「あれ? 松山水浴びてたの?!」
 僕が部屋へ戻った時、松山はまだシャワーを浴び終えていなかった。腰にタオルを巻き出てきた松山が、いつものようにほんのり桜色じゃないので僕は思わずその腕を掴む。
 松山の硬い腕は、まるでプールから出たばかりの冷たさで、僕はあわてて別のバスタオルで松山の体を包み上から擦った。
「大丈夫、ゴメン、のぼせそうになったから最後にちょっと水浴びただけ」
 そう言って松山はパジャマ代わりの半袖半ズボンのスウェットを着た。
 僕は、それでもまだ濡れたままの頭にバスタオルを被せ、わざとガシガシ乾かした。ちょこんとベッドに腰掛けていた、松山の顔を覗き込む。
「まだ朝のこと気にしてる?」
 フルフルと松山が頭を振る。
 翼くんとはまた違う、もう僕のことこんなにヤキモキさせる子兎は他にいない。
「あの…、」
 いつもは歯切れのよい松山が、言った切り黙ってしまう。
「なに?」
 僕は横に座り、松山をせかすつもりが無いことを伝えた。
「あの…」
 いつの間にか、さっきまで薄い日焼けの色だけを残していた松山の肌が、いつもの風呂上がりのようにほんのり桜色になっている。
「みさ…っ、みさ、きッ、もッ…、」
 声が擦れて裏返り、そんな自分の声に松山は増々赤くなる。
「み、みさ…きも、マスかいたりするの…?」
 最後のほうは小さく消え入るようで、きっと耳を澄ましていなければ聞き取れなかった。
 僕は、すぐに返事をしなくてはまた松山が逃げてしまうと思いながら、だけど松山を怯えさせない返事をしなくてはと考えた一瞬黙り込んでしまい、結局松山のように喉に引っ掛かったオカシナ返事をしてしまった。
「あ…るよ!」
 松山が、ビクリと震える。
「あるってゆーか、してる!」
 少し大袈裟に言ったほうが安心させることができるかな、と言ってしまってから、もし松山も余りしていなかったら子供扱いしたみたいで逆に傷付けるかなとドキドキしてきた。
「オレ…、」
 松山が、ようやく唾を呑み込み言葉を続ける。
「したことない、ってゆーかうまくできない、みたい、」
 予想もしなかった展開に、松山の言ってる意味がわからなくなる。
「勃起しない…じゃないよね、してたよね」
 何か喋らなくてはと思いつつ、今朝のことを思い出し質問が自己完結してしまう。
「勃…つんだけど、抜けねえの。最後まで、できない」
 ここまで話して、恥ずかしがっては格好が付かないと思ったのか、松山は一生懸命ハッキリ話そうとしているようだ。
 僕は、話して?と、シーツを掴んでいる松山の手にそっと自分の手を重ねた。
「中学の頃、みんなが話してんの聞いて、マネしてみたんだけど…」
 それは、僕が転校してから何年も経ってからのことだろう。
「普通に勃ったんだけど、先っぽ触ったらすごく痛くてビックリして、それからしばらくしなかった」
 重ねた手のひらの下の、松山の手がギュッとシーツを握る。
「その後何回かしようとしたんだけど…なんか怖いのと、でもしないのもオカシイかなとかそーゆーのぐるぐるして、でも結局最後までできなかった」
 松山は、子供が抱く潔白への忠誠と、清濁をあわせ持つことが健康な精神(自慰は決して『濁』ではないが)だという常識の間で思春期らしく揺れているようであった。でも、痛かったのはどうしてだろ?
