「んんっ・・・」
 日向がTシャツをたくし上げるように掌を這わせると、それだけで咽喉が高く反らされた。指先がその小さな突起を掠めると、日向に比べるとまだキャシャな四肢がビクリと震える。中指でわざと触れるか触れないかの感覚で掠め続けると、かぶりを振って松山が唇を噛み締めた。
 咽喉もとまでTシャツをたくし上げ、鎖骨に沿って舌を這わせる。始まったばかりの愛撫に、松山は既にどうにかなってしまいそうだった。結わえた手首まで完全にTシャツを押し遣り、露になった上半身に幾つもキスをほどこすと、与えられる甘い疼きをどこで受け止めればいいのかわからず松山は瞼をぎゅっと閉じてこぼれそうになる嬌声を必死に抑え込んだ。本当は、声を上げてしまったほうがずっと快楽に近くなることなどはまだ知りもしない。
 プツリと立ち上がってしまった小さな突起を舌先で愛撫され、大きく仰け反る。脇腹を撫で上げられるとシーツに波を立てて上半身が泳いでしまう。まだ中心の、松山自身は視界に晒されてもいないのに、既に頂点に追い詰められ始めていた。
 日向はどうやら弱いらしいその小さな突起の周りに集中的に愛撫をほどこし、薄っすらと開かれている真っ黒な瞳が潤み揺れ始めたのを見て弱くカリ、と爪を立てた。
「ひゃっ・・・」
 そのまま人差指の腹で押し潰すようにわざとゆっくり弄る。
「くうっ・・っ・・」
 敏感になった肌に、一点に与えられる愛撫が逆に激しい快感をもたらす。松山は自由にならない両腕を顔の前に寄せるようようにして掌に力を入れ、何とか遣り過ごそうとした。しかし、日向はやめようとしない。
 再び弱く、爪を立てた。
「ひゅう・・・っ、だめ、も・くるしい・・・っ」
「苦しい?気持ちいいじゃなくって?」
「や、ちが、くるしい、も・やぁ・・・っ」
 すっかり汗で湿った前髪がパサパサと、頭を振るたび額からこぼれた。
「ぁっ、ぁ、ぁ、・・・」
 それでもやめる様子のないイタズラな指先の動きに、背けた横顔をシーツにうずめると、こめかみから伝わる汗とは別に涙がこぼれた。
「力、抜けよ」
 二の腕を内側から撫で上げながらゆっくりと唇を重ね、舌を絡めた。抱きしめるように腰に手を回すとジャージの中に手を差し入れ、トランクスの裾から小さく引き締まった双丘に掌を這わせる。触れてくる舌先とは別の刺激に松山の口内がビクリと震えた。
 自身に押し付けられた膝頭に、逆に自身の脈を感じてより昂ぶってしまう。一息に下着ごとジャージを下ろされ、突然冷たい空気に晒された体がビクリと驚く。それ以上に、熱くなっていた自分の体に松山は驚いた。
 自分も着衣を脱ぎ捨てた日向が再び松山に覆い被さってくる。本当は、もっともっと泣かせたいけれどこれ以上はもう無理のようだった。滴をこぼし続けるすっかり勃ち上がってしまった中心を見詰められ、松山はどうにかなってしまいそうだった。
「イジワルしないから。力抜けよ」
「どぉ、・・やってっ・・っ」
 首筋から耳の裏にかけて口付けながら、日向は松山自身を握り込み強弱をつけて手を動かし始めた。
「・・・っぁ、ぁ、ぁ、ぁ」
 憶えのある刺激に自然と声が漏れてしまう。
「そう、ちょっとくらい声上げたって聞こえやしねえから」
「ひゅう・・・が、コレ、ほど・・いて・・」
 熱く湿ったせわしい呼吸の間、すっかり汗に濡れた松山が懇願する。
「もうちょっと・・・な、ガマンしな」
「やぁぁぁぁ!!」
 そう言って日向が激しく扱くように手を動かすと、桜色に染まった胸元を反らせ松山は達してしまった。

「あ・・・・・」
 びくびくと痙攣する腹部に散った乳白色の飛沫をついいまさっきまで自身を慰めていた掌で拭われて、とうとう松山の瞳から大粒の涙がこぼれた。涙を追って唇を這わせると、もう一度日向は口付け耳元で囁いた。
「すげえ・・・オマエ、カワイイ」
 いつもなら拳のひとつも入れている言葉に、今日は達したばかりの自身がジン・・と疼いてしまう。
「もっと気持ちよくしてやるから、もうちょっとガマン・・・な」
 そう言って日向は松山の足首にまだ掛かっていたジャージを最後まで引き抜くと、膝裏を持って両足を立たせた。
「ひゅ・・が・・?」
 転入して反町と同室になってから、ろくに自慰もしていない体に過ぎた愛撫を受け、松山は意識が朦朧とし始めていた。
「なに・・・?」
 松山の問いには答えず、日向は松山の下半身に顔をうずめると松山自身を熱い口腔に含んだ。
「!!」
 突然の刺激に松山の背が跳ねる。思いもしなかった日向の行動に、縛められているのを忘れ両手を強く引き寄せてしまう。シャツの結び目がキツク擦れ、熱い痛みを感じた。
「あっ、やぁ、やだ!ひゅうが!」
 松山の抗議を無視して根元をキツク吸い上げるように口付けると、再び含み強く舌で愛撫した。
「っぁ、・・・ぁっ、ぁっ、ぁっ」
 いやいやをするようにかぶりを振る度、黒い瞳からぼろぼろと涙がこぼれた。いつのまにか自分では触れることのない後孔を無遠慮に舌で拓かれ、松山は顔をその腕で覆うことも出来ずしゃくりあげる。
「ひゅぅ・・がぁ・・っ、イジワル、しないって、言った・・のに・・っ」
 もうこれ以上ガマン出来ない。どうにかなってしまう。

