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学校の聖母シリーズ

クリスマスは『彼女』とともに♪

(第1話)

作:逃げ馬




12月も半ばになると、夜になると、街にはクリスマスのイルミネーションが色とりどりの光で輝き、ショッピングセンターや街の商店街ではスピーカーから、クリスマスソングが流れている。
ショッピングセンターの玩具コーナーでは、若い夫婦の『サンタクロース』が子供たちへのプレゼントを選んでいる。
商店街やショッピングセンターのジュエリーショップでは、若い男性が彼女へ送るためのプレゼント選びに悩んでいるようだ。
その風景を苦々しい思いで睨み付けているジャージ姿の男がいる。
剛気体育大学三回生、笹原義行。
21歳の立派な『青年』だが、この街を行き交っている人たちには、立派な『おっさん』に見えるに違いない。
剛気体育大学は、純愛女子大学と共にこの街の『象徴』と言える大学のはずだが、そのポジションは随分と異なる。
最高学府と並び称される、女子の名門大学の名を欲しいままにした純愛女子大学に対して、『脳細胞まで筋肉』とか、『体力以外に存在価値なし』と言われてしまう剛気体育大学・・・・・。
一応は『男女共学』のはずだが、ここ10年以上は学内で女性を見かけたことはない。
まともな感覚を備えた人ならば、その理由は学内に入って10秒以内にわかるだろう。
今、この街を行き交う男女に向ける笹原義行の視線を見ても、その理由はわかるはずだ。
彼の視線には、『羨望』と『憎しみ』が入り雑じっているのだ。
義行も21歳の健康な男性だ。
クリスマスを人並みに、彼女と過ごしたい。
『彼女いない歴=年齢』の義行は、クリスマスを彼女と過ごすために、高校時代の同級生に頼んで合コンをセッティングしてもらったのだが、女性陣は義行の姿を見たとたんに顔が強ばり、大学の名前を聞いたあとは『用事を思い出して』一人、二人と席を立ち・・・・・気がつくとワインバーには男性だけが残っていた。
それからは彼に、合コンのお誘いは全くない・・・・・。

笹原が、大きなため息をついた。
夕方の商店街は、夕飯の買い出しのためだろうか? 中年の女性や義行と年齢がそれほど変わらないように見える女性が、八百屋や肉屋で買い物をしている。
サンタクロースに扮した男性が、子供に風船を手渡し、貰った子供たちは嬉しそうにはしゃいでいる。
前から自転車が走ってきた。
自転車に乗っていた若い男が、
「先輩?」
と、笹原に声をかけた。
自転車に乗っている男に視線を向けると、乗っている男は笹原に向かって人懐っこい笑顔を向けた。
笹原の厳つい顔にも、笑みが浮かんだ。
自転車に乗っている男は、浅川省吾という。
浅川は、剛気体育大学の一回生。
しかし、同じ剛気体育大学の学生でありながら、全てが笹原とは異なっている。
多くの学生と同様に体育学部に所属する笹原に対して、スポーツ科学学部で『研究活動』をしている浅川。

その容貌を見たとたんに、女性は顔が強ばり、子供は泣き出してしまう笹原に対して、まるで人気アイドルグループのメンバーのように爽やかな容姿を持つ浅川。

そして最大の差は、剛気体育大学の学生でありながら? 浅川省吾には『彼女』がいることだろう。
それを知った時の、同じ寮に入っている学生たちの顔は・・・・・?
その浅川は、笹原に爽やかな笑顔見せている。
「ビールを買ってきました。今夜は飲みませんか?」
「いいな・・・・・」
笹原が応じると浅川は、準備をしておきますと言って、自転車に乗って帰って行った。
その後ろ姿を見ながら、笹原は大きなため息をついた。
あいつ・・・・・買い物用の自転車に乗る姿でさえ爽やかじゃないか・・・・・笹原の中に嫉妬心が渦巻いた。
しかし、それは浅川の爽やかさに対する嫉妬ではないことに、笹原は気がつかないふりをしていた。
笹原も寮に向かって歩き始めた。
楽しそうに話をしている二人の女子高校生とすれ違った。
純愛女子大学付属高校の生徒か・・・・・笹原はすれ違った二人の女子高校生の後ろ姿を目で追った。
周りで笹原を見ていた人がいれば笹原が、さぞかし彼は『危ない人物』に見えたことだろう。
あんな女の子が、俺の彼女ならば・・・・・そう思ってみても、そうなる可能性は『0ではない』が、『限りなく0に近い』ということは、これまでの笹原の数々の合コンでの戦績が物語っている。
また一人でクリスマスか・・・・・そう考えると、気が重くなる。
一人で過ごすと淋しいからといっても、剛気体育大学の寮の仲間達とドンチャン騒ぎをすると、宴の後の虚しさが倍増してしまうのが困ったものだ。

