血の繋がる父子とは云え、冷静になって考えれば、ブロッケンマンに口答えするなど無謀にすぎる暴挙だった。外では社交界の花形と知られる慇懃な紳士でも、家庭内においては否を言わさぬ専制君主なのだ。
が、今のJr.にそんな心の余裕はない。
父を自分に繋ぎ止めておきたい、ただその一心だった。
---僕のこと放りっぱなしにして何をしているの
なぜここに居てくれないの
馬鹿げた夜会がそんなに大切なんて
何故、どうして
僕の事はどうでも良いの?
僕は他の訓練生の誰よりも優秀だし、もう子供ではないし
それに、背だってほら、こんなに伸びて、それに・・・それに・・・
言葉は堰を切ったように溢れたが内容はまるで支離滅裂。肩を震わせながらJr.は、自身何が言いたいのか、何を言っているのかさえ見失ってしまい、仕舞いには目を伏せ尻すぼみに、押し黙ってしまった。
柱時計の振り子が虚しく往復する。
その単調な音色のいたたまれなさ。
たまらず目を上げてJr.は次の瞬間、ひっ、と身をすくませた。
ひたと自分にすえられた父の眼光。今正に獲物に飛掛からんとする肉食獣の、爛々と鮮やかな、すい込まれそうに深い、凶暴な、碧。
ぶたれる!
とっさに両腕を交叉に顔をかばった。
跳ね騰がる心拍数、心臓が口から飛び出してしまいそうな感覚に襲われる。脚がすくんで耳の奥がカっと燃えた。
---僕は今ファーターになにを言ってしまったのか。
ファーターに怒られる、僕を軽蔑する、きっと嫌われてしまう、どうしよう、どうしたら---
どっと押し寄せる後悔の念に、不覚にも涙がこみあげる。
だがいくら待てども、予期していた打擲はやってこなかった。
潤んだ瞳を恐る恐るうす目に開けたJr.の、その前にはしかし恐ろしい逆鱗など微塵もなく、何時も通りの、いや慈悲深ささえ漂わせる穏やかな、父の姿があった。
確かに見たと思った父の射殺さんばかりの眼光は、あれは、Jr.のおびえが産み出した幻だったのだろうか。呆然として父の発する言葉の意味さえ理解出来なかった。
「今夜の予定は取り止めよう」
Jr.はもう訳も解らずに混乱するばかり。耳に入ってきた父の言葉の意外さ---いやどこかしらで、それを期待していたJr.ではあったが---に、何度も何度も、舌の奥で転がすように反復を繰り返しながら、その意味するところを訳そうと懸命になった。
---コンヤ ノ ヨテイ ハ トリヤメ ル・・・トリヤメル・・・?
トリヤメ・・・アァ!---
続く
そして5話目に突入、明日〜明後日にはupする予定です。
いいんだ、もう。←開き直り
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