潜水艦隊は存在しない!

回避!回避!回避!





「くそ!」
F-15のコクピットで梶谷が毒づいた。
こんな時に・・・多数の対艦ミサイルが飛んでくる状態の時に魚雷まで?
彼の機体も、北田や新谷、野口の機体もミサイルをすでに打ち尽くした。
ミサイルを迎撃することができないのだ。
ミラーを見ると、ジャンヌダルク隊のF-2が加速している。
「迎撃するのか?」
そう思った梶谷のインカムに、正美の声が聞こえてきた。
「ミサイルを残した機体は集合せよ! これより対艦ミサイルを迎撃する!」
正美の操るリーダー機の周りに、10機ほどの機体が集まった。
横一列に並んで迎撃態勢を取っている。
「ジャンヌダルクリーダー、発射!」
F-2の翼端から、赤外線誘導ミサイルが発射された。
「ジャンヌ2、発射!」
「ジャンヌ7、発射!!」
「ジャンヌ10、発射!」
ミサイルが次々に発射され、あっという間に視界から消えていく。
そして・・・前方で次々、爆発が起きた。



南西艦隊旗艦、護衛艦『かつらぎ』CIC

「了解!」
ゴッド・アイとの通信を終えた吉岡が答えるのと、
「ソナーより艦長! 魚雷接近、4本です!!」
ソナーマンの叫び声が聞こえたのは、ほぼ同時だった。
吉岡が唇をかみしめた。
対艦ミサイルが接近している、ジャンヌダルク隊が迎撃に当たっているが、戦闘機との空中戦の後だから、ミサイルの残弾はほとんどないだろう。
その上、魚雷だ。
まずやるべきことは・・・・。
「全速前進!」
吉岡が指示を出すと、
「全速前進!!」
航海長が復唱した。
次第に『かつらぎ』の機関の音が力強く・・・大きくなってくる。



護衛艦『ながつき』CIC

「ソナー、魚雷はどこを狙っている?!」
館野が大きな声で言った。
通常、集団戦での最初の攻撃目標は『その集団の最大の脅威』を攻撃するのが定石だ。
そうだとすると・・・?
「ソナーより艦長! 魚雷は『かつらぎ』を狙っています!!」
「面舵いっぱい!」
館野が命じる。魚雷のセンサーが近くにいる『ながつき』を追ってこないように距離をとることにしたのだ。
『ながつき』の小さな艦体が、右に回頭して『かつらぎ』から離れていく。


護衛艦『かつらぎ』CIC

「ジャンヌダルク隊が、ミサイルを迎撃中!」
青山がレーダー画面を見ながら報告した。
「ソナーより艦長! 魚雷接近、距離1000!」
吉岡の顔に不敵な笑みが浮かんだ。
「シー・カーテン投下!」
「投下します!!」
砲雷長がボタンを押すと同時に、『かつらぎ』の後部から2mほどの長さの円筒形の物体が2つ、海に投下された。
その物体は、すぐには海底に沈まず、10mほどの深さまで沈むと、その胴体に開いている小さな穴から小さな泡を吹きだしながら、海中を漂い始めた。
そしてその小さな泡は、まるでカーテンのように魚雷のセンサーから『かつらぎ』のエンジン音とスクリュー音を隠し、また、魚雷の発するアクティブソナーの音を遮断してしまった。
そう、魚雷は目標を見失ってしまったのだ。

「『さつき』より報告、魚雷は目標をロストしたようです」
「了解!」
吉岡は小さく息を吐いた。
一つの危機は何とかしのいだ。
しかし、次の危機がやってくる。
情報表示パネルには、南西艦隊に向かってくるミサイルが表示されている。
そして・・・・。
青山の顔が緊張感に包まれた。
レーダー画面に映った新たな目標・・・・これは?
「艦長! 敵艦隊の後方に新たな目標、30機、こちらに向かってきます!」
「敵の増援か?!」
吉岡が強く・・・・奥歯を噛みしめた。



