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学校の聖母シリーズ


僕は保母さん?

企画・原案:HIRO

作:逃げ馬





厳しい夏も終わり、銀杏並木も黄色く色づき街には秋の気配が漂い始めている。
歩道を行きかう人たちの中に、がっしりとした体にリクルートスーツを着た男が急ぎ足で歩いている。
島田省吾は、剛気体育大学の4年生。
卒業を控えた大学生たちのご多分にもれず、彼も就職活動に忙しい。
剛気体育大学は共学のはずなのに、なぜか男子学生しか集まらない不思議な大学だ・・・まあ、校内に入れば5分もかからずにその理由がわかるのだが・・・。
そんなわけで、4年間周りに女性のいない生活を送った省吾だが、この大学の学生としてはちょっと変わった進路を彼は選んだ。
警察や自衛隊、あるいは体育の教員を目指す生徒が多い中で、彼は保育士の資格を取った。
そう、彼は保育園の保育士として子供を育てる仕事に就こうとしているのだ。
しかし現実は厳しく、なかなか内定はもらえない。
今日もこれから、一か所面接に向かうのだが・・・。
足を止めた省吾は額に噴き出た汗を拭うと、自動販売機にコインを入れてボタンの押した。
取り出し口から缶コーヒーを取り出すと、一気に飲み干し、空き缶をゴミ箱に投げ込んだ。
「よし・・・!」
気合いを入れなおし、面接先の保育園に向けて歩き始めた。



礼拝堂のステンドグラスを通して秋の日差しが中を照らしている。
誰もいない礼拝堂、ステンドガラスを通して聖母像を照らしていた光の中に、輝く光の粒が現れた。
その光は聖母像の前に集まると、やがて人の形にまとまっていく。
光の輝きが消えると、そこには白いスカートスーツを着た若い女性が立っていた。
彼女は振り返ると、秋の日差しに照らされた聖母像を眩しそうに見上げた。
聖母像は暖かい微笑みを浮かべ、彼女を見下ろしている。
彼女は聖母像に向かって軽く頷くと、礼拝堂の扉に向かって歩いていく。
「まったく・・・最近は出番なし・・・作者はわたしがいるってことを忘れているんじゃないかしら・・・」
彼女は頬を膨らませながら呟くと、立派な樫でできた扉を開けた。



「ハ〜〜〜〜ッ・・・」
保育園の門を出ると、省吾は深いため息をついた。
気合いを入れて臨んだ面接だったが、保育園の園長は省吾の姿を見た途端、いかにも『採用しないわよ』といった冷たい態度に変わってしまったのだ。
確かに身長190cm、大学ではアメフトをしている省吾だが、子供に対して激しく体をぶつけるわけではない。
いかにも“体育会”といった雰囲気だけで不採用になっているのでは?・・・そんな思いが省吾の中で渦巻いていた。
「こんなことでは・・・俺は就職できるのかよ・・・」
省吾は重い足取りで大学の寮へ向かった。
駅に着くと、銀色の車体に黄色いラインの入った電車がインバーターの音を響かせながら滑りこんできた。
ドアが開くと、ホームに待っていた乗客たちが混雑した電車に乗り込んでいく。
省吾も大きな体をまるでねじ込むように電車に乗り込んだ。
電車が動き出しスピードを上げていく。
「次は水道橋です・・・」
車内アナウンスが流れるが、今の省吾の耳には入らない。
車窓を街の景色が流れ、時々黄色やオレンジのラインの入ったカラフルな電車達がすれ違って行く。
省吾の目は、窓の外を流れていく景色を見つめている。
しかし、その景色は頭の中には入っていない。
「どうしよう・・・」
ずっとこれからの就職活動のことを考えていた。
彼は子供が好きで、電車に乗っても街を歩いていても、子供の姿を見ると自然に笑顔になってしまうほどだ。
元気な子供の成長をサポートしたい・・・そう思い大学で真面目に勉強をし、資格も取ったはずなのに・・・省吾は理想と現実のギャップを感じていた。
今応募をしている保育所は、あと一か所しかない。
『今からでも進路を変えた方がいいのかな・・・』
そんな思いを抱きながら、省吾は電車を降りた。