 僕は、すごく悪いことを思い付いてしまった。
 こーゆー悪戯は、悪い子同士しか似合わない。僕と彼とか、ね。
 なのに僕は、俯く松山の頬が桜色から夏の立葵のように濃い紅色へ変わっていくのを見た時、かわいい彼を僕だけのものにしたくなってしまったのだ。
 友達でも、恋人でもない僕だけのかわいいひと、に。
「ねえ、松山はどういうふうにやったの?」
「どうって…ッ」
 松山が、驚いてこちらを振り向く。
「僕さ、ほらあちこち転校したけど。みんな雑誌だったりDVDだったり友達から聞いたり…情報の入口がバラバラなんだよね」
 身長は僕とほぼ同じはずの松山なのに、松山は幼く僕を見上げている。自分が始めた会話の行き先に、もう既に怯えている。
「だからさー、ウソだろーってやり方でやってるヤツとかもいた。ホントに気持ちいいのかなーみたいな」
「そゆの、友達と話すのか?」
 松山はそーゆー会話に、小田達から多分意図的に外されている。困ったもので、彼らは自分たちのキャプテンを穢してはいけないと信じている。だから、多分松山がそーゆー話をするのはどうってことないクラスメートだったりするのだろう。
「だって松山だってヤりかた友達から聞いたんだろ?」
 そうだけど、とまた松山は俯いてしまう。赤い耳朶が、食べてしまいたいくらいかわいらしい。
「ねえ、教えて?」
「え?」
 素直な松山が、なに?とこちらを向く。
「やってみせて。どうするのか僕に教えて?」
 松山は、理解するまで時間が掛かったのか、しばらく僕を見ていたんだけど、急にカーッと頬から耳までもう一段赤くなると、思考が働き切らないままアワアワと答えた。
「な…ッにを、だって、どうやって…ッ」
 また下を向いてしまった松山の目元は濡れた前髪が束になって邪魔して見えないけれど、瞳はきっとゼリーのように揺れている。
「お兄ちゃんとか、先輩に教えてもらったヤツって、目の前でやってもらったり自分のをやってもらったりする(ヤツもいる)んだって」
 驚いて振り向いた松山の瞳は、思った通り溢れ落ちそうに揺れていた。
「だからさ、僕のことお兄ちゃんだと思って試してみようよ」
「でも…、」
「小次郎とかも、寮暮らしだから先輩に教えてもらったんじゃない?」
 小次郎への対抗心を持ち出すのは卑怯かなーとか、これって教えてもらったかどうかは言ってないよね、と自分のあざとさに自分で頷きながら、それでも僕は松山を誘惑し続けた。
「僕なら、恥ずかしくないでショ」
 松山が僕を拒否できないことを知っていて、ね、と囁きかける。
 何か言い逃れようとして、結局言葉の見付からない唇が震えるようで、かわいい。
「座ってたの? 寝てしたの?」
「…座…って、た…」
 松山が、グラウンドの彼からは想像できない、震える擦れた声で答える。
「ズボンおろしていい?」
 松山が動けずにいるのをいいことに、僕はそっと松山のスウェットを足の付け根までおろした。僕たちだけの内緒にしよう?そう言って、僕は松山のボクサーショーツもほんの少し、おろして見せた。腰骨のラインが驚くほど綺麗で、僕は思わず息を飲んでしまった。
「いい?」
 確信犯で尋ねると、松山はとうとうコクリと小さく頷いた。
 僕は、多分勃ち上がり始めているであろう松山自身にショーツが触れることのないよう、丁寧に同じく付け根までおろした。
「ちゃんと、勃ちそうだね」
 松山はもういまにも泣きそうで、そうわかっていて言葉にする僕ってSなのかなとちょっとドキリとした。
 松山のソレが、きちんと剥けていることを僕は初めて知った。
 子供の頃どうだったかはわからない。あの頃は、包茎とかどうとかいうこと自体知らなかったから、そんな視点で松山のペニスを見ることもなかった。
