灯火花
パチパチパチ
軽くて可愛い火花の音。
触れてははじける身軽な火花が、咲いては散って、消えてゆく。

「こっちだよ、フィリエル」

名前を呼ばれた少女が1人振り返る。
陽に透けると金色に輝く赤金色の髪も、夜に紛れると色を失い闇に溶け込んだ。
「ルーン」
軽い足取りで見つめる少年に近づくと、その手元で光るものにフィリエルは目を丸くする。
思わず手をのばし確かめようとした彼女を、鋭い声が制した。

「ダメだよ。それは火なんだ、火傷する」

不服そうな視線を送って頬を膨らませたフィリエルは、触れない距離で指を伸ばし小首を傾げた。

「これは?」

「花火っていうんだよ。この間作ったバクダンの火薬が少しだけ余ったから作ってみたんだ」

───やってみる?

視線で問われ、フィリエルは頷いた。


繊細な手つきで慎重に、手から手へと小さな花火を橋渡す。
よじれた持ち手の部分をゆっくり差し出せば、点消を繰り返す火花がフィリエルの顔を照らす。緩やかにでも確実に、伸ばす腕と共に動く灯火に、フィリエルは目を輝かせた。

「───すごい。綺麗ね」

ニコリと微笑む笑顔が眩しい。
そこから少しだけ目を逸らし、ルーンは静かに口を開いた。

「グラールの一部の地域では、火薬をこんな風に使って楽しんでいるんだ。勿論火薬は危険だから取り扱いは厳しいけどね。元は、この間のバクダンと一緒なんだよ」

「そうなの。…素敵ね」

うっとりと花火を見つめる少女は、本来陽の下で誰よりも輝いた笑顔で笑っていられる存在だった。
生い立ちの中に影を潜め、それでも影に負けない内からの強さを持って、誰よりも輝き続けることの出来る。


けれどもその全てをあっさりと捨て
拘り全てを脱ぎ去って
今、ここにいる。


闇にも消えない、輝きをもって。


小さな火花は、暗闇を照らしては次の瞬間消えてゆく。
暗闇が、何度打ち消そうとしてもくじけず灯り、
決して塗りつぶされることはなく。


一瞬の、儚い命だとてその光は鮮烈で。
瞼の裏に残光を残すほど、美しく鮮やかに燃え尽きる。


フィリエルの目が花火に釘付けになっていることをよいことに、ルーンはフィリエルを見つめ続けた。



ずっと見つめてきた、ただ1人の少女。


(躍起になって塗りつぶそうとしてるのは───…)


ふと浮かんだ背筋が凍る思考の向こうで、フィリエルが、暗闇の中でさえ輝いた笑顔で微笑んでいた。


「あ」


音もなく火が消える。



(消して、しまったのは───)




不意に、泣きそうになった。






しかし






「ルーン」

耳に飛び込んできた鈴の音のような声。

「みて…!!」


声につられてフィリエルが指さす空を見上げると、そこには




「ねっ満天の星空…!」





極上の、笑顔。








光の近くにあって、闇はその深さを増す。
しかしすべてが闇に染まっても、次には光が欲しくなる。


2つあって初めて成り立つ世界が、ここにある。




「観測日和だ」



応えたルーンが仰いだ空に、くず星1つ流れて消えた。
            fin...
2002/01/10


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