黒猫と俺 「わかったわかった、協力でもなんでもしてやるよ、元はといえば、俺の所為 なんだし・・・・」 諦めに近い心情で、直視の魔眼を持つ志貴は首を縦に振るのであった・・・。 「私を殺した責任、とって貰うからね」 金髪の吸血鬼、アルクエイド・ブリュンスタッドがにこやかに笑って、志貴に 言うのであった・・・。 「話はついたのかな?」 アルクエイドの後ろから、豪く間延びした声が聞こえてくる。 「レン、丁度今、ついたところだよー」 あっけらかん、と笑って、アルクエイドが声のしたほうを振り向く。 「誰だ、この声?」 「私の使い魔のレンだよ」 志貴の問いに、得意げに答えたアルクエイドの後ろから現れたのは・・・、 「よっ」 チヨチャンノオトーサンだった・・・・。 かさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさかさ・・・・・・・。 レンと呼ばれた物体を見るなり、志貴は、行き止まりとなっていた目の前の壁 を、それこそ、妹の秋葉の胸のように真っ平なのにもかかわらず、ロッククラ イミングの要領で登り出して、その場から逃走を計ろうとした・・。 「あいつらと関るのは、死ぬより危険だ・・・・」 頭の奥から最大ボリュームで聞こえてくる警鐘に従って、死に物狂いで壁を登 る志貴。秋葉の胸のように(強調)平坦な壁にもかかわらず、すいすい登ってい く志貴。三分ほどして、屋上まで登りきるのであった・・・・。 「さあ、早いところ、このビルから脱出しないと・・・・」 屋上で息を整えながら、志貴が切羽詰った顔で言う。 「ねえねえ、志貴、何やってんの?」 「何って、見てわか・・・」 言いかけて、この屋上には、志貴しかいないはずだということに気がつき、 背筋に冷たい物が走る志貴。 「ま、まさか・・・・」 おそるおそる振り返ると・・・、 「あっ、わかった。志貴ってば、もしかして猫アレルギーなんだ」 あっけらかんとした顔で、手をポンと打つアルクエイドがいた・・・。 「なんでそうなる!?」 志貴が間髪入れずに、アルクエイドの言葉に力の限り突っ込みを入れる。 「レンの姿見るなり逃げたから、そーじゃないかと思って・・。だって、レン って猫の使い魔だし」 「実はそーなんだな」 きっぱりはっきりと言い切るアルクエイドの後ろから、「よっ」と手を振って 現れるレン、もといチヨチャンノオトーサン・・・・。 「あれのどこが猫だ、どこが!!」 怒の混じったの声で、志貴がチヨチャンノオトーサンを指差して叫んだ。 「んーと」 腕を組んで、考え込むアルクエイド。 「それ見ろ、猫らしいところなんて・・・」 志貴が毒づくが・・、 「耳とか」 「千里先に落ちた針の音も聞き分けるんだな、これが」 レン? の耳を引張るアルクエイド。 「猫口とか」 「愛らしい歯がトレードマークなんだな」 にょーん♪ と口の両端を引張るアルクエイド。 「肉球とかー」 「水の上だって歩けるぞー」 両手の肉球をぷにぷにとつつきながら答えるアルクエイド。 「ねっ、何処からどう見ても、猫じゃない♪」 「あくまでねこといいやがりますか、お前は・・・・」 屈託の無い笑顔で、アルクエイドが言い切った。他の事であれば、その笑顔に 惹かれていたであろうが、この場合、どっと志貴の疲労を増大させるだけであ った・・・・。 「どうやら、一部の隙も無い完璧な理論に、ぐうの音も出ないようね」 えっへん、と胸を張るアルクエイド。 「どこをどうしたら、そういう結論に辿り着くんだ・・・」 ちょっと、アルクエイドの思考が羨ましく感じながら、厭世的に呟く志貴。 