朝、窓から入る日差しが眩しい。 俺はいつもならば起きない時間に目が覚めた。 どうしてだろう? いや、そんな事は構わない。今はこれをありがたく受け取るべきだろう。 遅くなると秋葉にまた何か言われる。 「んー…ふわぁぁ…」 一つ、大きな欠伸をする。 これをしたからといって眠気が覚めるはずも無い。だけどする。これは習慣的なモノだ。 習慣的なモノといえば…。 「あー、今日もバッチリ元気、ファイトいっぷわぁぁ………つ?」 俺は、いつもなら翡翠が起こしに来るので最近ちゃんと観察する機会が無くなったモノを見る。 「あれ?」 そこには――。 何の強調も無く、ただ、ひたすらに、そのあるがままの姿をしていたモノだけがあった―――。 -------------------------------------------------------------------------------- 『無反応 〜恋焦がれたあの場所へ〜』 -------------------------------------------------------------------------------- 「あー…ま、こういう日もたまにはあるだろう」 俺は少し心拍数が上昇しながらも平然を装おう。誰もいないのに。 「うん、そうだな。たまたまだ。別に朝立ちしてない事は悪い事じゃない」 うん、ともう一度頷くとコンコンとドアをノックする音が聞こえ、ドアが開いた。 「おはよう、翡翠」 いつも通り、いや、いつもは翡翠に起こしてもらってから言ってるセリフを言う。 「……おはようございます、志貴様」 翡翠は少し驚いた表情をした後に頭を下げた。 「今日は御早いお目覚めだったのですね」 ニッコリと笑って翡翠は言う。 俺はうん、今日はね。と言い返す。 「志貴様、お着替えです……きゃっ」 服を置こうとした翡翠は躓いてベットに倒れこむ。 俺は慌てて翡翠を抱きとめた。 「だ、大丈夫かい?」 「は、はい…大丈夫です…」 翡翠の、胸の柔らかい感触がシーツごしに伝わる。 「申し訳ありませんでした」 ペコリと頭を下げる翡翠だが顔は真っ赤だ。 俺も、多分、赤くなっているだろう。 顔をあわせるのが気恥ずかしい。 「ん…それじゃ、俺着替えるから」 「かしこまりました」 そして翡翠は失礼しますと言って出ていった。 「朝から役得だったなぁ…」 と、あの柔らかい感触を思いながらズボンを脱ぐ。 「あ、いけね………」 俺は、やっぱり、何処かオカシイのだろうか? だって――― 反応してないんだから――― 俺はその状況に置かれ、固まった。無論身体が。 俺の分身、いや、俺自身であろうモノはいたって平然。むはんのぉー。 「え? え? え?」 嘘、嘘、嘘、と言いながらトランクスを前に引っ張り、中を確認する。 待ってくれよ、だってさ、あれだぞ? 翡翠の胸の感触だぞ? 反応しないわけない じゃないか。 どうなってんだよ? なあ、どうなってんだ? も、もしかして―――――― イ○ポ? 待て――― 待て待て待て――― 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て待て 昨日の夜までちゃんと機能していたじゃないか! 嘘だろ!? 嘘だって言ってくれよ!! 俺、まだ17歳っすよ!? 別にヘルニアになったわけじゃないんすよ!? そんな!!! 最近やっとちゃんとした使い方がわかってきたのに!! そりゃあちょっと使いすぎかと思うけどそれはそれでまあ別に良いじゃないか!! コレが使えなくなったら俺の存在意義はどうなるんだ!! 「なんだ、志貴、できなくなっちゃったの? じゃーもーいーや。ばいばーい」 「使い物にならなくなった遠野君なんてカレーの変わりにハヤシライス入ってるカレーパンと一緒です」 「使えなくなった兄さんなんて、遠野家の長男の資格なんてありません。消えてください」 「・・・志貴様。わたし、もう貴方のメイドではいられません」 「あはー、こんな志貴さんなんてゴミですねー。せめてものお情けでわたしが殺ってあげますよー」 「………………………(猫の姿でバイバイと手を振る)」 だぁあめどぁぁぁぁぁぁ!!!!! 殺されはしなくても確実に捨てられる!!!!! 紙コップのように捨てられる!!!!! そんな………。 