裏志貴祀―メガネっ漢はやっぱり受けでせう―用SS
真冬の夜の夢
その一・カレー好きのおねぃさんは攻めでせう





誰かがそこに居る。

俺の事をジッと見つめている。

彼は夢現の中で、そんな事を考えていた。

それは、一度眠りにつけば象が踏んでも目を覚まさない―――普通は永遠に覚まさないと思うが―――彼にしては珍しい事だった。

だが、完全に目は覚めない。

そこには殺気が無い。

彼の中を流れる血が、その事を理解しているから。

気配を感じながらも、その意識は暗い場所で眠り続ける。

そんな時間がどれくらい流れただろうか?

「・・・・・遠野君・・・」

小さく声をかけられ、彼の意識がゆっくりと覚醒し始める。

まるでブロンズ像のように蒼白だった顔に赤みが差し、その瞼がゆっくりと開かれる。

月明かりが照らす、暗い部屋の中。

彼の視線が一つの人影を捕らえ、彼は不思議そうな顔で口を開いた。

「・・・シエル・・・・・先輩?」

「・・・・・・・・・」

「こんな時間にどうしたんですか?」

「・・・・・・・・・」

その問いかけに、応えは無かった。

真っ直ぐに彼―――遠野志貴を見つめるだけ。

その顔には、彼が慣れ親しんだ穏やかな笑みは浮かんでいない。

ただ真っ直ぐに・・・まるで熱に浮かされているかのような視線で。

ただ真っ直ぐに、彼の姿を。

窓から差し込む月明かりの下で。

ただ黙って、彼の姿を。

彼もまた、声をかける事が出来ずに居た。

淡く輝く蒼い髪。

薄らと赤みを帯びた白い肌。

彼の姿を映している潤んだ瞳。

彼女の持つそれら全てを、彼は素直に美しいと感じたから。

最初に感じた疑問を消し飛ばしてしまうほど、美しいと思ってしまったから。

そう思ってしまったから、声をかける事が出来ない。

静寂と月明かりがその空間を包み込む。

そして・・・その静寂を破ったのはシエルだった。

「遠野君・・・あの夜の事、覚えていますか?」

濡れた瞳と

「・・・私と遠野君が初めて肌を重ねた夜・・・」

艶やかな笑みと

「私は・・・覚えています・・・遠野君の温もりも・・・」

甘い声で。

「・・・後ろから私を貫いた遠野君の熱さも・・・・・」

彼の頬にそっと手を伸ばし。

「あの激しさも・・・・・」

熱を持ったその指で、その頬を愛おしげに撫で。

「・・・・・遠野君・・・・・」

彼の名を呼ぶ。

そして・・・・・






























何処からとも無く単三電池二本くらいで元気に動いちゃいそうなコケシを取り出して。

なんかとってもイヤ〜ンな感じで。































「私、遠野君のせいでになっちゃったんですからね・・・」





その言葉に、志貴は何も言い返す事が出来なかった。

てーか脳細胞が3億くらい一気に死滅しちゃって、意識がフリーズって感じ。

なんせ彼は、ちょっとだけ期待しちゃってたから。

シエル先輩が夜中に自分の部屋に来て。

なんかとっても色っぽい笑みを浮かべて。

志貴君はドキドキにゃの、な感じだった。

ついさっきまでは間違い無く。

それなのに・・・・・

”うぃ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜ん”

