個人契約
「全ては偽物」
それはつまり裏を返せば全てのものが本物だってこと?
人間の意識中でそれを本物と認めなければ、モノに価値は与えられない。
そしたら…
俺の存在はどうやったら本物になるんだろう。
たくさんの人がここをある国だと思ってるから、ここに国家があるわけで。
紙幣だって、みんなが価値を自覚しなかったらただの紙。
そう言うのと同じで。
みんなが俺を見つけてくれるから、俺は悟浄でいられる。
少なくとも、器として。俺の身体は存在してる。
けどさ、俺の存在価値って言うか、存在意義って言うか?
そう言うもんを認めてくれるヤツってあんまりいないんだわ。
こんなこと考えてると、
「お前の存在意義を確かめるために俺を使うんじゃねぇ」
とか怒るんだろうけど。
実はその通りだったりする訳よ。
たとえ下僕としてでもさ、俺を必要とするヤツがいればいいかもってな。
ほんとはね、もう少し素直になってくれると言うことねーんだけど。
俺の存在価値、何時になったら下僕からオトコになってくれるんだか。
いや、もうそうなってるだろうって言う確信…みたいのはあるんだけどね。
何しろ相手があの生臭坊主、もとい玄奘三蔵さまだから…
「おい、火ィ貸せ」
「はいはい。」
これも、いつものことで。喫煙者が自分以外に俺しかいないんだから、あたりまえっちゃ当
たり前なわけだ。
「なに?自分のは?」
少しでも会話を長引かせようとわかりきった質問をする。
「オイルぎれだ。ったく、分かってんならきくんじゃねぇ…」
そして、三蔵の機嫌を損ねるのも、また分かりきった話。
「それ、昨日から言ってねぇ?まだそのまんまなのか。」
「…煩ぇ、余計なお世話だ。」
ますます機嫌を損ねてしまった。でも、それでも口をきいてくれるほうがマシだと思ってる
辺り、俺も変わったもんだねぇ。
「なら、とりあえずこれ持ってけば?俺別のあるし。」
今しがた取り出したばかりのライターを手渡そうとすると、三蔵はくるりと踵を返して歩き
出してしまった。
「いらねぇ。」
とひとことだけ残して。
なんだか、遠ざかっていく背中が拒絶を含んでるように見えて、ガラにもなく落ち込んでい
る自分に気づく。
自分ひとりじゃ、己の存在にすら確信がもてない。
誰かが認めてくれなきゃ、ここにあるものはただの「器」
「おい、火ィ貸せ。」
「はいはい。」
人の好意は受けとらねぇくせに、しっかり命令だけはするんだな。
火をつけてそのまま三蔵のベッドの脇にライターを置く。
「いちいち俺のこと呼ぶのも面倒だろ。持ってろよ。」
「さっきも言ったが…いらねぇ。」
置かれたライターに手が伸びることはない。
「なんでだよ、ただのライターだろ?」
それを何でここまで拒むのか。
問いただしたい気持ちと、先回りして悪い方へ進む考えと。両方が相俟って出てきた声は思
った以上に弱々しかった。
「ったく…」
タバコの煙と一緒に沈黙を破ったのは三蔵の方だった。
「勘違いしてんじゃねぇよ、このバカ河童が。でかい身体の割りに考えることはガキだな。」
「んだよ、それ。」
こいつの言わんとすることが分からない。俺の考えてることがバレてるってのは良いとして、
何が可笑しい?
「だぁ、もうわっかんねぇ。」
三蔵の顔を覗き込むとほぼ同時。
「おい、火。」
またしてもお声がかかった。自分が少し手を伸ばせばライターに手が届くことなどまるっき
り無視。生臭坊主というより、ただの怠け坊主じゃねぇか。
「お前の方がちけぇだろ、自分でやれよ。三蔵さま。」
皮肉を込めて言う。が…
「てめぇのライターだろ、てめぇがやれ。」
「はいはい。」
身体どころか指先一つ動かす気配のない三蔵に、仕方なく火を持って近づいた。
「俺のが使えなきゃ、お前がやればいいだろう?下僕に仕事させてやってんだよ。」
大きく息を吸い込むと、三蔵の口からはそんな言葉が漏れた。
「なに?それって俺が三ちゃんのライターになれってこと?」
下僕と言われて喜んでるヤツなんて、あんまりいねぇだろうなぁ。
「俺が吸いてぇと思ったときにはすぐに働け。3秒以上待たせたら、殺す。」
そんな、一見物騒で実は甘い「契約」を結ばれてしまった。
俺ほどじゃないにしても、三蔵だって相当のヘビースモーカーだ。
その三蔵が吸いたいと思ったときにすぐ。おまけに3秒以上待たせるな。
これを、離れるなって解釈しても間違っちゃいねぇだろ。
もちろん、本人に確認したって下僕だって言うにに決まってるだろうが。
でもまぁ、少なくとも俺の役目って言うか存在証明みたいのはできたはず。
暫くは、この「お役目」に甘んじていよう。
「おい、火ィ貸せ。」
「はいはい。」
これが、日常の風景―――――――――
Fin
短文です。ごめんなさい。
テストが終わるまで更新しないのもどうかと思って・・・
なんて言い訳してみたりする、
往生際の悪い私です(苦笑)
この話、一応ネタはずいぶん前から考えていて。
タイトルにやたらと時間がかかった、なんて裏話もあり。
テスト期間中の透き間埋めに使ってしまいました。
あと2週間したら、しっかり更新しますので、
待っていてくださる方が万が一いらしたら、もう暫くお待ちください
蒼 透夜でした