私っていっつも意地っ張り。 さりげなく微笑まれたりしたらメロメロになっちゃうくらい嬉しいのに、つい知らん顔しちゃったり。 本当はやさしくしたいのに、ついキツイこと言っちゃったり。 出かけるときもいつも一緒に来てくださいってお願いするくせに、もうひとりの別の人と仲良くしてみたり。 そう、まるで私の愛情表現って、ちっちゃな男の子のレベル。 素直になれなくて、イジワルしちゃうってそんな。 だけどね、いつまでたってもそのまんまだなんて寂しいじゃない? 私だって女の子だもん! たまには勇気を振り絞って、ちょっとくらいカワイイ女の子、やってみなくちゃもったいないよね! ―――と、いうわけで。 「き、今日は頼久さんとふたりだけでお出かけしようかなーとかね、思ってるんだけど…ダメ、かな?」 え、えへなんて我ながらぎこちないだろうなと思われる笑顔を藤姫に向けた。 (だだだ大丈夫、動揺するな私!) なんて言ったって準備は万端なんだから!と、ぐっと心の中で拳を握りしめるあかねは、今までやたらと努力してきた数々のことを思いかえす。 封印しておかなきゃいけない怨霊もいないし、札めくりが必要なように回復のお札も底をつきかけるようにしてるし、なにより木の属性のレベルをあげなきゃいけないようにちょっと他の属性に比べて低めにしている……! (完全犯罪?) 無駄な労力だとは知りつつも、「ただ単に頼久さんとふたりっきりでお出かけしたいだけなんですv」なんてにっこり笑顔で藤姫や頼久に告げることなどできなくて。恥ずかしいやら照れくさいやら、しかもなぜか脱兎のごとくその場を逃げ出したくなってしまうのだから、それを我慢することに比べたらこの努力もまた容認し得るというべきか。 さらにそんな中、今日は天真が散策に出かけていて留守だという、パーフェクトな状況。何を言われてもばっちり言い訳が出来るわ!と、やたら力のはいるあかねであった。 にこにこにこ……といつもの笑顔で沈黙する藤姫に、こちらも内心滝のような汗をかきつつも負けじと笑顔でじっと返事を待ち。 「……そうですわね、頼久が一緒ならば安心ですわv」 「そう!そうなのよ、天真くんも出かけちゃってるし〜!あはははは!」 (……いかん、私ムダにテンションあがってるかも) 「では、頼久を呼んで参りますわね」 「あっ。ま、まって藤姫!」 へにょ〜と力が抜けそうなほどほっとしたあかねだったが、立ち上がった藤姫にわたわたと近寄っていく。ほっとしている場合じゃなかった。ふたりで出かけることになったときは、絶対やりたかったことがあるのだ。 「あ、あのね実は……」 あかねは真っ赤になりながら、なけなしの勇気を振り絞って藤姫の耳元でぼしょぼしょと告げる。すると藤姫は大層嬉しそうににっこりと微笑んで。 なんだかいろいろ感づいているような気がする藤姫に、あかねはさりげなく恐ろしさ炸裂で苦笑を返していた。 「神子殿本日はどちらへいかれま」 『すか?』と続くはずだった言葉もぶっつりと途切れ、目の前であんぐりと頼久が口を開けて固まってしまった。 あまりじっと見られるから、元々ドキドキとうるさい心臓はもっと速くなってたまらくなってしまう。 藤姫へのお願いは、こっちの世界の着物を着せてほしいということだった。 単を着て袿を着て。動きやすいようにはしてみたのだったが、この頼久の反応からすると。 「やややややっぱり着替えてきます……!」 似合ってないんだやっぱり変なんだうわああああんしまったあああ!と、くるりと身を翻したあかねに。 「お、お待ちください!」 ひどく慌てた口調でそう言われ、ダッシュで逃げるわけにもいかなくてそろそろと振り向いた。 「は、はぃ……?」 おそるおそる尋ねたあかねに、返ってきたのは頼久の微笑み。 一瞬にしてやわらかくなる目元に、何度心臓をぶち壊されたかわからないあかねだった。しかも、それはあかねの最も大好きな頼久の笑顔だったりするから。 「とてもよく、お似合いです」 「あ、りがとうございます ……」 何度見たって慣れやしない……と、また今回もどくんと跳ねてしまった心臓の影響でかかかっと赤面したあかねは、ぽそぽそと小さくなる声で返事をする。 「こ、このままでお出かけしても邪魔じゃないでしょーか……」 もじもじと、指遊びをしながらいうと。 「私がお守りいたします」 「〜〜〜〜っっっ!」 ちらと見上げた瞬間、さらに目元をほころばせた頼久の顔を目撃したあかねは。 (なんてゆかもー、今ので全部報われた気がする…) くらっと立ちくらみを起こしそうになる幸せの目眩と必死に闘っていた。……いやアンタ、出かけるのが目的だったんだろーがっ。 そして所変わってここは案朱にほど近い山中。 