駅を出ると重い足取りで寮に戻った。
部屋に入り、スーツを脱ぎジャージに着替えると、冷蔵庫を開けてスポーツドリンクを取り出し、一気に飲んだ。
思わずため息をつく省吾。
部屋のドアを開け、階段を下りて寮の食堂へ行くと、そこには体のがっしりとした男たちが、どんぶりに山盛りのご飯とおかずをパクついていた。
省吾はトレーに、おかずとどんぶりを乗せた。
ジャーのふたを開けると、たっぷりと御飯が入っている。
省吾は、小さくため息をつくとどんぶりにご飯を少しだけ入れてテーブルに向った。
椅子に座ると、箸を持ちご飯を食べ始めたが、二口ほどで食べるのをやめてしまった。
そんな省吾の前を、大男が歩いて行く。
「島田・・・どうした?」
「うん?」
省吾は苦笑いすると、
「ちょっと体調が・・・な?」
「体調?」
男は意味有り気に笑った。
「今日もダメだったんだろう?」
男に言われ、省吾は困惑しながら笑った。
「今からでも、警察を受験したほうがいいんじゃないか?」
男はそういうと、「それじゃあ」と手を挙げて食堂を出て行った。
省吾は、その後ろ姿を見送ると、視線をどんぶりの中のご飯に戻した。
しばらくじっと見つめていたが、やがて小さくため息を吐くと、トレーを持って席を立った。



翌日の夕方、秋の日はつるべ落としと言うように、日が暮れるのは早い。
省吾は、重い足取りで大学の校門を出た。
あれからずっと、省吾は自分の進路について考えていた。
今でも自分は保育の仕事をしたいと思っている。
しかし、合格をすることができない。
再チャレンジを繰り返しているだけでも、受験をするための移動費はかかるし、何よりも時間が過ぎていく。
そう、卒業が迫ってくるのだ。
省吾は、今日一日を一体どのように学校で過ごしたのかすらわからなかった。
「ハア〜〜〜〜ッ・・・」
何度目になるか解らないため息をついたその時、
「もしもし?」
誰かが省吾に声をかけた。
省吾は声が聞こえた方に振り向いた。
そこには、黒い布をかぶせた机を前にした、黒いベールを纏った女性が座っていた。
省吾は黙ったまま彼女を見つめていたが、
「そう、あなた・・・」
「俺?」
彼女はうなずくと、机の前の椅子を黙って指差した。
省吾は少し気味悪く感じていたが、彼女に言われるまま椅子に座った。
大きな体の省吾が座ると、椅子が軋んだ。
「・・・困っているようね・・・」
ベールの向こうで、彼女の眼が光ったように思えた。
省吾は少しムッとして、
「・・・そうかな?!」
「困っているわ・・・自分の未来が描けなくてね・・・」
彼女は、机に置かれた水晶玉を見つめると、
「あなたは子供たちと一緒に過ごしたいのに、周りは理解をしてくれない・・・」
彼女はベールの向こうで微笑みを浮かべ、少し首を傾げた。
『どう、当たっているでしょう?』
まるでそういうように、微笑みながら省吾の目をしっかりと見ている。
省吾は言葉も出ず、じっと眼の前の女性を見つめている。
しばらく二人の間に沈黙が漂っていたが、
「なぜ・・・?」
彼女は小さく笑うと、
「この水晶玉が、すべてを教えてくれているのよ・・・あなたの過去も、そして未来もね・・・」
彼女は微笑みながら水晶玉を見つめている。
「明日は面接に行くのね・・・」
『なぜ?!』
そう思いながら、目の前に座る占い師を見つめていると、
「明日の面接では、あなたはとても楽しい時間が過ごせるわ」
彼女は水晶玉から、視線を省吾に戻した。 彼の眼をじっと見ながら、
「子供たちとその時間を過ごして、もしも『子供たちと一緒にいたい』と思うのならば、あなたのいろいろなこだわりを捨てて願い続けなさい・・・そうすれば願いはかなうわ」
彼女が微笑む。
省吾は、机の上に見料を置こうとしたが、彼女は首を振って受け取らなかった。
省吾は礼を言うと椅子から立ち上がり歩き始める。
なぜか気になり、後ろを振り返ったが・・・。
「?!」
さっきまで、あの占い師がいたはずのところには誰もいない。
「おかしいな・・・・?」
省吾は首を傾げ、寮に向かって歩いて行く。
あの占い師と話をしたことで、少し気が楽になった。
『明日は・・・頑張ろう!』
省吾は足取り軽く、寮へ戻って行った。



