朝の違和感
「リプレ。ソルを見なかったかい?」 めずらしく,朝部屋にいったらソルがいなかった。もう朝食にいったのかな,と思ったけれど,そうでもないらしい。こんな時間から外にいくことなんてないかな,と思いつつも問うてみる。 「ソルだったら,ちょっと塩もらいにいってもらったの」 ソルがぼんやりとしてて,壷こわしちゃったのよ。と,笑っている。いや,笑ってソルにも塩,といったんだろうなぁ,とその状況を想像して苦笑する。 お塩が届いてから朝食よ。と背中から声がかかる。片手でそれを了承して,そのまま外へと出た。 いつも,薪を割っている切り株に腰をおろす。 朝だなぁ,と思える空気と青い空が心地よい。ゆっくりと,のびをする。 めずらしく,誰もいない。まだ,寝ているのだろうか。 そういえば,ソルの部屋に尋ねていっていなかったこともめずらしいな,と思った。 たいてい,自分が赴けば彼は部屋にいる。タイミングがいいのかもしれないし,無意識にいそうな時間を選んでいるのかもしれない。 だから,今日みたいなのは,めずらしくて,なんだか調子がくるう。 「んー」 きょろきょろと,あたりを見回す。誰もいない。 「朝食の準備でも手伝うかな」 すたすたと,玄関に向かう。 馬鹿だな,まっていればすぐに帰ってくるとでも思っていたのだろうか。僕は。 「トウヤ?」 ドアを開けようとしたら,後ろから声がかかる。 「ソル,とガゼル,おかえり」 小さな壷をもったソルと,大きな塩袋をもったガゼルがそこには並んでいた。 ソルはいいとして,ガゼルはどうして買い物にいったのだろう,と思ったけれど,あまりにも大きな塩袋を持っていて口もきけないようだったので,ガゼルを手伝ってそのまま台所へと向かった。 「あ,ソルとガゼル,ありがとうね。トウヤも行ってくれたの・・?」 「いや,玄関であったからさ」 とりあえず,塩を少しだけ壷にいれ,のこりを格納した。 「ったく・・・人使いの荒い・・・」 ガゼルは水をいっぱいのんで落ち着いたようだ。いつものように悪態をつく。 「なーにいってんのよ。ソルが1人であんな重いものもてるわけないじゃない!二人で行ったほうが楽なのはわかってるでしょ」 ・・・・・,何か一応男であるソルに対してひどいことを言ってないか・・・リプレ。そう思いつつ,ソルを見るとやはり苦笑している。 「結局俺1人で運ぶことになるし・・・トウヤも呼べばよかったよ」 「なーに,いってんの。あんた男でしょ」 いや,だから・・・リプレ・・・わざとかい,といいたくなるような言葉。これ以上ここにいるとさらに何を言われるか(直接言われているわけではないけれど)わからないので,ソルは朝食まで休んでるよ,と部屋に戻ってしまった。僕も,そのあとをついていった。 「はーーー疲れた」 部屋について,すぐにソルはベッドにころがる。 「ソルはこんな小さいもの持ってただけじゃないか」 そんな姿を見て僕はつい笑ってしまう。 「途中までは,二人でもってたんだよ」 けど,ガゼルの奴が俺がもっててももってなくても一緒だって,いうし。1人でもったほうがまだ歩く進みが速いっていうし。と,めずらしくぶつぶつという感じに文句をいう。 「なに笑っているんだよ」 むぅ,とすねた顔でソルがいう。転がっていたと思っていたら,こっちをしっかりと見ていたらしい。 「君がそんな風なところはあまり見たことないかな,と思ってね」 「悪かったな,どうせ俺は肉体労働には向かないよ」 そういう意味でいったわけではないのにな,なんて思ってまた笑ってしまう。 「なんだよ,もう」 ごろん,とすねて反対側を向いてしまった彼に謝る。すると,一応機嫌は直ったらしくこちらを向いてくれた。 「ま,いいけどさ・・・ところでなんであんなところにいたんだ?」 朝っぱらから,外で修行でもしてたのか。と。 「いや,そるが出掛けたっていうからさ,どのくらい前に行ったかわからなかったし,帰ってくるかな,と思って」 なんとなく,素直に言ってみた。 「俺がいなくて寂しかったとか?」 「そうだよ」 あきらかに冗談ぽく言ったソルの言葉に,僕は真面目に返してみた。そして,ゆっくりと微笑む。 ソルは少し顔を赤くして,なんだよ,もう。と一言。そして,再び転がってしまった。 その隣にぽふり,と座る。 「本当のことを言ったらだめかい」 「いつもそんなこと言わないくせに」 背中を向けたままそるがぽそっと言う。 「いつもはそんなこと言わなくてすむほど,君がそばにいるからね」 「・・・・・・」 ソルは何も言わない。別に勝ち負けがあるわけではないけれど,勝った。と思った。 「恥ずかしいぞおまえ」 反撃のつもりだろうか,少したってからそういい返してきた。 「ソルに言われたくないよ」 僕は笑ってそういう。ああいう言葉はソルのほうが多く使うのはお互いにわかっていることだし。 「まったく,おまえにはかなわない」 「お互い様」 そういって,顔を合わせて笑った。 朝食の時間まであと少し。 いつもと少しだけ違う空気のソルの部屋だった。 |