ジャンヌダルク隊は、ミサイルの残弾を発射し、対艦ミサイルを迎撃した。
しかし、4発のミサイルが迎撃網を突破して、南西艦隊に向かっていく。
正美は悔しそうに、ミサイルを睨みつけた。
もう、彼女たちにミサイルを迎撃する手段はない。
艦隊の上空には、チャフ・・・・金属箔が散布されているが、風で流されてしまい、あまり効果は期待できない。
ミサイルはこの艦隊で一番反射面積の大きい『かつらぎ』に向かっていく。
そして、魚雷攻撃を避けるために艦隊の各艦は、間隔を広く取り大きく散開している状態だ。
相互支援も困難になっている。
正美が唇をかみしめたその時、
「新たな敵編隊、接近!」
ユニコーン7、野口の声がインカムに聞こえてきた。
正美の視線がレーダー画面に移る。
たくさんの光点が、こちらに向かってくる。
正美の頭が、あわただしく回転する。
今、この上空にいる味方の戦闘機は、ジャンヌダルク隊の16機と梶谷和久の率いるユニコーン隊の1個小隊4機、合計20機。
始めに第11護衛艦隊・・・南西艦隊を攻撃していた敵の戦闘機隊は、ミサイルを撃ち尽くして避退しつつある。
そう、ただ単に避退したのではなく、新手と入れ替わったのだ。
おそらく対艦・対空両装備を満載したフランカー部隊だろう。
しかし、こちらは既にミサイルを撃ち尽くしてしまった。
フランカーを相手にドッグファイトをすれば、彼女たちの乗るF-2では分が悪く、梶谷たちのF-15Jで互角といったところだろうか?
いや、その前にミサイル攻撃でこちらの艦隊と彼女たちは・・・・?
強く唇を噛みしめたためだろうか? 正美は口の中に血の味を感じて驚いた。
レーダー画面を見ると、対艦ミサイルが『かつらぎ』に迫る。
正美たちは、今自分たちにできること・・・敵の戦闘機を迎え撃つ体制をとっていた。



南西艦隊旗艦 護衛艦『かつらぎ』CIC

「ミサイル4発、迎撃ラインを突破!」
レーダー画面をチェックしていた青山が、落ち着いた声で報告した。
それを聞いていた吉岡は危機的状況にもかかわらず、その顔に微かな微笑みを浮かべた。
この艦が沈む可能性の高い危機的状況にもかかわらず、みんなはプロらしく落ち着いている・・・・今度は自分がプロらしく対応しなければ・・・・吉岡の表情が引き締まった。
「主砲、およびファランクス、発射用意!」
「発射用意!」
砲雷長が命令を復唱して指示を出すと、上空から迫る“火薬を満載した憎しみの矢”を撃ち落とすべく『かつらぎ』の前部に2基設置されている単装砲がわずかに旋回すると、仰角を掲げて次の命令を待った。



「ミサイル接近、主砲の射程距離に入りました!」
青山の落ち着いた声がCICに響く。
CICに設置されているディスプレイには、艦橋トップに設置された高性能カメラが望遠レンズでとらえた『かつらぎ』に迫るミサイル群が映っている。
『撃ち方始め!』
吉岡がそう命じようとしたその時、画面に映っていた4発の対艦ミサイルが次々爆発した。
「いったい何が・・・・?」
そう呟いた吉岡の疑問に答えるように、青山の弾んだ声が聞こえてきた。
「援軍です! 北九州基地の朝倉司令官と、『ずいかく』の艦載機隊が到着しました!」