翌日

朝、寮の食堂にはスーツ姿で朝食をかき込む省吾の姿があった。
省吾の前の席に、どんぶり鉢に山盛りのご飯と、焼鮭やサラダを乗せた皿の載ったトレーを持って大男がやってきた。
「島田、今日も面接か?」
テーブルをはさんだ前の椅子に腰をおろしながら尋ねてくる。
「ああ・・・そうだよ!」
「また、保育園へ?」
「もちろん!!」
「ヘエ〜〜〜ッ・・・」
大男はあきれたような視線を省吾に向けた。
「・・・まだ諦めてないのか?」
「もちろん!!」
省吾は、箸を置くと、
「よし!!」
気合を入れてニッコリと笑った。
「じゃあ、行ってくるよ!」
というと同時に、椅子から腰を上げた。
トレーを返却口に返すと、ニッコリ笑って軽く手を上げ食堂を後にする省吾。
そんな省吾を、男は首を傾げながら見送っていた。



青空の下で、真剣な表情の祥吾が前を見据えている。
彼の前には、カラフルな色のペンキで塗られた保育園の門がある。
「よし! 行くぞ!!」
省吾は気合を入れると、鉄製の門を開けた。


会議室に通されると、園長がやってきて面接が始まった。
園長が会議室に入ってくると、省吾は椅子から立ち上がり、
「今日はお忙しいところ、お時間を頂きありがとうございます。よろしくおねいします!」
長身を曲げて一礼をした。 ちょうど園長を見下ろす形になる。
園長の顔が、困惑した表情になる。

面接は、おなじみの質問で進んでいく。
省吾は質問に真剣に応えながら、園長の表情を見つめていた。
『・・・また、ダメなのか?』
そんな思いを抱きながら・・・。

「それでは、これで終わります・・・お疲れさまでした」
園長の言葉で、面接は終わった。
「ありがとうございました!」
省吾は椅子から立ち上がり、一礼した。
園長は机の上に置かれていた書類をファイルへ入れ始めた。
省吾は会議室のドアのノブに手をかけた。その時、
「島田さん?」
園長が声をかけた。
「はい?」
「よかったら、子供たちの様子を見て行きますか?」
「・・・」
省吾は、突然のことで戸惑ってしまった。なんと答えて良いかわからない。
「子供たちが部屋でどんな様子なのか・・・・実際に見てみれば、あなたも『職場』の様子が分かっていいんじゃないかと思うけど?」
省吾の顔が喜びで笑顔になっていく。
「はい、よろしくお願いします!!」
省吾は体が直角になるほど、園長に礼をしていた。