ちなみに、普通の猫は千里先に落ちた針の音を聞き分けたり、水の上は歩 けないなどという、常識以前の突っ込みは欠片も通用しないであろうこと を、否応無しに理解せざるを得なかった・・・・。 「俺に言われてもなぁ・・・・・・」 肩をすくめるレン、ことチヨチャンノオトーサン。 「おまえがいうなーーーーーーーーーー!!」 血の叫びっぽい声で、叫ぶ志貴。 「駄目だよ、志貴。カルシウムちゃんと取らなきゃ」 おねーさんぶった言い方で、嗜めるアルクエイド。尤も、この場合、必要なの は、常識的な話し相手だろうが、その常識的な話し相手も、志貴を見て、常識 人とは言わないだろう、絶対に・・・・。 「お前にだけは言われたくないぞ、アーパー吸血鬼」 半泣きに近い声色で言い返す志貴。世の不条理を思いっきり感じずにはいら れない、遠野志貴17歳であった・・。だが、どう贔屓目に見ても、志貴も 不条理を行う側に見えるのは、気のせいではないだろう・・・。 数日後・・・・・。 「私の名は・・・ぐはっ!!」 どげし!! 姿をあらわしたネロカオスを見るなり、容赦の無いけりを喰らわせる志貴。 「な、何をする、貴様!?」 起き上がりながら、志貴に向って怒鳴るネロ。 「やかましい!! こちとら、あの2人にひっっぱり回されて、心身ともにへ とへとなんだ、貴様の長ったらしい能書きなんぞ、悠長に聞いてられるか!!」 げしっ、げしっ、げしっ、げしっ!! 据わった目つきの志貴が、ここぞとばかりに、アルクとレンのせいでたまりに 溜まったストレスをぶつけんとばかりに、ネロを血祭りに上げる志貴。何しろ、 アルクとレンの常識もへったくれも無い会話に疲れきっているところに、のこ のこと出てきたネロは、いい生贄としか言い様が無かった・・・。 「はあー、志貴が張り切っているおかげで、私たちの出る幕無いねー、レン」 体育すわりで、退屈そうに欠伸をするアルク。 「男の子って言うのは、女の子の前ではいいカッコがしたいものなのさ」 妙にニヒルに語るレン? いや、チヨチャンノオトーサン。志貴が聞いていたら、 力の限り否定したであろう・・・・・。 「やっぱそれって、私の事かな?」 満更でもなさそうな顔で言うアルク。 「おれにきかれてもなー」 妙に爽やかに言い切るレン?(チヨチャンノオトーサン)であった・・・。 「そういう時はお世辞でも、そうだって答えるものなのよ・・・」 恨めしそうにチヨチャンノオトーサンをみるアルクエイドであった・・・。 「ふう、いろいろあったが、俺は元気だ・・・・じゃなくて、晴れてネロカオ スも倒した事だし、綺麗さっぱり、あの異次元アーパー主従とも縁が切れたな」 これ以上ない、というか、却って怪しさ爆発といわんばかりの爽やかな笑みを 絶やさずに、ベッドに入ろうとする志貴。そう、苦戦の末、ネロカオスを 倒し・・・・・、 「ちょっとまて、最初っから最期まで、私の方が虐待されていたぞ!!」 アルクエイドとの約束を果たした志貴は、我が家に帰ってきていたのです。 おして、安らかな眠りを、志貴が満喫し様としたその時、 ガッシャーーーーーン!! 「やっほー、志貴」 仮初めの平和は幕を閉じたのでありました。まあ、予想済みの事態ですが(笑) ぐりぐり!! 「何しに来やがった・・・・・・、未知の物体X」 某喋るスライムを踏みつけにする某怪盗のごとく、招かれざる客の頭をぐりぐ りと踏みつけにする志貴。容赦の欠片も無かったが、無理もないだろう・・。 「はっはっは、照れ隠しに乱暴だなんて、シャイねー、志貴ってば」 アルクエイド・・・・・・、のお面を被ったレン(なんだってば)?は、志貴の 攻撃にもびくともせずに、けろりとしていた。