ガラスの奥の彼女


 

 

 どこからか視線を感じて新一は歩みを止めた。
「――ん?」
「どしたん」
「ちょっと――誰かに、見られてるような気がして」
「………?」
 つられて立ち止まった平次はその言葉に首を傾げた。
 デパートの地下一階、菓子売場に二人は居る。
 普段は来る事さえ稀だが、急に菓子折を得る必要性に陥ってしまい、客の波をかき分け進んで物色していた。
 この時間、客は年配の女性ばかりで確かに若い男の二人連れは目立つものの、一身に注目を浴びる程ではない。
 けれど新一は気になる様子で、元来た道を少しずつ戻っている。
「誰や?」
「いや、誰、っていうか何、っていうか――」
「はあ?」
 漠然とした物言いと、新一が眺めているのが客ではなくガラスケースだというのが良く分からない。
 ガラスケースの中から視線を感じたというのだろうか。
「――あ」
 再び立ち止まった彼に平次は危うくぶつかりそうになった。
「ここだ」
 洋菓子売場の一角。今となっては化粧品のメーカー、という方が通りの良いかもしれないその名前。
 新一はガラスケースの上からひとつを指さした。
「これ、下さい。自家用で」
 こちらですね、と愛想良く店員がその品物を取り出した。
 プリン、だった。
 三連で、それぞれのパッケージ部分に女性の顔の素描が印刷されている。
 他には取り立てて、特にどうという事もないような。
 新一が頷くと、店員は少々お待ち下さいと包装を始めた。
「――それ、持ってくんか?」
「これは俺個人の買い物」
「何で」
 彼の表情が伺えず、ますます平次は困惑する。
「これが視線の主」
「――は?」
 言われて、平次はガラスケースの中のその品物をまじまじと見た。
 確かに、女性の顔のアップは描かれているけれど。
「その、右から三番目」
「要するに一番左やな。――それが?」
 線だけの画でも、ふわふわと揺れる髪と真正面から見つめる意志の強さは見て取れる。
「母さんだ」
「――なに?」
「な訳ねえけどな」
「………」
 お待たせいたしました、と袋を差し出した店員に新一は代金を支払った。
 売場を離れ、平次は小声で呟く。
「結局、何やったんや……」
「視線が強烈で、素通り出来なかったんだよ」
「ま……あ、似てなくも無かったけどな……。けど、せやからって買うか?」
「……るっさいな」
 言葉に混じった少しの苛立ちにもしや、と思う。
「そうやった。しばらくお前、会うてない言うてたな……母親恋し、いう奴やったり……」
「―――」
 無言で新一は足を速めた。
 売場は途切れ、その先には出口しか無い。
「――ちょお、持ってく菓子折りどうすんねん!」
「適当に決めとけよ」
 図星を正面から突くとこれだ。ひとつ溜息を吐く。
「……おい!工藤――」
 取りあえず新一を留めようと、平次は足早に後を追いかけた。

 

 

 

 


end.

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平新というか、むしろ主役はプリン……。
このプリンのパッケージ、写真撮り次第アップいたします(笑)
……アップしました。これです。
ママ。
前髪のあたりがかなり彷彿とさせます。

天葉さま、あんまりいらないかもしれませんが宜しければもらってやってください……
本当はイベント当日にネタ的にイキオイで上げようと思ってたのですが無理でした(泣)

 

 

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