初穂摘み

8

 

 

とうとう父の眼前まで歩を進めてしまった。
 
腰に伸びた手がJr.の身体を手繰り寄せる。ぐっと距離が迫るのに驚く間もなく軽々片手で持ち上げられた。組み上げていたブロッケンマンの脚はいつしか解かれて、その両脚を挟み込むかたちでするりと膝の上に収まる。割られた膝間が一糸纏わぬ身体にひどく頼り無く思えて、脚を閉じようと身を捩ってみるものの無駄な努力、力に差がありすぎて話しにもならない。
結局あらがう事も出来ぬままブロッケンマンの手中に落ちたJr.の、緊張からか唇はうっすら開かれて浅い呼吸を繰り返す胸の起伏がいっそう痛々しい。
 
昂まる緊張、父への畏怖と押し寄せる後悔の念と。それらに激しく苛まれるもしかし、Jr.の胸中巡る感情は実の所それだけではなかったのだ。そうJr.自身意外さに戸惑うような感情の萌芽、この身の奥底突き抜ける程の痺れ、どこかしら甘やかな陶酔を含む疼きと目眩とを伴うそれは・・・
 
Jr.には憶えがあった。
いつの頃からだろう。夜、独り寝台に横たわる彼の身に時折訪れる不可思議な感覚。
ざわざわと得体の知れぬ触手に腰を捕らわれる様な違和感の、それでいて何故か不快ではない、熱。
 
肩口へ首を仰け反らせる。
枕に頬をすり寄せる。
脚の間に掛布を挟んでみる。
衣擦れ
 
たちまち燃え上がる腰の思いに火照る身体をなだめようと両の指先を這わせてみては、はだけた寝巻きに邪魔されるのが憎らしくて、いっそこんなものかなぐり捨ててしまいたい欲求にさえ駆られるような。
 
---これは、なに?---
 
独り寝のJr.に解ろうはずもなく。
この行為の意味する所も理解出来ないままに、それでも何処か後ろめたい気持の付きまとう故人知れず耽る秘密の遊びであったが、打ち寄せる恍惚の波に漂いながらいつしか眠りについてしまうのが常で、何かが足りない、この恍惚を越えた先に待ち受ける何事かが在るのではと感じつつも、熱情の捌け口をいまだ知らぬ無垢な身体ではあった。
 
--でも何故今、こんな時に---
 
幼い彼の困惑は深まってゆく。
 
「なるほど大きくなったな…それに随分重くなって」
 
取り留めもなく思いたゆたうそんなJr.を引き戻したのは、耳元で囁くブロッケンマンの声だった。
低く深くどこまでも甘い、美声。落ち着いた抑揚は慈愛に満ちて聞く者の耳に波紋を打ち拡げる。しかもそれは誰あろう自分だけに向けられたものなのだ。そう他の誰にでも無い、自分にだけ。
うっとりと聞き惚れるJr.は、そんな父の顔を見る事が出来ないのを残念に思うのだった。もしも向かい合っていたならばファーターは僕の眼を見つめて同じ事を云ってくれただろうに。ファーアーの瞳。矢車草色の青玉に溢れるほどの愛をたたえて、きっとそうしてくれていたに違いないのだ。
 
「そう、もうすっかり大人だ…」
 
すべては己の思い通りに。
少年貴族の驕慢、遥か数百年に渡り繰り返されて来た血の配合淘汰において培われた矜持はここまで来てもまだ砕かれる事は無かった。こうあって然るべきとの信念を変える事など出来ないJr.だった。いや、最早選択肢にさえのぼらないと云うべきか。
ブロッケンマンの甘言に張り詰めるような緊迫感はみるみる溶解してゆく。と、代わりに擡げたのはもう一方の・・・Jr.を困惑させながらも惹き付けてやまない、あの熱い疼き。
 
後ろ抱きに膝に乗せられた身では父の表情を伺い知る事も出来なかったが、あるいはそれで幸いだったのかも知れない。なるほどJr.の願望通りその眼は確かに彼へだけ向いていた。耳元に頬を寄せ肩ごしからひたと見つめる様子は愛しい者を愛でるのにも似て、事情を知らぬ者が偶さかその場に居合わせたなら睦まじい父子の語らいに微笑ましくさえ思うかも知れない。
男の眼に爛々と宿る狂気に気付きさえしなければ。
 
獲物を前にした捕食者の眼。
いや、違う。むしろ飽食した肉食獣が食べもしない獲物を戯れに玩弄する時に見せる、それ。完全に掌握した哀れな玩弄物が次にどんな動きで自分を楽しませてくれるのかと昂る嗜虐心のままに輝く、あの眼だった。
結局の所Jr.は自分が考えている程には父を、ブロッケンマンという男を知ってなどいなかったのだ。慈悲慈愛など手前勝手な夢想に過ぎない。
 
左手で我が子の胸を支えたなりで空いた右手を自身の口元へと運ぶブロッケンマン。唇からこぼれるかたち良い歯並で黒皮革手袋の中指を曳くと、中から現われた指の眩む白さ。目の端でそれを捉えたJr.が振り向こうと首を巡らせるより前に父の右手は彼の脇腹を捉え、一旦は身体ごと持ち上げられると密着する程にしっかりと抱え直された。裸の背へ服地ごしに伝わってくる父の肉体の温かさと金属バックルのひやりとした冷たさ。
 
「あ…ファータ…」
 
「子供だ子供だと思っていたのに」
 
右手が脇腹を滑りJr.に芽生えた幼い性をさぐる。
 

続く


嗚呼とうとう掴まっちゃいました。

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