アルクエイドに化けているので はなく、いつものチヨチャンノオト−サンが、本物と見紛う位、よく似ている、 画用紙で書かれたお面を頭につけて、アルクエイドそっくりの声で喋っている のである・・・・・。 「こんな夜中に何の用だ?」 スチャ・・・・。 七夜と書かれたナイフを、いつでもレン(といったら、レンなんだってば)?に、 突き立てる様に身構える志貴。 「こんな夜更けに、若い女性が忍んでくるといったら、決まってるじゃないか」 すました顔で答えるレン?(あくまでレンなんですってば)。 「闇討ちか? 言っておくが、ただじゃ殺られんぞ」 おもむろに眼鏡をはずす志貴。殺る気満々である。友好的なムードを保てる奴 がいたら、よっぽどの馬鹿か大物である。紙一重な事には変わりないが・・・。 「はっ、始めよーか」 マイペースに、志貴のベッドに潜り込もうとするレン(なんです、なんといわれ ようと)? 「何を当然のように、人のベッドに入っている」 レン、もといチヨチャンノオトーサンの頭を鷲掴みにする志貴。 「だから、気持ちイイコトに決まってるじゃない」 声色だけ、完璧アルクエイドのチヨチャンノオトーサンが、平然と答え、志貴 のチャックをずり下ろそうとするが・・・・、 「俺に、獣○? の趣味は無い!!」 容赦無しに、七夜のナイフを取り出し、レン?にむかって突きつける志貴。尤 も、目の前にいる物体が獣であるかどうかも、かなり怪しいものである が・・・・・。 ひゅいーーーーーーーん!! 「そーよ、遠野君を、むざむざ化け物の毒牙にかけるなんて、何より、この私 が許さないんだから!!」 何かの蔦に掴まって、ターザンよろしく、志貴の部屋に飛び込んでくる少女の 姿があった・・・・。 「弓塚、どーしてここに?」 呆気にとられながらも、志貴が、彼の通っている学校の女子の制服を着て、サ ングラスにマスクをつけた、ツインテールの少女に問い掛ける。 「何のことかしら、遠野君。私は遠野君のクラスのラブリーでキュートな恋す る健気な女の子、弓塚さつきじゃなくて、美少女吸血鬼Sよ、S!! けっして 栞とか忍とか、すばるとかじゃないんだから!!」 正体ばれまくりの美少女吸血鬼(自称)が墓穴堀まくりの自己紹介をする。 「ふっふっふ、シナリオすら作られなかった脇役が、こんな所に何の用かな?」 歯牙にもかけない態度で問い掛けるチヨチャンノオトーサン。ちなみに、こっ ちはHシーンがあったりする。誤解の内容に言っておくと、本物の方が、であ るが・・・・・。 「決まってるじゃない、遠野君の貞操は、私がいただ・・・、ごほんっ! もと い、ご近所の平和は、この私が(遠野君のホンのついで)に守るんだから」 びしっ、とレン、いや、チヨチャンノオトーサンを指差すS。 「真祖の姫君の黒き御使いとの異名をとった私にたてつくとは、ちょこざいな」 「過去の栄光にしがみつくなんて、年はとりたくないものね」 バリバリに火花を散らすさつ・・、もといSとチヨチャンノオトーサン。 「それ、今のうちに・・・」 そそくさと、この場を脱出しようとする志貴だったが・・・、 「何処に行くの、遠野君!?」 「どさくさに紛れて逃げ様なんて感心せんな」 即座に、志貴の逃亡に気がついたSとチヨチャンノオトーサンが、志貴の首根っ こを抑えようと捕まえにかかる。 「このまま、つかまってたまるかーーーー!!」 志貴が直死の魔眼を発動、 ズンバラリーン!! 口より少し上のあたりの物の壊れる線を七夜の小刀でなぞって、綺麗に真っ二 つにする志貴。 