Sweet Pain

                             ≪著:観月 凛様


「頼久っ!危ない!」
天真の叫び声と殆ど同時に怨霊が放った閃光が頼久の左腕に直撃した。

「うっ・・・」次の瞬間、あかねと天真の耳に聞こえてきたのは低い
頼久の痛みを抑える声だった・・・。
日頃鍛錬を重ねている身とは言え、図らずも怨霊の攻撃をまともに受けて
しまったのでは、さすがの頼久も痛みを抑えるのは辛い。

「大丈夫か?頼久っ!ちっくしょう。覚悟しろっ、かまいたちの奴、
 許さねえからなっ。」
「頼久さんっ!! しっかりして。」あかねは頼久に駆け寄ろうとするが、
頼久が辛うじて駆け寄ろうとするあかねを阻止した。

「私は・・・大・・丈夫です・・・故、神子殿は敵に集中して下さ・・・い。」

苦しそうな頼久の訴えにあかねはきりりと自分を引き締め、天真に向かって
叫んだ。
「天真くん、召雷撃を使おう。お願いっ!」
「よしっ、わかった。召雷撃でいいんだな?
 俺もそう思っていた所だ。いくぞ、あかねっ。
 召雷撃〜!」

天真が放った召雷撃はかまいたちにダメージは与えたものの、致命傷には
至らなかった。

青龍の二人にとっては同じ木の属性の怨霊である“かまいたち”はやや長引く
相手だったので、戦いは頼久の負傷もあって苦戦を強いられた。

しかし、頼久の渾身の“風破斬”により、ようやくかまいたちの力が弱まり、
それを見計らって、あかねが封印をしたので、戦闘を何とか切り抜ける事が
出来たのである。

「お見事です・・・。神子・・・殿。」
「あかね、やったな。」

「うん。何とか封印出来たみたい・・。ありがとう、ふたりとも。」

あかねの言葉を聞き終わると、少し安心したかのように頼久は片膝を地面に
付けて負傷した左腕を強く抑えてかがみ込んでしまった。
「頼久っ!大丈夫か?」
「頼久さんっ!!」

天真と同時にあかねは頼久に駆け寄る。
天真が頼久の左腕の傷の具合を窺い、素早く頼久の着ている豹柄の短い上着を
脱がせると、包帯代わりに左腕に巻き付け、きつく縛って止血を試みた。
側ではあかねが、真っ青な顔で今にも倒れそうに頼久の様子を見ている。

「すまない・・・天・・真。大丈夫・・・だ。」
そう言って天真の顔を見る頼久の表情はとても辛そうに見えた。

「頼久、歩けるか?牛車を呼びに行くよりも歩けるならば、俺とあかねで
 支えて屋敷まで戻るぞ。どうだ?」
牛車を呼びに行く時間と牛車で進む速度を考えると、自分とあかねで支えて
帰路に着いた方が早く傷の手当てが出来ると天真は判断した。

「ああ。すまない・・・。歩けるから、大丈夫・・・だ。
 手数をかけるな、天・・・真。」

天真は隣にいるあかねに向かって、同意を求めるように頷くとあかねと一緒に
両側から頼久を支えながら藤姫の館へと向かって歩き出す。



館に到着すると、侍所に控えていた若者達に手を借りてすぐに頼久を武士団の
棟にある彼の部屋へと連れて行く。
「あかねはここで待っていてくれ。まだ中には入らない方がいいだろ?」
天真は先ほどから真っ青な面差しのあかねを気遣い、優しく話しかけた。

あかねはしっかり頷くと、頼久の部屋の前の廊下にへなへなと力無く座り込んで
しまった。

頼久が負傷したという話は程なく館中に知れ渡る事となり、藤姫付きの
女房が藤姫の言いつけによりあかねを迎えに渡殿まで迎えに来ていたので
天真があかねを説得して渡殿まで送って行った。

あかねは頼久の側に居たかったのだが、天真から頼久の手当が無事に終わった
事を聞いたので、後でまた様子を見にくることで納得し、とりあえず自分の
部屋に戻ることにしたのである。

