リモートコントロールのキーで、手動では開きそうもない、それ自体が壁のような門を操作する。が、3メートルは高さのある黒い鉄格子の門は、メンテナンスが行き届いているので、重量をまったく感じさせずすべらかに左右へスライドした。高い塀に囲まれた敷地内は塀沿いこそ高い緑に覆われているが、屋敷に近付くにつれ梢は低く、間隔は広くなっている。車寄せには寄らず、建物を右に回り込むと半地下の屋内駐車場へ濃紺の車体を滑らせ、やはりリモートコントロールのキーでシャッターを操作する。
 屋敷と言い表すのに十分な大きさの建物は、勿論オレの契約料で立てた私有の別荘ではなく、おふくろが個人的に経営している家具輸入会社の保養施設という名目になっていた。クラブの数が日本の比ではないドイツでは、ワカバヤシという聞き慣れない単語が日本人GKの名字だと誰もが知るほどオレはまだ有名ではないし、ましてや日本のように表札をかかげているわけでもないこの建物が誰の所有物であるかは、多分塀を挟んだ両隣も知らないだろう。
 松山は、もう幾度も訪れているこの屋敷に圧倒されることこそなくなったが、アパートに比べればリビングよりも広い寝室で抱き合うことに、未だに慣れずにいた。コネクティングルームとして一応は分かれているのだから、シーツさえ適当に乱しておけばオレ達がベッドをともにしたことなど使用人にはわかるはずもないのに(いや、熟練の家政婦にはわかるだろうが)、松山は屋敷内の人の気配に過剰に恥じらう。勿論、おふくろの個人所有とはいえ若林財閥に関連する建物なのであるから、雇用した従業員の履歴は確かなのだが、アパートよりは密に伝わる第3者の気配が、松山を落ち着かなくさせているようであった。無駄に広い寝室の空間も、かえってあるハズのない視線を感じさせているのであろう。そんな、プライベートな空間であるにもかかわらずいつもより更に声を抑えようとする松山が逆に扇情的で、オレはつい意地悪く責め立ててしまうのであった。
「使用人には、全員休暇を出してあるぜ」
 4台ほどは余裕で置くことのできる屋内駐車場の手前は、他の塀よりは高い樹木で密に囲まれており、石畳風の舗装に濃い影を落としていた。梢の間を抜け、輝く木漏れ日が白く輝く宝石のように散らばっている。濃い緑と、濃い灰色と、白く輝く木漏れ日。窓を開けなくても爽やかな外気を感じさせるその色彩にシャッターを下ろすのは忍びなく、オレは駐車場の入口をそのままにエンジンを切った。途端、驚くほどの静寂が訪れ松山が小さく息を呑む。こうして静まり返ると、揺れる木漏れ日にさえ視線を感じてしまうのかもしれない。それはオレ達が男だからとか、そんなことではなく、日本人という固有のイメージ以上に松山が奥手だからだ。グラウンドではDFとは思えないほどアグレッシブなプレーをするユニフォームを着た松山からは、想像できないほどのギャップだった。そこがまた、たまらないといえばたまらないのだが。
「オマエ、ここの寝室苦手なんだろ? そう考えると随分オマエに有利な賭けだったんじゃねえ?」
 松山は、ぐっと口を一文字に結んだまま、組み合わせた手のひらを膝の間に落とし、サッカー選手にしては筋肉の薄い長い足を助手席の床へ投げ出している。スーツ以外は全部ジャージなんじゃねえかという松山の私服には、半公式の場に適切なドレスダウンコードに準じるものがなく、組み合わせるのも面倒なのか松山はよくこの濃紺のスーツを着る。黄色い、細い格子が入った同じく濃紺のネクタイに白いワイシャツがより若者らしさを引き立てていた。
「ま、塀に囲まれた私有地の半地下で、使用人もいないんじゃ寝室と一緒だがな」
 ハンドルにもたれかかり、ゆっくりと体ごと視線を松山へ向ける。
「まずは、口でしてもらおうかな」
