『キミと雨と僕』 |
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真咲さま |
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笠井竹巳。 今年入学してきた1年で俺の後輩。 そして――――――俺の片想いの相手。 キミと雨とボク 話は10分前にさかのぼる。 今日は朝から雨が降っていてグラウンドが使えない。 その上、試合が近いバスケ部に体育館を占領され休日だというのに練習は休みになった。 こんな日は部屋でゆっくりしているのが一番だ。 バタバタッ。 がちゃ。 「渋沢さぁ〜んvvv」 「どうしたんだ藤代。」 「えへへvvv」 泣きボクロ藤代登場。 つーか、お前、人にはノックしろとか何とかうるさいくせに自分がしたためしがあったかよ? それに渋沢も何で普通に対応してんだよ。 お前ら全然会話が噛み合ってねぇよな。 そんなことを考えてる間にも藤代は渋沢にべったりで。 あのー、一応俺もここに居るんですけど。 「三上・・・スマンな。」 スマン、とか一応謝ってるように見えて実は違う。 藤代が来たんだからお前は出て行けという圧力が含まれている。 まったく、とんだキャプテンさまだよ、お前は。 「どーも、お邪魔さまっ」 ばたんっ。 さて、どこへ行こうか。 ま、そんなこと考えるまでもないんだけど。 俺は何も考えずにある部屋へ向かった。 部屋の前のプレートには藤代誠二の名前。 そして笠井竹巳の名前。 ―――――笠井竹巳。 今年入学してきた1年で俺の後輩。 性別、男。 しかし、俺はその笠井竹巳に片想いの真っ最中だった。 入学して今月で2ヶ月ちょっと。 もうそろそろイイ頃だと思うんだよな。 俺の気持ちに気づいてくれてもさ。 それに、あのバカップルに先を越されたのも何だか腹立たしいし。 そんなわけで、チャンスがあれば告ってやろうとか考えたわけだ。 コンコンッ。 「笠井? 入るぞ。」 がちゃ。 あれ? なんで誰も居ないんだ? いつもなら、「三上先輩、いつも誠二が我が侭言ってすみませんね。」って 笑顔で迎えてくれるんだけど。 笠井の奴、何処行ったんだ? 面白くない。 折角二人っきりになれる貴重な時間なのに何でいねぇんだ。 ってわけで笠井を探して回る現在に至る。 とりあえず談話室を覗く。 「あ、三上先輩、こんにちわっ」 こいつ誰だっけ? 笠井以外の1年(藤代は例外)の名前なんて覚えてないからわかんねぇ。 「おう、笠井見なかったか?」 「いいえ、見てないです。」 「そっか。サンキュ。」 ここも居ない。 次は食堂。 「三上、誰か探しているのか?」 「あぁ、辰巳か。笠井見なかったか?」 食堂には辰巳と何人か2年がいた。 「笠井? いや、ここには来てないが。もし会ったらお前が探していたと伝えておくよ。」 「わりぃな。頼むわ。」 食堂も×。 その後も笠井が行きそうな場所、行かなそうな場所に問わず探し回った。 しかし、笠井は何処にも居なかった。 朝から続いていた雨は更に勢いを強めたようだった。 しかし、ここまで隅から隅まで探したのに何で何処にもいねぇんだ? 何だか腹立ってきた。 ばたんっ。 「おい、お前ら出てけ。」 「何スか、三上先輩っ! 何で出てかなくちゃいけないんスかっ?」 「あのなぁ、ここは俺の部屋でもあんだから当然だろ。さっさと自分の部屋に戻れよ。」 「部屋にはタクがいるからダメなんですっ」 「あぁ、笠井ならいねぇよ」 「えっ!? まさか三上先輩、タクに何かしたんじゃ・・・」 「何もしてねーよっ! いいから早く出てけっ!!」 お前ら見てたくないんだよ。 早く消えろっ。 「三上、また何かあったのか?」 流石キャプテンさま。察しが良いねぇ。 「早く行けよ。アイツが待ってるぞ。」 今はお前にも言う気になんねぇんだよ。そんくらい俺の態度で気づけっ。 ぱたん・・・。 渋沢のあの顔、もうおおよそは検討ついてるって顔だったな。 ま、どうせ今更だからイイんだけど。 「はぁー。」 机に肘をついて、ガラにもなく溜め息なんてついちまった。 たった一人の人間にここまで調子狂わされるなんて生まれて初めてだよ。