省吾は園長と担当の若い保母に先導されながら、廊下を子供たちの部屋に向かって歩いて行く。
部屋に入ると園児たちが、
「せんせ〜〜」
たどたどしい口調で言いながら駆けよってくるが、後ろに立つ省吾を見た途端、
「お兄ちゃんだ!!」
というが早いか、省吾の足にまるでタックルをするように飛びついてきた。
「おいおい・・・」
緊張をしていた省吾は、子供たちの笑顔を見て緊張が消えてしまった。
省吾が振り返り、園長をみると、園長が頷いた。
「さあ、遊ぼう!」
「「「わあ〜〜〜ぃ!」」」
省吾は先生と一緒になり、子供たちと遊び始めた。
園長は、部屋の入り口から真剣な眼差しでその様子を見つめていた。

あっという間に夕方になった。
省吾が子供を抱き上げていると、入り口にやってきた園長が目配せをした。
省吾も小さく頷くと、抱き上げていた子供を床に下ろした。
子供は、まだ遊び足りないというように省吾の顔を見上げているが、
「それじゃあ、バイバイ!」
省吾が子供たちに手を振ると、
「エ〜〜〜ッ?! もっと遊ぼうよ!」
省吾の周りに集まってくる子どもたちを、担任の先生が押さえている。
省吾は先生に一礼すると、廊下へ出た。
「お兄ちゃん、バイバ〜〜イ!」
部屋から聞こえてくる声を聞いて、省吾の顔に笑みが浮かんだ。
園長と一緒に廊下を歩いていく。
「ねえ、君」
「はい?」
「よかったら、今週一週間手伝いに来てくれない? あなたの能力を確かめたいの」
省吾は、しばらく園長を見つめていたが、
「ハイ! わかりました!!」
保育園の門まで来ると、省吾は深々と一礼して歩いていく。
その時、園長が
「あなたが・・・女の子ならね・・・」と呟いたことを、省吾は知らなかった。



省吾はそれまでとは違い、元気に寮に戻ってきた。
仲間たちが意外そうな顔をしている。
食堂でご飯をどんぶり鉢に山盛りにしている省吾に、ジャージ姿の大男が声をかけた。
「おい、島田?」
「うん?」
省吾がとんかつと一緒に、ご飯を口に頬張っている。
「お前、保育園に面接に行った日はいつも落ち込んで帰ってきていたのに・・・?」
大男は首をかしげながら、
「今日は、妙に明るいじゃないか?」
「ああ・・・」
省吾の顔が、自然に笑顔になる。
「子供たちの相手をしたんでね・・・腹が減ったんだ」
そう言うと、また笑顔でご飯をパクつく。
大男は、省吾の顔を不思議そうに見つめていた。

その夜
省吾は、気分良くベッドに入った。
子供たちと過ごした楽しい時間を振り返っていると、ふと、あの占い師の女性の言葉が脳裏に甦ってきた。
「・・・子供たちとその時間を過ごして、もしも『子供たちと一緒にいたい』と思うのならば、あなたのいろいろなこだわりを捨てて願い続けなさい・・・そうすれば願いはかなうわ」
そうだ・・・僕は子供たちと一緒にいたい・・・。
「・・・明日も・・・頑張ろう!」
省吾は布団を被る。
しばらくすると、ベッドからは心地良さそうな寝息が聞こえてきた。



翌日は、火曜日。
部屋に、目覚ましの音が響いている。
布団の中から手が伸びて、しばらく“何か”を探していたようだが、やがて“目的のもの”を見つけるとボタンを押した。
アラームの音が止まると、省吾ががばっと飛び起きた。
「よし!!」
気合を入れると、身支度を始めた。
朝食をたっぷり食べると、寮の玄関で革靴を履き、鏡で身だしなみをチェックする。
バッグを持つと、元気に保育園に向かった。