シエル先輩の手に握られた何かが動いてちゃってる。

シエル先輩、嬉しそうに笑ってる。

でも、その姿は今の志貴君の目には色っぽいとは映らなかったり。

どっちかって言うとアブナイ人に見える。

いや、夜中に男の部屋に来て、機械仕掛けのコケシを持って笑ってるなんて間違いなくアブナイ人だと思う。

その事にようやく志貴君も気付いたのか

「ちょ、ちょっと先輩!! 一体何を!?」

ズサササササッと壁際まで飛びのきながら。

頭の中でピコーンピコーンと鳴ってる危険信号に従って。

そんな志貴君を見て、シエル先輩ってば

「分からないんですか?」

ニッコリと。

いつもと変わらない笑顔で。

右手にヤバゲなアイテムを持って。

左手を志貴君の方に伸ばしながら。

「ヒィィィィィィィィィィィィィィィィィィィ!?」

志貴君絶叫。

とにかく怖かった。

変なもん持ってるくせに、いつもと変わらないシエル先輩が。

これならネロに襲われた時のほうがなんぼかマシだった。

だけどシエル先輩は

「あら、どうして逃げるんですか、遠野君?」

言って、可愛らしく首を傾げて見せる。

でもアイテムはウィィィィィィィィィィィィィィィンって動き続けてる。

もしかしたら、さっきよりも少し元気になってるかもしれない。

「ど、どうしてって・・・先輩こそどうしてそんなものを持ってるんですか!?」

「あ、これですか? これはエクソシストに教会から配布される武器で」

「嘘だぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

志貴君、再び大絶叫。

「嘘じゃありませんよ。」

シエル先輩不満そう。

ちょっとだけ口をとんがらせて

遠野君ってばどうしてそんないぢわるを言うんですか?

って感じ。

でも志貴君は騙されない。

って言うかふつーは騙されない。

騙されちゃくれない。

だって、そんなモンを支給する教会なんかがあったら嫌過ぎるから。

「それじゃそれはどうやって使うんですか!!」

志貴君、反撃。

「・・・・・・・・・」

シエル先輩、沈黙。

そして再び、静寂と月明かりがその空間を包み込む。

さっきとは明かに空気が違うが。

嫌っぽい緊張感が漂ってるし。

そうやって、しばらく経って・・・

「私物です。」

開き直ったのか、シエル先輩は胸を張って答えた。

だからどうしたんですかーーーーー!!!

と言わんばかりに偉そうに。

そんなシエル先輩を見て

「帰れ。」

志貴君即答。

だけどシエル先輩は

「そういうわけにはいきません。」

帰ってくれない。

それどころか、ジリジリと志貴君に近寄って行く。

ヤバそうな目つきのまま。

志貴君ピンチ。

なんで俺がこんな目に遭うんだ!?

なんて思っちゃったり。

そんな志貴君の心を読んだかのように

「・・・・・遠野君は・・・痔になった事がありますか・・・」

その口元に、薄らと笑みを浮かべながら・・・

左手で志貴君のズボンをずり降ろそうとしながら・・・

「・・・病院で”でっかいウ○コでもしたのですか”って言われた私の気持ちがわかりますか・・・」

小さく呟くように・・・

「薬局行って”ポ○ギ○ール下さい・・・”って言った時の私の気持ちがわかりますか・・・」

ふふふ、と怖い笑みを浮かべながら

「同僚に”カレーの食い過ぎだ”って言われた私の気持ちが分かりますか・・・濡れ衣を着せられたカレーの気持ちが分かりますか・・・」

カレーの気持ちなんてふつーは分からないと思う。

てーか分かりたくない。

「だから・・・遠野君にも分からせて上げますね・・・」

そう言って、シエル先輩は妖艶な笑みを浮かべた。

妖艶っつーか嫌っぽいって言うか。

とにかく、志貴君ピンチ。

今のシエル先輩には

『初めてだから優しくしてね(はぁと)』

なんて冗談も通じそうにはない。

それどころか、喜んで襲いかかってくるだろう。

志貴君、絶体絶命!!

そして・・・

私をにした責任、とって貰いますからね

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」





裏志貴祀―メガネっ漢はやっぱり受けでせう―用SS
真冬の夜の夢
その二・真祖の姫君とケダモノちっくな使徒もやっぱり攻めでせう






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

叫び声を上げながら、志貴はあたりを見まわした。

そこは・・・夜の公園。

何故、自分がこんな所に居るのか?

今まで自分は何をしていたのか?

一つだけ分かっている事は・・・まるで悪い夢を見た後みたいに、全身に汗をかいているという事だけ。

だが、そんなはずは無い。

いくら体の弱い自分と言えど、立ったまま眠る事などできない。

そう、立ったまま、右手にナイフを握り締めたまま・・・

「・・・・・えっ?」

その冷たい感触に気付き、志貴は己が右手を見つめた。

見慣れたナイフ。

普段は持ち歩く事はあっても手に取る事はしない・・・七夜、と刻まれたナイフ。

何故、こんなものを持っているのか?