朝倉の操縦する赤と白の鮮やかなカラーリングの機体が飛んでいる。
そのGTのコールサインで呼ばれるF-2CCVが、『かつらぎ』の上空を通過した時、朝倉の顔にはわずかな微笑みが浮かんでいた。
何とか間に合った・・・・そういった安堵感と、これから始まる“戦い”への緊張感。
朝倉は、ミラーに視線を移した。
彼の機体の後方には、浅原健二少佐が隊長をつとめる16機のF-2で編成された“ファルコン飛行中隊”と、沖縄基地のオリオン・カペラ飛行中隊のF-15JとF-4EJ改の32機の部隊。
そして海軍、第2護衛艦隊の空母『ずいかく』の艦載機、木村直人中佐の率いる32機のF/A18スーパーホーネットで編成された艦載機隊が続いている。
朝倉が西に向かったと報告を受けた瞬間、沖縄基地の成瀬直樹少将は、オリオン・カペラの両飛行隊に出動を命じると同時に、「朝倉中将の指揮に従うように」と命じ、また、海軍の小沢提督も『ずいかく』の艦載機隊に同じ命令を出していた。
そして、文字通りの大編隊が南西艦隊の上空を埋め尽くして、西に向かっていく。
「GTより、ジャンヌダルク隊、ユニコーン隊へ・・・援軍が到着した、ここでバトンタッチだ」


通信を聞いた正美の顔に、微笑みが浮かんだ。
さすがは朝倉さんだ・・・・危機を予測して、的確なタイミングで援軍を送り込んできた。
正美は通信機のスイッチを入れると、
「ジャンヌダルク隊全機、ファルコン隊の後方に回れ!」
正美は命じると同時に操縦かんを倒した。
F-2が機敏に旋回すると、朝倉が自ら率いる大編隊とすれ違う。
赤と白、鮮やかなカラーリングのF-2CCV、その垂直尾翼には立派なシカの角の兜を被り、大槍を持った騎馬武者が描かれている。
正美が敬礼をすると、朝倉もコクピットの中で敬礼を返す。
2機のF-2は、あっという間にすれ違った。


朝倉はジャンヌダルク隊とユニコーン隊が後方に下がったのを確認すると、通信機のスイッチを入れた。
「こちらは日本空軍だ、君たちは我が国の領海・領空に入り、敵対的行為をとっている。 直ちに敵対的行為をやめ、速やかに領海・領空外に退去されたし。聞き入れられない場合は・・・・」
朝倉がそう言った瞬間、浅原と高村のF-2Aが、木村のF/A18ホーネットが、朝倉のF-2CCVと並び、ファルコン隊が、オリオン隊・カペラ隊が、そして『ずいかく』隊が・・・大きく散開して、敵を迎え撃つ体制をとった。
「我々は我が国の国民を守るため、君たちの“お相手”をする・・・・無益な行為は、やめていただきたいと思うが・・・・」
朝倉は通信機のスイッチを切り、相手の様子を見守った。



黒一色に塗られたSU-30フランカーが、朝倉たちと対峙を続けている。
その中の1機のコクピットの中で、黒一色のパイロットスーツとヘルメットを身に着けたパイロットが、歯軋りをしている。
絶対有利な状況だったのに・・・・・日本人め!
怒りにかられた彼は、彼の相棒に視線を送った。
横に並ぶフランカーのコクピットのパイロットが、小さく手を振った。
彼はうなずくと、スロットルレバーを開いた。



敵の編隊から、2機のフランカーがこちらに向かってくる。
朝倉は、もう一度通信機のスイッチを入れると、
「繰り返す、敵対的行為をやめ、この空域から退去されたし!」
しかしフランカーは、さらにスピードを上げて突っ込んでくる。
「ファルコン全機、攻撃用意!」
浅原の緊張した声がレシーバーから聞こえてきた。
朝倉はF-2CCVのスロットルレバーを開いた。
まるで見えない何かに蹴飛ばされたように、F-2CCVが加速する。
「司令官!」
浅原が叫んだ。
「敵の動きに備えろ!」
朝倉はそう言うと、2機のフランカーに向かっていく。



南西艦隊旗艦 護衛艦『かつらぎ』CIC

「“GT”が敵に向かいます!」
青山の報告を吉岡はモニター画面を見ながら聞いていた。
『朝倉・・・』
吉岡はモニターに映し出されたF-2CCVを見守っている。
あの男は保身などは考えない、そして仲間のために戦うことができる。
そして今の自分は、彼の無事を祈ることしかできない。
彼は息をつめてモニター画面を見守っていた。



