街中へ





「二人はこの部屋をつかってくれるかな」
マグナにそういわれて促された部屋。
二人部屋。
「・・・・・・」
「マグナ,別に気を使わなくってもいいんだぞ?俺たちはたこ部屋でも・・・」
フォルテ様がマグナに向かってなにやらいろいろと話を(というか,なんというのか)している。まぁファナンでは,4人以上で一部屋だったのが,いきなり2人で一部屋となればどうしてだろう,と考えるのが普通か。
ぼんやりとフォルテ様とマグナの話を聞いていると,どうやら,フォルテ様的には,自分が入ってきてしまったので,旧知のフォルテ様と2人でいることも大事かな,と気を回されたと思っているらしい。そんなことに気を回すのが彼らしいが,多分マグナはそんなことを考えたわけではないだろう,と私は考える。そして,やはり。
「や,先輩達の家って,客室のベッド数が決まっちゃってるからさ。2人部屋にそのまま入れても大丈夫そうなのってフォルテたちかなって」
にこり,とマグナが微笑む。
まったくもって他意もない笑顔。
今のパーティのメンバーを考えれば確かに妥当であるかもしれない。フォルテ様も考えをめぐらせたのか,それ以上は何も言わず今後の予定だけを聞いていた。
「じゃ,そういうことで」
ぱたむ。とドアが閉まる。

「・・・・・・」
「ま。1人1つベッドが使えるんだからありがたいことだよな」
ばさばさと街道を歩くのに必要であった上衣をはずしていく。
二人部屋。別にそんな多くのことを望んでいるわけではないけれど,彼との空間が持てるということは純粋に嬉しい。そんなことを考えつつぼんやりと見つめていると,横目でにらまれてから非難が飛ぶ。
「なにみてんだよ。おまえもとっとと脱げよ」
「え?」
つい顔に熱が上がるのがわかる。ありえないとはわかっていても,ついいろいろな可能性を考えてしまうわけで。
「ナニ勘違いしてんだ。そんな格好で街中うごくつもりかよ」
おまえはこの町の衛兵じゃないんだぞ。
そういわれて,それもそうだ。自分はトライドラの騎士ではあるが(今も気持ちだけは残っているから),この街では公式な場所以外でこの姿でうろついては街中の人になにがあったのかと思わせるだけだと,気がついた。


「よし,すっきりしたな」
まったくの軽装なって,そしてフォルテ様に肩をたたかれる。
「はぁ・・・」
「じゃ,行くぞ」
そういわれて腕をつかまれる。
え・・・どこへ,と聞く間もなくそのまま外へと連れ出された。
「フォルテ様,そのマグナ達に一言も言わずに外にでていいのですか」
すたすたと歩くフォルテ様の後ろを追いかけるようにして歩きながらいえたのはそれくらい。どこにいくのか,とか,どうして自分を,とかそんなことも聞きたいのに。
「あー。さっき言っといたから大丈夫。この街からはでなけりゃどこにいってもいいってよ」
あとは,門限までに帰ればOKだってよ。
そう,フォルテ様は笑って言う。門限・・・・あったのか,いまさらながらちょっと驚くが,それがないと確かに帰ってこない人もいるんだろうなぁ,と目の前にいる人をじぃとみる。
「さ,ついた」
居酒屋・・・いやちょっと違うな。バーといったところだろうか。そこのドアをキィと開けてフォルテ様はさっさと入っていく。
「フォルテさっ・・・いや,フォルテ?」
「ほら,こいよ」
どうしようかと店前で立ち止まってしまった自分を,くい,と腕を引っ張って店の中へと引き入れる。カラン,とドアの閉まったときのベルの音と同時に顔を上げると,フォルテ様はにこり,と笑って自分を置くの席へと促す。
「ここな,俺の行き着けなんだよ」
「はぁ・・・」
自分が飲めないのは,フォルテ様は知っている。なのに,どうして飲み屋につれてきたのだろう。そんなことを考えていると,店主らしき女性が近づいてきた。
「久しぶりね。フォルテ」
「ああ,まったくだ。ちょっと遠出してたからよ」
当り障りのない程度の近況なんかを二人が話しているのをぼんやりとみていると,女性がこちらをちらりと見た。
「こちらは?」
「ああ,シャムロックっていうの。俺のコレだから,手出しちゃだめだぜ」
そういって,フォルテ様は軽く指を立てる。
「なっ・・・ぃっ」
「あら残念,いい男だから口説こうと思ってたのに」
本気なのか,冗談なのか,自分にはわからないが,女性をそういうと,飲み物の注文を聞いてからそのまま立ち去った。と思う。自分はつねられた腹の痛みに耐えるのでいっぱいいっぱいだったので。
「馬鹿,なに大きな声だそうとしてんだよ」
「しかし・・・」
他のテーブルには聞こえないような声でフォルテ様がこちらをあきれた顔で見る。
あんなこといきなり言われたら誰でも驚きますよ。と,ぽそりと言う。しかも,いきなりつねることもないでしょうに。
そしてどうしてあんなことを言ったのか聞きたかったが,ちょうど飲み物が来てしまったので,話は中断された。
「ほれ」
自分のグラスにペリエが注がれる。フォルテ様の前にはロックが。いろんな意味ですみません,と言う。
「ま,いいからさ。ほい」
グラスをかちん,と合わせる。何に乾杯だろうか。今日までの無事に?これからの人生に?今夜の安息に?
そんなことをぼんやりと考えつつこくんと喉を潤す。
「で,先ほどの・・」
と,さっきの発言について聞きたがったが,またもや邪魔が入った。
「よー,フォルテじゃんか。久しぶりだなー」
「おー,今日また帰ってきたばっかりだぜ」
入ってきたばかりの冒険者だろうか?の数人に囲まれて,土産話が始まってしまった。
こういうところは本当にフォルテ様はすごいと思う。冒険者としてやってきたからだ,というのもあるだろうけれど,人の中に溶け込む速さは真似できない。職業柄というのもからんでいるとは思うが・・・・
これからは,そんなことも関係なしに生きて生きなくてはならないのだから。
それに・・・いろいろな地方への冒険,旅,いろいろな話が次々と現れる。中には眉唾物の情報もあるが,情報ソースとしては,かなり広範囲だ。飲みながらの会話ではあるけれど,ある意味その酒によって滑らかにいろいろな情報が出てきている。もしかして,これを聞きに来ているのか,フォルテ様は。そして,こういう収集方法もあると自分に教えてくださったのだろうか・・・。そんなことを話を聞きながら考えていた。