こうなると神頼みでもしないとな・・・・・そう思いながら、笹原は苦笑した。
そう言えば・・・・・笹原はすれ違った女子高校生達の姿を思い出していた。
純愛女子学園の学生たちは、『聖母様』に祈ると聞いた事があるな・・・・・俺が祈れば、あの学園の誰かと赤い糸を結んでくれるかもしれないな・・・・・笹原は寮に戻らず、踵を返して歩き始めた。




その学園では、時代を感じさせる赤い煉瓦造りの校門が出迎えてくれた。
しかし来訪者としては、いまだかつてこれほどこの学園に似合わない人物は、いなかったのではないだろうか?

笹原は、煉瓦造りの純愛女子学園の校門を通り、校内に入った。
美しく整備された校内で笹原の姿を見た純愛女子学園の女子学生たちは、ギョッとして笹原のごつい体を見ている。
この人は、何をするためにこの学校にやってきたのだろう?
そんな戸惑いと疑念の入り交じった視線を笹原に向けている。
『流石は純愛女子学園、かわいい娘ばかりだな・・・・・』
笹原は純愛女子学園の学生達を、まるで値踏みするかのように見ながら、学園の石畳の通路を歩いて行く。
しかし、この大学と自分が学ぶ・・・・・そう、俺は学んでいる。脳細胞までが筋肉などと言う奴もいるが・・・・・剛気体育大学との差はどうだ?
通路には、ゴミ一つ落ちていない。
うちの大学ならばトレーニングの後、腹を空かせた奴が、コンビニのおにぎりやハンバーガーを歩きながら食べて、通路や校舎の廊下に捨てている。
校舎の外壁は煉瓦造り・・・・・この大学の歴史を感じさせる・・・・・そう、古びてはいるが、汚れているわけではない。
良く手入れされていて、その古びた感じが、逆にこの大学の歴史を感じさせている。
うちの大学のコンクリート造りの校舎の外壁や廊下の壁には、空手部の連中や血の気の多い連中が壁に蹴りを入れて、靴の跡が着いていたりするのだが・・・・・。

笹原の足が止まった。
彼の視線の先には、この学園の校舎群とマッチした、煉瓦造りの礼拝堂があった。
ちょうど下校の時間帯で、礼拝堂には大学生から高校、そして中学生までが並んでいる。
この学園では学生・教職員ともに、登下校時に礼拝堂にある聖母像に祈りを捧げ、『聖母さま』が皆を見守っている・・・・・と言う話を笹原も聞いている。
その時は笹原は「そんな馬鹿な」と笑い飛ばしていたが、あの学生たちを見た瞬間、ふと思ったのだ。
『学生たちを守っている聖母像に頼めば、学生たちとの縁が生まれるのではないか?』
笹原は大真面目だが、こんな無理難題を頼まれた方は困惑するに違いない。

笹原も学生たちの列に加わった。
並んでいる学生たちは、笹原に訝しげな視線を向けるが、日頃は『共学だが男子校』にいる笹原にすれば、『美しいお花畑』にいるようなものだ。
列が進み、笹原が周りの人に倣って聖母像の前に跪いた。
ごつい両手を合わせて祈る・・・・・。
『可愛い彼女に御奉仕してもらえますように!』
それは『祈り』というよりは『怨念』、『呪い』といった方が正確かもしれない。

『祈り』を終えた笹原は、女子学生たちの視線を浴びながら、礼拝堂を出ていく。
ここにいる女の子のうちの誰かが、俺の彼女になるのかな?・・・・・そう思うと、笹原の厳つい顔に、自然に笑みが浮かぶのだった。



クリスマスは『彼女』とともに♪
(第1話)
おわり



2016年1月  逃げ馬








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