 松山は怒ったような表情をフロントガラスにぶつけたまま、スーツの上着を脱ぐとバックシートに手荒に放り投げた。ネクタイを緩めようとして、何故か思い直し屈んだ時に垂れ下がらないよう肩に掛ける。松山がオレの座るシートに手を掛けると、ベッドとはまた異なる音を立て軋みながら掴んだ部分が沈んだ。この体勢ではベルトを外すことができないと気付いたのか、左足をシートに乗せ向き直る。俯いたまま無言でオレのベルトを外す、松山の目元は何時の間にかまた伸びた前髪で見えない。だが、揺れるその隙間から僅かに、真っ赤に染まる目元が伺えた。正直言って、この映像だけで勃つモノが勃つ。オレの股間に屈み込み、ボクサーパンツの前立てからオレ自身を取り出す松山を見ているだけで、ソレはどんどん硬くなった。セックスは、触れなくても快感や切なさを煽り立てる。勿論触れればもっと。両足を開いているオレの、股間のシートに右手をつき松山は左手でオレを手に含んだ。
「手じゃなくて、口でな」
「わかってる」
 車に乗り込んでから、初めて口を開いた松山が観念したように大きく胸で呼吸すると、ゆっくりとオレの股間に顔を埋めた。そのどうしようもなくエロい映像に更に硬さと大きさを増したオレを、躊躇いを捨てた松山が口に含む。
「んっ、」
 唇が触れる直前に、もう一度覚悟の深呼吸を、気付かれないよう動きを抑えてしたつもりの松山の、押し殺した吐息の終わりが短く掛かり、口内の感触よりも先に自身が松山の口に含まれるということを意識させた。唇で触れたオレしか知らない、松山の柔らかな唇の感触。女の子のようにぷっくりとはしていないが薄くもなく、健康的な血色のその唇が、いまは唾液に濡れ小さな口内には含み切れない熱の塊を銜え込んでいる。教えられた通り、ゆっくりと頭を上下させながら、唇と舌を使いオレ自身に愛撫を与える。
 それはたわいもない言い争いから始まった、いまとなってはオイシイ賭けだった。それぞれ別のクラブに所属するオレ達が、自身のクラブの優勝を疑わず、酔った勢いで前半最終節の勝ち星を賭けた。松山のクラブが勝てば、半年間オレが松山の家政婦、オレのクラブが勝てば、アパートでも恥じらう松山とのカーセックス。掃除と洗濯(勿論料理も)のセンスを持って生まれなかった松山のアパートを考慮すると、松山にばかり得な賭けのような気もしたが、勝ってしまえばどうということもない。最終節、PK戦をパーフェクトに押さえたオレに対し、松山のクラブは一点を返せずに終わった。
「…はっ、ぁ、…っ」
 含み切れない屹立に、息苦しさから零される吐息も甘い愛撫だ。ちゅ、ちゅく、と松山の恥じらいを煽るような小さな水音が、音の無い車内に響く。
「…んっ、ん、」
 鼻に掛かった甘い呼吸が、頭の動きに合わせてどうしても漏れてしまい、その度に己の行為を突き付けられる松山の目元がより朱に染まる。堪らねえ。
「んんッ」
 ドクン、といまの妄想で大きさを増したオレ自身に、松山の喉が驚きの音を上げる。
「大丈夫か? 息してるか?」
 松山の顎を掴み、ゆっくりと顔を上げさせる。ハアハアと胸で呼吸している松山の口元から、飲み込み切れなかった唾液と、より粘度の高いオレの体液が伝わっていて、拭う指先の動きがまた堪らなかった。息苦しさから、生理的に潤んだ瞳がいまにも溢れ落ちそうだ。
「出していいぜ」
 フロントガラスを睨み付けるように視線を逸らした松山が、精一杯の強がりを告げる。視線を逸らし続けているのも何だか負けている気がしたのか、口元を手の甲でもう一度ぐいと拭うと、視線をオレに戻し、そんな僅かな間が持たず何時の間にか肩から落ちていたネクタイを外した。
「じぇねえと、車汚れちまう」
 それでもやはり、長い間視線を合わせていられず、落ち着かない指先でワイシャツのボタンも外す。
「構わねえよ、洗車に出せばいいし」
「なッ…」