『剥けてたから逆に刺激が強すぎたのかなー』
 ついついジッと見てしまった僕に、松山が耐え切れずショーツに手を掛ける。
「やっぱり、やめ、」
 その手を掴み、そっとペニスに添えさせる。
「ゴメンネ、ジッと見たりして。でも、松山のペニスちゃんと大人だよ。やっぱり痛くないハズだよ」
 怖くないよ、と体を寄せる。
「どうやったの? どう手を添えたの?」
 観念しようとして、でもできなくて松山は硬くした体を震わせている。僕が女の人だったら、頭からパクッて食べちゃうところだ。
「痛くなったら言ってね。どういう風にしたの?」
 松山は、震える小さな声で、こう、と言ってペニスに下から右手を添え、ゆるく、本当にゆるく握るとそっと上下させるジェスチャーをした。
「恥ずかしいだろうけどしてみてね。だって本当にやってみないとどこで痛くなるのかわからないでしょ?」
 そう言って、僕は松山の掌の上からやんわりと松山自身を握った。
 ビクリと、松山がさらに体を硬くする。
「まだ痛くない?」
「…ん、ん、」
 否定とも、肯定とも言えない声を、松山が切なく漏らす。松山の顔は既にすっかり紅潮していて、額にうっすら汗を掻いている。
 松山は気付いているだろうか、掌の松山は僕にも伝わるくらい、硬く勃ち上がり始めている。
 ハッ、ハッ、と松山が息を潜めようとしてもかなわず吐息が零れ、正直僕は股間が熱くなり始めた。友達と冗談半分で見た、どのAV女優よりも松山は切ない表情で、浴びたばかりのシャワーがそのことを強調していた。面倒くさがって、不揃いのまま伸ばした前髪が少し束になって揺れているのが、扇情的過ぎる。喉仏があるのに、その首から鎖骨のラインが腰骨と同じくらい中性的だった。
 そのラインを、朝露のような汗が辿る。
 中性的であるということは、セクシュアルであるということに性別は関係ないということだと僕は頭の隅で考えた。
「みさき、みさッ…、」
 ハッと我に返り振り返ると、どうしようという泣きそうな表情で松山がこちらを見ていた。
「痛くな…けど、な…んか、漏らしそう、」
「大丈夫、絶対漏らさないから」
 コンドームを着けさせておけばよかったかな、と考え、次の瞬間どうして僕がゴムを持っているのかは説明できないなと思い直した。床なんか、拭けばいい。
「痛かったり、怖かったらりするなら先端は触らなくていいんだよ」
 言いながら、僕はわずかに裏筋に触れ、松山がうっかり萎えてしまわないようにと射精を促した。ビクリと痙攣するように膝が跳ね、松山が僕の名前を呼ぶ。僕は、心配ないよと松山の膝にもう片方の掌を載せた。その間も少しずつ、少しずつ裏筋を愛撫しながら松山のペースで松山自身を扱く。
「…ッ!!」
 ギュッと目をつぶった、松山がビクンビクンと大きく震えた。僕の指先がわずかにカリに触れただけで耐え切れず、松山は射精してしまった。
 勢いよく、白濁した薄い練乳のような液体が、毛足の擦れたカーペットに散った。
 松山の膝は、驚きでガクガク震えている。
「よかったね、大丈夫、ちゃんと射精できたよ」
 僕は、努めてどうということはない、予定通りという風に声を掛け、松山が動揺するといけないのでさりげなく床に溜まった精液を備え付けのティッシュで拭った。ふッふッ、と上擦る呼吸でいまにも溢れ落ちそうな涙を堪えている松山が、抑え切れないくらい愛しかった。
 僕はまったく日焼けしない体質だけど、松山もチームメイトに比べれば日焼けが薄い。瑞々しさだけを強調した、張りのある薄いコッパーローズの肌が上気してより紅を増し、汗でしっとりとした様子に僕は改めて煽られた。スウェットのVネックはユニフォームのそれと同じラインを辿っていたけれど、その露出していない部分が透き通るようにやはり瑞々しく、裸体を示し色を違えていることを僕は知っている。