「最初っからこうすればよかったんだよなー」 この上なく爽やかな笑顔を浮かべて(まあ、無理もないが)、真っ二つに分かれ たチヨチャンノオトーサンには目もくれずに、ナイフを直そうとする。 「そうよね〜〜」 「こらこらこら、何、人をベッドに引きずり込もうとしているんだよ、 弓塚・・・・・」 Sことさつきが、自分の腕を強引に引張ってくるのに対して、足に力を入れて ふんばって、何とか対抗しようとする志貴。 「何って、ここから、2人っきりの時間が始まるからに決まってるじゃない」 さも当然のように、さつ・・、いやSが答えていると・・、 「そうは問屋がおろさないんだな」 真っ二つになったはずのレン?(チヨチャンノオトーサン)が、両方とも志貴の ほうを向いて言った。しかも・・・・・・、 ポン!! 真っ二つのわかれた体が、それぞれ、無くなった部分を再生して復活し、チヨチャ ンノオトーサンは二人になったのであった・・・・。 「私に何の断りもなく!!」 「ここから、この上を切って!!」 「「どれだけ痛いと思う!?」 絶妙のコンビネーションで、台詞を喋る、チヨチャンノオトーサンず。 「ああっ、1人だけでも厄介なのに、2人に増えるなんて、なんて非常識な」 自分がやったという事実を棚に挙げ、頭を抱える志貴。尤も、その非常識な物 体を真っ二つにできる時点で彼も非常識だということになるのに、彼は気がつ いていない。いや、気がつきたくないのかもしれないが・・・・。 「いかんなー、自分の理解の範疇を超えているからって、あっさりと非常識と か、化け物扱いするとは」 「君の理解しうることだけが全てではないのだよ」 顔を合わせて、やれやれと肩をすくめるチヨチャンノオトーサンず。 「それ以前の問題だと思うけど・・・・」 呆気にとられるさつ・・・、もといS。 「あー、確かにその通りだが、割って、二つに増殖するあんたらにだけは言わ れたかねー!!」 頭をかきむしりながら、捲くし立てる志貴。言ってる事はまともだが、非常識 そのものといった物体にそんな事を豪そうに言われると、無性にハラがたつの も、無理はない・・・・。 「おれに言われてもなー」 「わがままだなー」 ため息をつくチヨチャンノオトーサンず。 「どっちがだ!!」 血の叫びっぽく、声を荒げる志貴。どっちもどっちという気がするが・・・。 「遠野君、こうなったら、最期の手段よ」 ガシッと志貴の手を握るS。 「参考までに聞くが、最期の手段ってのはなんだ、弓塚」 遠い目をしながら、さつきを見る志貴。 「いやーん、さつきって呼んで・・・・じゃくて、あなたを物陰 から何時でも見守っている、イヌチックで健気な女の子と、愛の逃避行に決ま っているじゃないの」 「というか、弓塚の場合、それ以外の選択肢が存在しないような気がする んだが?」 半分、トリップしかけのさつきを冷ややかな目で見ながら、ため息をつく志貴。 「ともあれ、これ以上、ここでアレの相手をしていても、気が狂いそうだから、 妥当な選択肢かも知れないな・・・・」 お手上げ状態で、チヨチャンノオトーサンずを一瞥する志貴。尤も、そう言っ てる人間に限って、最後の最後までぴんぴんしているものであるが・・・。 「大丈夫、私が遠野君を幸せにしてあげるから」 何を勘違いしたのか、胸をドンとたたくさつき。 「もう何でもいいから、この場を脱出できればいい・・・・」 半ば、諦観の境地の志貴がさつき、いやSの手を取ろうとしたとき・・・、 「「そうはいかない」」 バーバトリック♪ 「わー、なんだ、こりゃー!?」 今の子供達にはわからない言葉と共に、チヨチャンノオトーサンずの体が、 にょーん とゴムの様に伸びて、志貴の体に巻きついた。 