寒い朝に








 腕の中で小さく身じろいだ、その感触に目を覚ます。
 いい加減に閉められたカーテンの隙間から、まだ薄い朝日が覗いていた。鳥の声もしない。勿論、廊下を行き交う人の気配などはしない。静まり返った、深夜と早朝の境い目。
 瞼を開ければ、サラサラとした、だがオレに比べればはるかに柔らかい髪が目の前にある。すうすうと、どこか幼い寝息を立てている腕の中の人物。

 あれから多分何度も寝返りを打ち、背中合わせで寝ていたりもしただろうに、こうして目を覚ます頃にはしっかりと腕に抱き締めている自分に笑った。本当は、毎日こんな風に目覚めたい。
 片腕をついて起き上がり、覆いかぶさるように耳たぶに口付けた。
「松山、起きろ」
 うんとも言わずすうすうと寝息を立て続ける松山に、抱き締める腕に力を籠めもう一度呼び掛ける。
「松山」
「ん・・・」
 寝起きのいいコイツには、ここまで呼び掛ければ十分だった。あとは、覚醒するまでほんの少し待てばいい。昨夜の記憶がどこまで残っているのか、それもすぐにわかる。
 まるでクマのヌイグルミか何かのように、オレの腕を抱きかかえていた松山はしばらくもぞもぞとベッドの中で身じろいでいた。
「何時だ?」
 まだ少し眠たげな、呂律の回り切っていない口調で松山が尋ねる。オレの腕に抱かれているということは、さほど気になっていないらしい。それならそれで、遠慮なく。
「まだ5時だ」
 オレは抱きかかえられたままの左手をパジャマの襟に差し入れ、人差指でそのハッキリと窪んだ鎖骨をなぞった。
「んっ」
 松山がビクリと体を竦ませる。
 すかさず手のひらを移動させると、ボタンの隙間から人差指と中指を差し込んだ。爪を立てるように小さな突起を弾くと、それまでオレの腕を抱きかかえていた松山が体をよじってオレの腕を振り解く。
「やっ・・・!」
「ヤダじゃねえだろ。朝まで待ってやったんだから」
 寝起きでまだ力が入らないのをいいことに、オレは両腕で松山を抱き締めると薄いパジャマの生地越しに松山の体を撫でさすった。突起の感触を探し当て、爪を立てるとイヤイヤと身じろぐ。電気が通ったように、感じているのが体の震えで伝わってきた。
「やっ・・・めろ!」
「今日は半オフだから午後からだろ。朝飯はオレが部屋まで持ってきてやるから」
「いらねえ!!」
 そう言って、松山は強引にオレの腕を振り解こうとする。オレは、今度は手早くボタンをひとつ外しながら手のひらごとその隙間に差し込み突起に中指を掛ける。その小さな乳首を人差指と親指で摘まみ上げると、松山は仰け反りながらいままででいちばん大きく体を震わせた。これからもっと、もっと震わせてやるけれど。
「・・たっ、イたっ、ヤ・・だっ日向痛い!」
 一際敏感な部分を摘ままれ、普段は口にしない痛みを伝えてくる。殴ったり蹴ったりした時にはイテエなんざ絶対口にしないのに、こうしてセックスの時の松山は不安を露にする。
「暴れなければ痛くしねえよ」
「ふっ・・・ざけんな!」
 そう言って振り向きざま肘を入れようとした松山だが、パジャマの裾を抜き取りそのすべらかな腹部に手のひらを這わせるように抱き直すと、息を詰め身を竦めてしまう。
「やぁっ、」
 本人も知らない、オレしか聞くことのできない甘い声で松山が震える。
「こっちだけじゃイヤ? じゃあこっちもな」
 反対側の乳首を摘まみ上げると松山の頬に一段と朱が走る。松山は、ここで感じることに抵抗があるらしい。男は中心以外に性感帯がないとでも思っているのか。
「違っ・・」
 どうしていいのかわからず、咽喉の奥に息を詰めた松山がまたイヤイヤと身じろぎ枕を握り締める。小さな突起は、反対側もすぐにプツリと勃ち上がった。充血した突起は確かに痛そうでもある。
「違う? じゃあこっちがいい?」
 そう言って中心に手を伸ばすと、仰け反った松山の頭がオレの顎に当たった。
「ひゃっ・・やぁ!」
 パジャマの生地を引っ掻くように爪を立てると、ダイレクトに伝播する振動に松山の体がびくびくと跳ねる。切なく膝が擦り合わされた。
「やっやっ、や・・っ・・っ」
 潤み始めた目元にキスを落とし、パジャマのズボンの中に手を入れた。そのままブリーフの中に手を入れ、松山自身を包み込む。
「あぁ・・・!」
 言葉とは裏腹に、しとどに濡れたその中心をくちゅりと扱き上げた。
「あ、あ、ヤ・・だ!」
「汚れちまうから脱ごうな」
 ブリーフごとパジャマを太腿の付根までずり下げる。とうとう松山の瞳から羞恥の涙がこぼれた。もっと、もっと泣かせたい。未知への不安と紙一重の快感を、オレからだけ知って欲しい。
「オマエ・・・! 絶対ブッ殺す!」
 そんな言葉を吐きながらも、オレの親指が先端を撫でさすると腕の中の松山は魚のようにびくびくと跳ねる。拾い上げる快感を持て余し、こぼれる涙が愛しかった。抵抗しながらも、与えられる愛撫を拒絶しているわけではない。ただ愛撫に応える自分の体に松山は羞恥を感じているのだった。