あかねが部屋に戻ってくるとすぐに藤姫が部屋を訪れ、頼久の身を案じているあかねを
優しく励ました。

「大丈夫ですわ、神子さま。頼久の体力は人並みはずれておりますし、
 それに、日頃の鍛え方が違いますもの・・・。
 薬に詳しい実之が手当をしておりますし、お医者さまもお見えですから・・・。」

「うん・・・。そうだといいんだけど・・・。
 でも、頼久さんとても辛そうな顔していたの。必死で痛みを抑えているみた
 いだった・・・。
 天真くんも言っていたけど、怪我をしたのが頼久さんじゃなくて普通の人
 だったら、きっと意識を失っていたんじゃないかって・・・。
 頼久さん、大丈夫かな?
 私を護って怪我をしたんだもの・・・。」

「大丈夫ですわ、神子さま。頼久は八葉ですもの。神子さまを自分の身に
 代えてもお守りするのは当然のことだと考えている筈です・・・。
 ですから、神子さまはどうかお気になさらない方がよろしいですわ。
 その方が頼久も気が楽だと思いますから・・・。
 心配でしたら、もう少し落ち着いてから頼久の様子を見に行かれては如何
 ですか?ね、神子さま。」

「うん・・・。そうするつもりなんだ、藤姫。
 ありがとう。それと・・・心配かけてごめんね。」

少しあかねと雑談した後で、藤姫は部屋を後にして行った。



********************************



夕餉になっても頼久の事が心配で、あかねの食はあまり進まない。
それでも、夕餉が済むまでは何とか頼久に会う事を思い留まったのである。
あかねはすくっと立ち上がると、部屋を出て渡殿を渡り歩いて行った。
目指すは武士団の棟、頼久の部屋である。

頼久の部屋の近くまで来ると、あかねは天真と出会った。

「ようっ、あかね。今おまえの所に行こうと思ってたんだ。
 俺、さっき頼久と話してきたんだ。
 あいつなら大丈夫だぜ。安心しろよな。今、起きてるから入っても大丈夫
 だぜ。」
そう言って天真は白い歯を見せて笑いあかねの肩を軽く叩き、その場を去って
行った。

「頼久さん、起きてる?私だけど、入ってもいいですか?」
「神子・・・殿?」
中から頼久の声が聞こえてきたので、あかねはつい嬉しくなってしまい、
その後の頼久の返答を待たずに部屋へ足を踏み入れてしまったのだが、
そこであかねの視線を真っ先に捉えたのは、左腕の包帯を自らの手と歯で
巻いている頼久の姿だった。

白い着物の片袖からむき出しになった負傷した左腕があかねの視線を釘付けに
する。

むき出しになった頼久の腕・・・。
鍛えられ、引き締まった頼久の腕が目の前にあるのだ。

 − どきんっ! − あかねの胸は自然と高鳴ってしまう。

負傷している頼久の腕に見とれてしまうとは何ともおかしな自分だと思う
あかねだったが、やはり視線を捉えて放さない程魅力的な腕だった。

しばらく頼久の逞しい腕に見とれてしまい、はっと我に返って頼久に
謝るあかねである。
「あ、ご・・・ごめんなさい、頼久さん。私ってば、入っていいって言われる
 前に入ってしまって・・・。
 あ、あの・・・その・・・頼久さんの事が心配だったんだけど、天真くんに
 廊下で会って、頼久さんが起きているって聞いたものだから、会いたくて・・・。
 あのっ、ほんとにごめんなさい。」

「いいえ、神子殿。よろしいのですよ。
 この度は不覚にもこの頼久、怨霊の攻撃を受け止められずに、負傷して
 しまい神子殿や天真にご迷惑をかけることに相成りまして、申し訳ござい
 ません。すべて、頼久の未熟さ故に起きたことですので、申し訳ございま
 せんでした。」

あかねは頼久の側に静かに腰を降ろすと左右に大きく首を振った。
「ううん、そんな事ないです。頼久さんが怪我したのは私にも責任があり
 ますから、ごめんなさい。
 自分の未熟さが原因だなんて、そんなこと言わないで下さいね。
 あの・・・、傷は痛みますか?」

「ありがとうございます、神子殿。もったいないお言葉を頂きまして
 頼久は幸せ者です。
 傷の方は、大丈夫です・・・。実之に薬草を煎じた薬を付けて貰いましたし、
 その後で医者にも見てもらいましたので・・・。ただ、当分刀を両腕で
 構える事は出来ないようですが・・・。」
頼久はそう言って苦笑する。