こんな、こんな事ってないですよ………。 神様、俺、何かイケナイ事でもしましたか? 見知らずの女性をつけまわしたあげく、殺しちゃったり――。 何の免疫も無かった先輩の尻でしちゃったり――。 いくら揉んでも大きくならない胸の妹がいたり――。 指をグルグル回して洗脳するメイドさんがいたり――。 対汎用人型最終兵器並に怖い割烹着の悪魔がいたり――。 いくら使い魔だからって言っても小○生くらいの女の子と契約しちゃったり――。 そんな色んな事したり、色んな人がいますけど、結果オーライだから良いじゃないですか!! これらの仕打ちがコレだなんて、あんまりですよ!!!!! はっ、そうか!!! 夢、ユメなんだな!!?? りぴーとあげいんって出てくるんだろう!? さぁ! 早く!! えぇ!! ネタが古いからそんなのはありえないって!!?? 「NO! NO!! NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO!!!」 俺は叫んだ、贓物を吐き出そうくらいに。 そうしないと飲みこまれそうだったから。闇に。 「に、にいさん…?」 誰だ!! 見るな!! 俺を見るな!! 「ア…キ……ハ…」 「どうかなさいましたか? いつまで経っても居間に来ないので…」 「秋葉…………」 「に、にいさん?」 俺は、不意に涙した。涙が流れた。 俺はなんて、なんて、ちっぽけなんだろう。 だけど、泣かずに入られなかった。 「秋葉、俺……俺………」 「兄さん! どうしたんですか!?」 秋葉が俺の元へと駆け寄ってくる。 「俺、俺……俺……………」 「兄さん! 兄さん!!」 秋葉も涙目になり始めている。 俺も、もう、涙で何がなんだかわからなくなってきた。 秋葉、兄さんな………。 「イン○になっちまったー………」 「へ?」 「だーがらぁー、イ○ポになっちまっだんだよー……どーじよぉぉぉぉー……」 「イ、イ○ポって…あの、その、不能の事…ですか?」 顔を少し赤らめながら秋葉は言う。 その間も俺は涙を垂れ流している。 「ぞー、ぞーなんだよぉぉぉ、どーじーよーあぎばぁぁぁぁぁ………」 プルプルと秋葉が震えている。 そんなに悲しんでくれてるのか、兄ちゃん嬉しいぞ。 ズゴォン!!! あれ? 周りの景色がグルングルン廻ってる〜。 あはは〜、ジェットコースターみたいだなぁ〜。 「まったくっ!! 何を泣いてるかと思えばそんな事ですか!!」 「そ、そんな事とはヒドイぢゃないか! 一大事だろ!!」 俺はひりひりする左頬の十字傷を擦りながら反論する。 おま、てめ、なったことねぇからんなこと言えんだろ!? 「そんなモノ、一時的なモノに決まってるでしょう!!」 「どうしてそう言いきれるんだよ…もし、ずっとこのままだったらどうしてくれるんDA!?」 「逆ギレですか!? 良いでしょう、そこまで言うなら私が治してあげます」 とか言うと秋葉はとぅ!、とか言って上の服を脱いだ。 「どうです? 兄さん。」 「いや、どうって?」 「も、もうっ! 妹がここまでしてるのに何も無いんですか!?」 「だってさ」 その胸じゃ、って言ったら殴られた。いや、言う前に。むの所で殴られた。 そして俺は、秋葉に襟を引っ張られて居間までつれていかれた。 ―――事の始めは何だったのだろう? 俺がアルクェイドを殺した時から? 俺がシエル先輩のお尻を犯した時から? 俺が秋葉の限りなく無に等しい胸を見た時から? 俺が翡翠に指チュパされた時から? 俺が琥珀さんと山奥に愛の逃避行をした時から? 俺がレンと契約を交わした時から? それとも、俺がこの屋敷にきた時から? いや、多分、きっと、いや、絶対に―――。 俺がメガネッ漢として、その存在と意義を、確立したあの時からだろう―――――――。 俺は居間で、ソファに座る事も許されず床に正座させられている。 「なぁ…どうしてこうなったんだ?」 すっかり怒りのスーパーモードになっている秋葉に言う。 すると、秋葉は、ギロンという効果音と共に目を剥き出しにしてこっちを睨む。 「どうしてですって? そんなの、決まってるじゃ無いですか」 「え、いや、だから…それがわからないんじゃないか…」 はっ!と声と鼻、両方で笑う秋葉。 「兄さん、良いですか? 貴方は、私になんと言いましたか?」 「えーっと………その胸じゃわるだなぷれこってぇぇぇ!!!」 