まったく。 あー、イライラすんのは雨の所為かもなぁ。 じめじめしてて、こっちまで落ち込むっつの。 ふと、窓の外に目をやると、こんな雨の中、傘もささずにたたずんでいる奴がいる。 何やってんだアイツ? 誰だ? ―――ん? もしかして。 あれって・・・。 「笠井っ!!!」 俺はそのまま部屋を飛び出して、傘なんて気にもしないで寮も飛び出して、笠井の所へ急いだ。 雨の雫が体に当たっても、 冷たいなんて、思わなかった。 「笠井!!!!」 ずっと雨雲だらけの空を見上げていた笠井は、ゆっくりと振り返り、俺に気づいてひどく慌てた。 「み、三上先輩!?」 やっと笠井まで辿りついた時には髪も服もびしょ濡れだった。 「お前、こんな雨の中で傘もささないで何やってんだよ?」 「・・・散歩・・・です。」 笠井は俯きながらも怒られるんじゃないかと目線だけで俺の顔色を伺っていた。 その、さ。 上目遣いが、さ。 弱いんだよっ。俺はっ。 「散歩・・って何で雨の日に散歩なんだよ?」 シャツも濡れて体にぴったり張り付いて、風邪とかひいたらどうすんだよ。 ・・・ってまたガラにもなく心配なんかしちまった。 いや、正直心配なんだけど。 「俺、雨好きなんです。」 ちょっと照れながらはにかんでそう答えた笠井が―――――――とても綺麗だった。 同時に、笠井にこんな表情をさせる、この「雨」が、憎かった。 両手を伸ばして笠井の顔を上げさせ、そっと顔に張り付いた少し長めの前髪を退かす。 少し驚いた笠井と視線が重なる。 なんて不思議な感覚。 触れた笠井の肌も、 触れている俺の両手も、 冷たいはずなのに、そこだけが暖かかった。 まるで体温を分け合うように。 すべてを洗い流す永遠に降り続く雨も、なぜか気持ちよかった。 体温が下がった所為でいつもより白くなった肌が、濡れたシャツに透けていた。 静寂の中、雨音だけが響いていた。 「・・・目、閉じて・・」 素直に目を閉じる笠井の濡れて艶やかな睫から雫が頬を伝った。 一滴の涙が零れ落ちるように。 俺は笠井の手を取って、そのまま手のひらに唇を落とした。 この唇から、俺の体温も、気持ちも、何もかも伝わるように。 この雨に流されないように。 「俺のことも好きになれよ・・・。」 それだけ告げると、俺はそのまま笠井を振り返らずにゆっくりと歩いた。 笠井はその場にたたずんだままだった。 相変わらず降り続く雨の中、曇り空を見上げてみる。 でも、そこには何も無くて。 ただ、今は、それでイイ。 何も無ければ、これからつくればイイ。 俺以外誰も目に入らないように。 俺がいないとダメになってしまうように。 俺だけを求めるように。 必ずお前を捕まえてみせる。 すでに俺が、そうであるように―――――――――――――― END ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ あとがき 緋乃川 稚さまの400HITリク「雨でずぶぬれ」でした。 雨ネタ・・・。いつかは書くだろうと思ってはいたんですが、まさかこんなに早くとは。 リクを頂いて最初に思い付いたのは三上が竹巳の手のひらにキスをして 「俺の〜」のセリフを言う場面でした。 咄嗟に思い付いた割には気に入っているシーンなんですが、 そこまでがなかなか繋がらなくて困ってたんです(汗) するとたまたま昨日が雨で、電車に乗りながらぼーっと外を見ていたら閃きました★(単純すぎ・滝汗) あんまりずぶ濡れ感は出せてないかもしれませんが、 こんなのでよろしければどうぞ貰ってやって下さいませvv 400HIT、おめでとうございました!!! 2001/04/26 真咲 …………………………………………・ 「ADDICTION」の真咲さんからキリ番で戴いた小説でした☆すごく早いペースで戴きました(*^_^*)2人して濡れてるのがいいとか我がままを言ってすみませんでした(汗)でもリク通りに書いてくれました〜♪自分が望んだ小説がもらえるなんてキリ番リクっていいですね・・・・・・( ̄ー ̄) 緋乃川 稚
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