甘いのはお菓子

 

 

 

 

「スーツなんか着て、どこへ出掛けるんだ?」
 スーツに着替えた、日向にもともと法事の予定が入っていたのは知っていた。せっかくの中休みだが、用事が用事なので拗ねて見せるのは大人気ないとわかっているようで、平静を装った松山がベッドでおざなりに何かのゲームをやっている。新田達も熱中している、DSってヤツだな。
「法事だ」
「ふーん。俺、これから出掛けるけどついでに駅へ寄ってやろうか? 松山も、俺ンち遊びに来るか?」
 わざと、日向の前で誘いを掛ける。まるで下心なんて無いというふうに。
「ジョンいる?!」
「いや、実家じゃなく俺のマンションに帰るだけだから、ジョンはいない」
 正しくは、ジョンの息子でジュニアなのだが。
 日向は、懐疑的な視線と態度を隠そうともしないが、こいつにとってはすべてが嫉妬の対象で、どれがホンモノかわからなくなっている。
「すぐ準備する!」
 松山も、最初は本当にただ遊びに来るつもりなんだから、罪作りだよな。後になって、そんなつもりじゃなかったって本気で言える天然さを付き合い始めは疑ったものだ。
 時間が無いから俺はタクシーで行く、と俺に念押しのつもりのガンをつけ、日向が鞄を持ち上げる。
「後で最寄り駅メールしとくから。早く終わったらお前も来いよ」
 お互いメールアドレスなんざ知らないことに、このいっぱいいっぱいの男は気が付くだろうか。そのかわりお前ら雑魚寝だぞ、と廊下の角に消えていく日向に駄目押しをした。
 生意気な日向を少し小突いて、どんなヤツかもよく知らなかった松山を少しからかうだけのつもりだった俺が、どこから本気になったのかは俺でもわからない。ましてや日向にわかるはずもないのだが。

