日陰の夢/an epilog
暗い、暗い、暗い、場所にいる――。
いつも、いつも、いつも、繰り返される同じ事――。
俺は、この1週間。
ずっと、ただ、延々と、ひたすらに繰り返される毎日を送っていた。
1週間っていうのさえあっているかワカラナイ。
イヤだ、こんなのもう、たくさんだ。
別にこれからずっと使えなくても良い。
使えないからってお尻を使ってくれるのは勘弁して欲しい。
こんな日をずっと、永遠に、このまま送るのなら、俺はもう――――。
そう思うと、俺は行動していた。
やっぱりここでもご都合主義の名の元に、運良くポケットに七つ夜が入っていた。
俺は手枷を切り、地下牢の壁を破壊しながら外に出た。
そして、公園まで走り、空気を目一杯吸う。
なんて――美味い。
空気がこんなにも美味いとは思わなかった。
こんな都会でさえこんなに空気が綺麗なのだから、片田舎な場所は最高だろう。
「あ、志貴さーん」
「ん?」
ふと、何年も聞いていなかったくらいに感じた声が聞こえた。
「アキラちゃん」
「志貴さん、おでかけですか?」
「あー、いや、うん。まあそんな所かな」
地下牢から逃げてきたなんて言えるわけがない。
言っても普通、信じてもらえないだろうけど…。
秋葉ならアキラちゃん相手でも本気でやりかねないしな……。
「アキラちゃーん、どうしたのー?」
「あ、羽居さん」
間延びのした声が聞こえ、アキラちゃんの後ろからテクテクと歩いてくる。
「あれ? こちらは何方ですかー?」
こののんびりとした話し方はデフォルトなのだろうか。
だけど、どこか安心する。
「あ、この人は遠野先輩のお兄さんの志貴さんですよ」
「え? 秋葉ちゃんのお兄さんですかー。初めまして、三澤羽居です」
ぺこりとお辞儀をした羽居ちゃん。
「あ、こちらこそ初めまして。秋葉の兄の志貴です」
「アキラちゃんの言ってた通り、お兄さんカッコイイですねー」
「は、羽居先輩!」
「あはは、ありがとうアキラちゃん。羽居…ちゃんで良いかな?」
はいと頷く羽居ちゃん。
「羽居ちゃんは秋葉と同級生?」
「ええ、そうですよ。ルームメイトでもありますよー」
「え? そうなの? アイツ、あっちでもやっぱり、なんていうか…その…」
「ええっと、きっとお兄さんが思ってる通りだと思いますよ。ね、アキラちゃん?」
「あ! え! ハイ、そうです! 遠野先輩は怖いです!!」
なんだかなぁと思いながらアキラちゃんを見た。
気が動転してるのかな?
でも、羽居ちゃんはなんだかおっとりというか、のんびりといか…。
そして、俺は羽居ちゃんとふと、目が合った。
なんだろう?
この、俺を包みこんでくれるような暖かさは。
そう思うと、俺は、知らない間に泣いていた――。
「え? え? 志貴さん? ど、どうかしましたか?」
おろおろしたアキラちゃんが言う。
「別に、なんでもないよ…。ただ」
ただ、嬉しかったから――。
こんな感じを与えてくれた女性はいなかったから。
俺は、羽居ちゃんの手を掴んだ。
「え? お兄さん?」
「し、志貴さん?」
「ゴメン、羽居ちゃん借りるね、羽居ちゃんも良い?」
「ハイ、OKですよ。行きましょう」
二つ返事で頷いてくれる羽居ちゃん。
アキラちゃんにじゃあと言い、俺は羽居ちゃんの手を今度は握り締めて走り出した。
何処に行こうなんてのは考えてなかった。
ただ、この人と一緒に走り続けたい。
二人、並んで走りたい。
「羽居ちゃん、何処行こうか?」
「お兄さんが行きたい所なら何処へでも」
「うん、じゃあ、綺麗な景色を見れる場所にでも行こうか?」
「ハイ、行きましょう」
羽居ちゃんの手がしっかりと握られる。
俺達は走り出した。
きっと、これからは夢を見ているような毎日が始まるのだろう。
いや、今、この時間が夢なのかもしれない。
夢であっても構わない。
彼女がすぐ側にいるから。
俺に夢を与えてくれた彼女。
彼女に俺は、精一杯の愛を与えたい。
きっと、それは、俺の夢だから。
彼女の為に、俺の為に。
二人の為に。
――俺達の物語はまだ始まったばかりだ。
どんな事があっても、どんな事が起こっても、走り続けよう―――。
― END ―
おまけ
屋敷に響く、凄まじい怒声。
秋葉が怒っている。
俺が羽居ちゃんラブなんて言い出したから。
秋葉だけじゃなくて、皆も怒っている。
でも俺は羽居ちゃんラブ。
俺の中で、繰り返し、繰り返し、思い出されるムービー。
「お兄さん、イっちゃえ♪」
おわりのおわり