「ところで,あの美人さんにはとうとうふられちゃったのか。かわいそーに,フォルテは」
宴もたけなわといったところだろうか,かなり酒のはいった人たちは冒険話よりも,人の話に流れてきたようだ。
「違うって。あれは置いてきたの。かわいい顔して厳しいんだから」
あれがいたんじゃのんびり飲めないからな。なんて,笑いながら言うフォルテ様も顔が赤い。まったく,ケイナ殿に聞かせたいですよ。
「で,この美人さんはどうしたのかなー?」
「いっ・・・え?」
ばしばし,と背中をたたかれて,馬鹿みたいに周りを見回す。美人・・・?美人って誰だ!
「あー。それは俺の昔なじみ。美人だからってくどいちゃ駄目だぞ」
赤い顔のままフォルテ様まで美人がなんたらと・・・・・・・
待て?昔馴染み・・・・美人って私のことか!
ぐらり,と目が回る。酒が入っているわけでもないのに。男に美人という文句を使うのか?そういうもんなのか?
「なんだよー,もうお手つきってか」
「フォルテの周りには美人が多いのねー」
「シャムロックだっけ?フォルテより俺のほうが甲斐性あるよー?」
そういって,肩をつかまれる。
あ,いえその・・・今は結構です。そういうのが精一杯だった。冗談なのはわかってはいるけれど,頭が回らない。先ほどの経験も踏まえてあまり騒ぎたててはいけないし。今の雰囲気を壊すようなこともいけないと思ったので。
しかし,それが逆効果だったのか,いや効果を発揮したのか。とりあえずここにいる全員に大笑いされるいいネタになってしまった。
なんであんな返答をしたのか,自分でもわからないけれど,まったくもって恥ずかしくて,とりあえず目の前にあるグラスを飲み干した。
「あ,バカッ」
そんなフォルテ様の声を聞いた気がした。が,そこでわたしの記憶は途切れた。