 今回の合宿所からじつは車で一時間も掛からない俺のマンションは、名目上は会社が保有する不動産だった。しかし実際には俺が帰国した際のセカンドハウスとして利用しており、親父のプライベートな賓客が利用するのは年に数回といったところだ。利用する客人は取引先の外国人がほとんどだし、セカンドハウスとして最低限の私物しか置いていないので、帰国した際俺がここに滞在しているということは身内しか知らないと言っていい。
 松山は、合宿所とはまた違う意味で生活感の欠けた室内に少々戸惑っているようであったが、落とし始めたコーヒーの香りと音にすぐにリラックスし、キッチンへ広げた買い出しからペストリーをつまんでいた。
「甘い。なんかしょっぱいのなかったっけ?」
「クラッカーなら多分ストックが。それともハムでサンドイッチでも作るか?」
「いいや。せっかくいろいろ買ったのに、夕飯はいらなくなっちまうし」
 親指についたペストリーのシロップをペロリと舐める。グラウンドや、ミーティングルームを一歩外に出ると松山は、子供のような仕種で女性には母性を、同性には親近感を抱かせ、そして俺やヤツのように欲望を抱いた輩には色気を感じさせるのだった。
「若林んちって、いくつ部屋持ってんの?」
「俺の家じゃなく、親父の会社だ」
「節税ってヤツ?」
「まあいろいろ。ドイツの部屋は俺の個人名義だし、家賃も俺が払ってるぜ」
 松山がドイツの俺の部屋を訪れたのは、まだ一度きりだ。
 あの日は柄でもなく激しく抱き、松山は翌日熱を出した。気付かない振りをしているが松山も思い出しているのだろう、カッと耳たぶが赤くなった。
「大丈夫、今日はあんなふうに抱いたりしないから」
「な…ッ、」
 今度こそカーッッと頬まで赤く染めた松山が、ガタリとダイニングの椅子から落ちそうになる。
「あの日はオマエの弱いところひとつ見付けたら止まんなくなっちまって…全部暴くまで止まんなくなっちまったんだ」
「そゆこと言うなよ!」
 ぎゅっと目をつぶった松山が、両手で耳を塞ぐその仕種がまた愛おしい。
「もう全部暴いちまったしな。でもこれからは、新しいコトひとつひとつ教えてやるよ」
「そーゆーこと言うなって!」
 これ以上続けると、松山が部屋から飛び出してしまいそうだったので、ちょうど落ちたコーヒーに温めていた牛乳をたっぷりと入れ松山に手渡す。濃い目のコーヒーを、俺はブラックのまま口にした。
 松山がカフェオレを飲む間、俺はオイルの準備を始めた。ドイツのマッサージャーが使用するアロマオイルが思っていたよりも効果的で、個人的にレクチャーしてもらっていたのを、車の中で話すうち松山に施すことになったのだ。本当はこういった時はノンカフェインの飲み物がよいのだろうが、松山はハーブのたぐいを口にするのが苦手のようだし、飲みなれないもので緊張させては逆効果だろう。俺は、松山の好きそうなリフレッシュ系の香りを、リラックス効果のある香りとともに教えられ通りブレンドした。
「飲んだらこっちへこいよ」
 午後の日差しが幾分和らいだ窓際の、ソファーベッドをカウチの状態に倒す。
「ここ、涼しくて気持ちいいな」
 窓から流れ込む初夏の風に、松山の不揃いな前髪が揺れる。もう少し伸びたら、少し切ってやってもいい。
「普段住んでないのに、この木とかどうしてんの?」
「管理は外注してるんだ」
 松山の指差した観葉植物はベランダでソファーに大きく影を落とすほど生い茂っていた。そういえば、たまに水をやる楽しみのためだけに一年間の管理料が割り増しになたことを、前回母に叱られた。しかしこの生い茂りかたを見ると、どうやら息子の我儘を母は容認してくれているようである。
「下だけ脱げよ」
 先程の会話の流れから松山はまだ少し警戒していたが、視線を外し準備をしてみせる俺にすぐに警戒を解き、素直にベルトへ手を掛けた。薄いカーキの、履き込んだややスキニーのカーゴが床へ落ち、靴下が丸まって転がる。
 跪く俺の前に腰を下ろした松山の、ボクサーパンツからサッカー選手としてはすらりとした長い足が投げ出された。
「楽な姿勢でいいんだぜ。ソファーに横になるか?」
「このままでいい」
 好奇心旺盛な松山が見詰める中、俺は松山の太腿を持ち上げ横になることを想定して敷いていた大きめのバスタオルを前に垂れるよう敷き直した。
「それ、何の匂い? なんかもういい匂いする」
「オレンジと、ペーパーミントとローズマリーと…どんな花なのかは俺もわからん。あと、お前の故郷で有名なラベンダーだ。いい匂いに感じるということは、いまのコンディションにあっているんだろう」
「ふーん…そういえば、この匂い憶えてるカモ」
 電子レンジで温めておいた蒸しタオルで足先を包み、指の間を刺激するよう優しく拭う。
「う…っわ、いきなり気持ちいい」
 溜息をこぼすように、松山が呟く。セックスの時にはいいとかイクとか言わない松山が、素直に快感を伝えてきたことに思わず股間が熱くなる。マッサージは、スローセックスのひとつなのかもしれない。俺は、オイルを手に取ると足の裏から、さするようにゆっくりとマッサージを始めた。
「マジ気持ちいい」
 ほんのりと上気した顔で、松山が呟く。ふと気付くとフェラをしてやる時と似たような体勢だが、伏せられた睫毛は快感で追い上げる時のようにいじらしく震えてはおらず、穏やかに黒目がちな瞳を覆っている。薄い唇が、ほんの少し開かれている。
「ベッドの上でも聞きたい言葉だな」