 情事で汚れた車内を想像し、一気に朱を増した松山が耐え切れず視線を落とす。だがその先には、ついいまさっきまで自分が慰めていたオレ自身が、口に含んでいた時と同じまま熱を持って脈打っており、とうとう松山は小さくパニックを起こし始めた。
「なっ、冗談…ッ、やっぱり、若林、部屋で」
 後ろ髪をわしわしと掻き上げ、潤んだ目で先程放り投げた上着を探す。何時の間にか脱げていた革靴の片方が床に落ちたが、裸足のまま邸内へ戻りそうな狼狽えようだ。
「松山」
 オマエも一度ファスナー上げろよなどと言いながら、松山はオレと視線を合わせようとしない。
「松山」
 呼びながら、腕を掴みぐいと引き寄せる。わざとバランスを崩させ、オレに凭れ掛かるように抱き寄せると、逃げられないように襟足を抱え込みキスをした。
「…!!」
 勢いよく前歯がぶつかり、オレの唇が切れる。だが、そんなことはおかまいなしに、もがく松山のワイシャツを脱がせながら深く口付けた。男2人が掴み合うには狭いシートで、腰を抱き寄せ向かい合うように無理矢理座らせると、はだけた胸元に唇を落とす。思わず仰け反った松山がハンドルにぶつかり、間欠的にクラクションが鳴った。
「あ…!、」
 乱れた前髪が、扇情的だった。オレは、もう一度ゆっくりと口付けると、切れた下唇を舌先で拭った。
「落ち着けよ。男が、一度交わした約束をそう簡単に反古にしていいものじゃないだろう」
 カーッと、いままでとは別の意味で松山が頬を染める。
「最後まで、ここでするよな?」
 それは、松山の性格を知った上での罠だけど、それが卑怯だとは思わなかった。暫くは動けずに、握りこぶしのまま唇を噛み締めていた松山が、一度大きく深呼吸すると顔を傾け近付けてくる。震えながらほどかれ、乾いた唇がオレの濡れた唇と重なる。松山は、やんわりとオレの下唇を舐め、再び滲んていた血を拭った。そのまま、ほぼ同時に互いに舌を差し入れ、深く交わる。
 たとえ切っ掛けは賭けであっても、 快楽だけではなく愛情を示そうとする松山のキスが、オレは好きだ。押し当てるように触れては離れ、信頼を示そうと口中まで侵すことを許す。触れる鼻先に、柄でもなくオレにまで恥じらいが生まれた。
 そのまま暫く、凭れ合うように抱き合いながら口付けを重ねた。
 不意にオレの肩を掴んでいた松山の手のひらにぐっと力が込められると、体を離した松山が大きく肩を上下させたまま、そっとオレ自身に手を伸ばす。ぎこちないその動きに、思わず笑いがこぼれた。
「いいよ、もう」
「なんで」
 だってと、オレにしてみれば誘われるような幼い口調で遮り、松山は恥じらいに躊躇いながらももう一度オレ自身に手を伸ばす。オレがその手のひら越しに自身を掴むと、不意に手のひらに伝わった熱に、差し伸べておきながら松山が怯んだ。ドクドクと、いまだに体中の血が集まっている感触に、松山の体が確かに反応する。
「オレは別に、車の中で奉仕しろって賭けた訳じゃねえんだよ」
 いつもは自信過剰な松山の視線が、こういった時逸らすように伏せられている様が、オレを煽るということにコイツは何時まで経っても気付かずにいる。
「ヤルことはいつもと同じだ。愛してるぜ」
 カーッッと、これ以上赤くはなれないのではないかというくらい、松山が赤くなる。
ん?と目線で答えを求めながら軽く唇を重ねると、松山はまたビクリと体を引いた。
「な、な、なんで…ッ」
 アワアワと、狼狽え赤くなった松山の瞳は、今度こそ本当に溢れ落ちそうなくらい恥じらい潤んでいる。
「なんで、オマエ、そーゆーこと簡単に…ッ」
「簡単じゃないぜ」
 まだ脱ぎ切ってはいないワイシャツの襟を掴み、引き寄せながら顔を近付ける。
「オマエにしか、言わねえし」
「オレにも、簡単に言わなくていいっ」