「ワルイ・・・キツかったか?」
 日向は体を起こすと松山の耳にちゅっと水音を立ててキスをして、ゆっくりと互いの両足を絡めた。不意に熱くて硬い日向自身を肌で感じ、松山は震える肩で呼吸をしながら日向の顔を覗き込んだ。
「入れるから、力抜いて・・な・・」
 日向はそう言って松山の片足を抱え上げると、口付けで松山の唇を塞ぎ自身を後孔に宛がった。松山とかわらないこぼれる滴に助けられ、腰を進めた。
 突然突き上げられた熱い痛みに、飲み込みきれない叫びが上がる。一度知ってしまった痛みは恐怖を倍増させ痛みを大きくしているような気がした。
「ひゅうがぁっ、コレとって、ほど・・いて・・っ」
 激しくかぶりを振る松山に腰を進めたばかりの日向はそんな松山の鼻先を掠めるようにキスをほどこすと、両手を自由にしてやった。
 始めはまず最初にイッパツ喰らわす予定だったのに、松山は解放された両手を日向の背中に回しキツク抱きついてしまった。
「痛いか?」
 前回のようにいきなり腰を動かさず、自身を松山にうずめたまま松山を抱きしめると、すっかり汗で濡れた髪に手を差し入れ日向は問い掛けた。
 松山は日向の肩に顔をうずめたまま額を擦り付けるようにうなずいた。痛みで言葉がうまく綴れない。そんな松山の様子に日向は松山自身に手を添えると再び強弱をつけて手を動かした。舌を絡め、深いキスをする。段々と松山の息が上がり出すのを待って、ゆっくりと腰を動かし始めた。添えているだけの手に、日向の腰の動きにあわせ自身がこすれ、小さな嬌声が上がり始める。
 痛みだけを感じていた秘められた場所が、いつのまにか甘く疼いているような気がしてきた。自分の中で先程よりも更に熱と硬さを増している日向自身に突き上げられる度、体の奥までソレで貫かれているのを感じる。今迄に見たことのない熱のこもった眼差しで見下ろされ、松山は自分から口付けた。
 舌の裏を舐め上げるように絡められ、飲み込み切れない唾液がこぼれてしまう。前回よりゆっくりとしたストロークが逆に松山の体を甘く解かした。日向が腰を打ち付ける度、敏感な内壁を逆撫でされるような感覚に爪先まで快感が溜まる。これまでに経験したことのない甘い痙攣だった。
「・・っ・・んっ、んっ・・・・ぁ・・・・っっ」
「声上げろよ。そのほうがラクだから」
「ダメッ、変な声、でちまう・・っ」
「聞かせろよ、オレだけに」
 松山にそう告げながら、深くうずめられた日向自身がより存在を増したような気がした。
「や・・・っ、ダメッ、オレ、変になっちまう・・よお・・!」
 しがみつかれた動きづらい姿勢で、日向は奥まで挿入したまま最奥を突き上げるように腰を押し進めた。
「ぁっぁっぁっひゅうが!!」
 自身を日向の腹部に押し付けるようにしがみついた松山に激しい痙攣が訪れた。日向もまた、松山の中に自身の熱を解き放っていた。




 肩まで毛布を引き上げ、ぐったりと松山が眠っている。その横で、日向がいつになく後悔と反省にさいなまれていた。
 首にも肩にも腰にだって跡は残さなかった。だがしかし。
 この松山の涙で腫れ切った顔はどう説明すればいいのだろう。苦し紛れにやわらか仕様の保冷シートを当ててみたがいまのところ目覚ましい効果は上がっていない。そしてこの手首・・・・・
 とりあえずサーポーターを兼ねたリストバンドをはめてみたのだが、広範囲についた痛々しい痣がどうしても覗いてしまう。
 大体跡が残らないようにとわざわざ帯状の布で括ったのに、こんな痣になるなんて余程の力で暴れた証拠である。この腕力が拳になって明日は自分に向けられると思うと日向はストイックに通し切れなかった(せめて夏休みにどこか旅行に行くとか)自分をちょっと見捨てたくなった。
 どうせなら、翌日足腰が立たなくなるくらいしてしまえばよかった。(ちなみにこの計画は翌々日に倍々返しで拳を喰らうということを日向は後日知る)
 だけどこれは、松山から自分を求めてくれるまで続くであろう苦悩であることを、日向は笑みをこぼすような溜息の中知っていた。
 いつだって自分のほうがより松山を求めている。この気持ちのよい敗北感を隣で眠るコイツは知らないのだろう。日向は自分も毛布に潜り込むと、赤く瞼とその周辺を腫らしながら深い呼吸を繰り返す松山に顔を寄せた。そっとその眦に唇を重ねる。
 スキだと言え。オレのこと。

 オレが100回言ううちの1回でいいのだから。








END



 

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