ティータイム





外は雨。
いつもは外に出て,鍛錬をしたり,町の状況を見たりする人々も家の中にいる。

そんな中,出掛けられた方が先ほど帰ってきた。そして,そのまま部屋にこもったまま。
どこに向かわれたかは知っている。
そして,どうしてこちらに顔を見せないのかも。
タイミングよく,召喚師の方々は,先ほど書庫に行ってしまった。(雨ですることもなくちょうどよいので。と皆で勉強会らしい。一部に不満の声が出たようだが・・・)
よし。と,立ち上がり,私は台所へと向かった。


「あら,シャムロックさん」
台所にいたのは2人の女性(といっていいのだろうか)。ちょっとだけ,しまったかな,と思いつつも挨拶をする。
「お茶の準備ですか」
アメルさんとモナティさんが二人で出しているのは,少し大きめのポット。大人数で使うにはちょうどよいだろう,というもの。
「はいですの,マグナさんたちにおだしするんですの」
嬉しそうに,けど,あぶなっかしそうにモナティさんはカップを取り出している。
「シャムロックさんもどうですか?」
慈愛の微笑で,アメルさんはこちらも誘ってくれる。けれど,そういうわけにはいかなかったので,それを辞退する。
「ちょっとわたしにもお湯を分けていただければ十分ですよ」
不思議そうな顔をして,けれど,それ以上は何も言わずにわかりました,とだけ,そして彼女たちはまたお茶の準備へと戻っていった。
それから,私もポットとカップを取り出し(こちらは1,2人用の小さなものを),持ってきていた紙包みを開いた。
ポットに入れて,そしてお湯が沸くのを待つ。
その間ぼんやりと,二人のうごきをみていた。ただ,お茶を入れて,クッキーを用意しているだけなのに,なにかそこに集まっている感じがする。
聖女ということだけではない,何かがそこにある気がした。
彼女に入れたもらったほうが,いいのかもしれない。ふと,自分の横に用意しているポットに目をやる。
「シャムロックさん?」
「あ,はい」
気づくと目の前にアメルさんがいた。ぼんやりしすぎだ,とちょっと反省をする。
軽く笑ってから,お湯どうぞ。と促してくれた。
「あ・・・あの」
「はい?」
「いえ・・・なんでもないです。ありがとうございます」
アメルさんにこのお茶も頼もうかと思ったけれど,すでにモナティさんはお菓子の入ったお盆を持って待っている。それを邪魔してはいけない。
それに,そろそろ休憩しないとマグナたちも疲れていることだろう。
アメルさんたちを見送ってからお湯をゆっくりとポットに注いだ。
ふわふわと,湯気が目の前を覆う。かぽん,とポットをとじ,そのままお盆に載せる。カップは2つ。本当は1つでもよいのだけれど。
お盆を持って,そして苦笑する。
アメルさんに頼めばよかったのだ。このお茶も。せめて入れてもらうだけでも。
けれど,自分がしたかったから。あの人の助けになることは自分がしたいと思っているから。それが,あの人のために本当になっているのかわからないのに。
「お茶くらい,なんてことないのにな」
部屋のドアをノックしながらそう思う。けれど,言葉とは違う気持ちが自分の中にあるのも確かだった。

返事を聞いてから,ドアをあける。
振り向いてあの人はこちらを見る。窓に椅子をよせて,ぼんやりと外を見ていたようだった。
いつもと違う空気。まったくやわらかさをもたない空気。
「シャムロックか,どうした?」
「お茶をお持ちしました,フォルテ様」
近くのテーブルにお盆を置く。そして,カップへと注いで窓際へと持っていく。
「どうぞ」
そう言って,カップをソーサーごと渡すと,少しだけいやな顔をして,それからこちらをじぃと見る。
「どうしてわかった」
「なんとなくです」
それだけで,お互いにわかる事実。フォルテ様がどこへいって来たのかも。そして,あまり嬉しくない訪問だったことも。
「おまえには,すぐばれるな・・・」
そういって,フォルテ様は,くいっとお茶を飲む。
うまいな,相変わらず。と一言。
ほっとして,またお茶を注ぐ。
このお茶は,いつもこういったときに出すもの。フォルテ様が好きなお茶。そして,なによりいつものフォルテ様に戻られることにかかせない,とはいわないが,その要因になっていればいい,と思っているお茶。
次第に,いつもの空間へと戻っていった。
「おまえは飲まないのか?」
せっかく,もう1つカップ持ってきたんだろう,と。今までは周りに目もくれていなかったフォルテ様が,そう言ってくれる。
はい。と素直にお茶をついでフォルテ様のそばに座った。
「なんだかおまえ嬉しそうだな」
いつものフォルテ様がそう言われた。
「フォルテ様と一緒に時間がすごせて幸せですよ。わたしは」
にこり,と微笑むと,馬鹿かおまえは・・・と,苦笑される。
また,いつもの空間を保つことができて,嬉しかったんですけどね。と,そんなことは言わないけれども,そういう気持ちだった。

自分でも,フォルテ様のお役に少しは立てますよね。
そんなことを考えながら,ゆっくりと,お茶を飲んた午後だった。






たまには里帰りするでしょうフォルテも。
で,みんなにばれたくなくてこっそり。
けれど,シャムにはばれちゃう。

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