大編隊から、派手な色の戦闘機1機だけが離れてこちらに向かってくる。
「馬鹿め・・・・」
フランカーのパイロットが馬鹿にしたように笑うと、ミサイルの発射ボタンを押した。
2機のフランカーから、2発ずつ・・・・合計4発のミサイルが放たれた。



「司令官!」
石部が叫ぶ。
「逃げて!!」
岩田が悲鳴のような声で叫んだ。
「リーダー、司令官の援護を!!」
新谷が梶谷に攻撃許可を求めている。
錯綜する無線を聞きながら、梶谷が、浅原が、そして正美は・・・・次におこる事態を・・・・待っていた。



4発のミサイルがまっしぐらに向かってくる。
F-2CCVは、一直線にフランカーに向かっていく。
「避けて!!」
レシーバーに岡村の悲鳴を聞いたその瞬間、正美の目には朝倉の機体に描かれた騎馬武者の持つ大槍の穂先が光ったように見えた。



「?!」
フランカーの二人のパイロットは、自分の目を疑った。
ミサイルが敵に命中したと思った瞬間、彼らの視界からF−2CCVが消えたのだ。
ミサイルは追尾目標を見失って、フラフラと飛び去っていく。
「どこに逃げた?!」
パイロットが辺りを見回した瞬間、彼の機体が強烈な衝撃に襲われ、次の瞬間、轟音と共に彼の意識が消え去った。

2機のフランカーが爆発し、F-2CCVが飛び去っていく。
ミサイルをかわしてフランカーとF-2CCVがすれ違った・・・石部や岡村、岩田・・・そして北田や新谷のような若いパイロットたちには、そうとしか見えなかった。
しかし正美や梶谷、木村や浅原のようなベテランには朝倉の動きがはっきり見えていた。

ミサイルの命中する直前で、朝倉はF-2CCVを失速降下させてミサイルと・・・そしてフランカーのレーダーとパイロットの視界から消えて、そのあとフルスロットルで加速、上昇しながらフランカーとすれ違った。
そしてすれ違う瞬間、わずかに機体を移動させてフランカーをバルカン砲の射線に捉えると、あっという間に撃墜してしまった。


「繰り返す・・・・敵対行為をやめて領空・領海から退去されたし・・・・」
たった今、2機のフランカーを文字通り“瞬殺”した朝倉の静かな声がレシーバーに聞こえた。
その瞬間、残り・・・・28機のフランカーが翼を翻して飛び去っていく。
コクピットの中で、正美は小さくため息をついた。
陽光を反射させながら、F-2CCVが戻ってきた。
正美は微笑みを浮かべながら敬礼をした。



南西諸島西方の海中で、海軍の潜水艦『いそしお』が息をひそめながらターゲットが来るのを待ち構えていた。
この海域で待ち構えてもう二日になる。
『いそしお』艦長の中西信也少佐は、手にしたマグカップの中のコーヒーを眺めながら、小さくため息をついた。
本当にこの海域に来るのだろうか? そんな疑問を感じ始めていたのだが・・・・。
「ソナーより艦長、 ソナーに反応! 潜水艦です!」
中西は発令所内のスタッフたちを見回すと、
「このまま待機して奴をやり過ごし、その後をつけて奴の行先を突き止める!」
中西の命令を聞いた発令所内の乗組員は、直ちに準備を始めた。



そして三日後。
謎の潜水艦はひたすら西を目指していた。
中西はその進路から、ある予想・・・・いや、それは5日前に南西艦隊とジャンヌダルク隊が“謎の部隊”と戦った時から感じていた予想ではあるのだが・・・に、確信に近い自信を感じていた。
「艦長、これ以上進むとあの国の領海に入ります」
航海長の言葉を聞いて、中西の中に迷いが生じていた。
あの潜水艦・・・・我が国の艦船を攻撃した潜水艦の正体を確かめたい・・・そうした思いと、他国の領海に許可なく侵入してはまずいという思い。
中西は大きく息をつくと、
「追跡はここまでだ・・・・・あとはソナーで探知できるだけ追跡し、日本に戻り司令部に報告する・・・・」
中西が悔しそうに言うのを乗組員たちは、同感だ・・・・といわんばかりに頷きあいながら聞いていた。