 堪え切れずぎゅっと目を瞑った松山の、唇に唇で触れたまま告白を続ける。
「簡単じゃねえって言ってるだろ」
 口を開けるよう、やんわりと促すと「ふ、」と泣きそうな吐息が零される。
 堪んねえ。
 口中を愛撫するだけで、空気にさらされている素肌がびりびりと感じているのがわかる。背中に回した手でワイシャツの襟足を掴み、わざと肩甲骨の間に触れながら引き下ろした。日陰で冷えた車内の空気に、大部分をさらされた素肌が更に震える。松山の飾り程度の小さな乳首が、触れてもいないのにピンと立った。いじらしい突起は、爪を立てると剥き出しの神経に触れられたとでもいうように、過ぎる快感を松山に伝える。
「ヤ…!!」 
 かぶりを振って、オレの腕から逃れようとした松山を、力で押さえ込む。
「んっ! ん! ん! や、やッ…メロッ、や、や、若林そこ、や…!!」
 それまで松山の手のひら越しに自身を掴んでいた手を離し、松山の首筋を抱え込むと、爪を立てていた指先を離し親指の腹で嬲るように更に乳首を愛撫する。
「ひゃっ…だっ、や…!! やだ、やめ、」
「これくらいで泣くなよ」
「泣いてな…っ、やだ、っつってんだろ!!」
 それはもう、泣いていると言ってよいのではないかという潤んだ目で、松山がギッと睨み付けてくる。それでも親指の腹が乳首を嬲り潰す度、魚のように松山の体は跳ねる。
「じゃ、もっと気持ちイイところはどこだよ」
 かすめていた親指を肌を嬲りながら下ろしてゆき、脇腹を包み込むように手のひらで愛撫する。
「オマエの…っ」
 松山はオレ自身に触れていた右手で、今度はオレの手を掴んだ。震え、力の入り切らないその手で。
「オマエの、セックスちょっとキツいんだよ。オレ、ついていけない」
「それって…」
 セックスの相性が悪いってことか?というオレの言葉を遮るように、松山が続ける。
「好きだから…感じ過ぎちまう」
 オレの心臓がはぜる。
「もっと、ゆっくりしてくれよ」
 それは、愛しているよりどれだけ凶悪な言葉なんだ。松山が顔を傾け「なあ」と促すように唇を重ねる。こうしてオレは、松山が男だということに気付かされる。抱いていようが抱かれていようが、精神的に支配されているのは結局オレなのだ。それは、もしかして相手が女でも同じことなのだろうか。
 オレは、答える代わりにネクタイを外すと、ワイシャツをはだけた。狭い車内で、上着を脱ぐ余裕すらもうオレには無かった。向かい合う松山のベルトを外すと、同じように熱くなった松山自身を取り出す。互いの陰茎を重ね、ゆっくりと扱き始めた。すぐに、松山が手のひらを重ねてくる。
「ぁ、ぁっ…」
 誰に聞かれる訳でもないのに、どうしても快感を声にすることのできない松山が、掠れるような声を漏らす。尖った小さな乳首を、親指の腹で存分に嬲りたい気持ちを抑え、その代わりその唇に、自身の唇を押し当てた。
 唇を離すと再び俯いた松山の視線は、驚くほど次々と溢れてくる体液に淫らな音を立てている、互いの陰茎に注がれているハズなのだが、前髪に隠れ伺い切れないのが逆にソソッた。
「…ッ、ヤベ、気持ち…ッイイ…ッ」
 そんなことを呟きながら、松山の呼吸がまたハァハァと乱れ始める。
「イッてねえのにこんなに出てんの見るの、初めてだ」
 言ってしまってから自分の言葉の間抜けさに気が付いたが、松山は「オレも」と言って、重ねた指を絡めてきた。松山の黒髪と同じ、艶やかな漆黒のヘアもしとどに濡れている。
「うっ」
 不意に親指の腹で先端を強く嬲られ、思わず息を詰めたオレの中心を、立て続けに松山が攻める。
「若林も、いまみたいに声出せよ」
 ドクドクと脈打つ松山自身と重ね、握り込まれているだけで激しく血がソコへ集まるのを感じる。次から次へと溢れてくる先走りで、いやらしく濡れた指先が絡み合っているのだから、本当は射精を堪えるのがやっとというところだ。