その事を考えるより早く

「くっ!?」

志貴の体は動いていた。

眼鏡を外し、振りかえると同時に宙に向かってナイフを突き出す。

ゾブリ、という嫌な感触と共に、彼の体に生暖かい何かが降り注いでくる。

「・・・・・・」

”ドサッ”

志貴は無言でその何かを地に投げ捨て、思い出した。

今と同じ状況を、以前にも体験した事があると。

足元に横たわる、黒い獣。

真夜中の公園。

吹きぬける風に混じって届く、血の匂い。

「・・・・・・・」

そんな事はあり得ない。

アレはもう、この世に居ないはず。

心の中でそう否定しながらも、彼は悟っていた。

あり得ない事など、この世の中には存在し無いと言う事を。

現に、彼の足元には・・・もう居ない筈の存在が横たわっているのだから。

”ならば・・・・・”

成すべき事は一つ。

守る事。

倒す事。

志貴は躊躇う事無く走り出していた。

眼鏡を外しているため、あらゆる場所に線が見える。

その事を否定するように、彼の頭が激しく痛む。

それでも・・・彼は走り続けた。

彼の本能が、向かう先を知っているから。

そこに行き、人に在らざるものを滅しろ、と命じているから。

そして・・・・・

公園の街頭の下に佇む二つの影。

一つは・・・ネロ。

信じたくは無かったが、間違いなくその姿はネロだった。

そしてもう一つは・・・・・

「アルクェイド!!!!!」

真っ赤に染まった脇腹を手で抑え、遠目に見てすら消耗していると分かる・・・神祖の姫君。

志貴は躊躇う事無く、アルクェイドを守るようにネロの前に立ちふさがった。

過去の戦いにおいて、自分一人では勝ち目が無いと言う事は分かっている。

自分の能力・・・直死の魔眼があろうと、自分の身体能力ではネロの動きにはついていけない。

それでも・・・

「アルクェイド・・・下がってろ・・・」

「志貴・・・・・・」

傷ついたアルクェイドを放っておく事など出来ない。

例え、その身に流れる血が七夜のモノであったとしても。

彼は遠野志貴なのだから。

僅かな動きも見逃すまいと、ネロを睨みつける。

「・・・・・・・・・」

「・・・・・・・・・」

沈黙の一瞬。

辺りを生ぬるい風が吹きぬける。

そして・・・・・

「・・・選ぶが良い・・・」

「・・・・・・?」

不意に口を開いたネロの問いかけに、志貴はナイフを構えたまま訝しげな表情を浮かべて見せた。

そんな志貴に対して、再び同じ問いが投げられる。

「・・・選ばせてやろう・・・」

「・・・・・・・・・・・・・」

「・・・どうして欲しい・・・?」

「っっっっっ!!」

・・・その意味を、悟る。

飢えた獣のような瞳で自分を見る男の意図を。

”どのように殺して欲しいのか?”

脅しや強がりでは無く、絶対的優位に立つモノの余裕。

その事を志貴は知っている。

自然、志貴の体に力が入る。

そして・・・

「・・・我が内に宿る獣どもに食われたいか・・・」

「・・・・・・・・」

「・・・我に食べられちゃう(はぁと)か・・・」

「・・・・・・ゑ?」

志貴の体はその場に凍りついた。

なんかとっても嫌っぽい言葉が聞こえて来た気がする。

「だから・・・獣に食われるか私に食べられちゃう(はぁと)か聞いているのだ。」

やっぱ嫌っぽい。

それもかなり。

ネロの口調は変わっていない。

その表情も変わっていない。

それでもムチャクチャ嫌だった。

つい先ほどまでは飢えた獣を思わせた瞳も、今は違う意味で飢えてるって感じがするし。

そんな志貴の考えを読んだのか

「・・・優しくしてやろう・・・」

ぽっと、頬をほんのり赤く染めて。

とっても乙女チックに。

”・・・・・・・・・・・ふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふる”

志貴君半泣き。

無言で首を横に振って、ジリジリと後ずさっちゃったり。

さっきまでのネロは怖かったけど、今のネロは違った意味で怖い。

どっちのネロが怖いかって言われると、今のネロの方が怖い。

なんか手をニギニギしてるし。

ちょっと涎垂らしてるし。

「さぁ、選ぶが良い・・・」

”ふるふるふるふるっ!!!”

ジリジリと寄ってくるネロに、ジリジリと下がる志貴。

だって怖いから。

「選ぶが良い!! 私に食べられちゃう(はぁと)か私を食べちゃう(はぁと)か!!!」

選択肢が変わってるし。

「さぁさぁ!!」

”ふるふるふるふるふるふるっ!!”