「ん・・・」
目を開けるとそこには天井が見える。私の部屋ではないな・・・そもそももう私の部屋などないものな・・・。では,ここはどこだろう・・・・
体ごと横を向くとそこには椅子に座っているフォルテ様。
「あ・・・」
「起きたか」
かたん,と立ち上がってこちらへと手を伸ばしてくる。
「気持ち悪くないか。頭いたくないか?」
そう言って軽く額を撫でてくれる。その感触が気持ちよくてつい顔がほころぶ。
「はい。大丈夫です」
そう言ったものの,起き上がると少しくらり,と頭にくるものがある。
自分はどうしたんだったか・・・と思い出そうとするまえにフォルテ様の言葉で少しずつ記憶が帰ってきた。
「おまえ,酒飲んで倒れたんだよ」
あいかわらず,ほんとに弱いのな。そう言って笑われる。
「ほっといてください」
そうだ。あの時自分のグラスと間違えて隣の人のグラスを飲んでしまって・・・そこでぷっつりと記憶がなくなっている。
「ま,フォローはしておいたからさ」
そういって,ぽふぽふと頭を撫でられる。
「にしても,びっくりしたぞ。いきなり一気に飲むんだから」
「自分のグラスと間違えたんです。それに・・・」
あんなこと言われなかったら,そもそもああいう行動にでませんでしたよ。と,ぶつぶつと言う。だいたいフォルテ様が最初に変なことを言うからいけないんですよ。しかも,美人ってなんですか,まったく私は男ですよ。
酒場で,思っていたことを一気に言ってじぃとフォルテ様をにらむ。倒れたことは自分が弱いのが悪いのとグラスを間違えたことが悪いのだけれど,お門違いとはわかっていても,つい八つ当たりをする。
一瞬きょとん,としてからフォルテ様は笑い出す。
「なっ・・・」
笑うなんて失礼です!さらに私は機嫌を悪くしてにらむ。
「悪い悪い。いや,ジョークだよ。ジョーク。それから牽制かな」
「は?」
「あんなとこで騎士のシャムロックくんです,なんて紹介したって仕方ないだろう。だからなー,まぁあれで俺と親しい仲ってわかるだろうしさ」
それはそうだろうけれど・・・・だからってコレって・・・・現実に私はフォルテ様のことをお慕いしているし,そういう冗談はなんとなく心臓に悪い。表に公にするわけにはいかないのがわかっているのに。
「しかし・・・では牽制というのは・・?」
これは,ちょっと嬉しい気がした。自分のことを少しは考えていてくれているんだろうか。とおもったから。
「あー,おまえさ騙されやすそうだから」
は?,とついまぬけな返答をしてしまった。
「だからさ,例えば,その変でおねーちゃんがさ,困ってたらおまえ助けてやりたくなるだろう?そのこと自身はいいんだけどさ,場所によっては危険だからな」
なんつーか,策には長けててもおまえ変なところで抜けてるからな。だから,俺の大事な知り合いって匂わせとけばこのあたりでは悪いのに引っかかんないだろうと・・・
そんなことを言ってフォルテ様は笑う。そうですか,そういうことですか・・・。はい。期待したわたしがバカでした。それにしても,フォルテ様の知り合いになるとどうして悪い人が寄って来ないといえるのだろう・・・?聞きたいけれど,怖いから止めておこう・・・・
「ま,そういうことだから」
もう遅いから寝るか,なんというフォルテ様の腕を掴んで,もう1つ聞きたいことがあります,と引きとめた。
「では,美人とはなんですか。今までそんなこと言われた覚えはありませんし,男に使う言葉とも思えません」
そう,このことがなければ酒を飲むこともなかったのだ。第一自分は女性のような体格も声もしていないし,騎士としてがっちりとした体をしているほうだとも思う。女性に間違えられる覚えもないのだ。
「は・・・?なにおまえ知らなかったの?」
今度はフォルテ様の方がきょとんとした表情をしている。
「何をですか?」
少々嫌な予感がしつつも,フォルテ様に問う。
「これって言っちゃまずかったんかな・・・もしかして秘密の事項だったのかな・・」
ぶつぶつとフォルテ様が言っているのを,名前を呼んでじぃとにらむ。いまさら隠し事もないでしょう。と。
「いや,おまえさ・・・美人の騎士団長って言われてたんだけど・・・・」
どこで,誰が,どうして!
かちん,と体が固まる。
「や・・・そのあすこの騎士の間でさ,そう聞いたぞ」
まぁ,おまえキレイな顔立ちしてるからさ。悪い意味じゃないしいいじゃないか。男にだって使うときもあると俺は思うぞ。
固まったまま何も言わない私にあせったのか,フォルテ様はフォローのつもりなのかなんなのか言葉をかけてくる。しかし,私にとっては,そんなことは問題ではなく・・・・・

美人。

いや,誉め言葉なのだろうけれど,それで喜べと言われても素直に喜べない。
第一自分の知らないところでそんな呼ばれ方をしているなんて思いもよらなかった。
「シャムロック・・・?」
「寝ます・・・」
「そ・・うだな。それがいい」
倒れてしまったことの謝罪とここまで連れて帰ってもらったお礼だけを言ってばふん,と布団にもぐりこんだ。

せっかくの二人部屋なのに,今日はいろいろありすぎてもう自分の中がいっぱいいっぱいで。
とにかく寝よう。明日もあるのだから。
そう考えて目を閉じた。





だらだらと長いですな・・・
とりあえず,フォルテは半端に要領よく生きてます
ところで,美人っていっていいのよねシャム子は(こら)

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