終わりの後の始まり
あれから,ずいぶんと時間はすぎて,またいつもの日々に慣れてきた。学校にいって,授業を受けて・・・ チャイムが鳴る。またいつものように授業が・・・・・ どかん! 大きい音がして煙がでている。 火事・・・? いや,違う・・・・煙の中に人がいる。 ここ,化学室でもないのに・・・・そんなバカなことを考えつつもその煙を見つめる。 「よぅ」 「!!!!!」 「深崎くん,知り合い?」 呆然としているたら,クラスメイトから声がかかる。 まずい!瞬間的に思った。この僕の世界では,魔法なんてありえないところのはずなのだから。 「はは・・・その知り合いのま・・・魔術師なんだ。そう,手品師。日本人じゃないから常識がずれてて・・・。その・・・これじゃまずいよね。ちょっと彼を帰らせるから!」 自分でも何を言っているのか,わからないけれど,とにかく言い終えると彼・・・ソルをひっつかんで教室の外へと,走った。 しーーーん,と静まり返る教室。 「あんな深崎くん,はじめてみた・・・」 ぽつり,とつぶやかれ,皆が納得した一言。 バタン,と扉を開いて中を確認する。今は誰もいないはず。そのままソルを部屋の中に押し入れた。 「なんだよ,おい」 ソルを運んでいる(というか引きずっていたというか)間にも,いろいろと話し掛けられていた(気がする)けれど,返事をする余裕もなかった。 ここに来て,まじまじと彼の顔を見る。 夢じゃない。この剣道部の部室はまさに現実のもので。その中に彼と僕がいる。 「ソ・・・」 声をかけようとして,そこでチャイムが鳴った。本鈴だ。 そこで,我に返って,また慌てる。 「ご,ごめん。ソル。その僕まだ用があるんだ。ここでじっとしていてくれるかい?」 そのままの服では,あまりなので,自分のロードワーク用のジャージをかぶせて,そしてじぃ,と顔を見てそう言った。 「・・・・・・わかんないけど,わかった」 不服そうな顔をしているけれど,言うことはわかってくれたみたいだ。 「じゃ,絶対あとで迎えにくるから,ここにいてくれよ」 ぱたむ,とドアを閉じて,そして念のために鍵をかける。万が一誰かがくると困るから。 遅刻だなぁ,と思いながら教室に帰る。けれど,頭はそのことだけじゃない。 いつもの日々に慣れてきていた。もう,すべてが夢じゃないかと思っていた。いや,思おうとしていた。 自分で選択したこととはいえ,命をかけたあの時のこと,そしてみんなと離れ離れになってしまったという事実が悲しかったから。いや,悲しいというのは少し違うかもしれないけれど。 だから,いつもの自分の生活に戻ってそれで,忘れようとしていた。忘れられるわけないのに。 特に,彼のことだけは・・・・ 薄暗い部屋に置いていかれた。 なんとなく,汗臭い。 待ってろ,といわれたので仕方なく椅子に座って転がっている。 「驚いた顔してたなー」 それはそうか,と思う。もう二度とあえないとおもっていただろうから。だから,もっと喜んでくれるかと思ってた。いや,喜んでほしいと思ってた。 自分はすごく再び会えて嬉しかったのに。 こういうとき,奴の,トウヤの冷静さが悔しい。(自分もそう思われがちだったということは棚に上げておく) 着せられた上着をきゅ,と掴んで包まるようにして自分を抱きしめる。 トウヤの匂い・・・・ 無理な送還をしてしまったこともあり,疲れていたので,そのまま目を閉じた。 ホームルームが終わって,すぐに廊下へと走り出した。掃除当番じゃなくてよかった,なんてどこかで冷静に思っている自分がいて苦笑する。 部室のドアを確認する。開いていないことに安堵して鍵を開ける。 机の上にぽつり,と乗っかっている頭。ちょっとびっくりしてあわてて近寄る。 「寝てるのか・・・」 ほっとして,そっと頭を撫でる。久しぶりに見るその寝顔。 本当にここにいるんだな,と実感する。しばらくこのまま眺めていたい,そんなことを思ってしまう。 が,外が騒がしくなって我に返る。そうだ,部室に人がくる前に彼を連れて帰らないと。 「ソル・・・起きて・・」 ゆさゆさ,と体をゆすると,んー,と半端な返答。 「起きてくれ・・・」 本当にまずい,と思ったので遠慮なしにソルを揺さぶる。あまりの振動にびっくりして目をぱちくりさせている。 「とりあえず僕のうちに行くから,ほら立って!」 なにする!と怒る前にソルに対して言葉を畳み込む。ソルの・・・ズボンは仕方ない,として上はジャージの前を閉めさせて,慌てて手を掴んで走った。 ああ,どうか知り合いにあいませんように。そう祈りながらなるべく人の少ない道を選んで帰った。 ひとまず,風呂に入ってもらって,それから傷の手当てをして(それまで気づかなかったことに反省もして),そして僕はソルと向かいあった。 学校や,さっきまではどたばたしていて,気にしていなかったのだけれど,あらためて向かいあうと何を話していいかわからなくなる。あの頃はこんな沈黙なんてなかったのに。 「ソ・・」 「あのな・・・・」 お互いに言い出して,ぴたり,と止まる。 「ソル,先にいいよ」 僕はそう促した。一呼吸おいてから,ソルは言い出した。 「その・・・俺はおまえに会いたくて・・・どうしても会いたくて来てしまったんだけれど・・・・」 じんわりと,顔が熱くなった。忘れようとしていた自分と,なんて違うんだろう,と。 「おまえは迷惑だったか・・?」 心なしか不安そうなソルの顔。こんなソルの顔なかなか見ることできなかったよな,とか不謹慎にも考える。 なかなか返答のないことにソルはさらに不安なのか,自分の名前を呼んでいる。 「あ,ごめん」 ぼんやり,と考えていたことに謝罪する。 「トウヤ?」 ソルがそう呼んで近づいてきた。ソルの手が自分に触れる。頬を軽く撫でてくれる。いや,違う,頬を伝っているものをふいてくれているんだ。 「ごめん」 さらに謝ってごしごしと袖口で顔をふく。そして,今だ不安そうなソルの顔を見て(自分が泣いたりするもんだからあたりまえか)にこり,と微笑んだ。 「嬉しいよ。本当に。もう二度と会えないと思っていたから」 そう言ってからソルに抱きついた。 「おまえの方が不可能を可能にできる人間だと思っていたんだけどな」 ソルはそう言ってぎゅ,と僕の体を抱きしめてくれた。 君がいたから,あの頃はなんでもできると思っていたんだよ。そう心の中でつぶやいた。 「いらっしゃい,ソル」 「ん・・・・」 これから,また二人一緒なんだね。 |