保育園に着くと先生たちに、
「おはようございます!」
元気に挨拶をする。
「アッ・・・おはよう!」
「おはようございます!」
「・・・今日も、よろしくね」
先生たちは、省吾の姿に戸惑いながらも挨拶をしてくれた。すると?
「お兄ちゃんだ〜〜〜?!」
子供たちが駆け寄ってくる。
「お兄ちゃん、おはよう!」
「おはよう!」
子供たちが省吾を囲んでいる。
「準備をしてくるから、待っていてね!」
「「「は〜〜〜い!」」」
子供たちが部屋に戻っていく。
園長は、微笑みながらその様子を見つめていた。
着替えてきた省吾は、先生と一緒に子供たちに本を読み聞かせ、一緒に遊び、楽しい時間を過ごした。
夕方・・・・・帰り際、
「お兄ちゃん、バイバイ!」
子供たちが集まってきて、省吾の体をポンポンと叩く。
「明日もよろしくね」
園長が微笑みを浮かべている。
省吾は一礼すると、子供たちに手を振りながら保育園を後にした。

寮に戻った省吾は、疲れをとるために風呂に入った。
汗をかいた体を洗う。
「・・・・・?」
なんだか、胸に脂肪がついたようだ。
「太ったのか?」
乳輪は鮮やかなピンク色・・・乳首も、つき出ている?
「・・・どうしたんだろう?」
少し戸惑う省吾。
体を洗い、風呂から出るとジャージに着替えてベッドに入る。
「・・・楽しかったな・・・」
子供たちと一緒に過ごしたい・・・そう考えていたが、心地よい疲れを感じながら、省吾は眠りに落ちて行った・・・。



翌日は、水曜日。

スーツ姿の省吾が保育園に着くと、たちまち子供たちが寄ってくる。
「お兄ちゃん、一緒に遊ぼう!!」
省吾の顔が自然に笑顔になり、子供たちと手を繋いで建物に向かっていく。
昨日と同じように、子供たちを散歩に連れて行ったり、一緒に歌を歌ったり、食事の世話をしているうちに慌ただしく時間が過ぎて行く。
「島田君って、手際が良いわね!」
先生たちが驚きの声を上げる。
「男の子とは思えないほど、目が行きとどいているわね・・・」
喜んで良いのか・・・それとも、怒るべきなのか・・・省吾は複雑な笑いを浮かべていた。

今日も、一日が終わった。
「お兄ちゃん、バイバイ!」
「また、明日ね!!」
子供たちが、省吾の大きな体をポンポンと叩く。

寮に戻った省吾は、スーツを脱いでジャージに着替えようとした。
「?!」
ズボンを脱ぐときに、なんだかお尻に引っ掛かるような気がする。思わず、お尻に手をやると・・・?
「アレッ?!」
なんだか、柔らかい感触がする。
大学でたっぷり鍛えているのに?! なぜ?!!
「・・・疲れているのかな・・・?」
軽く頭を振って、ベッドに入る。
今日も楽しかった。 
もちろん、忙しくて大変な職場だが、やりがいはある。
「・・・子供たちと・・・・一緒にいたいな・・・」
そう思うのだが、保育園に言われた日数は、あと二日だ。 その後は・・・?
「・・・とにかく・・・頑張ろう!!」
そう思うと、疲れのせいか省吾は寝息を立て始めた・・・。



翌日は、木曜日
「おはようございます!」
省吾が元気よく挨拶をすると、
「おはよう!」
「今日も元気ね!!」
3日目になると慣れてきたのか、先生達も気さくに声をかけてくる。
部屋に入ると、「お兄ちゃんだ〜〜〜〜!」というが速いか、子供たちが省吾に寄ってくる。
3日目になると、省吾もこの保育園の要領がわかってきて、昼食の準備や子供たちの好み・・・園児が食事で嫌いな物などもわかってきた。
「食べなきゃ大きくなれないぞ!」
省吾は声をかけて、子供に食事をさせている。 嫌いな物を食べた時には、声をかけて褒めてあげると、しかめっ面をしていた子供は、たちまち笑顔になる。
一つ一つの出来事が、省吾にとっては楽しい。

「今日もお疲れさま!」
先生達の声に送られて、省吾が保育園を後にする。
「園長・・・彼を採用した方が良いのではないですか?」
なかなか保育が上手いですよ・・・と、一人の先生が園長に言った。
「・・・・彼が・・・女の子ならね・・・」
園長が、困惑した表情で呟いた。

