**  聖句  **



≪著:文月葉子様

「ふにゅぅ?」

 なんとなく夜中に目が覚めました。呼ばれている気がしたのです。
 
あかねはむくりと起きあがって、こしこしと眠い眼をこすりました。

「だれぇ?」

 あかねは尋ねますが、それに返ってくる言葉はありません。

 ただ、妻戸の隙間から控えめな灯りがきらきらと室内にこぼれ落ちているのです。

(あれ、まだ夜だよね?)

 その星くずのような光の正体が気になって、あかねは布団から抜け出るとぺたぺたと冷たい床を這って扉に近づきました。

 よいしょと御簾をくぐってそっと妻戸を開けると。

「ひゃあ」

 間の抜けた声が、あかねの口をついてでました。

 細い細い切れそうな三日月。そのまわりはビーズをちりばめたようにたくさんの星々が

輝いていたのです。

 真冬であるはずなのにちっとも寒くないのを不思議に思いながらも、あかねはそのままひょこりと部屋を抜け出て廊下の欄干づたいに体を起こしました。

「きれーいv」

 満足げにくふくふと笑っいました。パジャマ代わりの白い小袖姿。その袖をくいとひっぱって、あかねは慌てて口を覆います。

 いつもなら、物音一つさせようものなら傍仕えの女房だの愛しの次期頭領などが現れるからです。

(はれ?)

 しかし一向に聞こえてこないその足音や自分を呼ぶ声に、あかねは首を傾げました。

 みんな寝ちゃってるのかな?珍しいの〜っと、あかねにとってはそれくらいの事でした。

 そして再び、ぽわんと済んだ夜空を見上げていると。

 ぽぽぽぽぽっ。

「わあ!」

 突然眼下に、光がともりました。

 いつもよりずっと静かな深夜の庭園が、導くように一筋光っているのです。

 まるで光る飛び石のよう。

 等間隔に、ぽつぽつと。淡くぼんやり光るそれは、まるで地上に降りてきた満月のように柔らかな光。

「おいでっていってるの?」

 あかねは好奇心のまま、素足でちょいとその石の上に触れました。

 ぽわ…ん

「お?」

 あかねが上に乗ると、光が一瞬強くなります。

 足の指先に触れる石は、つめたくもなくあたたかくもなく、ただなんだか軟らかい草の上を歩いているような気分になりました。

「お」

 ぽわん

「おっ」

 ぽわん

「お、お、おっ♪」

 ぽわわわわん

 石の上を跳ねると光る、その石が面白くてあかねは子供の遊びのようにぴょこぴょことその上を跳ねていきます。

 どんどん遠くへ続いていくその光の道を、あかねはどんどん進んでいきました。

 その光る石の先にはきっときっと素敵な宝物が待ってるんだ!そんな風に、あかねは思いました。

 どれくらいそうして石の上を跳ねていたでしょうか。

 突然空から、ばさばさと羽音が聞こえました。

(え、夜なのに?)