「そこじゃありません!! もうちょい手前です!!」 「うう…なんで俺がこんな目に…」 「つべこべ言わずに言いなさい!」 と、今気付いたけど、翡翠と琥珀さんだけじゃなく、アルクェイドとシエル先輩まで いる事に気付いた――。 「志貴ー。早く言っちゃった方が楽だよ」 「そうですね、その点ではアルクェイドと同じ意見ですね」 「ふ、二人とも……」 そんな無慈悲な笑みを浮かべないで下さい。 なぁんて言えなかった。言えるわけなかった。 言ったら最後、俺は次に転生するなんて事、絶対にありえなかったから。 だってさ、金色の目をして顔を手で覆っててこっちみてるアルクェイドと、 ご都合主義もなんのそので第七聖典持ってるシエル先輩がいたんだから。 「さ、早く吐露しちゃいなさい。兄さん」 「うう、秋葉………」 なんだか情けなくなってきた。 俺って、どうしてこう、やられキャラなのだろうか? きっと、『なんて、無様』っていうセリフは、こういう時に使うんだろうなと思った。 今宵、影絵ノ世界デ君ヲ待ツ、なんて感じなセリフが出てきそうだった。 「ほら、志貴。さっさと言わないと抉るわよ?」 何を!? 「遠野君。早く言わないとカレーの具になりますよ」 志貴汁!? 「兄さん。そろそろ、吸血衝動が来ちゃいそうなので飲み干しても良いですか?」 血液!? 「志貴さま。お早く仰られないと、わたしもアレを使わなければなりません」 グルグル!? 「志貴さん。言いたくなければわたしが言わせて差し上げますよー」 薬漬け!? もう、何が何だかワカラナクなって来た。 そろそろ俺の脳髄も危なくなって来たし。 「あー、いや、それは……………」 「「「「「………」」」」」 息を飲む5人。 つーか秋葉よ、お前は知ってるんじゃないのカナ? ま、いいか。 どうせ今日、誰かには知られるんだし――。 「イ○ポになりやしたぁー」 出きるだけ速やかに、軽やかに言った。 皆目が点になってる。秋葉も。 お前バカー?って言いたかったけど止めておいた。 そんな事言ったらどうせ最後にとばっちりをくらうのは俺だ。 とかなんとか思ってたら――。 「なんだぁー、そんな事かぁー」 っておい、お前は言葉の意味を知っているのかい? 「はぁ、何か深刻な事かと思いましたが心配しちゃって損しちゃいました」 全くもって無慈悲なお言葉である(山田キートン調) 「やっぱり、聞き間違いじゃなかったのね」 あ、なんだ、結局知ってたのか。お前もノリやすいタイプなんだな 「志貴さまは愚鈍かと思われます」 いや、何で? 「あはー、そんなのどって事ないですよー」 薬はイヤですよ? 「み、皆…そ、そんなセリフって無いんじゃない?」 どうして?と一斉に降りかかってくる火の粉。 「だ、だってさ、皆に濡れ場を提供する事、出来ないじゃないですか」 ふふふと含み笑いをする皆。 「え? イヤ、何? 大丈夫? 痛いのは最初だけだからって?」 ジリジリと間合いを詰めてくる皆。 俺はというと正座のし過ぎで足が麻痺して動けません。 「だからさ、そう手をわきわきさせてさ。そんな優しさの欠片も無い笑顔で近づかないで下さい」 皆さん、一斉に掴みかかりました。 何処にって? そんなの僕の口から言えません。 こんやはこんなにも、つきが、きれい――――だ――――。 ニゲロニゲロ、ニゲロニゲロ、ドアオアケロー♪ マヒル、ニフルエナガラー♪ アー♪ ラァーーー! 「さぁ、遠野…。怖がらなくてもイいゼ」 ズボンをゆっくりと下ろしながら歩み寄る有彦。 「・・・・・・」 もはや虚ろな目でちゃんとした映像を映し出してくれない俺の目。 「痛いのは、最初だけだからな」 そういうと有彦は、俺のズボンに手をかけた――。 「あはっ、ホっちゃえ♪」 ― Next an epilog ― -------------------------------------------------------------------------------- 日陰の夢/an epilog -------------------------------------------------------------------------------- 暗い、暗い、暗い、場所にいる――。 いつも、いつも、いつも、繰り返される同じ事――。 