あかねは頼久の表情から昼間の辛そうな気配が消えたのを見てとると、安心した。

「私・・・、私ね、頼久さん。頼久さんが怪我をした時、心臓が止まるかと
 思ったの。すごく心配で・・・。頼久さん、とっても辛そうだったし、
 頼久さんに何かあったらどうしようってそればっかり考えていたの・・・。
 私が替わりに怪我すれば良かったのにって、思っていたの。
 でも、良かったあ。
 また頼久さんの笑顔が見られたし、こうしてお話することも出来て・・・。
 ほんとに良かった・・・。」

頼久は目の前の少女の口からこぼれてくる彼の意表をついた言葉の一言一言が
身に染みて嬉しかった。

「いいえ、神子殿。この傷を受けたのが貴女でも天真でもなくて本当に
 良かったと私は思っております。
 もしも、天真や貴女だったらと思うと・・・。
 特に貴女だったとしたら・・・、私はきっと落ち着いてはいられないでしょ
 う・・・。怨霊の攻撃を受けたのが私で本当に良かった。
 頼久はそう思えてなりません、神子殿・・・。」

「頼・・・久さん。」
あかねの目からは安堵のためか涙がポトリと流れ落ちた・・・。

「ほんとに良かった・・・。頼久さんが無事で・・・。」

「神子・・・殿。
 失礼致します、神子殿・・・。」
そう言ってから頼久は右腕であかねをそっと引き寄せ、自らの胸の中に
抱きしめた。

「少しだけ、頼久に時間を頂けますか?
 今暫く、どうかこのまま・・・で。お許しを・・・。」

あかねは頼久の胸の中で静かに頷き、自らも頼久の存在を確かめるように
腕を頼久の広い背中に回した。

あかねを胸に抱きしめながら、頼久は体中を甘い痛みが通り抜けて行くのを
感じていた。

  − 私はこの方に惹かれているのだ・・・。
    この方を・・・神子殿を・・・お慕いしている。 −

言葉にしなくてもこの時のふたりにはお互いを抱きしめることで互いの
想いは通じているようだった。

外は夕闇色に包まれていたが、二人きりのこの部屋は優しく温かい・・・。

あかねは頼久の広い背中に腕を回しながら、この先も頼久を失うことのない
ようにと願い続けていた。



            − 終 −

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観月 凛様のサイト (紫苑紀行)さん にて、16000HITを踏ませていただき、キリリク創
作として賜りましたv 
頼久×神子、京バージョン、甘系のお話…というリクエストにおこたえいただいたお話です。
ご本人様は「あまり甘くないかも…」とおっしゃっていましたが、そんなことはありません!!
二人の甘い空気を十分感じております〜vvv
あかねちゃんの瞳を釘付けにした頼久さんの逞しい腕…そんな逞しい腕にあかねちゃんは
いつも護られているのですね〜(^^)&抱きしめられているのですvvvきゃぁ☆

観月さんがおっしゃることには、何とも嬉し恥ずかしなことに、このお話の妄想のお役にたて
たイラストが当サイトの裏コンテンツ(裏宿)においている「頼久さん(腕)」というタイトル/笑
の左腕に包帯をひとりで巻いてる頼久さんの図であったというお話なのです////
ウチの裏頼久さんはほんの火付け役(チャッカマン)でして、観月さんの素敵な想像力により
こんなに艶のあるやや妖麗なお話が!!!さすがですv観月さん(^^)

戦う頼久さんには傷は絶えないものだと思いますが、そんな傷にもときめきを覚えてしまう
ヨリストの皆様…熱く語り合いましょう!(笑)

観月さん、素敵な頼×神子のお話をありがとうございましたv
今回の壁紙のイメージは傷=シャープ、甘い=花…?かな…と思いましたので、シンプルな
筆描き風のお花と、傷イメージの斜線と、妖麗さ…といえば紫しかないかな〜ということで、
こんな風に…;描きこみ不足、煮込み不足ですみません(>_<);

         
★恐れ多くも妄想のお役にたてた裏な頼久さんはこちら




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