 そんなまさかと思って顔を上げると、真っ白なふくろうが一匹舞い降りてきました。

 ほぅほぅほぅ

「わわっ?」

 ふくろうは鳴きながら、ちょこんとあかねの右肩に止まりました。

 ずしっと肩に掛かった重みに少しよろめきながら、あかねは頬にあたる羽のもこもこを見上げます。

「一緒に来るの?」

 ほぅほぅほぅ

 あかねがたずねると、まるでふくろうは返事をするように答えます。

 それを聞いてくすくすと笑うと、あかねはまたぴょこぴょこ石の上を跳ねます。

「ふくろうさん、なんだか誰かに似てるね〜。誰かな?」

 ほぅほぅ

「ふくろうさんは物知り博士だもんね〜。すごいよねっ夜でもびゅんびゅんお空を飛べるし」

 ほぅほぅ

 うれしそうに返事をしていたふくろうでしたが、あかねの足はぴたりと止まってしまいました。

「そうだよね、ふくろうさんは空を飛べるんだ。でも、私飛べないよ?一緒にいけないね……」

 しゅんとあかねはうなだれました。

 するとふくろうは、名残惜しそうにあかねの頬に体をすり寄せるとばさばさと空へ飛んでいってしまいました。

 バイバイ、とあかねは手を振ります。

 ひとりになって少し寂しい気はしましたが、あかねはまたぴょこぴょこ石の上を跳ねました。

 すると、真っ暗な闇夜の向こうに白い生き物が現れました。

 光る石の上に、ちょこんと座っているのは銀色の猫でした。

「わあカワイイっ」

 シャム猫さんなの?と、あかねが尋ねると、猫はにゃあんと鳴いてすりすりとあかねの足下にまとわりつきます。

「猫さん、一緒に行く?」

 にゃーん

 また言葉が解るようです。

 当然だと言うように高らかに鳴くので、あかねはその猫を抱き上げました。

 胸の中で丸くなり、ごろごろとのどを鳴らします。

「猫さんも、誰かに似てるね?」

 にゃーん

「うふふ。猫さんに似てる人はね〜。いっつも冗談ばっかりですごく身軽な人なんだよ?でもね、ホントはすごくすごく優しい人なんだよー」

 にゃーん

 猫は、満足そうに鳴きましました。

 しかし、またあかねの足は止まってしまいます。

「猫さん、自分一人でだったら何処へでも行けるんだよね…。私がこんな風にだっこしてたら、本当に行きたい所には自分で行けなくなっちゃうね…」

 あかねは寂しそうに、猫を足下へ放しました。

 にゃーん

 猫は鳴きます。

「猫さんのことずっとだっこしててあげたいけど、それじゃダメだよね…。一緒にいけないね…」

 にゃーん

 猫は寂しそうに鳴いて、くるりと身を翻しました。

 闇の向こうに消えていく銀色の猫に、あかねも寂しくなりましたがバイバイと手を振りました。

 にゃーん

 闇の向こうから、猫の声だけが聞こえました。

 それを聞いて少し悲しくなりましたが、あかねはまた飛び石の上を跳ねます。

 いつの間にか藤姫のお屋敷から出てしまいました。

 もうまわりは知らない場所です。

 暗いな、怖いな。

 あかねは思いますが、光る石はまだまだ続いています。

(どうしよう)

 急にあかねは心細くなってしまいました。

 引き返そうかな、どうしようかな。

 困って立ち止まろうとしたとき。

 わんわんわんっ

「えっ?」

 犬の鳴き声がしました。

 きょろきょろと辺りを見回しますが、よくわかりません。

 わんっ

 声はすぐ近くで、あかねは改めてじっと探してみました。

 すると、夜の闇と全く同じ色をした犬が、飛び石から少し離れたところでお行儀良くお座りをしてました。

「一緒に来る?」

 あかねは飛び石の上にしゃがんで、犬に呼びかけます。

 しかし、黒い大きな犬は、ちょっと困ったように辺りを見回します。

「犬さん犬さん、怖くないよ。おいで」

 あかねがもう一度呼ぶと、犬はやっと立ち上がってそばに寄ってきました。

 そばにくると、やっぱり犬は大きくて、しかし、とても綺麗な夜の色をしていました。

 くーん

 犬は小さく鳴いて、しゃがむあかねに濡れた鼻をすりよせて甘えます。

 それがくすぐったくてあかねはくすくす笑いました。

「犬さんも、私がすっごく知ってる人に似てる」

 うふふと笑って、あかねはその大きな犬の首にぎゅうとしがみつきました。

「犬さん。犬さんは、私と一緒でお空を飛べないよね?」

 わんっ

「犬さんはだっこできないから、私が犬さんの邪魔になったりしないよね?」

 わんっ

「犬さんは、私よりずっと足が速いけど……私も頑張って走るから、いいか」

 わんっ

 にっこりとあかねは笑いました。

「それじゃあ、ずっと一緒に行けるね?」

 わんわんっ

 犬は鳴きます。一緒にいくと、返事をしているようでした。

 あかねはすくっと立ち上がりました。

 隣には、大きな犬が並んで立ちます。

「じゃあ、いこっか!」

 わんっ

 あかねはたっと走り出しました。もう心細くありません。

 光る飛び石の先にあるものを、犬と一緒に確かめに行くのです。

 どんどん進みましました。

 すると、光る石が一斉にぱあっと強い光を放ちました。

 わあなんてあたたかいんだろう。

 あかねはうっとりと、その光の中で目を閉じました。



「………うにゅ?」

 はたと目を開けると、そこは見慣れた土御門邸の一室。

 わけがわらかず瞬きを数回して、あかねは大きなため息をついた。

「なんだ、夢……」

 フクロウやら猫やら犬やらとやたらファンシーな夢を見てしまったと、あかねは少々気恥ずかしくなってもぞもぞと布団からでる。

「さむっ」

 ひーっと小さく悲鳴を上げながら、とりあえず綿入りの外掛けを羽織って妻戸に近寄った。

 そういえばと思い出したのだ。

 京で過ごす2回目の………クリスマス・イブ。

(いや、さすがに夢だとは思うけど)