俺は、この1週間。 ずっと、ただ、延々と、ひたすらに繰り返される毎日を送っていた。 1週間っていうのさえあっているかワカラナイ。 イヤだ、こんなのもう、たくさんだ。 別にこれからずっと使えなくても良い。 使えないからってお尻を使ってくれるのは勘弁して欲しい。 こんな日をずっと、永遠に、このまま送るのなら、俺はもう――――。 そう思うと、俺は行動していた。 やっぱりここでもご都合主義の名の元に、運良くポケットに七つ夜が入っていた。 俺は手枷を切り、地下牢の壁を破壊しながら外に出た。 そして、公園まで走り、空気を目一杯吸う。 なんて――美味い。 空気がこんなにも美味いとは思わなかった。 こんな都会でさえこんなに空気が綺麗なのだから、片田舎な場所は最高だろう。 「あ、志貴さーん」 「ん?」 ふと、何年も聞いていなかったくらいに感じた声が聞こえた。 「アキラちゃん」 「志貴さん、おでかけですか?」 「あー、いや、うん。まあそんな所かな」 地下牢から逃げてきたなんて言えるわけがない。 言っても普通、信じてもらえないだろうけど…。 秋葉ならアキラちゃん相手でも本気でやりかねないしな……。 「アキラちゃーん、どうしたのー?」 「あ、羽居さん」 間延びのした声が聞こえ、アキラちゃんの後ろからテクテクと歩いてくる。 「あれ? こちらは何方ですかー?」 こののんびりとした話し方はデフォルトなのだろうか。 だけど、どこか安心する。 「あ、この人は遠野先輩のお兄さんの志貴さんですよ」 「え? 秋葉ちゃんのお兄さんですかー。初めまして、三澤羽居です」 ぺこりとお辞儀をした羽居ちゃん。 「あ、こちらこそ初めまして。秋葉の兄の志貴です」 「アキラちゃんの言ってた通り、お兄さんカッコイイですねー」 「は、羽居先輩!」 「あはは、ありがとうアキラちゃん。羽居…ちゃんで良いかな?」 はいと頷く羽居ちゃん。 「羽居ちゃんは秋葉と同級生?」 「ええ、そうですよ。ルームメイトでもありますよー」 「え? そうなの? アイツ、あっちでもやっぱり、なんていうか…その…」 「ええっと、きっとお兄さんが思ってる通りだと思いますよ。ね、アキラちゃん?」 「あ! え! ハイ、そうです! 遠野先輩は怖いです!!」 なんだかなぁと思いながらアキラちゃんを見た。 気が動転してるのかな? でも、羽居ちゃんはなんだかおっとりというか、のんびりといか…。 そして、俺は羽居ちゃんとふと、目が合った。 なんだろう? この、俺を包みこんでくれるような暖かさは。 そう思うと、俺は、知らない間に泣いていた――。 「え? え? 志貴さん? ど、どうかしましたか?」 おろおろしたアキラちゃんが言う。 「別に、なんでもないよ…。ただ」 ただ、嬉しかったから――。 こんな感じを与えてくれた女性はいなかったから。 俺は、羽居ちゃんの手を掴んだ。 「え? お兄さん?」 「し、志貴さん?」 「ゴメン、羽居ちゃん借りるね、羽居ちゃんも良い?」 「ハイ、OKですよ。行きましょう」 二つ返事で頷いてくれる羽居ちゃん。 アキラちゃんにじゃあと言い、俺は羽居ちゃんの手を今度は握り締めて走り出した。 何処に行こうなんてのは考えてなかった。 ただ、この人と一緒に走り続けたい。 二人、並んで走りたい。 「羽居ちゃん、何処行こうか?」 「お兄さんが行きたい所なら何処へでも」 「うん、じゃあ、綺麗な景色を見れる場所にでも行こうか?」 「ハイ、行きましょう」 羽居ちゃんの手がしっかりと握られる。 俺達は走り出した。 きっと、これからは夢を見ているような毎日が始まるのだろう。 いや、今、この時間が夢なのかもしれない。 夢であっても構わない。 彼女がすぐ側にいるから。 俺に夢を与えてくれた彼女。 彼女に俺は、精一杯の愛を与えたい。 きっと、それは、俺の夢だから。 彼女の為に、俺の為に。 二人の為に。 ――俺達の物語はまだ始まったばかりだ。 どんな事があっても、どんな事が起こっても、走り続けよう―――。 ― END ― おまけ 屋敷に響く、凄まじい怒声。 秋葉が怒っている。 俺が羽居ちゃんラブなんて言い出したから。 秋葉だけじゃなくて、皆も怒っている。 でも俺は羽居ちゃんラブ。 俺の中で、繰り返し、繰り返し、思い出されるムービー。 「お兄さん、イっちゃえ♪」 おわりのおわり