 その、透き通るような肌もいまは紅を増ししっとりと濡れているのだろう。
 僕は、最初で最後と自分に誓い、汗で濡れた松山の前髪をそっと掻き上げた。
「ねえ松山、このまま僕と松山だけの内緒の悪戯しない?」
 松山は、まだ呼吸を抑えられずシーツを握り締めている。
「内緒だよ?」
 僕は、問い掛けが松山の耳に入っていないことに気が付いていながら、松山をベッドに腰掛けたまま仰向けに倒し、そのまま覆い被さるように顔の脇に手をついた。松山は、ようやく意識を僕に向け、揺れる瞳で僕を見る。言い訳には使えないけれど、その場で自分を合理化するには十分な瞳だ。
「みんながするわけじゃないけど。こんな悪戯するヤツもいるんだよ?」
 僕は、そう言って松山の腰骨をそっと撫でた。夕方替えたばかりのシーツ上で、魚のように体が跳ねる。
 体の位置をずらすと、松山のペニスを触れる程度にそっと起こした。
「岬?」
 脅えた、だけど濡れたままの声が僕の名前を呼ぶ。僕は、その呼び掛けに答えずゆっくり体を屈めた。
「い…ッ!!」
 松山自身の先端を、ペロリと下から舐め上げる。
「ヤッ!!」
 ビクンッと、さっきまでとは比較にならないほど体を跳ねさせた松山が、ベッドから落ちるのではというくらい仰け反る。僕は、構わず根元から先端までもう一度舌を這わせると、先っぽだけ口に含んだ。
「岬、やめ、やだ、きたな…!!」
 かわいそうに、松山の瞳からはとうとう涙が零れてしまった。耳まで真っ赤で眉根を寄せた松山が、可能な限り上体を持ち上げ懇願してくる。
「汚くないよ。いまさっきシャワー浴びたでしょ?」
「でも、ちが、みさきたのむから!!」
 慌てた松山は肘をつき起き上がろうとして、ガクガクと震えるその肘が何度もシーツを滑った。
「やぅ…!!」
 僕がちゅっと先端を吸うと、そんな状態でグッと体を折り曲げる。松山のペニスはあっと言う間に硬く勃起して、でもその色は桜色で形もぜんぜんグロテスクではなかった。
「ヤッ、や、やッ…ッ!」
 両腕を交差するように顔を覆い、腰骨辺りをビクビク痙攣させる松山はもう嗚咽を上げ泣いている。だけど、間々に上がる甘い悲鳴に僕はもう僕を止められなかった。
「う…んぅ!!」
 もういつ射精してもおかしくないペニスを根元で締め付け、熱い吐息で責め上げる。亀頭をすっぽり含みカリと裏筋の付根に舌を当てたまま吐息を吐くと、その濡れた熱さに松山は手の甲を噛む。
「やぁあああ!」
 隣の部屋の、あるいは廊下を行く誰かに聞かれないように、必死で悲鳴を噛み殺す、擦れた鳴き声が僕にだけ届いた。
 僕は、一度松山を唇から解放すると、ドクドクと脈打つ松山を掌に納めたまま体を起こし、噛み締められた左手を掴みそっと引き離す。
「力抜いて。痛くないでしょ? 怖くないから。この建物結構防音だから、僕のリズムに合わせて声上げていいんだよ?」
「みさき、も、ヤダ、」
 松山の目尻からシーツにボタリと大きな粒が零れた。僕は、掌に含んだ熱の塊をゆっくりと下から上に、上から下に撫で下ろす。松山が、ビクリと震え先走りがじんわりと滲む。
「!!」
「ね、これって気持ちいいんだよ。痛くないの。怖くないから、僕のこと信じてね」
「でも、オレ、」
 僕は松山を無視して再び体を屈めた。唇に含み、やんわりと舌で包み込む。今度はよりゆっくりと、頭を上下させると松山の切ない声が漏れ始めた。
「あ…ッ、ん、んぅ、」
「そう、声上げていいんだよ」
 一度唇から解放したペニスに横から口付けながら、語り掛ける振りをして吐息で愛撫する。