「さぁさぁさぁ!!」

”ふるふるふるふるふるふるふるふるふるっ!!”

「さぁ見てごらん!!!」

”ふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるふるっ!!!!!!”





裏志貴祀―メガネっ漢はやっぱり受けでせう―用SS
真冬の夜の夢
その三・無いチチ


「ってちょっと、私の出番は!?」

・・・面倒だからパス。

「わ、私一応主役だよ!? それなのにパスって!!」

五月蝿い。

「せっかく私が必殺技でネロを倒して志貴のハートをげっちゅしようと思ってたのに!!」

・・・ちなみに・・・技の名前は?

「妄想具現化(キッパリ)」

帰れ。





裏志貴祀―メガネっ漢はやっぱり受けでせう―用SS
真冬の夜の夢
その三・無いチ・・・・・胸が控えめな妹は当然攻めでせう






「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

志貴は叫び声を上げながらソファーから飛び起きた。

辺りを見まわせば、そこはリビングルーム。

既に電気は消され、辺りや鬱蒼とした闇に包まれていた。

どうやらソファーで休んでいる間に寝てしまったらしい。

その事を理解し、志貴は大きく息を吸い・・・ゆっくりと吐き出した。

心臓が早鐘のように鳴っているのが分かる。

まるで夕立にでも遭ったかのように、シャツが汗で湿っている。

その事で、彼は自分が悪い夢を見ていたのだと思った。

内容は思い出せないが、その場から逃げ出したくなるほどの悪い夢を。

彼にとって、悪夢を見るための材料など幾らでもあるのだから。

「・・・・・覚えてなくて幸い、かな・・・?」

彼は苦笑いを浮かべ、ぼんやりと闇を見つめた。

全身を覆う気だるさのせいで動く気になれなかいから。

そうやってどのくらいの時間が流れたのだろうか・・・

「・・・・・兄さん・・・」

「えっ!?」

彼はこの空間に、自分以外の存在がある事に気付いた。

慌てて声のした方を振りかえる志貴。

そこには・・・

「兄さん・・・こんな時間に何をしているんです? もう休まなくてはいけない時間ですよ?」

こんな遅くに何処かに出かけるのだろうか・・・または何処からか帰ってきたのか、長いコートに身を包んだ秋葉が立っていた。

そんな秋葉を見て志貴は

「こんな時間って・・・秋葉こそこんな時間に」

と、そこまで言って口をつぐんだ。

普段は勝気な秋葉が、悲しげにその瞳を伏せ・・・志貴の顔をじっと見つめていたのだ。

「あ、秋葉・・・・・?」

見慣れぬ秋葉の表情に困惑し、それ以上声をかける事が出来ないで居る志貴。

だが、秋葉がそんな表情をしたのは今日が初めてでは無いと言う事を、彼は覚えていた。

幼い頃、秋葉を助けるために瀕死の重傷を負った時。

傷の療養を理由に、遠野の家をあとにしようとした時。

その時も、秋葉は今と同じ表情で志貴を見つめていた。

「秋葉・・・・・」

かける言葉は見付からない。

それでも、秋葉のこんな顔は見ていたくない。

志貴は俯く秋葉にそっと手を伸ばし・・・・・

「・・・あっ・・・・・」

小さく驚きの声を洩らす秋葉の体を優しく抱きしめた。

何故か、そうする事が一番自然に思えたから。

秋葉も抵抗はしない。

ただ、そっと

「・・・・こんな所で寝たら風邪をひいてしまいます・・・」

呟き

「兄さん・・・兄さんは人よりも体が弱いのですから・・・注意してくださらないと駄目です・・・」

潤んだ瞳で

「何度言ったら分かってくださるんです・・・口で言っても駄目なのですか・・・やっぱり・・・」

志貴を見つめ

「・・・・・体に教えるしかないのですね。」

怖い事をのたまわった。

「・・・・・はい?」

「兄さん・・・・・・調教してあ・げ・る。」

その言葉に志貴君ぼーぜん。

ついさっきまでは、いつもは強気な無いチチ妹がちょっとだけ儚げちっくで良い感じ♪ なんて思ってたのに。

その口からはちょーきょーなんて単語が出て来たり。

表情も何処かウキウキしてる。

目は怪しく光ってるし。

「えっと・・・秋葉?」

