学校の聖母シリーズ


 フタマタ愛?


 
作:逃げ馬

 






 「どういうことなの?! 和也!!」
 ここは夜の東京のベイサイドエリア。夜の運河の黒々とした水面に辺りのビルから洩れる窓の明かりが反射している。その美しい夜景の見える運河沿いの遊歩道で、若い男女が言い争っていた。
 「どうして今ごろになって・・・」
 ロングヘアの女の子が茶髪の若い男に瞳を潤ませながら詰め寄っている。
 「仕方がないだろう・・・もう俺たちは終わりなんだよ! おまえだって分かっているだろう直子!」
 男は、女の子の方を見ようともせずに、運河の向こうに見えるオフィス街に目をやりながら応えた。
 [なぜ・・・なぜなの?!」
 直子の瞳から涙が流れている。その時、和也の持っている携帯電話からリズミカルな着信音が聞こえてきた。和也は直子に背を向けると携帯電話を取り出した。
 『ピッ!』
 「もしもし・・・」
 じっと和也の後姿を見つめている直子。和也は、電話をしながら時々背中越しに直子の様子を見ている。
 「うん・・・ああ・・・」
 和也が電話をしている姿を悲しそうに見つめている直子。
 「・・・それを今話しているんだって・・・大丈夫・・・・ちゃんと別れるから・・・・それじゃあ!」
 『ピッ!』
 電話を切ると、和也は直子に向き直った。直子が悲しげな瞳を和也に向けている。
 「今の電話・・・誰なの?」
 直子が呟くように尋ねた。和也は答えない。
 「ねえ! どういうことなの?!」
 直子が和也に詰め寄った。和也は直子の方を見ようともしない・・・横を向きながら、
 「俺の彼女からだよ!」
 「彼女?」
 「ああ・・・彼女・・・可愛いんだぜ!」
 和也がニヤニヤ笑いながら言った。
 「そんな・・・わたしがいるのに・・・」
 瞳を潤ませながら和也を見つめる直子・・・手に握られたハンカチが震えている。
 「仕方がないだろう・・・だってあいつはお前より可愛いしスタイルだって・・・」
 和也の顔にいやらしい笑みが浮かぶ・・・呆然と直子は和也の顔を見つめていた。
 「そういうことだ・・・もう電話もしないでくれ!」
 和也は直子に背中を向けると一人で歩いて行く。直子は何も言えずにその後姿を見送っていた。



 どこをどういう風に歩いたかも覚えていない・・・気がつけば、直子は彼女が卒業した高校の校門の前に立っていた。“純愛女子学園”と書かれた校門をくぐり構内をフラフラと歩くと彼女は礼拝堂の前に立った。もう深夜で誰もいないはずなのに、礼拝堂にはまだ煌々と明かりが灯っていた。古い樫の木のドアをゆっくり開けると暖かい照明に照らされた礼拝堂が彼女の前に広がり、正面には大きな聖母像が目に飛び込んできた。
 「・・・」
 直子は、大きな瞳から涙を流しながら聖母像の前に膝まづいた。
 「聖母様・・・」
 胸の前で組んだ直子の手がブルブルと震えている。
 「わたしは・・・わたしは・・・」
 直子の大きな瞳から、とめどなく涙が流れている。
 「・・・悔しい・・・わたしは・・・・あんな男に・・・フタマタをかけられていたなんて・・・」
 直子は涙で潤んだ瞳で聖母像を見上げた。聖母像は、優しい笑みを浮かべながら直子を見下ろしていた。
 「・・・聖母さま・・・あの男に・・・天罰を!!」
 直子は瞳を閉じて両手をあわせると、願いを込めた。次の瞬間、聖母像から眩い光が放たれた。しかし、一心不乱に祈る直子はそれに全く気がつかなかった・・・。