「ちょっと、私でさえまだなのに、なに、遠野君に抱きついているのよ!!」 違う意味で、チヨチャンノオトーサンに怒って、攻撃を加えるS。しかし、あ っさりと、攻撃を加えた個所が復元していくのであった・・・。 「「ふっふっふ、そういう訳で、心行くまで我らのサービス、受けてもらおう か!」」 「いやだーーーーーーー!!」 チヨチャンノオトーサンずの台詞に、志貴が悲鳴をあげていると・・・、 バタン!! 志貴の部屋のドアが開いて・・・・、 「兄さん、何、真夜中に騒いでいるんですか、ご近所迷惑でしょうが!!」 志貴の妹・秋葉が、メイドの翡翠・琥珀の姉妹を付き従えて、部屋に入ってきた。 「あ、秋葉、いい所に・・・」 助けを求めようとした志貴だが・・・、 「兄さん、不潔です!!」 顔を真っ赤にした秋葉が、金切り声を上げて、志貴に向って怒鳴った。 「へっ?」 何のことだか、さっぱりわからずに、目を点にする志貴。だが、そんな志貴な どお構いなしに・・・・、 「そっちのツインテール女は問題外ですから、ともかく、何ですか、ナイスバ ディで、シースルーのネグリジェなんか着た双子の金髪女と抱きついて!!」 おそらくは、志貴に抱きついている双子の金髪美女を睨みながら、捲くし立て る秋葉。どーやら、秋葉には、チヨチャンノオトーサンずがシースルーのネグ リジェを着たアルクエイドにでも見えているのであろう・・・・。 「ちょっと、どういう意味よ、義姉になる女性に向って!?」 秋葉に詰寄るさ・・・、もといS。自分が志貴と一緒になる事自体、微塵も疑 っていないようだ・・・・。 「問題外だから、問題外なんです、それ以外にどー言えと?」 冷ややかな眼差しで、Sをみる秋葉。妙に勝ち誇った顔をしている。 「なによ、自分だって、胸がそれ以前の問題のくせに」 ベタッ!! まるで壁に触れるかのごとく、平坦な秋葉の胸を、これ見よがしに触り、勝ち 誇った顔で秋葉を見るS。 「ふっふっふ、私にけんかを売るなんて、いい度胸ですね。兄さんとまとめて、 再教育してさしあげますわ」 ばさっ!! 何を思ったか、服を脱ぎ捨てる秋葉。 「あ、秋葉・・・?」 呆然と秋葉を見る志貴。まあ無理もないだろう。服を脱ぎ捨てた可と思うと、 その下に女王様ルックを着込んでいるのだから・・・。いつの間にか、後ろの 翡翠と琥珀も、似たような格好をしている・・・・。 「ふっ、兄さんを調教する時の為に琥珀に用意させたこの女王様ルックが、早 くも役に立とうとは・・・・」 ぴしっ、ぴしっ!! 鞭をしならせる秋葉。顔には危なげな笑みすら浮かんでいる・・・。 「ふっふっふ、望む所よ」 ギラリーン 爪を立てるさつき。殺る気満々である。 「あー、秋葉、ちょっと・・・」 おそるおそる声をかける志貴。 「何ですか、兄さん?」 ギロリと睨み返す秋葉。 「弓塚も、け・・・」 「「ナイチチに、女王様ルックはにあわないぞ」」 チヨチャンノオトーサンずが志貴が言うより早く、余計な一言を言った。 ぶちっ!! 「兄さん・・・、いい度胸ですね」 般若の形相を浮かべて、志貴を見るぶちきれた秋葉。 「違う、おれじゃない、おれじゃ!!」 力の限り、首を横に振る志貴。だが、そんな言葉はこの場合、何の説得力も持 たない・・・。 「そーよ!! 私と遠野君はラブラブなんだから、ナイチチ娘はお呼びじゃな いのよ!!」 ビシッ、と秋葉に向って、大見得を切るさつき、いや、S。 「そっちこそ、シナリオも無いようなおまけキャラは黙ってなさい!!」 秋葉も負けずに言い返す・・・・・。 「いーのよ、遠野君と結ばれるんだったら、シナリオなんてちんけなもの」 負け惜しみではなく、本気でそう思っているらしく、志貴にしなだれかかりな がら、さつきが勝ち誇った笑みを浮かべた。 