「なんです、兄さん?」

「い、今なんて・・・・・?」

諦めが悪い志貴君。

「私の言う事を聞いてくださらない悪い兄さんを調教します。」

嬉しそうにそくとーするお嬢様。

その言葉には胸と同じで躊躇いも無い。

そして、志貴からゆっくりと身を離し、着ていたコートをガバッと脱ぎ捨てる。

「ほーーっほっほっほ♪ 兄さん、覚悟はよろしくて?」

・・・・・ボンテージだった。

それもそんじょそこらの安物ボンテージとは違う。

全部本皮製(何の皮かは不明)。

手には皮の鞭が握られてるし。

流石はじょおー・・・じゃなくてお嬢様。

「・・・・・・・・」

志貴君硬直。

呆然と秋葉ちゃんを見つめたまま動けない。

いや、一点をジッと見つめたまま動かなかった。

そして・・・・・

「秋葉・・・・・」

「なんです?」

「・・・ホント、胸無いな。」

言っちゃいました、正直に。

志貴君の言葉を聞いて、秋葉ちゃんの表情が凍りつく。

そんな秋葉ちゃんの表情を見て、志貴君の表情も凍りつく。

でも手遅れ。

だって、秋葉ちゃんはもうプンプンだから。

「・・・・・・・・・兄さん・・・」

「は、はい!!」

「・・・・・・・・・ふふふ。」

その笑みを見た途端、志貴君は気を失っちゃいました。





裏志貴祀―メガネっ漢はやっぱり受けでせう―用SS
真冬の夜の夢
エピローグ・勝者は小さな子猫ちゃん






「っっっっっっっっっっっっっっっ!!!」

志貴は声にならない悲鳴を上げ、ベッドから飛び起きた。

悪い夢でも見たのか、寝間着は汗で体に張りつきその呼吸は荒い。

彼は額の汗を手で拭い、小さく溜息を吐き

「っっっ!!!」

その身を強張らせた。

自分の事をジッと見ている存在に気付いたのだ。

ベッドの上、彼の足元にちょこんと座っている女の子。

「・・・・レン?」

だった。

つい先日、わけあって自分と契約をかわした使い魔。

そのレンが、不思議そうな顔で自分の顔を見つめている。

「ど、どうかしたのか?」

内心の動揺を悟られぬよう、ドモりながらも平静を装って話しかける志貴。

だが、レンはなにも答えない。

答えず、志貴の顔をジッと見つめ続ける。

そんなレンを見て、何故か志貴の頭に嫌なイメージが浮かんできた。

つい最近、自分がとっても酷い目に合ったような。

「レ、レン?」

「・・・・・・・・・」

「ね、眠れないのか?」

「・・・・・・・・・」

「い、良い天気だなぁ」

「・・・・・・・・・」

何を言ってもレンは答えない。

志貴君、嫌な予感がしまくっちゃって泣きそう。

理由の分からない恐怖に駆られ、ジリジリと壁際まで移動する志貴。

そんな志貴をジッと見つめ、ゆっくりと志貴に近づくレン。

そしてその手が志貴の首筋に伸ばされ

「ひぃっ!!!」

いつの間に取り出したのか、手に持ったハンカチで志貴の汗をそっと拭った。

「・・・・・え?」

状況が飲みこめず、呆然とする志貴。

その間にもレンは、志貴の首筋から額、頬などを優しくハンカチで拭い・・・

ズルズルと毛布を引っ張ってきて志貴にかけて軽くポンポンと叩き、その横で自分もコテンと。

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・・・・」

「・・・すーー・・・・・すーーーー・・・・・」

幸せそうな顔をしながら、あっという間に眠ってしまいました。

そんなレンを呆然とした表情で見つめる志貴。

だがやがて

「・・・・・お休み、レン・・・・・」

レンの頭をそっと撫で、安らかな眠りに就きました・・・・・



後日談

その日を境に、志貴君はアルクェイド、シエル、秋葉を見ると反射的に逃げ出してしまうようになったらしい。

それとは反対に、レンの事をまさに猫可愛がりしているそうで。

遠野家にたくさんの子猫が生まれる日も遠くないとかなんとか。

もちろん、全てはレンの仕業であった事は言うまでも無い。

”・・・・・ぶい”

とは、勝利者のお言葉。

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