ミイラ取りがミイラになる
敵が無意識でやっているのだから、
余計にタチが悪い





Vol.12 勇気(courage)



俺のことをベッドに横たえて、何事もなかったように−少なくともそれを装って−出て行こうとするから。
何だか悔しくなって、曖昧に呼び止めた。
聞こえてほしい
でも、聞こえなくてもいい
そんな気持ちを無視して、俺の声はあいつにしっかり届いたようだった。


「わかった・・・いてやるから、ちゃんと寝とけ。」
意外に甘え性なんだな・・・とかいいながら、アイツが俺の髪を梳く。
それが気持ちよくて。
本当は眠くないんだとか、今更言うわけにもいかなくて。
何気なくそのままにさせておいてみた。
すると。
ベッドサイドにあったイスから、コトと音がして。
枕元の一点が少し沈む。アイツの手が置かれたせいだと気づいたのはもう少しあとで、
それに気づいて目を開けようとしたら、俺の前髪を掻き揚げて妙に優しい顔をしたアイツが映る。
寝たふりだとバレるのがいやで、開きかけた目を急いで閉じた。
それとほとんど同時に・・・

乾いて少し温かい感触

それが何なのか。認識するよりも早く離れていって。
「やべ・・・」
自嘲するような声だけが俺の耳に届いた。

「あぁ・・・ダメだなぁ、俺も。」
そんな声が聞こえて。
「もうちょっと、理性も分別も常識もあるつもりだったんだけど。」
案外余裕ないもんだな。
ため息と一緒に吐き出された言葉は、呆れと諦めを含んでいて。
妙にすっきりしている分、俺の心をざわつかせた。


「これは、完全に俺の自己満なんだけど・・・どこかで聞こえてたら、夢だと思ってくれて良いから。」
そういって、淡々と話す様子は・・・といっても声しか聞こえてないが・・・
とてもカウンターで巧みに言葉を操るヤツだとは思えなくて。
不器用というか、必死に言葉を選んでるというか、そんな感じだ。
「こんなこといわれても、嬉しくなんてないだろうし・・・
てゆーか、むしろ気持ち悪いと思うけど・・・好き、だったんだ。
最初はそりゃあ、なんて口の悪い医者だよって思ったし。
ムカついたけど・・・。
なんか、一緒にいるのが心地よくてさぁ。
俺、けっこう友達は多い自信あるけど、こんなに色んなものが正反対で、共通するところも少なくて。
それなのに心地いいって思えたのはあんまりなくて。
だから、いいやつに会ったなぁって思ってた。
けど・・・なんか、それじゃ済まなくなってて、でもアンタは全然気づかないし。
いや、そのほうが良いと思うけど・・・
八戒なんて楽しんでるしさ。」
そこまでいって、何かを思い出したかのように、アイツはククと笑う。
「もしかしたら、三蔵が俺の欲に気づいたかなって思った。
だから、少しでも警戒してるようなら言おうかとも思った。
けど、完全に友人って括りで信頼してくれちゃってるでしょ?」
それはそれで嬉しいし、悪いことじゃないけどね。
そうため息をつく。もう、何回目かの。
「ちょっと、変に期待してるところもあったかも知れないけど・・・
でも、さっきので吹っ切るから。
アンタの分かるところでこの気持ちは見せない。
俺は、アンタが与えてくれたポジションを守れば良いんだ。」

そこまで言って。
今度こそ俺に背を向けて、アイツはドアを開ける。
「おやすみ」
のひとことだけを残して。


その「おやすみ」が「さよなら」に聞こえた気がして。
俺は今度こそ、大きな声で呼び止めていた。
「おい、待て。」
一瞬、その大きな背中がビクと震えたように見えて、そのあとでなんでもないフリをしたアイツが
「なに?起きたの?」
と言う。
「起きたの?じゃねぇ。起きてたんだよ。」
蜂の一刺し
虚勢を張っていたあいつは、今度こそ焦り始めた。
「え?は?起きてたって・・・どこから?」
大股でベッドサイドに近寄って、落ち着かない様子で尋ねる。
「聞かれたら困ることでも言ったのか?」
そう言うと。
「いや、別に・・・何でもないんだけど。」
「てめぇは何でもなくて、人に好きだとかなんだとか言えるんだな。」
ついにトドメ。
「そっか・・・聞いてたんだ・・・。いや、何でもないってのは嘘だけど。
でも、もう良いんだ。終わったことだから・・・煩わさせて悪いな。」
そういうと、座っていたイスから立ち上がって
「じゃ、俺リビングで寝るから・・・おやすみ。」


終わったこと


そのひとことが。
痛くて
苦くて
腹が立つ




「てめぇが、さっきのを独り言だとかいうなら・・・俺もそうする。
好きだったって、言ったっけな。
ったく、自分でも馬鹿げてると思うが・・・俺はつい最近、てめぇのことが
好きになったんだ。
まぁ、認めた瞬間に見込みなしって宣言されたらどうしようもないが。
まぁ、口に出すのくらいは悪くねぇ。」


扉の横に立っている人の気配が、微かに揺れる。
「なぁ三蔵・・・俺がさっき言ったこと、あれ訂正してもいいか?」
影と声だけが存在する空間で。
「終わったことなんかじゃない。
アンタに切られるくらいなら自分で終わらせようかと思ったけどアンタが手を伸ばしてくれるなら
、俺に拒むなんて選択肢はないって。」

そのまま、アイツは逆光の中を歩いてきて
「三蔵のことが、好きだ。」
と、そう告げた。


「勝負ありだな。」
俺の目を見つめてきたアホ面に言ってやると。
何のことがだかわからない、とでも言うような表情をする。
「最初にお前をこの部屋に引き止めたときから、勝負は俺のものだったんだ」
そういってやると。
あはは・・・
と、乾いたような、でも自然な笑いを浮かべて
アイツは俺の隣に腰を下ろした。

「やっぱり、アンタには敵わないわ。」








Continue・・・






お待たせいたしました、コイノヨウソ第12弾
ついに言ってしまいました「告白編」です。
三蔵の作戦勝ち・・・というか。
本当はお互いに余裕なんてないんですが、こういうのって何も
捕らわれない方が上手く立ち回るように思います。
だから、とりあえず三蔵様の勝ち。
さて、夜のベッドで告白をして・・・
これからどうなるんでしょうか(笑)
ということで、次回最終回です。

蒼 透夜

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