「・・・・・・どうやら、兄さんより先に、貴方を再教育させるべきですね」 ドスを効かせた顔で、さつきにガンをとばす秋葉。 「義姉、義妹のけじめはキッチリつけないといけないものね」 余裕の表情で、志貴の首に手を回すさ・・、いやS。 「ふっふっふふっふっふっふ・・・・」 「あはははあははははははははははは・・・・」 火花を散らし、にらみ合う2人。 「もしもし、2人とも・・・・?」 志貴が声をかけるが、勿論、聞こえていない。こんなとき程、男が無力がある ときは無い・・・・。 「私の兄さんに手を出した事、地獄で後悔しなさい」 「上等、三年越しの片思いの執念見せてあげるわ」 めらめらめらめらめらめらめらめら・・・・・・・、 業火の炎を燃え上がらせて・・・・、 「兄さんは私のものです!!」 「何いってんの、私のものよ!!」 「おれにいわれてもなー」 「いいから、普通に寝かせてくれー」 夜を徹しての、三つ巴バトルロイヤルになって、その晩、遠野家から阿鼻叫喚 の叫び声が絶えなかったという・・・・。 「どういうつもりだ、アルクエイド!?」 翌日、即座にアルクエイドの家に怒鳴り込む志貴。 「あっ、私からのお礼気に入ってくれた?」 にぱっと笑て、尋ねてくるアルクエイド。 「気にいるかーーーーーーー!!」 間髪入れずに、志貴が叫んで否定した。 「えー、でも、レンは満足そうに帰ってきたから、てっきり相当楽しんだとば かり思ってたんだけど」 首をかしげるアルクエイド。どうやら、しっぽりと楽しんだように思われているら しい、それはそれでいやだが・・・。 「そりゃあ、あれだけ人を引っ掻き回したらなあ・・・」 こめかみを抑えてうめく志貴。 「でも、レン、あんたの事、非常に気に入ったみたいよ? 今夜も行くとかい ってたから」 「こなくていい!!」 人の悪い笑みを浮かべるアルクエイドに、悲鳴に近い叫び声をあげる志貴。 「・・・ってことは、もしかして志貴?」 志貴の態度から、何かに気がついたらしいアルクエイドが、ハッ、と志貴を見る。 「わかってくれたか・・・」 安堵の息をつく志貴。しかし・・・、 「レンより私の方が好みなのね」 180度見当違いの答えを言うアルク。 ドンガラガッシャーーン!! 「あれ、どうしたの志貴?」 「どうしてそうなる・・・・・・」 床に突っ伏す志貴、それを訝しげに見るアルクに、声を震わせて問い掛ける志貴。 「えー、だって、レンが今晩も行くのがいやだってことは、他の人の方がいい ってことでしょ? けど志貴の周りでうちの可愛いレンより、魅力的なのは私 を除いていないはずだから、必然的に私が・・・・、って、何、床にクレータ ー作っているの、志貴?」 ますます理解できないという顔で志貴を見るアルクエイドが、自信を持って 言い放った・・・・。 「照れてるだけさ」 何処からとも無く現れるチヨチャンノオトーサン。 「誰がじゃー!!」 起き上がりながら、志貴がアルク達に向って叫ぶが、効果なし。 「そうと決まれば、さっそく今夜忍び込む準備をしないとねー」 嬉々としてセキュリティを破る道具をそろえ始めるアルクエイドに、志貴の 「だから違うんだってばー」という声は届かなかった・・・・。 「とほほー、なんでこうなるかねー」 今夜の修羅場が容易に想像できる志貴が、途方にくれた声でぼやき、それを 「俺にいわれてもなー」 レン、いやチヨチャンノオトーサンが、冷ややかに切り返すのであった・・。 余談であるが、それから暫く、遠野家は夜になると喧騒が絶えなかったという。 終わり?