The end in May
「うーみーはーひろいーなーおおきーいーなー……ーっと」
「……恥ずかしい奴」
呆れたように横目で彼の顔を見遣る。
気持ちよさそうな調子の歌が止み、平次は手すりに腰を当てたまま新一を見た。
「海来たら歌うやろ」
「しない」
「したら叫ぶんか?」
「誰がだよ」
ほうか?と疑問の声が上がったが無視していると視線が外れた。
その視線の先を辿ると、彼の指先が同じ波打ち際を指した。
「お、そっち見てみい。おーおー、ガキどもがはしゃいどるわ」
「まだ五月だってのに元気だよなあ」
波の音に紛れていたが、目を留めれば声も届いた。
近くの子供達だろうか、付き添いの大人の姿は見えず好き放題に遊び回っている。
「はしゃぎたくもなるやろ。天気もええし」
「お前も混ざってきたら」
「ええなあ。砂で城作るか、工藤」
「……俺を混ぜるなっての」
子供達の何人かは一人の腕の周りに砂山を作っている。
あらかた出来たら腕を引き抜いて空洞を開けるつもりらしい。
「トンネルよか城のんが豪勢やろ」
「設計図なきゃ無理」
「何や、自分も混ざりたかってんな」
「……は?」
「よっしゃ、行くで!」
「な――」
不意に腕を引っ張られた。
転がるように斜面をつられて駆け下りる。砂に足を取られながらもそのまま子供達の中に飛び込んだ。
突然の闖入者に目を瞬かせる彼らに、平次は人なつっこそうな笑顔で話しかける。
「なあなあ、俺らと競争しようや!」
「ちょ、服部――」
「何や。服汚れんの気になるんか?」
「ちが、」
「かまへんって、明日から夏服やし。さ、作るで――」
「……あっそ」
さっさと裸足になって腕まくりしながら座り込む彼に諦め、隣で靴を脱ぐ。
照らされる明瞭な光に顔を上げるとまともに白い輝きとかち合った。
「――眩し」
どこまでも外に開いてゆく空。
五月の終わり。
end.