同刻 東京・市ヶ谷 国防省庁舎

その女性は、40歳代後半から50歳代に入ったところだろうか?
ソファーに腰掛けながら、前に座るスーツ姿の男性に向かって皮肉な視線を投げかけている。

「それで、軍は正体のわからない相手に、ミサイルで攻撃をしたということですか?」
日本平和党の党首、衆議院議員、福川一子はまるで信じられないというように首を振りながら言った。
「先生、何度も申しあげていますように、部隊は領海に入らないように呼び掛け、警告もして、さらに攻撃を受けたので反撃をしたまでの事です」
国防次官、沢田孝則は根気強く説明をしている。
「そんなこと、信じられません!!」
福川が大きく首を振った。
「先に攻撃をして、それを隠すために言っているのではないですか?!!」
「そんなこと・・・・」
するわけないでしょう?・・・沢田はそう言いたかった、そして、彼は福川と意見の一致をみることがないことも知っていた。
それでも彼は・・・・。
「では、先生はどのように対処すれば適切だったか、ご意見を聞かせていただけないでしょうか?」
「それは、話し合いです!」
「ハッ?」
沢田は、呆気にとられた。
「ミサイルを発射する相手に・・・・でしょうか?」
「もちろんです、話し合いをして、お互いに理解をすることが大切です・・・・そして、共に平和を・・・・・」
福川が延々と演説を始めた。
沢田は小さくため息をつきながら、これは次の面会者との時間に食い込むな・・・・そんなことを思いながら、ご高説を拝聴していた。



同刻 東京 天王洲 東西商事ビル

若い女性がソファーに腰を掛けて手にしたファイルに視線を落としている。
その前に座る壮年の男性も、手にしたファイルから視線を上げると、前に座る若い女性に視線を向けた。
「さて、君はどう見立てる?」
国防省情報部部長 宮原功は、前に座る20歳くらいに見えるスカートスーツ姿の女性に声をかけた。
「戦闘機や艦船の破片からは、国籍を示すものが徹底的に剥ぎ取られ、乗組員やパイロットも身分を示すものは身に着けていません。 それに、人間の国籍がバラバラです」
これは、外国人部隊だったと考えるのが自然でしょう・・・・東西商事調査部の小川あすか・・・いや、国防省情報部員の小川は、そう答えた。
「ふむ・・・」
宮原も頷いた。
「では、なんのために?」
小川は小首をかしげた。
「・・・わかりません、情報が少なすぎます・・・相手の部隊の装備、そして上陸部隊を伴っていないことから今の時点では、我が国の防衛体制の出方を調べた・・・・そう考えるのが自然ではないでしょうか?」
宮原も頷いた。
「一年前の・・・・第3次紛争終結時の、あの事件は関係しているかな?」
小川はしばらく考えていたが、
「・・・わかりません、今、長谷川さんの班があの事件を追っています。 その情報を待つしかありません・・・」
「わかった」
宮原はそういうと、
「海軍と空軍からも戦闘詳報が来るだろう、それと突き合わせてこの一件が今後どのようなことにつながるのか・・・・君たちの班で調べてくれ」
小川はファイルを手に立ちあがると、
「わかりました」
そう答えて一礼をした。
艶やかな黒髪が、大きく揺れた。