「いますぐ挿れさせてくれたら、聞かせてやるよ」
 オレの手のひらの下で、松山の手のひらがビクリと震える。自分で言うのもなんだが、指先での前戯無しではとても挿入できないほど、オレ自身は怒張していた。だが松山は、長い指先をほどくと、膝立ちしながらオレの耳朶を軽く噛む。
「オレも、したいかも」
 もっとゆっくりだなんて。
 どういう拷問だ。
 賭けに勝ったのはオレなのに、既に主導権がどちらにあるかわからなくなっている。オレは松山の下衣をブリーフごと膝下まで下ろすと、その目立つ腰骨を掴み反り返った自身の頂点を松山の秘められた箇所へ宛がった。
「ァ、…ッ」
 瞬間、松山は片目をギュッと瞑り、聞こえるか聞こえないかの小さな声を漏らす。体がブルッと確かに竦む。
 それは。
 触れるだけでこれまでの車内の行為で一番に感じたことと、その体がこれからオレに与えられる更なる快感を覚えていることを物語っている。両腕はワイシャツから抜き切っておらず、下衣もまだ膝下に残っているみだらな格好で、オレの先端を宛がわれその正面では雫を止めることのできない松山自身が硬く勃起している。オレとのセックスに感じている。
 もう、オレは止められなかった。
「ああ!!」
 いきなり腰を沈めさせられ、松山が驚きの声を上げる。
「ア! ア! ア! あ…!!」
 キツイと文句の一言を罵る暇も与えず、オレはその腰を引き寄せながら突き上げた。
「あ…! わか…ッ!」
 不意に思い付き、もう足首まで下りていた松山の邪魔な下衣を焦る手で床に落とすと、済し崩しにオレの上に座り込んでいたその膝裏を掬い上げ、尻だけ床につけた体育座りの要領で結合部に体重を掛けさせる。
「ふぅ…!! あ、あ、あ!!」
 それなりの大きさのセダンが、シートだけではなく車体ごと揺れているような気がした。いつか高速のサービスエリアで見た、黄緑のカマロのように、この車は不自然に揺れているだろう。
「んんッ、ア! ア、もう…!!」
 そう言って、松山は前触れも無く果てた。急な締め付けに、オレも持って行かれる。あれだけ先走りを零しながら、オレの胸元に散った松山の体液は濃く白濁していて、そして…その勢いは衰えなかった。
「まだまだ、これからな」
 オレは、松山の膝裏をもう一度持ち上げ自身を引き抜くと、有無を言わさず膝に乗せたまま前を向かせた。
「いやらしいな。あれだけ出しておいて、まだまだ物足りなそうじゃん」
「ああッ…ぅ!」
 大きく足を開かせ、まだビクビクと痙攣している色付くペニスを煽るように扱く。松山のペニスは同じ男なのに、しゃぶりつきたいくらい果実的に朱に色付いている。
「ああッ! イヤ! やだ…っ!!」
 余りの快感に、松山が自分をコントロールできなくなっているのが、手に取るようにわかる。松山の背で、オレ自身もさっきの射精は無かったことのように張り詰めている。
「ヤ、や…!! 若林、車、汚れちまう!」
 それでもまだ冷静な松山に、サディスティックなほどの愛情を感じる。そんなこと、本当にどうでもいいのに。
「じゃあ、コンドームしてやるよ」
 オレは、わざと緩慢な動きで財布からコンドームを取り出すと、松山の前に腕を回し、肩越しにゆっくりとアルミを破った。ハアハアと、肩で息をする松山の腰がその光景にブルッと震え、またポタリと先走りが零れた。
「ほら、あんまりヌルヌルにするから、逆に着けづらいじゃん」
 そう言って、丁寧にコンドームを着けてやる。
「…ぁっ、ぁっ…!」
 コンドームを着ける、その指先が僅かに触れる感覚にさえ、堪え切れず松山が小さな声を上げる。ようやくその瞳から、快感の涙が一粒零れた。
「ほら、これで大丈夫だから、もっと足広げろよ」