のどかな日差しが心地よく、少し前までは殺伐とした雰囲気が漂っていたとは到底思えないほどの平和があった。 が。 (う、動きにくい…っ) いつもならひょいひょーいと来ることができるこの場所も、着慣れない着物で、さらにいつもと違う履き物となるとずいぶんと勝手が違った。 (足、い゛た゛い゛……) ぜいぜいはーと息をつくあかねに、気遣わしげに頼久が声を掛ける。 「やはり、牛車を手配いたしましょう」 「い、いえそんな大層なことでもないので!」 大丈夫問題なしちょーっとまってもらえればすぐに元気になりますからノープロブレムっ!とまくしたてると、「のぅぷろぶれむ…?」と頼久は首を傾げる。 (やっぱり足手まといだ、これじゃ…) うう、となんだか無性に情けなくなるあかねは、よたよたと案朱を目指すのだったが。 「神子殿、少々休息をとりましょう。急ぎの用ではありませんし」 「で、でも……」 「神子殿」 一歩後ろを歩く頼久を振り向いて言い淀めば、まるで駄々をこねる子供を諭すように言われる。 「……はぁい」 頼久の言うことは確かに助かるし有り難いのだったが、なんというか。 (ミジメ……) きれいな着物を着て、まるでデートみたいにふたりでお出かけできれば、なんとなく素直になれてカワイイ女の子になれると思ったのに。結局これじゃあ、ただ頼久さんに迷惑をかけただけじゃないかーと、自然と気分が重くなる。 「じゃ、あの、あそこで休みましょうか……」 へろっとあかねが指を指したのは、道から少し藪へと分け入った先にある開けた場所。大樹の陰に、丸太がまるでベンチのように転がしてある。ここらに住む者が休憩所代わりに作ったようだった。 「神子殿お待ちください、私が道を作りますゆえ…!」 「へーきですよ、こんくらい」 よいせ、と、頼久が止めるのも聞かずに藪の中へぼふっと飛び込んだ。 胸の丈ほどの草をなんなくかきわけて進んでいると。 くんっ (あれ?) 突然背中の辺りを引っ張られる。くるりと振り返るが、別に誰が呼び止めているわけでもなく。 (ひっかけたかな?) んん、と少々思案したあかねだったが。 まあ大したことないだろうと、ぐいっと力業で歩を先に進めた。と。 ひらり 「へ?」 なんか急におなかの辺りが楽に……と思った瞬間。 「神子殿っ!?」 急に慌てふためいた頼久の声が間近で聞こえ。 「失礼を!」 「〜〜〜っ!?」 ぎゅうっと背後から抱きすくめられ、びくりとあかねの背が跳ねた。 「よよよよよ頼久さん!?」 ななな何事っ!?と、いきなり全身で頼久を感じて軽いパニックに陥ったあかねだったが、頼久の両手がしっかりと重ねの端を握っていることに気づく。 「………も、もしかしてほどけましたかっ」(汗) 「す、すみません……」 咄嗟に他の方法が思い浮かびませんでした、と頼久が謝る声すら背中越しに胸に響き、迂闊にあかねの鼓動をはやめてしまう。 「ごごごごゴメンナサイー…」 「いえあの、こちらこそ…」 「………」 「………」 (ヤバイ) 不用意な沈黙がなぜか続く。 どきどきとうるさい心臓は、絶対間違いなく頼久には届いているはず。 (な、何か話さなきゃー!) 沈黙はヤバイ、沈黙は!と、あれこれ言葉を探すあかねだったが。 (ひぃっ!?) 「神子殿…?」 きゅうと、頼久が自分の腰に回した手に力が加えられた。より密着した形で彼が口にした言葉は、なぜか掠れた声の自分に対する問いかけで。 「どうかされましたか?……突然、このように静かになられて」 「うえっ!?え、あ、どどどどうもしませんけどっ」 「……私が、恐ろしいですか?」 「え?」 急に悲しそうに響く彼の声に、あかねの思考は急に冷めた。 (なんで?どうして?) あかねが疑問を口にするよりも早く、頼久が口を開く。 「鼓動が、ずいぶんとお早い。そのように怯えられなくても、頼久は神子殿に危害など加えるつもりは……」 「ちょ、ちょっと待って!」 はらりと解ける帯も構わず、あかねは頼久の腕を振りほどき、正面から彼を見つめた。 一瞬驚いた顔をして、緩くほころぶ着物の袷を見るとかあと赤面する頼久の両腕を、がしっと掴んであかねは言う。 「違うよ、私頼久さんが怖いからビクビクしてたんじゃないよ!?」 「み、神子殿袷が…」 「いーから聞く!」 掴んだ腕ごとぶんっと振って、あかねはじっと頼久の目から視線を逸らさない。 「頼久さんにドキドキしてたからなの!わかる!?」 「どきどき?」 問い返されて、はたとあかねは困った。 (いかん、このまま行くと告白モードに突入してしまう…!) そそそそれはまだ勘弁して!と、思ったがどうにもうまい言い訳も思いつかない。 (う……) それよりもなによりも。今は頼久に自分が怯えていると誤解されたままのほうがつらい。 