その瞳に映るのは

 

(五)

 

 

 

 びくんっ。 電撃に撃たれたようにJr.の身体が硬直した。それはすぐに弛緩したが、のろのろと半身を起こす緩慢さと、熱に浮かされた表情の内に淫らに輝く瞳にはひどくそそられるものがあった。

否とは言わさぬ一言に、跪いたJr.の両手がおずおずと差し出された。掌を上にしてびろうど貼りのスツールへ置く。

「ンあっ!」

間髪入れず唸る風切音。

狙い過たずに入った鞭の一撃が、差し出された乳色の掌に紅い条痕をくっきりと際立たせた。

返す勢いで二撃目、 三撃目。

気丈にも鞭を当てられた掌を握り込む事もせず耐えるJr.の、しみ一つない清らかな素肌に朱がのぼる。

四撃目、五撃目、六撃目・・・ ・・・・・・

「ひぁっ、はっ、はっ、...ぁん、はんん...っ」

半開きの口から濡れた舌先を光らせ、浅く小刻みに呼吸を吐く。時折混じる切なげな呻きは、しかし、苦痛によるものだけでは無いのは、鼻にかかった甘ったるい響きからも明らかに察っせられた。

打たれ慣れている。

その昔、悪所に店を構える娼館では、女主人が床入り前の客の尻に鞭を入れ淫欲を奮い起たせるのを常としたとか。痛みと快楽は紙一重、鞭撻が催淫剤の役をはたすのだ。

見れば振り降ろされる鞭を両手に受けながら、膝を折ってぺたりと座り込んだ敏感な内股とその間で燃え上がるものを、白く密な毛皮の柔らかな起毛に擦りつける動作を繰り返している。

鞭撻に合わせたそのリズミカルな動き。からみつく体液。苦痛と快感のせめぎ合いで鳥肌をたてた胸にしこり起った乳首。

Jr.の存在すべてが滴るような熱いすぼまりへと、私を誘っていた。

辛抱も限界だった。

最早一刻の有余もならない昂りに鞭をかなぐり捨てる。その手でJr.の腰をひっ掴むと荒々しく背後から覆い被さった。

指を使って綻ばせる事も、舌で分け入る事もしない。潤滑液といっては隣室の寝台の上で口腔奉仕させた時に絡めたJr.の唾液だけ。あとは先走りのカウパ−氏線液のぬめりだけを頼りに、痛い程の圧迫感の抵抗もものともせずに挿入した。

激烈な圧迫感にJr. の身体が弓なりに硬直する。

「はぐぅ、っぅ...ふぁっ!」

懲らしきれない声がJr.の口をついて漏れ出す。

しがみついた爪が白くなる程スツールに食い込ませ、容赦なく突き立てられる肉楔から逃れようといざりもしないJr.の小生意気さが鼻について、意地悪く前後に腰を揺すりながらぐいぐい没入させた。

入り口のきつい締め付けをぬければ、中は熱く充血した弾力に満ちて、蠕動する粘膜とそれを覆う粘液とが私自身をしっとりと包み込んで、えも言われぬ心地よさに更に掻き立てられた。

「さぁ、お前があれほど欲しがっていたものだよ...Jr、これが欲しかったのだろう。んん?」

言うが早いか腰を使い始めた。

浅く、深く、押さえ付け、突き立てては擦りつけ、腰をまわす。

んっ、んっ、んっ、うんっ、んっ、んっ、... ......。

突き上げる度ごとにあがるくぐもった嬌声が、また熱く腰の念いを燃え上がらせる。

Jr.が振返って言った。

「んっ、んっ、っはぁ...そのまま...乗って。圧し潰し、て...っ」

「......」

求められるままにスツールから離させた両腕ごと、見悶える裸体を毛皮の上に伏せさせ、上からのしかかった。

掛かる加重。ふぅぅっ...と、Jr.の喉から空気の漏れる音が聞こえて、上に重なる動作を一瞬躊躇したが、すぐに思い直すと行為を続けた。
馴す事も、息をあわせる事もしないで押し入ったのだ。苦しかろうに。だがしかし、その苦痛をこそ快楽に変換しえるこの子なのだから。