「ン…ッ、ン、ン、んぅッ」
 いまやくったりと投げ出された松山の腕がシーツに沈んでいた。その指先に、そっと指先を重ねるとすがるように握り締めてくる。少しずつ追い上げるように愛撫を強め、フと顔の方を見上げると松山が一生懸命僕を見ていた。
「気持ち…いい? ねえ、いいって言ってね?」
 松山が手をギュッと握り返してきたのを合図に、僕はカリを唇で刺激するように強く扱いた。根元を解放されていた松山は、耐え切れず僕の口内に射精した。
「あ…!!」
 弛緩したような、硬直したようなアンバランスな体で松山が横たわっている。ハアハアと、濡れた吐息が見えそうなくらい松山は胸を上下させていた。汗と涙で濡れた頬が、真っ赤に上気していて堪らなくかわいらしい。ヒクヒクと小さく痙攣している、内股もうっすらと紅色に上気してしっとりと濡れている。
 僕は、これ以上松山を困らせるわけにもいかないので、精液をそっとティッシュに吐き出すと松山の濡れた前髪を掻き上げ撫でた。
「怒った?」
 怒る余裕なんか無いのを知っていて、僕は問い掛ける。グレーのスウェットの胸を濃く濡らし、もう一度シャワーの必要な松山が筋になった涙をぐっと拭った。
「岬、誰かとこんなことしたの?」
 子供の時のような言葉になっている松山に、ドキリとしてしまう。
「しないよ! 初めて! 松山だから、僕も、してみたくなっちゃった…」
 悪戯では、初めて。そう心の中で追加した。
「本当に、初めて?」
「うん」
 僕は、どうして胸が痛まないのかなと自分を訝りつつ、でも松山もいつか恋人ができ、セックスをするのは初めて?と聞かれれば同じように答えるだろうと思った。これは、そういうことだ。
「じゃあオレもする」
 僕が松山の言葉を反芻しようとする前に、グイッとスウェットごとボクサーショーツを引き上げた松山が起き上がり僕のジャージに手を掛けた。
「松山?!」
「オレだけこんなの、岬ズルイ」
 そう言ってジャージを引き下げられた僕のブリーフは、何時の間にかすっかり張り出していた。
「…ッ、」
 松山が息を飲むのがわかる。
「岬、顔とぜんぜん違う」
 怒ったような、照れたような松山は自分が言葉責めをしている自覚のまったくないまま、ぎこちなく僕のブリーフをずりさげた。ほとんど完全に勃起した、僕自身が目の前にさらされる。
「松山?」
 松山は、無視して僕自身に触れようとして、そのくせ触れた瞬間ビクリと躊躇った。そっと、いやこわごわとその手を添える。震える指先が、やんわりと僕を包み込む。
 驚いたことに、松山はその体を屈めた。
「松山?!」
 僕と並んで座ったままでは僕のように上手く口に含めないと気付いた松山は、床に膝をつくと僕の両膝に手を掛けそっと僕自身に口付けた。
「!!」
 想像もしていなかった展開に、抵抗も何も、松山を言いくるめる言葉すら見付からないまま僕はただ驚き膝の間の松山を見下ろしていた。
 躊躇う松山の吐息が、今更強烈な罰ゲームとなって僕を責め立てる。
「オレも、するもん」
 そう言って松山は僕のマネをして僕自身を口に含んだ。予想以上に息苦しかったのか、くぐもった声が喉の奥から漏れる。
「ッぅん、ん…ッッ」
 ギュッとつむった目尻に涙が滲んでいて、松山には申し訳ないが僕は松山の口内でよりその大きさを増してしまった。フ、フ、と苦しそうな呼吸の中、松山なりに直感で歯を立てないよう一生懸命口を大きく開けている。
 僕は、そのサラサラとした、いまは汗で濡れた髪の毛を掴み喉の奥まで自身を捻じ込みたくなる衝動を渾身の気力で抑え込み、このたどたどしい愛撫にどこまで正気を保てるだろうと自身の仕掛けた悪戯を激しく後悔し始めた。