 抱き締める腕に力をこめると、松山の腰の辺りに押し付けられる自身の高まりを感じた。前立てからは取り出さずに、自分もトランクスを押し下げると今日はまだ触れてもいない松山の秘められた部分へ先端をあてがう。誰にも見せるわけにはいかない、松山の嬌態に早朝という時間帯とは関係なくオレ自身は硬く勃ち上がっていた。そのまだ細い腰を抱き寄せ、右手を添えた自身でゆっくりと押し当てるように入口をなぞると、ヌルリとした感触に松山の心拍数が上がるのがわかる。
「痛くしたくねえから、力抜いて」
 できない、と震える声が小さく返る。だが、強張る体では逃げることもできない。その強張りを解きほぐす為に肩から肘に掛けゆっくりとさすってやると、握り締めた枕の端に深い息が途切れ途切れに吐かれた。
「んっ・・! んっ・・あぁ!」
 横向きのまま、少し強引に先端を押し込む。そこからは、ゆっくりと挿入した。松山の中に、オレ自身を挿入しているというその事実だけでオレはひどく感じる。松山は、どうなのだろう。初めほど痛みだけを追っているようには見えないが、オレに内部から突き上げられるということをどんな風に感じているのだろう。
「あ・・・あうっ」
 小さく揺するように腰を動かしたあと、ピタリと動きを止める。いまはすっかり肌蹴させた胸元に手のひらを這わせ、さっきまで執拗に弄んでいた乳首を摘み上げると松山は内部のオレ自身をきつく締め付けた。
「あ・・ひゅう・・っ」
 そんな自分の体の反応に気付き、濡れた頬に朱を走らせた松山が強張った体を竦ませる。横向きのまま、背中から抱き締める格好で腰を動かさず愛撫を続けると、耐え切れず擦り合わされる松山の膝が繋がった部分をその動きへ呑み込んだ。びくびくと痙攣する内壁が、オレ自身を呑み込むように収縮する。パタパタと先走りをこぼす松山自身を手のひらで包み込み、頂点を与えるのには僅かに足りない力で握りながら扱いた。反対側の手のひらでは、悪戯程度に胸を弄る。時折、太腿の付根辺りを指先でなぞってやると、こぼれる涙が大粒になった。
「や・・・も・・・」
 ハァハァと、呼吸もままならない松山が乱れたシーツを握り締める。
「ひゅうがぁ・・・っ」
 決して「して」とは言えない松山のこめかみに、もうひとつキスを落とすとオレは繋がったまま松山をうつ伏せにし上に乗った。
 オレは突き上げる瞬間、松山の口を手のひらで塞ぎ、一転して体重を掛け数回突き上げた。そのままでは苦しいだろうから、すぐに手のひらを外すと驚きに目を見開いた松山が一気に乱れた呼吸で荒々しく息を吐く。悪態をつく余裕すらない。
「まだ早えから。周りを起こすような声を上げるなよ」
 松山に抗議の声を上げる暇を与えず、オレは腰の動きを再開した。
 焦らした分、体重を掛け、奥まで突き上げようと片手は松山の腰を抱き寄せた。突然与えられた激しい快感に、松山の体が大きく痙攣する。
「あ・・! ああっ・・んんっ・・!」
 抑えようとしても、堪え切れない喘ぎが松山からこぼれる。再び枕を握り締め、額を擦り付けて頭を振ってもその声は抑えられなかった。唇を噛み締めても咽喉の奥から甘過ぎる喘ぎがこぼれる。
「ひゅう・・・!」
 オレは、両腕で松山の腰を抱えると途中ゆっくりと腰を回した。絡みつく内壁を押し付けながら掻き回すようにゆっくりとくまなく愛撫する。
「あ・・あ・・ひゅうが、」
「気持ちいい? 言えよ。オレのこと、ちゃんとスキ?」
 口にするほうがバカげているようなことを問い詰める。松山を抱いている時のオレは本当にバカだ。
「んっ・・あ・・ああうっ」
 答えを待たずに再び腰の動きを再開する。汗ですっかりと湿った松山の髪。膝をつき、腰を抱えられオレに揺さぶられる松山の嬌態にオレ自身はかつてなく怒張したような気がした。本当はいつも。
 突き上げる最後の瞬間、もう一度松山の口を塞ぐ。
 オレは遠慮もなく激しく突き上げ、松山の内部に熱い迸りを放った。ほんの僅かに遅れて、松山の腹部にも熱い飛沫が掛かる。
 ぐったりと脱力する松山の背に、オレは幾つも幾つもキスをした。




 松山は、しばらく死んだように動かなかった。
「今日はオフじゃねえんだぞ」
 まだ涙の滲む声で、なんとか悪態をつかなければと言葉を探す。その体は先程までのように背を向けてはおらず、正面からオレに抱き締められていた。
「でも半オフだし。もう一回寝るか? それとももう一回する?」
 松山は、蒸気が出そうなほど顔を真っ赤にして怒ったけれど、怒り過ぎて言葉がそれ以上見付からないようであった。
 オレは、松山を抱き締める腕の力を弱めず、この合宿のあとどうやって松山をアパートに呼ぶか画策した。やっぱり、イク時の松山の声が聞きたいし。
 そう考えながら、もうこの合宿も後半になるのにオレは結構体力を残しているなと感心してみたりもした。
 やっぱり、松山のことを考えている時のオレは相当バカだと思った。








END



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