ある新人騎士は見た
「あーーーすいません」 俺はふと,声のほうを見る。にこ,と笑みを顔にうかべた青年(といっても自分よりも年上のようだが)が自分に尋ねてきている。 ここは,トライドラの砦の1つ。自分はその砦の門番をしている。 砦に用のあるものを通す仕事以外にも,こうやって旅人の応対をしなければならないこともある。 見た感じ,この青年は,冒険者といったところだろうか。腰に下げた剣が飾りではなく,服の汚れもそれをうかがわせている。 冒険者には,あまりいい印象を受けたことはないのだが,これも仕事であるし,にこやかに,どうしましたか?と返答をした。大方,道を聞きに着たか,近隣の危険な噂の場所でも知りにきたのだろう,と思いつつ。 「もうしわけないんですが,シャ・・じゃない,砦の守備隊長殿に面会をしたいのですが・・・・」 ・・・・・・・はい? 一瞬まぬけな表情をしてしまったかもしれない。いかんいかん,これでは栄えあるトライドラの騎士の名がすたる。すぐに平静を取り戻し考える。 冒険者風情が我らが隊長シャムロック様に何の用なのだ。 ふと,そんなことを考える。 しかし,いつもシャムロック様がおっしゃられているように,外見などにとらわれてはいけない,と思い直し・・・・・・・しかし,やはりどう考えても妙だ。 いやしかし・・・,いまこの冒険者は,シャムロック様のお名前を言おうとしていたではないか。ということは,もしかしたらシャムロック様のお知りあいなのかもしれないし。 俺はそんなことをぐるぐると考えて応対をすっかり忘れていた。 しかし,この冒険者はそんな態度は慣れっこなのだろうか,黙ってこちらの行動を待っている。 とりあえず俺がここで悩んでいても仕方がない,そうだ。もし取り次ぐとしても,まずは名前を聞かなくては・・・ 「あの・・・」 「はい?」 「とりあえず,お名前をお願いできますか。取り次いでまいりますから」 「ああ,ありがとうございます。俺は名前は・・」 彼がそういいかけたところだった。 「フォルテー,なんだ久しぶりだな」 え?と後ろを見ると先輩騎士が立っている。 フォルテ。それがこの冒険者の名前なのか・・・? 「ああ,ちょいと近くまできたもんだからな。挨拶に,と思ってな」 よくきたな,いつ振りだろう。すぐにいなくなっちまうからな。などと先輩騎士はにこやかに彼にちかづく。 ぼんやりとそれを見ている俺にフォルテという冒険者は声をかけてきた。 「取次ぎ,してもらわなくても,すんだみたいです。ありがとうございました」 「いえ・・・」 そういって礼をするのが精一杯だった。 「なんだ,悶着あったのか?」 先輩がこっちを見ていぶかしげな目を向ける。 「まさか。ちょうど取り次いでもらうところだったのさ。いい騎士殿だな」 にこり,とこちらに軽く笑みを向ける。 なんとなく照れてしまって,いつもの門番の配置へと戻った。 シャムロック様のところへいくんだろう。連れて行ってやるよ。 すまないな。 などという会話が遠くのほうで聞こえてそして聞こえなくなった。 シャムロック様とどういう関係なんだろう,顔立ちも似てないので兄弟とかじゃないだろうし・・・・ そんなことをぼんやりと考えていたら先輩が戻ってきた。 「よ,お疲れさん」 「いえ,仕事ですから」 そういいつつも,さきほどのことが気になっていていつものように話ができない。それをわかっていたんだろうか,先輩がそのまま説明をはじめる。 「さっきのはシャムロック様と同門で修行したフォルテって冒険者だよ」 まぁ,おれも同門なんだけどな,と。先輩は笑う。 「同門・・・・」 けれど,じゃあどうして騎士じゃないんだろう・・・。 「まぁ,俺が入ったときにはすでにいたし,騎士にならずに冒険者になった理由とかは知らんけど,いい奴だよ」 たまにふらっとここにくることがあるから,そんときはそのままシャムロック様のとこに連れて行ってくれ。そういって,先輩はまた中に引っ込んでしまった。 ・・・・。ああいうんだから,身元のしっかりした人ではあるんだろう。 まぁ,見た感じ悪い人っぽくはなかったけれど。(外見に騙されているわけではない。断じて) けれど,騎士を前にしておくさないあの態度。腰は低かったけれど,なにか違う感じがした。 まぁ,シャムロック様のご友人だしな。 数日後,砦を出ていくフォルテさんを見た。 シャムロック様ご自身が門までお見送りをしている。いつもより心なしか嬉しそうな,けれど,寂しそうな表情をして。 フォルテさんはなんというか,表現するのが難しい表情をしていた。つらそうというか,苦笑しているというか・・・・ またな。とフォルテさんが言うと,シャムロック様は嬉しそうに「お待ちしております」とおっしゃって。 ん?なんで,シャムロック様が敬語なんだ?客人だからかな? あの方は礼儀正しいかただし・・・・ そのまま歩いて遠くなっていくフォルテさんをぼんやりと見ていた。 また,くるんだろうか。 今度来た時には,すぐにシャムロック様の元に通すのだ。門番として。しっかりと仕事をしているところを見てもらおう。そんなことを考えた。なんでだかわからないけれど。 |