 あるマンションの一室
 
 和也は女の子と一緒にマンションの一室にいた。和也はベッドに腰をおろして、タバコを吸いながらテレビを見ていた。バスルームからは女の子がシャワーを浴びている水音が聞こえてくる。
 「フフフフッ」
 和也はバスルームの方を見ながら、顔にいやらしい笑いを浮かべた。灰皿でタバコをもみ消すと、大きく息をついてテレビに視線を移した。テレビにはバラエティー番組が映っている。可愛らしい女性タレントが、お笑いタレントと一緒にはしゃいでいる。
 「可愛いよなあ・・・」
 和也はボーッとテレビに映る女性タレントの可愛らしい笑顔を見つめていた。
 「あんな娘がなあ・・・」
 和也はバスルームに目をやった。まだシャワーを浴びているのだろうか・・・水音が響いていた。
 「今度は、こんな娘を・・・」
 テレビに映っている女性タレントがアップになった・・・可愛らしい笑顔をこちらに向けている。
 「あなたがそうなるのよ!」
 まるで和也を見つめるようにしてそう言った。
 「ヘッ?」
 驚く和也。その和也に向かって、画面に映る女の子・・・可愛らしい衣装を着ているが・・・その腹部から何かが飛び出した。
 「うわ?!」
 驚いて逃げようとする和也のお腹・・・ちょうどお臍の辺りに何か柔らかいものがくっ付いた。思わずお腹を見る和也・・・彼のお腹には、まるで臍の緒のようなチューブがくっ付いていた。それは、あのテレビに映る女の子のお腹から伸びていた。
 「何なんだよ・・・これは?!」
 和也は、力任せにチューブを引き抜こうとしている。しかし、チューブは彼のお腹にくっ付いたまま伸びるだけで、全く抜けそうにない。
 「あなたも私と同じになるの・・・そして・・・」
 テレビの中で女性タレントがニッコリ微笑む。
 「・・・今までの報いを受けるのよ・・・」
 テレビを見つめながら、和也の表情が凍りついた。テレビの中では女性タレントが可愛らしい笑みをこちらに向けている。しかし、彼のお腹のチューブは、その女性タレントにつながっているのだ。和也はその女性タレントの笑みに恐怖感すら抱いていた。
 「ああ・・・・」
 和也が声を上げた。チューブを通じて何か温かいものが彼の体に流れ込んでくる。心地よい気持ちに和也は恍惚とした表情を浮かべていた。
 「・・・?」
 自分の体に違和感を感じる和也・・・なんだか胸の辺りが・・・。
 「ああ・・・?!」
 信じられない光景に思わず声を上げる和也。彼の胸がムクムクと膨らんで、下からシャツを押し上げているのだ。信じられないと言う表情で自分の胸を思わず掴む和也。その掌からはやわらかいものを掴んだという感覚が・・・そして、胸からは今までに感じたことのない感覚が、彼の脳細胞に伝わった。
 「そんな・・・これって・・・」
 その間にも、和也のウエストは細くなり、ヒップは大きくなっていく。鍛えられた腕からは筋肉が落ちて、細く柔らかい腕になっていく。肌は白くきめ細かく・・・そして、茶色く染めた短い髪は、いつの間にか、さらさらのロングヘアーに・・・。
 「そんな・・・俺が女に・・・」
 やがて彼の着ていた服にまで変化が起き始めた。何かが大きくなった胸を締め付ける。そして、トランクスがすべすべの生地になって、体にぴったり張り付いた。ポロシャツは柔らかくなり白いブラウスに変わっていく。そしてジーンズは、彼の目の前でどんどんたけが短くなり、やがてデニム地のミニスカートになってしまった。あまりに信じられない自分の変化を目にして呆然としている和也・・・だった女の子。気がつくと、彼のお腹に付いていたチューブも消え去っていた。テレビからは、さっきまでと同じようにバラエティー番組が流れている。しかし・・・、
 『ガチャッ!』
 バスルームのドアが開いた。
 『やばい・・・こんな姿をあいつに見られたら・・・』
 そう思った和也の目の前に現れたのは・・・。
 「遅くなって悪かったな!」
 鍛え上げられた肉体を持った男だった。
 呆然とする和也だった女の子。思わず後ずさりする。
 「そんなに驚くなよ・・・」
 男が優しい笑みを浮かべながら、和也だった女の子を軽々と抱き上げた。和也の心を絶望感が襲う。大声を上げたい・・・しかし、ようやく言ったのは、
 「いや・・・やめて・・・」
 呟くように言った一言だった。男の逞しい姿を見つめて絶望感に震える和也・・・。



 直子が聖母像の前で祈っている。
 『さあ・・・顔を上げなさい・・・』
 聖母像を見つめる直子。彼女の心に、誰かの優しい声が聞こえてきた。
 『さあ・・・新しい恋を見つけるために頑張りなさい・・・今の心の痛みは、あなたの未来につながるのですよ・・・』
 「聖母様・・・」
 直子が瞳を潤ませながら聖母像を見上げた・・・やがて頷くと立ち上がって礼拝堂の扉に向かって歩いていく・・・聖母像は優しい微笑をたたえながら彼女を見つめていた。




 学校の聖母シリーズ
 フタマタ愛?
 (終わり)





 こんにちは、逃げ馬です。
 学校の聖母シリーズ・・・4作目は、ふたまた恋愛への天罰です。(^^;;;
 今回は聖母様・・・・ちょっと違った出現方法で男を変身させてしまいました・・・4作もやると、作者も変化をつけるのが大変です(^^;;;
 さあ、このシリーズ・・・次は原点に返って書いてみたいですね。そろそろ聖母様の正体も・・・(^^;;;

 では、また次回作でお会いしましょう!

 なお、この作品はフィクションであり、登場する団体・個人は実在のものとは一切関係のないことをお断りしておきます。

 2002年4月 逃げ馬





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