「えと……ココ、がね」 そっとあかねは胸に両手を当てる。 「ドキドキって。怖くてバクバクするのとは違うんですよ?えと、頼久さんと、こんなに近くにいたことないから、恥ずかしくて。……あ、でも恥ずかしいだけでもなくて、なんかこう……」 「?」 「わかんないですけど!とにかく幸せな感じで!」 ぐっと握り拳を作って主張したあかねだったが、言ったしまった後に、ごおおと嵐のように恥ずかしさが押し寄せてくる。 (なななななに言ってんのよ私…!幸せって、幸せってぇぇぇぇっ) あああ神様龍神様、できれば今の私の発言はなかったことに〜〜〜!と心中で慌てまくるあかねをよそに、ぽそりと頼久は呟く。 「……神子殿は、私が傍にいると幸せだと感じられるのですか?」 「う。えとその………ハイっ」 なぜか決意したようにきっぱりとそう告げたあかねに、頼久は。 「私も、神子殿と共にあるときは、幸福を覚えます」 「……!」 ふわりと、なぜかひどく柔らかに。 頼久があかねに向けた、それははじめての『笑み』だった。 いつもの微笑みではなく、顔中を満たした、満面の。 (うわ…!) 隠す間もなくあかねの顔は真っ赤に茹で上がり、ぐるりと背を向けてあわてて衣の袷をかき合わせる。 一気に血圧急上昇…!と、ひぃひぃ思いつつあかねが口にした言葉は。 「ああああの、帯ほどけちゃいましたねーっ」 あははははどうしようかな私結べないんですよーっと、おどけた口調で笑ってしまう。 (ダメだこれ以上は心臓が持たない…) たぶん耳まで真っ赤だと、あかねは話題の転換に乗り出したのだったが。 「あまり上手くは結べないかと思いますが…」 「ひゃ…!」 背を向けたあかねをそのままに、背後からすっと頼久の手が伸びてくる。 「少し、じっとしていてください」 ささと、綺麗に着物の袷をなおしてくれる頼久にあかねはもう声を出すことすら出来ず、ひたすらにこくこくとうなずく。 その後、着物のたもとを持ち上げるように言われ、腕を上げたあかねの腰には頼久の腕が伸びてきて、まるで抱きすくめるように帯を巻き直してくれる。 そのたびに、体のあちこちに感じる頼久の気配。ぬくもり。肌の感覚。 「よ、頼久さん私もー限界……」 「は?み、神子殿!?」 やっと帯が結び終わったかという頃。 真っ赤な顔をしてへなへなと地面に沈んでしまうあかねをあわてて頼久は抱きかかえ、とりあえずほっとしたのも束の間、ますますきゅ〜っと力が抜けていくあかねをどうしたものかと大騒ぎになり。 「神子殿、しっかりなさってください…!」 「はうぇー…」 そして、その夜。 なんとかあのあと気力を取り戻したあかねは、案朱での札めくりを無事にパーフェクトでこなし、体を気づかう頼久のたっての願いで夕方前には土御門邸へと戻ってきていたのだったが。 (もうしばらく着物はイイ……) ごろんと布団の上に転がったまま、未だ赤い顔をして足の痛みと闘っていた。 幸せって、いきなり降ってくると逆に困るモノなのね、と、なぜかしみじみ思いながら。 ________________________________________ 擬似薬プラシーボ 管理人:文月葉子様からいただきましたvvv えへへvなんとお心優しき葉子さんのご厚意により、リンク記念にリクエストさせていただいた お話なのですよう★ああもうvvvこの可愛らしさったら!葉子さんならではのあかねちゃんの キュートさといったらたまりません★「頼久さんと二人っきりでお出かけの時はおめかしをvvv」 どうですか(>_<)この恋する可愛い乙女っぷりは〜vvvおねーさんメロメロです!そして頼久さ んにもメロメロですたい!!はにゃんvvvなんといいましても悩殺頼久スマイル全開での 「私も、神子殿と共にあるときは、幸福を覚えます」な決め台詞ですからね〜vきゃあ♪ そんでもってそんな素敵頼久さんに帯なんか直していただくのですよ?しかも後から!!背中 からそぅ〜っと頼久氏の逞しく麗しいお手がすね!もう、私ー私ー!(いや、私が興奮しても;) そうですv私のリクエストは「後ろから抱きしめる」というものですv私の知人様ズには既に浸透 しきってしまったのではないかと思われる私の「後ろから好き」(やばいよにおさんっ)は留まる 所を知りません(笑) 後ろからぎゅーーっていうのはいけない考えでしょうか???(笑) 葉子さん★ラブリーチャーミィな神子殿と優しくて純朴な頼久さん(可愛いv)をありがとうござい ましたーvvv大変、大変お世話になっておりますですー(>_<)vvv |
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