 怒ったような照れた顔が見たくて、わざと煽ると期待通りの表情で松山が身を捩る。
「ひ…るまから何言ってんだよ!」
「大丈夫だよ、このまま押し倒したりしねえから」
「当たり前だ!」
 明るいところでセックスすることを必要以上に恥らう松山だから、昼間から抱いてしまうことも本当はしばしばなのだが。
「いま変な想像してるだろ」
 松山が、握り拳で俺の顎を軽く小突く。俺は、足首からふくらはぎ、膝裏へとマッサージを進めていった。
「松山、スネ毛ねえよな」
「あるだろ!」
「あるっつーか、まあ、」
 あると言えばあるんだが、ドイツの連中のそれと比べれば松山の脛は中性的なほどすべらかだ。
「右が張ってんな。昨日の左を庇ってんな?」
「…カモ。無意識に」
 舌打ちするように、松山が答える。不満そうなその顔は、昨日の紅白戦で日向に当たり負けしたと思っているからだ。
「いまは痛くねえんだろう?」
「ぜんぜん。捻ったと思ったから、庇っちまったのかもしれない」
「あのあと体制崩した日向のほうが、派手に擦り剥いてたけどな」
 逞しく日焼けした腕に、赤い擦り傷が鮮やかだったことを思い出す。
「あんなの舐めときゃ直るんだよ」
「舐めたのか?」
「ど…うしてオマエ達はすぐそーゆーこと言うんだよ!!」
 お前のその顔を見たいからに決まっているのに、どうしてお前こそ気が付かないかな。
「同室だろ。日向にもマッサージしてもらったのか」
「若林みたいに本格的なのじゃない。若林はなんで、なんでもプロの人みたいにできるんだ?」
「俺は教わるのが好きなんだよ。マッサージでも料理でも。いいなと思ったら、どうやればいいのか、何故そうするのか知りたいんだ」
 俺に比べ、日向は天才肌だ。見たり触れたりしているだけで、大抵のことを習得してしまう。結果との関連性だけを学び、何故どうしての部分は直感で理解する。だから、人に教えることは下手だと誤解されるかもしれない。翼に比べれば誰もが凡人だが、そんな変人と対等に付き合う連中もやはり凡人ではありえないのだ。勿論、努力を当たり前と受け止めるだけ、勤勉でもある。
 松山だって好奇心があり過ぎて、ほんの一時とはいえひとつのことに集中できずにいるだけだ。サッカー以外には。
 まあ、リーダータイプの人間にしては驚くほど不器用なので、料理や日常的な家事はからきしだが、体を動かすことなら日向に負けず劣らず飲み込みが早い。そういった意味では、俺よりずっと天才肌だった。
「日向のはこんなふうに気持ちよくない」
 頬を染め、眉根を寄せるその表情は、拗ねているようにしか見えない。
「俺のほうが、手が大きいからかもな」
「そんなんじゃなくて…アイツ、いつもなんにも言わねえから。黙ってマッサージするだけで。オレもなにしゃべったらいいかわからないし…」
 そんなに潤んだ黒目で俯かれたら、日向じゃなくても黙っちまうだろう。
「ここンとこ、なんか熱いのつっかえたみたいで、ぜんぜん気持ちよくない」
 そう言って、松山はきゅっと握った拳で喉もとの、鎖骨の間辺りを指し示した。
「ぜんぜん気持ちよくない」
 泣き出しそうなその顔に、俺はチクリと心臓が痛んだ。そんなの、どうしてだかわからないなんてオクテもいいところだ。もはや反則だ。
 そして松山は、気持ちを許した松山にだけこぼす、日向のちょっとした言葉や仕種に揺れたりするのだろう。
 俺は、気が付くと松山の踵を持ち上げ、足の甲に口付けていた。
「わ、かばやし?」
 驚いた、松山がびくりと腰を引く。
「抱いてもいいか?」
「え…?」
「いま、ここで抱きたい」
 松山は、何故俺がこんなことを言い出したのかがわからず、逃げ場もなく戸惑っている。松山のそんな様子に構わず、俺は膝裏を持ち上げると太腿の内側をやんわりと唇で辿った。
「!!」
 ビクリと、松山の膝が跳ね上がる。
「あ…!」
 唇でボクサーパンツの裾を器用に押し上げ、太腿の付け根ギリギリに跡が残らない程度に口付ける。そのまま、布越しに松山の中心を口に含んだ。軽く歯を立て、舐め上げ唾液で布を湿らせ、張り付いたその布がよりダイレクトに快感を与える中心を舌で愛撫する。
「ぁ、ぁ、ぁ…ッ!」
 誰もほかにはいないのに、抑えた嬌声がかすれている。中心が露出しないギリギリまでボクサーパンツをずり下げ、下腹部からその茂みまでを唇で辿る。
「…ッ!」
 弱いところを丁寧にまさぐられ、松山の体から力が抜け落ちていくのを手に取るように感じる。そのままソファーの背もたれに押し倒し、同じくTシャツの上からいじらしい乳首を探し舐め上げた。
「やっ…!」
 布越しに強く弄られ、小さな突起はすぐに硬く立ち上がり、濡れた布越しにその存在を主張した。プツリと小さく硬く立ち上がった乳首を、尖らせた舌先で布越しに強く弄り、俺との行為に感じていることを意識させる。
 呼吸が乱れたところで深く口付け、鼻から抜ける自分の嬌声をわざと聞かせた。
「んっ、…ンんっ…ッ!」
 何度も互いの舌を絡め、松山の体がすっかりソファーに沈んだところで、俺の唇は松山の喉仏を辿り鎖骨でその肌を離れた。
 フルタイム走り通しても、こんなにも息の上がった松山は見られないだろう。
「このまま服の上からして欲しい? それともこの手で触れて欲しい?」
 俺はシャツを床に落とし、片手でベルトを外しながら松山の顎を持ち上げた。
