初穂摘み

(2)

 

 

独逸はベルリンにある閑静な住宅街。
石畳を挿んだ両側には整然と煉瓦造りの建築物がそびえ、通りを見下ろすようにどこまでも続いている。
 
旧い街並。
 
中でもひときわ大きくまた時代がかった建物が一棟。
街全体が歴史の重みを漂わせるこの一角でも群を抜いたその外観に、見る人の多くはいかめしい、と形容するかも知れない、貴婦人の華やいだ優美さとは次元を異にする軍人貴族の、機能美ばかりを追求したような重厚なたたずまい。
黒々と丈高い大扉を持つこの屋敷の当主こそ、世に残虐超人と聞こえたブロッケンマンその人であった。
 
邸内に一歩踏み入れると石材の床が靴音を響かせ、高い天井に澄んだ反響を渉らせる。
一点の曇りとて無く磨き込まれた石床の、素の色合いをそのままに勇壮な印象は、バロックの幅をきかせた頃を彷佛とさせた。反面、見事な壁面の化粧張りされた金縁と特徴あるモチーフにはもっと後の時代、ロココの匂いが感ぜられたし、中央螺旋階段の手摺に見られる中程をふっくらさせた円柱にいたっては、新古典だろうか?
 
点在する調度類の数々も各時代を象徴するもの、またそれら過渡期を顕わすもの。
遥か長年月を経て蓄積されてきた時代の寄せ集めといおうか、新興貴族の邸宅内ではまず見る事などかなわぬ、旧い家柄に典型的な混沌さなのだった。
 
富貴と云う言葉が思い浮かぶ。
かつて富と高貴さとが同義であった時代、貴族の栄耀栄華を今に偲ばせるおびただしい部屋数と、それらを結ぶ、無駄に長大な廊下。そうした規模に見合うだけの使用人の一群を抱えてはいるものの、この家の主人であるところの正規の住人は、当主ブロッケンマンとその令息、ただ二人きりだった。
 
令息。そう、彼には息子がいた。
 
社交界仲間の間では、極めて見目麗しい少年だとの噂が、まことしやかに流れている。
 
---美丈夫の父似であるらしい
 
いや、今は亡き奥方の美貌をそっくり受け継いだのだろう---
 
どちらにせよ、美の神に微笑まれし子には違いないさ---
 
噂はあながち的外れではなかった。
ブロッケンマンの息子は両親のどちらにも良く似ていたし、事実、優れて美しかった。
それはあたかも純血種の動物が、その独自の姿形を代々子に伝えて行くように、ブロッケンJr.もまたこの家系特有の容貌を忠実に受け継いでいたのだから。
Jr.の両親は貴族社会にありがちな近親婚を踏襲していた。二人はいとこ同志であった。
 
噂はこうも言っていた。
 
---ブロッケンマンは我が子を掌中の珠のごとく秘蔵している---
 
これについても噂される事多岐にわたる。憶測は憶測を呼び、口さがない連中の中には神をも恐れぬ中傷まがいを吐く者とて居たのだが、これについてはさすがにブロッケンマンの耳に直接披瀝する猛者--命知らずと言うべきか--は、なかった。
 
しかし
前述とこれも同様、彼等の『噂』は決して的外れな見解という訳ではなかったのだ。
そう、つまりは---
 

続く


ほぅら、アキルノの悪いクセがはじまった。
2話で終わらせるハズがヤッパリ終わりません。じゃ、3話で終わるかと云うとそれもアヤシイです。

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