波動








 いつものようにイキナリでムリヤリな帰国だった。
 日向はたったの3連休を利用してオレのマンションに来た。とは言っても帰国初日はチームのスポンサー絡みの断り切れないCF撮りで、今日が法事、そして明日にはまたイタリアへ帰ってしまうのだった。
 そんな思いまでしてわざわざ来たくせに、ヤツは。
 オレのベッドで背を向け寝てしまっていた。オレがシャワーを浴びているうちに。




 頭からぼたぼた落ちる水滴でベッドを濡らしながらオレは日向の肩を足の裏でグイグイと揺らした。日向はいつものクセで壁のほうを向いてベッドの隅で眠っている。
「ちっ」
 何しに来たんだ。ばーか!!
 オレだってオフは今日と明日だけなんだよ。こんな夜遅くに来て先にシャワー浴びて寝ちまってどーするんだよ、ばーか!
 そりゃ飯食わせてビール飲ませちまったのはオレだけど。だからってビールで酔うか?!まさかだろ!

 オレは乾燥機に入れっ放しだったTシャツとトランクスを穿いて、わざとベッドを軋ませて隣に座った。日向はみじろぎもしない。
「日向、しようぜ」
 オレはヤツの耳元で大きな声を上げた。
「起きろ!テメエ寝んな!」
 別にそんなにしたかったワケじゃないけど・・・ヤツならこれで起きるかなあと思って。しかし日向は「ん、」とか小さく返事のような声を上げただけで、やはりこちらを向かなかった。
 バサリと毛布をほろうように潜り込んだが、スヤスヤとデカイ背中には不似合いなカワイイ寝息を立てていやがる。オレはもう多分意地になっていた。
「日向、起きろ。ヤッちまうぞ」
 背中から抱き締めるように腕を回すと、初めて日向が小さくみじろいだ。探るように回された腕に触れてくる。
 オレは、日向の手を振りほどき手のひらをじょじょに下ろしていった。肩を冷やさないようにTシャツを着たヤツも、下は同じくボクサーパンツ一枚だった。布越しにヤツ自身を指先で辿る。何度も、輪郭をなぞるように指先で辿った。それは日向が眠っていてもどんどん硬さを増してくる。空いているほうの手でヤツの肩を抱き寄せ、次第にオレは自身を慰めるように手を動かしていた。
 突然、日向の腕が回され首を抱えられる。
「口でしろよ」
 日向はいつのまにか目覚めていた。オレのほうを見てニヤリと笑っている。
「イかせてやるよ」
 オレはヤツの上半身に乗り上げ、下着に手を掛けた。




 日向の硬い腹筋に腕枕するように右腕と顔を乗せ、さっきまで指先で辿っていた布越しに、既にカタチを現していた日向自身を手のひらで包むように撫で上げる。そのままボクサーパンツを引きずりおろし、先端に吐息を掛けるように掴み口付けると日向の片足がビクリと膝を上げた。
 ゆっくりと舌を這わせ、何度も口付ける。顔を上げ口に含むように舌を這わせると、日向から深いため息が漏れた。
 日向の手のひらが無意識にオレの髪に差し入れられる。強引に咥えさせる為ではなく、オレにさせている間快楽を伝えるようにこめかみや耳に指先を触れさせてくる。
 自分がしている行為よりも、日向のその甘い仕種に頬が紅潮するのを感じた。口内の日向自身からどくどくと血が集まるのを感じる。オレは頭を上下させながら日向自身に舌を這わせ続けた。
 不意にガッシリと肩を掴まれると、日向は強引にオレの上半身を仰向けになっている自分の上に抱き上げた。そのまま唇を求めてくる。
「オマエ、フェラさせてる途中でよくキスできるな」
「関係ねえよ。オマエはイヤだったのか?」
 オレが返答出来ずにいると、日向はオレを敷き込み再び口付けだした。ちゅ・・、ちゅ・・と音を立て何度も浅く舌を絡ませてくる。
「降参だ。すっかり目が覚めちまった」
「最後までしてやるよ」
 今更だが自分で仕掛けたことが恥しくて、オレはわざと擦れた言葉を吐いてみせた。
「や、もう・・してえ」
 日向はTシャツを脱ぎ捨てるとオレのTシャツも剥ぎ取り、そうしながら口付けを落としてきた。貪るように求められ、ヤツのゴツゴツした長い指先が脇腹をかすめる度背中が跳ねてしまう。すぐにどうしようもなく感じてしまう自分を覚られたくなくて、オレは日向に見られないところでシーツを握り締めた。

 日向が口元に咥え片手で器用にゴムの包装を破る短い間、オレは乱れて苦しくさえある呼吸を整えていた。胸が大きく上下している。
「オレがぜんぶ曝け出して乱れてるってのにオマエは余裕だな」
「誰が、何を曝け出してるって?」
「オレが、ぜんぶだ」
 日向はそう言うとオレの唇を塞ぎ、自身を深くうずめ込んできた。そのまま腰を動かし始める。
 上気した顔で、いつもは挑むような眼差しが熱をおびて投げ掛けられる。汗で濡れた日向の前髪がオレの目の前で揺れた。
 日向は途中何度も愛しげに口付けてくる。
 誰が、
 余裕だって?
 オレは日向の首を抱えると深く舌を絡めた。オレの体の中には日向から流れ込んだ熱でいっぱい。腕も、胸も、病気のように熱かった。そんな風にオレは感じていた。
 どうしてそれがわからない?
 もしかして、日向もオレと同じくらい体の中が熱でいっぱいなのだろうか・・・・・




 日向は、オレの肩に腕を回すとわずかに残った体力でオレを抱き締めた。
「向こうにいる間いつも妄想してる」
「妄想って何だ・・」
 オレが呆れていると日向はみじろぐようにオレを抱き締め直し、髪に顔をうずめてきた。
「オマエの感触。一昨日も、中継地でやっぱ引き返そうかと思ったけど。オマエの感触確かめたくて来ちまった」
 日向があてがうだけのキスをしてくる。オレは自分の顔が熱くなっているのをハッキリと感じた。
「忘れられないけどやっぱり妄想とは違うな、ホンモノの感触は」
 日向はそう言いながらうつらうつらとしている。
 生意気な視線が目の前で瞼を閉じ始めた。
 オレは、言い逃げされたような恥ずかしさで動けなくなっていた。普段は必要な言葉すら口にしないくせに、こうして時々思いもよらない言葉を口にする。

 時計はもう『明日』になっていた。起きたらシャワーを浴びて、空港で食事するくらいの時間しかない。
 それでも、有意義な連休を過ごした気持ちの自分がやはりちょっと恥しかった。
 次の連休には。オレがイタリアに行ってやってもいい。
 一晩眠る為だけに渡欧する、そのくらいの稼ぎもいまならオレにもあるし。
 再びスヤスヤと寝息を立てる日向につられ、オレもゆっくりと瞼を閉じた。一度だけ瞼を持ち上げ、目の前の日向を確かめて。








END
波動/AJICO
君の鼓動を側に感じて 波はどこかでいまも生まれるよ



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