省吾が寮に戻ってきた。
心地良い疲れを感じながら、湯船に体を沈める。
「やっぱり子供たちと一緒にいると楽しいな・・・」
湯船から出て、洗い場に行く。
タオルに石鹸をつけて体を洗い始めるが・・・。
「・・・?」
なんだか胸が少し膨らんだような気がする。
指で突くと、プニプニと柔らかく、人差し指の先が少し沈みこむ・・・まあ、脂肪がついたのかもしれないが・・・。
「手伝いが終われば、鍛え直さないとな・・・」

あの保育園で働きたい・・・子供たちと一緒にいたい。
そんな思いを、一層強くしながら省吾は眠りに着いた。


翌日は、金曜日。
朝、いつものように省吾はスーツを着て保育園に向かった。
なんだか、肩のあたりが少し緩くなった気もするが、
「本当に、鍛え直さないとな・・・」
苦笑いしながら、保育園に入ると、
「島田君、おはよう!」
「おはようございます!!」
先生達と挨拶を交わす。
ジャージに着替えて廊下を子供たちの部屋に向かうと、
「アッ?! お兄ちゃんだ!」
「一緒に遊ぼう!!」
小さな女の子が小さな手で、省吾の武骨な手を握る。小さな女の子と手をつなぎ、自然に微笑みが浮かぶ省吾。
今日も子供たちと一緒に過ごし、あっという間に時間が過ぎる。
夕方になった。子供たちの部屋に赤い夕日が差し込んでくる。
「島田さん・・・」
廊下から園長が省吾を見つめている。
「ちょっと・・・」と手招きをする園長、省吾は遊び足りないといった表情をする子供たちを残して部屋を出た。
省吾の後姿を見送る保母たち。
「彼は・・・手際が良いし、子供たちの扱いも上手いから・・・一緒に仕事が出来るといいのにね・・・」
一人が呟くと、
「でも・・・男の子・・・だからね・・・」
もう一人の保母が、苦笑しながら言った。

省吾は園長と一緒に園長室に入った。
園長がソファーに座るように言い。省吾は園長の前に座った。
園長は省吾がソファーに腰を下ろすと、おもむろに・・・。
「・・・言いにくいのだけど・・・残念ながら、あなたを採用することは出来ないの・・・」
ある程度予想をしていたとはいえ省吾にとっては、やはりショックな一言だった・・・そう、それが子供たちとの時間を過ごした後だけに、より一層・・・。
「そうですか・・・」
そう言うのが精一杯だった。
『僕は・・・子供たちと一緒にいたいのに・・・!』そう思いながら、省吾は唇を強く噛んだ。

子供たちの部屋に戻ると入れ替わり立ち替わり、親が子供たちを迎えに来ていた。
母親と手をつないだ子供が省吾を見て、
「また、遊んでくれるんでしょう?!」
そう聞かれても、今の省吾には苦笑することしか出来ない。
ジャージからスーツに着替えた省吾は、先生達に「一週間、お世話になりました」と礼を言った。
先生達は、言うべき言葉が見つからず、複雑な表情を浮かべている。
省吾が帰ると知った子供たちが、彼の周りに集まってきた。
「お兄ちゃん、帰るの?」
「また、遊ぼうね!」
子供たちの可愛らしい笑顔を見ていた省吾は、ちょっと辛くなってきた。
「・・・いや・・・もう、来ないんだ・・・」
辛そうに笑う省吾に、
「どうして?!」
「また一緒に遊ぼう!!」
子供たちが省吾にまとわりつく。
先生達は、止める暇もなかった。
子供たちのどこに、こんな力があるのだろう?
「ちょっと・・・危ない?!」
大男の省吾が、子供たちに倒されてしまった。