 そう言って、ハンドルを間に両足をダッシュボードの上に上げた。蹲る松山に無理矢理与える愛撫もいいが、今日は頭の中でしか与えたことのない快感を、全部与えたい。
「ひゃ…ぁっ、アア!!」
 大きく開いた足の、間でわななく松山の中心を、両手で丹念に扱く。
「まだ…イクなよ」
 オレの手のひらを汚した先走りで、クチュッ、クチュッ、とまるでゴムをしていないかのような音が、再び静寂の訪れた車内に響く。だが実際には、ドクドクと耳元で鼓動が鳴り響いていた。オレは身を乗り出すと、バックミラーにもその中心が映るよう角度を調節した。
「中も、今度は丁寧にしてやるからな」
「やっ、ちょっとまっ…!」
 涙目の松山を無視して、左手を中心に絡ませたままゆっくりと右手の中指を、その奥へずらす。肩越しにオレの愛撫に応える中心を眺めながら、手探りで奥まった秘所をあばいた。
「やァァァァァ!!」
 ズブッとオレの中指が進入すると、松山が仰け反って声を上げる。
「ひぁッ…!! ヤ、ヤ!!」
 ぬちゃりと、卑猥な音を立て中指に続き人差し指を差し入れる。
「わか、わかばやし!! だめだ、だめだってば!!」
 オレは、手に入れた玩具を弄ぶ子供の傲慢さで、松山を攻め立てた。だがその指先は、大人の執拗さで前立腺を擦り上げる。
「んうッ…!!」
 松山の右足が、フロントガラスを蹴り上げた。
 腕の中の松山は大きく震えると、今日二度目の射精を終えた。そうしてオレは、休む間もなく松山との間でガチガチになっていた自身を捻じ込んだ。
「…!!」
 声を上げる余裕も無く、ハンドルに倒れ付した松山の下でクラクションが一度、短くなった。オレは松山の体を抱き寄せると、ダッシュボードに放り上げてあった両足を掬い、激しく揺さぶりながら突き上げる。
「あ、もう、しんじ、まうっ」
 松山が、突き上げる度遮られながら、掠れる声をこぼした。瞳からは先程零した一粒の続きが堰を切ったように溢れ、揺さ振られる度松山の先走りとともにパタパタとシートに落ちた。だけど、それは恥辱というよりもう快感の涙であることを、その表情が語っていた。
「松山、すげ、気持ちいい」
「…ッ、あッ、オレ、もっ」
 仰け反った松山の頭が、そのままオレの肩に凭れ揺れている。オレは、松山の中心を愛撫するのも忘れ突き上げ続けた。フロントドアのガラスが、何時の間にか曇っているのが視界の端に映った。松山の膝をぐっと肩口まで抱き寄せると、締め付けた体内に劣情を放った。ビクビクと痙攣するオレのペニスに、松山も促され射精する。狭いシートに体を投げ出し、暫くの間、繋がったまま呆然と天井を見ていた。
「松山」
 腰を抱くように腕を回し、耳元に囁き掛ける。
「松山?」
 松山は、気を失っていた。急速に冷えてきた車内が、直前までの動物的な行為を強調し、オレはひとり我に帰った。
「松山、」
 『う』とだけ小さく頷き、身じろぐ余裕も無い松山を抱き起こすとゆっくり体を離した。松山の内股を伝うおのれの体液に一瞬だけ再び欲情し、思い直してワイシャツを拾い上げ松山の腰周りを覆う。右手には裏口のキーだけを持ち、松山を抱き上げ車内を出た。

 家政婦がキレイに糊を掛けたシーツに松山を下ろすと、中に潜り込む余裕も無く同時に倒れ込む。
 場所が変わるだけで、自分があんなになってしまうとは思いもしなかった。
 それは、松山に教えるつもりの快感で、自分は知っているつもりだったのに。
 重力よりも重く圧し掛かる疲労に眠りへ突き落とされながら、オレはその重力と同じくらい松山に支配されていることを思い知った。
 だけどこの時オレは、仕掛けたつもりの罠にいつも自分が嵌まっていることに、それでもまだ気付いていなかったのであった。

 

 

 

 

END



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