翌日 東京 品川 喫茶店

その男は、40歳半ばくらいだろうか?
量販店で買ったグレーのスーツは、長い間着ているためか少しくたびれているようだ。
スーツケースを脇に置いて、コーヒーを飲みながら経済新聞を読んでいる。
その前にクリーム色のスーツを着た若い女性が座り、男に話しかけている。
「では、先生はこの一件は問題がなかったとお考えなのですか?」
扶桑日報記者、芹沢あかねは信じられないといったように首を振った。
「では君は、何が問題だったと考えているんだい?」
城南大学講師、そして、しなの総研主席研究員でもある井出俊博は新聞に視線を落としたまま尋ねた。
「ミサイルの打ち合いをしたのですよ?! 戦争になったらどうするのですか?!!」
「じゃあ、どうすればよかったんだ?」
芹沢はコーヒーを一口飲むと、
「話し合えばよかったのですよ!」
井出は芹沢を見もしなかった。 新聞を畳み、コーヒーを飲むと、
「扶桑日報は、創設者が“日本のクオリティーペーパーを目指す”と設立して、中立的な視線で物事を見る媒体だと思っていたんだが・・・・」
小さくため息をつきながら立ち上がった。
「今の君の意見を聞いていると、毎朝や夕日新聞あたりと同じだな・・・・」
スーツケースを手に取ると、
「もっといろいろな角度から物事を見た方がいい・・・・そうでないと・・・・」
井出はにやりと笑うと、
「・・・国が亡ぶ・・・・そうなった時に、実は間違ってました・・・・なんて言っても、取り返しがつかないぞ!」
ここは払っておくよ・・・・そういうと、井出が歩いて行く。
「先生、どちらに行かれるのですか?」
「うん、ちょっと南の島・・・・サザンランドにでも行って、ゆっくり休んでくるよ・・・・」
そういうと、井出は意味有り気ににやりと笑った。



同刻 空軍・北九州基地

夕日が西に沈んでいく。
真田正美中佐は愛機のF-2にもたれかかりながら、夕日を見つめていた。
「正美・・・」
梶谷和久が、声をかけた。
「どうしたんだ?」
「うん・・・・いろいろ考えてたんだ・・・・」
「なにを?」
梶谷が正美の顔を覗き込むように尋ねた。
「うん・・・戦いが・・・3回の大きな戦いをしたのに、また戦いが起きるのかな・・・・そう思っていたんだ・・・」
私たちには、子供もいるのにね・・・・正美はそう言うと、小さく・・・・ほろ苦そうに笑った。
「そうさせない・・・・そのために、俺たちや朝倉さんたちがここにいる・・・・」
梶谷が力強く言った、正美が梶谷を見上げた。そして、夕日に視線を戻し明るい声で、
「そうだね!」
微笑みながら言った。
二人は見詰め合い、明るく笑った。



夕日の光が、二人を、そして彼女の愛機を明るく照らしていた。



掲示板で「ガールズ・ファイター」

 「西海の防人」

   おわり






掲示板での一つの書き込みから始まった「ガールズ・ファイター」スピンオフ作品が終わりました(笑)
なかなか書けなかったので掲示板に書いた一つの書き込みに、No.1440さんが、面白い突っ込みをしてくれました。
逃げ馬としては、『これをそのままにしておくのはもったいないなあ・・・・』と思いました。
そう、書く気が起きたのです!(爆笑)
そして、新三部作の設定を利用して、『ファイナルオペレーション』から一年後、真田正美中佐の戻ってきた時に事件が起きた。という新たな設定で書いてみたのがこのスピンオフ作品です。

そして、新三部作への橋渡しの役目も果たしてもらっています。

最初のシーン、そして途中の”無茶振り”は、No.1440さんのカキコを「セリフ」としてそのまま利用させてもらっています。
合計32KB?! 意外に長い作品になりましたね(^^;
書き手も楽しく書けました(^^)


今回もお付き合いいただきありがとうございました。


2013年 逃げ馬







<感想やカキコはこちらへ>


<作者【管理人】へメール>





<ガールズ・ファイターシリーズのページへ>





<Books Nigeuma TOPページへ>































































































Gポイントポイ活 Amazon Yahoo 楽天

無料ホームページ 楽天モバイル[UNLIMITが今なら1円] 海外格安航空券 海外旅行保険が無料!