
黄 昏
≪著:ひなを様
糺の森の山道から、屋敷に帰る途中に、少しひらけた場所があり、その景観の素晴らしさを知っていた頼久は、
「神子殿」
と、立ち止まり、休憩を兼ねてその場所に連れていった。
「わあっ…」
あかねは、感嘆の声をもらした。
まさに、夕陽が沈もうとしている空は、燃えるような茜色で、風景も全てがその色に染められている。
立ち止まって、その空を見つめていると、刻々と夕陽は沈んでゆき、上空は濃い藍色と白く浮かぶ三日月、中間は紫色と茜色が混ざり始めて、いっそう美しい。
なんて、きれいなの…
あかねは、うっとりとしながら、変化する黄昏の空を眺めていた。
頼久は、あかねの様子に目を細めながら、後ろで立ち控える。
「頼久さん、見て!すごくきれいな空の色だと思いませんか?」
振りかえったあかねに、茜色が照らされて、いつもの愛らしい顔が、少し艶めいて見えた。
「美しい、ですね…」
頼久は、あかねに対して言ったのだが、
「そうですね」
と、あかねは嬉しそうに空を見上げて、
「夜に移り変わる時の、空の色って、とても美しいですね」
と、微笑んだ。
瞬間、頼久は息を飲んだ。
夕陽の逆光で、あかねの身体は淡く縁取られ、神々しく輝いている。
「神子殿…」
低く呟いた声は、あかねに届いたかは解らない。
ただ、あかねは茜色の光の中で、優しく微笑み、頼久を見つめていた。
このまま、沈み行く夕陽と一緒に、あかねが消えてしまうのではないかという思いに駆られ、頼久は腕を伸ばし、あかねを胸に引き寄せた。
「頼久さん…っ?!」
驚き、僅かに身を捩るあかねをそのまま抱きしめ、
「神子殿…」
その存在を確かめるべく、腕に少しの力をこめ、あかねの髪に顔を埋めた。
身体に伝わる、暖かでやわらかな感触と、あかねの髪の、梅香の香りに、頼久は動悸を早くさせた。
「よ、頼久さん、どうしたの?」
頼久は、あかねの髪から顔を上げると、
「申し訳ありません…」
と、腕にあかねを抱きしめたまま、謝った。
今、この腕を離す気はない。
離してしまえば、幻のようにあかねが消えてしまいそうで…
恥ずかしそうに頬を染めたあかねは、身じろぎをして頼久を見上げ、
「頼久さん…どうかしたの?」
純粋で美しい瞳に見つめられ、言葉を発するたびに動く唇が、どうしようもなく頼久を惹きつける。
このまま、時が止まってしまえばいい。
永遠に、あかねに見惚れていたい。
頼久は、あかねの瞳が心配そうに曇るのを見て、
「…申し訳ありません」
と、また謝り、
「神子殿が…消えてしまいそうな気がしたので…」
「え?」
あかねは、不思議そうに頼久を見上げて、そして微笑み、
「やだ、わたし、消えたりしないですよ」
頼久の腕に抱きしめられたままで、
「だから、心配しないでください」
と、優しい笑顔で、頼久を癒した。
そして頼久は、胸の奥から湧き上がる、「愛しい」と思う感情に、溺れた。
これはもう、あかねに告げるしかないだろう。
わたしに安らぎを与えてくれるのは、あかねの他に誰もいない。
ずっと、あかねを見つめていたい。
永遠に、守らせてもらいたい。
そのことを…
「神子殿」
頼久は、あかねの視線を絡め取るように見つめ、
「どうか、わたしと…最後の戦いが終わっても、わたしと…ずっと伴に、いていただけませんでしょうか…?」
気のきいた台詞など、出てはこなかった。
ただ、あかねの返事だけを待ち、頼久は唇を引き結んだ。
「頼久さん…」
困ったようにも、照れたようにも思える、あかねの揺れる瞳。
少しの沈黙が、とても長い時間に感じられた。
やがて、あかねが小さく呟いた。
「わたしで、いいんですか…?」
あかねは、頼久を見つめながら、
「頼久さん…。わたしと、ずっと一緒にいてもいいんですか?」
「神子殿以外に、考えられません」
真剣な頼久の眼差しに、あかねは急激に瞳を潤ませ、涙を零した。
「やはり、お嫌でしょうか…?」
と、悲しげに頼久は瞳を翳らせ、そっと、長い指であかねの涙を拭った。
あかねは、首を横に振り、
「嬉しいんです…。わたしも、頼久さんと、ずっと一緒にいたいって、思っていたから…」
「神子殿…!」
感極まって、頼久はきつくあかねを抱きしめた。
幸せだった。
あかねが、自分と同じ思いでいてくれたことが、たまらなく嬉しかった。
頼久は、腕の力を緩めると、あかねの髪に手を差し入れて、
「この頼久が、一生、あかね殿をお守り致します」
と、あかねに誓い、そっと、くちづけた。
空は紫色に変わり、月が朧に輝き始めた。
ふたりは、抱き合ったまま、暫くその場に佇んでいた。
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「天の華」管理人のひなを様からいただきました(^^)
お誕生日の賜り物ですvうわ〜vこ、これって、ぷろぽーずですよね?(>_<)v
頼久さん!そうですわね?うっふふvあかねちゃんの幸せは頼久さんにしか守れ
ないのです!全国の頼×あかびとの120%がそう思ってます(頂点超えてるよ;)。
いつもお世話になっているのはこちらの方ですのに、ひなをさんがリクエストまで
聞いて下さり、私の「夕焼けの中の2人」…という希望を叶えてくださいましたvvv
まさかまさか、2人の想いが叶う所までお話を紡いでくださるなんて!感激のあまり
キーを打つ手も震えます!ひなをさん、本当にありがとうございました!
感極まって、このページの壁紙はお手製ですv私なりに、想いの通じた2人に向けた
情熱の深さを表してみたり…(笑)
といいましょうか、あまりに素敵なお話でしたので、しっくりくる壁紙を見つけることが
できずに自分でイメージすることになったのでした(^^;)あ、あってるかなぁ/////