情けなど無用。

「あ.はぁ...噛んでっ、うんと強く、噛み付いてよ...ォッ」

凝脂とでも形容したいような輝く肌えに歯をたてた。

肩に、背なに、うなじに、耳朶に、頬に---

きつくつけた白い噛み痕が、順を追ってくれないに変って行く。その紅い花弁の上へさらに白い歯型を点々と散らしていく単調でひどく猥雑な作業。

「ひぃっ、ん」

我知らず噛み作業に熱が入りすぎたか、痛みに批難めいた---それでいて甘ったるい---悲鳴があがるが構いはしない。腰の動きにも増々せわしさが加わった。

Jr.の尻に自らの腰を打ちつける。打ちつける。打ちつける。

ああたまらない。

もっと深く。もっと激しく。このまま貫き壊してしまいたい。もっと。もっと。

「ああっ、ああっ、もっと噛んで、ロビン噛んで噛ん、んあ、あ、もっとギュっ...ふあっ」

Jr.の嬌声はかん高くうわずって、なをいっそうの愛の傷つけを要求してくる。

全身のばねを使って激しくピストンを繰り返した。互いの汗みずくの肌がぴちゃぴちゃと音をたててこすれるのが下媚たいやらしさに拍車をかけて。

そして

理性の最後の欠片さえ粉々に飛散させた。

「ふ.ふ......父親を呼び違えるなんて、Jr.お前はなんて...悪い、悪い息子、だ」

「------!!」

その瞬間、Jr.の内奥の何かがぱっと弾け散った気がした。

「あ、あ、あ、あああああっ」

「ふ、悪い子だ、なんて悪い子なんだろう...はぁ...っ、Jr.かわいい私の...」

「あうっああっ、ああっ、ん.はァァァァァッ...ごめんなさいごめんなさいごめんなさ、ああっファータァ許して、ファータァッファータァァァァッッ!」

Jr.の迸らせる背徳の絶叫に勃起中枢への刺激が臨界点を越えた。

この身を突き抜ける快感、滅茶苦茶な勢いで腰を使いながらJr.の体内へとたぎるほとばしりを放った。

なんとすばらしい快感だったろう。

永らく味わった事のないような、凄まじい快楽の絶頂感と共に射精を迎えたのだった。

そして、私に組み敷かれたブロッケンJr.もまた時を同じくして二度目の放出を迎えたのだろう。
下になったJr.がまともに応じえない程、全体重でのしかかっての脱入にもかかわらず、確かに彼が絶頂に達したのを感じた。それは急激に昂っていく嬌声や眉根をよせた狂おしい表情の中で焦点の定まらぬ視線、なかんずく、急激な筋肉の収縮とその後に訪れた弛緩を伴う不規則な痙攣によって確かめる事が出来るのだった。

二人の褥となった毛皮の敷物は激しく荒され、体液にまみれて所どころに毛束を造っていた。

荒い呼吸

虚脱感

---そして暗転---
 
 
 
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頬を撫でる微風にふと我に帰る。青く甘い草の香り、新鮮な外気の匂い。風を感じた方へと視線をうつす。
厚いカーテンの裾を縁取る房飾りが、外からの風を受けて床を掃いていた。
物憂く腰をあげそちらへと近付くと、開け放たれた窓から続くテラスに、Jr.の姿はあった。

手摺に腰をかけて片脚を庭の方へぶらつかせ、もう一方を立て膝に顎を載せてもの思いに耽ている様子。

気配を察したか、こちらを振り向いた。

そびえる塔のごとき首をまっすぐに、高く頭を掲げた誇り高いその表情は、昨夜の出来事を、あれは、夢だったのだろうかと一瞬、疑念を抱かせるほどの高雅に満ちて。

そうだ、そうだった。
この子は、ブロッケンJr.はいつだって本心を語る事も心打ち解ける事もない、皮肉と権高さのないまざったその冷たい微笑みの下にあるものをさらけ出す事などなかった。変幻自在で底を見せない。それが彼なのだ。

昨夜の顔とてはたして本物だったのか、今となってははなはだ妖しい。偽っているとは思わない。が、全てを語っているとは限らないのだ。

この子はいったい、どれだけの顔を持っているのだろう。これから先、どんな表情を見せてくれるのだろう。

面白い

「?...なにを笑ってんのさ、気味が悪いなロビン」

「ああ、いや。お前は本当にかわいい子だよ」

言いざまJr.の肩に腕をまわす。うるさそうな素振りで払おうとするのを無理に抱け寄せると、耳元に唇を寄せて低く囁いた。

「かわいい私のJr.」

 

 

終わり


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