その時、

「?!」
起き上がろうとしたのだが、体がなんだかおかしい。
スーツの袖から指の先しか出ていない? 体が縮んでいるのか?!
頭がムズムズしたかと思うと、短く刈り込んでいた髪がスルスルと伸び、肩に掛かるほどの美しい黒髪になり、胸には美しい形のバストの膨らみが出現し、ウエストが括れ、ヒップが膨らんでいく。
「ア〜〜〜ッ・・・そんな・・・これって?!」
女になっているのでは?・・・そう呟いた声は、自分のものとは思えない可愛らしい“女の子の声”だ。
「?!」
シャツが小さくなり、省吾の形の良い胸をキュッと包み。トランクスは柔らかく、そして小さくなり、大きく膨らんだヒップをやさしく包む。
Yシャツは柔らかいブラウスに変わり。スーツのズボンはどんどん短くなり、膝上のタイトスカートに変わりスカートから脛毛一本ない美しい足が伸びている。
上着も“女の子の体”に合ったサイズになっていた。
持っていたバッグも、女の子が持つようなトートバッグに変わっている。
そう、省吾はリクルートスーツを着た女の子になってしまったのだ。
呆然としている省吾の周りで、
「お兄ちゃんが、お姉ちゃんになっちゃった!」
「お姉ちゃん!!」
子供たちが飛びついてくる。
省吾が戸惑っていると、
「島田さん・・・」
園長が微笑みながら、“省吾だった女の子”を見つめている。
「はい・・・?」
「あなたが良ければ、春から私達と一緒に仕事をしない?」
戸惑っていた省吾の顔が、パッと明るい表情になる。
「本当ですか?」
園長が微笑みながら肯いた。
周りにいた先生達も、
「よかったわね、島田さん!!」
「ありがとうございます!」
省吾はうれし涙を浮かべながら、礼を言った。



4月

スーツを着た若い女性が美しい花をつけた桜の木の下を歩いて行く。
若く美しい女性。そう、彼女はあの大男、島田省吾だ。

なぜか女の子になってしまったあの日。
バッグに入っていた学生証には、女の子になった省吾の顔写真が貼られ、名前は『島田翔子』になっていた・・・あまりにも、ベタな名前ではあるが・・・。
寮に帰ると大男たちが取り囲み、
「あれ? 翔子ちゃん、誰に会いに来たの?」
「よかったら、俺の部屋に“泊って”いく?」
などと言われた・・・そう、男子寮にあった彼女の部屋は空き部屋になっていたのだ。
そして“幻の女子寮”と言われていた、誰も入っていなかった女子寮に彼女の部屋があった。
そして、彼女は『剛気体育大学の女子大生』として、大学を卒業した。

そして、今日は保育園への初出勤。
門の前で、足が止まる。
『これから・・・子供たちと一緒に過ごす日々が始まる・・・』
そう思うと、翔子の中には心地良い緊張感が生まれてきた。
「よし!」
気合を入れると、彼女は門の中へ足を踏み出した。
「おはようございます!」
「おはよう!」
「今日からよろしくね!!」
元気にあいさつを交わす声が聞こえてくる。



保育園の門の前に、白い服を着た美しい女性が立ち、翔子の後姿を見つめている。
彼女は満足そうな微笑みを浮かべると光の粒になり、その姿を消して行った・・・・。




僕は保母さん?
(おわり)






作者の逃げ馬です。
この作品は、HIROさんが掲示板に書いてくれた『お題』を元に逃げ馬が書いてみたものです。
大男が少しずつ女の子になって行く・・・それを『聖母さま風味』で書いてみました・・・お題に挑戦するのは、なかなか楽しかったですよ(^^)
今年の一本目を書き終えて、この調子でどんどん書いて行きたいですね。

それでは、今回も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
また、次回作でお会いしましょう


この作品に登場する団体・個人は架空のものであり、実在のものとは一切関係のない事をお断りしておきます。

2012年 1月 
逃げ馬









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