 とりあえずなんだか気になって、あかねはそっと妻戸を開けた。

「えっ!?」

 そして、夢と同じようにあかねは小さな悲鳴を上げた。

 しかしそれは光る石の小道が出来ていたからではなく。

「・・・・・・神子殿?」

 その驚きは頼久も同じだったようで、ふたりして丸い目をして少ない月明かりの中で視線を交わした。

 吹き出したのは、たぶん同時。

「なに、してるの?」

「神子殿こそ……」

 庭にいる頼久に近づこうと欄干の端いっぱいに立って、あかねはきゅうっとその頭を胸に抱いた。

「!?」

 かあっと頬を染める愛しい人のことを気にせず、あかねはくすくすと笑った。

「あのワンちゃん、頼久さんそっくり……」

「は?」

「いーのっ。こっちの話っ」

 ワンちゃんとは一体あの、と言いよどむ頼久の頭をあかねはさらにぐしゃぐしゃと抱きしめる。

「ああああああのっ?」

 彼にとっては無理な恰好でぎゅっと抱きしめられるたび、頬に当たるふわふわの感覚に脳が麻痺していくのを感じて、頼久はあわあわとらしくもなく慌てる。

「だーめっ。じっとしてっ」

「ですがあのっ」

 もがく頼久に、あかねはぷーっと頬を膨らませていったん頼久を解放すると、今度はその頬をぎゅっと両手で包んで離そうとしない。

「頼久さんがサンタさんからのプレゼントなんだから、言うこと聞いてくださいっ」

「え、あの」

 さんた?ぷれぜんと??とクエスチョンマークが飛び交う恋人の姿にぷっとあかねは吹き出して、それからゆっくりと瞼を閉じて。

「メリークリスマス、頼久さんv」

「〜〜〜〜!?」

 ぐいと顔をひっぱられ、口づけをされたまま頼久は石のように固まってしまった。

 瞼を開いてその真っ赤になった頼久の顔を見て、あかねはさらにくすくすと笑う。

 そして、くきっと首を傾げて頼久を見ると。

「おかえしは?」

「……申されるまでもなく」

 欄干の隙間から伸ばされた腕に、あっさりとあかねは捕らえられた。

 だきしめられるぬくもりに目を閉じながら、寒さもいつのまにか気にならなくなっている。

(こっちほうが、夢の中みたい)

 恥ずかしくて口に出せないけどと、いつの間にか『年上の恋人』の顔をしてあかねを抱きしめる頼久を感じて思う。

(あなたとなら、ずっと歩いていけるよね)

 ずっとずっと―――いつまでも。

「大好きっv」

 腕の中で呟く言葉もひどく特別な気がする、そんな夜の出来事。



                                                               <メリークリスマスv>



擬似薬〜プラシーボ管理人様、文月葉子さんからいただきましたv
クリスマスフリー創作ですvvvかは〜vvvあかねちゃんの愛いこと愛いこと!!
メルヘン調のお話も夢と可愛さにあふれていて、忘れていた何かを思い出させてくれるような…ホロリv
こちらのすべてが、神子殿らびゅ〜んな私の脳天激メガヒットでしたのvvv拝見した次の瞬間からそりゃ〜んもう!
創作意欲びんびんで!(笑)その晩浮かんだイメージを翌日帰宅後にはものすごいハイテンションで
イラストにかきんこかきんこ☆…あげく葉子さんにぶしつけながら贈らせていただきました/////
あああ;迷惑人間で大変、大変申し訳なく…;
ですが、お優しい葉子さんは受け取ってくださいましたのです(T-T)…ありがたや…(ToT)
葉子さんの素敵なお話のお邪魔になってしまっているのは一目瞭然ですので、描かせていただいたイラストは
別ファイル内に置かせていただいてます…;(コチラから;)

葉子さん!夢をありがとうございましたー★”


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