 松山は、一瞬あの挑戦的な目で俺を睨み返すと、Tシャツを脱ぎ同じく床に落とした。ボクサーパンツに掛けた、その手を上から握り締める。指先をひとつずつほどき、代わりに自らの手をボクサーパンツに差し入れながら太腿の付け根まで下ろした。引き締まった小さな臀部を手のひらに収め、厭らしく撫で摩りながらもう一度口付ける。最後にその小さな布さえも床へ落とし、両膝を掬い上げ両足をソファーへ上げた。
 唇を離し、大きく開かせた両足を眺め下ろす。
「いい眺めだな。すっかり勃ち上がって。厭らしくて綺麗だ」
 震える松山の中心が、一滴、二滴とその蜜を滴らせるまで、俺は黙って見下ろした。
 鳥肌を立てた肌で、さきほど布越しに執拗に愛撫した乳首が、小さくプツリと立ち上がっている。淡いベージュのそれは、充血し果実のように色付いている。その体のすべてが、甘さを湛え俺が触れることを欲していた。
「若林、」
 耐え切れず俺を求めようとした、その唇を再び口付けで塞ぐ。
 俺は、松山を服従させたいわけじゃない。
 前立てのファスナーを下ろしながら松山をソファーのコーナーへもたれさせ、サイドテーブルに手を伸ばし、オイルのベースに使用したアーモンドオイルを指にすくう。秘められた蕾にその中指で触れると、俺の下で松山の体が跳ねた。
 左足をソファーの背に乗せ、右足の膝裏を掬いさっきよりさらに足を広げさせると、中指の腹でマッサージの続きのように、やんわりと蕾をさする。
「あ…、ぁッ、」
 パタ、パタ、と先走りの蜜がこぼれる。拳を握り締め、俯いたまま時折ギュッとつむる松山の瞳はこぼれそうに潤んでいても、求める快楽が与えられるのを従順に待っている。この松山を知り得るのは俺だけだと錯覚させる。
 ツプリと指先を差し込むと、ブルッと震えた松山の体は熟した果実のように俺の指先を食んだ。
「あ…ッ!」
 オイルの所為か、いつもよりそこはゆるゆると俺の指を飲み込んでいく。
「いま、どこまで俺の中指飲み込んでるかわかるか?」
「は…ん、ぶん…ッ」
「当たり」
 そう言って、残りの半分を一気に差し込む。驚きグッと上体を折り曲げた松山が、首筋に縋り付いてきた。
「気持ちいいって、さっきみたいに言えよ」
「ぁ、ぁ、ぁ…やっ」
 小刻みに指先を動かし、煽るだけでイかせはしないと知っていてゆるゆると抜き差しする。
「んっ…わか、ばやッ」
 切ない声をこぼす松山に、薬指を足してやる。
「ふ…ぁあ!」
「気持ちいいって、言ったらもっと気持ちよくしてやるよ」
 しかし松山は、縋り付く腕に力を込めるだけでフ、フ、と乱れた呼吸を俺の耳元へこぼす。従順かと思えば、こんなところはサディスティックな気持ちにさせるほど意地っ張りだ。
「それとも、指だけでイくか? これならもう一本入るだろう?」
「あ、や…っ!」
 言いながら、いつもは入れたことのない人差し指まで差し込んだ。
「いやぁぁぁ!」
 ぐずぐずと、熟んだ果実を弄ぶ。
「ひぁ…っ、ぁっ、ぁッ!」
「凄いな、今度からマッサージ以外にも使おうか」
「わかばやし、いや、や、もうダメ…ッ!」
 締め付けられたその瞬間、非情だなと思いながらもズルリと指先を引き抜く。
「…っ…ぅ!!」
 ソファーのコーナーにぐったりと沈んだ、松山の膝がガクガクと震えている。潤んでいた瞳からは、こめかみへ熱い涙が伝わっている。
「そんな顔すんなよ。ちゃんとイかせてやるから」
 サイドテーブルの引き出しに用意してあった、コンドームを取り出すと、ブリーフを押し下げ屹立とした自身を取り出した。アルミを破ろうとしたその時、松山の手が俺の手を掴む。その手も小さく震えている。
「も、い、から…おねが…っ、わかばやしが、ほし、」
 目に見えた一際大きな粒がこめかみへ一粒伝わり、松山の手が俺の手をギュッと握った。
 それまで十分汗ばんでいた俺の肌に、一気に熱が溢れるのを感じる。左手を添えていた、自身にその熱は逃げ場を求め、叶わずドクドクと跳ね返った。己の手のひらの中で、自身がさらに硬さを増すのを初めて感じた。
「頼むから」
 ソファーへ乗せていた松山の左足を肩口まで押し付け、済し崩しにその体を押し倒す。
「俺以外にその顔を見せないでくれ」
 挿入した瞬間、松山が達したのを感じた。かまわず、くの字に折り曲げた松山の体を抱き締めながら、腰を掴み深いところを突き上げる。
「あ、あ、あ!!」
 松山の中心は萎えることなく再び勃起し、俺の腹筋を擦り上げてくる。いつもなら、松山のよいところを時間を掛けて俺自身で擦り上げ、掻き混ぜるように熟んだ果実を味わってから奥まで突き上げるのを、最初から奥まで求めた。これ以上なく、松山を深いところまで蹂躙したい。深く、固く繋がりたかった。
 狭いソファーの上で、決して小さくはない松山の体を折り曲げ、口付け、抱き締めたまま何度も揺さ振った。嬌声は嗚咽に近く、松山の中心からは絶え間なく蜜がこぼれた。ベランダの向こうは青空のまま、日差しが松山に観葉植物とソファーの陰を落とす。その青い影の下、松山の形よく薄く割れた腹筋に、さきほどの乳白色の体液が散っていた。そこにまた、甘い蜜がこぼれる。どうしようもなく、俺はこの体に、この体の持ち主に溺れている。
 言葉も綴れないほど激しく揺さ振られ、失神するのではないかというほど体を強張らせた松山はもう一度達した。俺は、縋り付く松山に抱き締められたまま、いつもはゴムの中で自分に返ってくる熱を、ソレでしか届くことのできない奥まで吐き出した。
「…ぁ、ぁ、」
 俺の射精を感じたのか、小さな嬌声をこぼして最後にブルッと震えた松山を、これ以上なく愛しく抱き締めた。