 松山は、一生懸命口内で僕の亀頭を舐めている。
 髪までしっとりと汗で濡れた地肌も。紅潮したその頬も。青年に近付いたとはいえまだ子供のその口が、僕を少しでも奥まで含もうと必死に開き描く頬のラインが。
 こんなことさせちゃいけないと警鐘がその名の通り頭の中でガンガン鳴り響き、だけど頑固な松山がここでやめるわけもなかった。
 もういっそ。
 本当に秘密を共有するしかない。
「松山、すごく気持ちいいよ」
 ビクリと、僕を銜えていた松山が我に返る。
「そこ、舌が当たっている裏の括れ、舌先で舐めてくれる?」
 松山は、言われた通り一生懸命丁寧に舐めた。
「松山、僕イッてもいいの? 松山の口に出してもいい? 松山、僕すごく気持ちいいよ」
 松山の頭に手を添え唇で扱くようそっと促すと、松山は従順に頭を上下させながら懸命に僕自身を口に含んだ。
 苦しくて喉から切ない声を漏らしているのに、跪き僕自身を口に含む松山が堪らなく愛しい。
「ふ…ッ、ン、ン、んぅ…ッ、ッ」
 懸命に僕を銜える松山に、自分でも驚くほど僕は激しく欲情した。もっと、もっと奥まで捩じ込んで泣かせたい。それでも命ずれば、懸命に舌を這わせるであろう口内を乱暴に犯したい。
 自分にこんな感情があったなんて。
 僕はその想像だけでさらに硬く勃起し、しかし、そんな自分に同時に恐怖も感じた。そしてそんなことは決してしないと自身に誓った。
「松山、僕、出してもいい?」
 もう冷静なフリをして喋るのが限界なほど、僕自身は張り詰めている。
「岬も、シテ、」
 舌にカリを載せた状態で、松山が上目使いに告げてくる。
 まったく、とんだ罰ゲームになってしまった。
「ごめんね、ほんとにゴメンネ!」
 僕は、告げながらもう一度僕自身を含む松山の口内に、背徳という媚薬にたっぷり犯された自身の劣情を放ってしまった。むせる松山の歯が当たり、その刺激で僕は最後まで射精した。

「大丈夫?」
 ティッシュを松山の口元にあてがい、吐き出すよう促しながら僕はその背をさすっていた。
「にが…ッ」
 咳き込みながら粘液をティッシュに吐き出す松山が、涙目のまま僕を見て笑った。僕は、いまさらだけど本当に申し訳なくなり松山を痛いくらい抱き締めた。
「ごめんね!」
 こんなつもりじゃなかったのに。
 悪戯は、本当に秘密の行為になってしまった。
「平気。だって、オレだけするの、恥ずかしかったし。岬のおかげで、初めて…最後までできたし」
 心からそう思っている、松山に逆に心が痛む。
「それに、これ、オレ達だけの秘密だろ?」
 俯いた、松山の顔がまだ赤い。
「翼とも、日向ともこんなことしたことないよな? オレ達だけの秘密だよな?」
 そんなこと、そんな顔で言われると僕は悪くないって思っちゃうよ?
 そんな自分勝手なこと考えながら僕はもう一度松山を抱き締めた。
「したことないよ。ほんとだよ」
 松山が、僕の両肩を掴みおでことおでこをぶつけてくる。
「じゃあ、オレ達だけの、秘密な」
 僕は、もう二度とこんな悪戯はしないといろいろな宗教の神様と心に誓い、松山とは秘密の約束を交わした。
 僕は冷静で、計算高くて、自己をコントロールすることに長けた自分のイメージをすべて思い込みだったと認識し直し、だけどこの小さな悪魔の誘惑に勝てるハズがあるのだろうかと思いながらベッドに倒れ込んだ。

 

 いまとなっては誰かさんの顔を見る度申し訳なく思う。
 僕達だけの、秘密。

 

 

 

 

END
大きな木に甘えて/UA



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