「オマエ、時々わざとこういうことするだろ」
「こういうことって?」
 ぐしゃぐしゃに泣かされたのが悔しくて、松山はこちらを見ようとしない。
「こーゆーこと! ひどいこと!」
「酷いこと? 気持ちよくなかった?」
「よ…くない!」
 言葉とは裏腹に、松山は再び俺の首を掻き抱いた。
 でも。時々酷いことされたり、ヤツには時々優しくされたり、そんなことでお前は揺れてしまうんだろう?
「悪かったよ。このままいつもみたいにするか?」
 二度も達した松山がこれ以上求めるはずはないと知っていて、 困らせたいと思ってしまう。
「する」
「!」
「このままいつもみたいに、する」
 縋り付く振りをして顔を隠し、それでも意思を伝えようと、割り入れた俺の腰を両足できゅっと拘束する松山に、まだ松山の中にあった俺の中心は一気に熱を取り戻す。
 ついさっきまでの、翻弄しているつもりの自分の言葉が逆に恥ずかしくなった。
 時々正直に求められただけで、どんどん後戻りできなくなっている。本当は、最初から。
「いつもの向きで、して欲しい?」
 返事が無いのはそうして欲しいから。熱を取り戻した俺自身に再び腰を震わせている松山に俺は、酷いことのオマケにと挿入したまま体位を変え、翻弄しようと意地になっている自分にまた気付くのであった。
 そんなこと、考えていられたのもその時までだけど…

 うとうとしているうちに何時の間にか夕方になっていた。ソファーの上でタオルケットにくるまったまま、松山はプイとベランダのほうを見ている。
「マッサージしてもらうだけのハズだったのに。なんだか逆に疲れた!」
「でもスッキリしたろ?」
 先にシャワーを浴びた俺に、ストライクとばかりクッションがぶつけられる。耳まで赤いことには、いまバスルームへ行けば気付くのだろうか。
「じゃあ次は、とっておきのフレンチだ。親父が新しくオープンするホテルに招致したシェフに教わったんだぜ。あのホテルのメインは、間違いなくあのシェフだよ」
 シャワーを浴びてろよ、とバスタオルを渡すと、のろのろと起き上がり少しふらつきながらバスルームへ向かった。
「若林」
「ん?」
「すぐ出るからちょっと待ってて」
 バスルームから声だけが廊下に響く。それは、手伝ってくれるってことかな。できれば逆に遠慮したいな。
 だけど俺は笑ったり怒ったり甘えたり、そんな素直な松山がもっと見たくて、結局はすべて言いなりなのだった。
 白いのは砂糖。
 甘いのはお菓子。
 食べてるつもりで食べられている俺。

 

 

 

 

END



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