forelock
話をしながら頭を幾度も振る平次に、最初は新しい癖かと思った。
がすぐに、伸びた前髪が無意識ながらも気に障っていて、少しでも避けようとしているのだと分かった。
彼が頭を軽く振る度に、前髪の下から覗く表情に戸惑う。
見慣れている筈なのに、普段とは違うその表情に。
「……なあ服部」
「ん、何」
見上げる顔。
掻き上げた前髪から現れる、見知らぬ顔。
ちょっとした混乱に、言葉を失った。
「―――」
「……?俺の顔、何か付いとる?」
怪訝な顔で見られて、続ける言葉を思い出す。
「その前髪―――切れば?」
伸びっぱなしの髪を引っ張り、苦笑しながら彼が言う。
「ああ……ほっといたらこんななってしまってん。まあ、うっとおしとは思てたし」
その言葉に、口が勝手に反応した。
「今」
「―――は?」
「鋏持ってくるから、今切れ」
「……何で命令形やねん」
抗議の声を余所に部屋を出る。
鋏と鏡を櫛を手にして戻ってくると彼は憮然としていたようだったが、正視しなかったのでよく分からない。
「ホンマに持って来るとはなあ……」
「文具鋏だけどいいよな?何なら俺切ってやってもいいけど」
「いや、それは遠慮するわ。……分かった、切るてもう」
駄目押しで言うと、渋々ながら同意した。
鏡を睨みながら、平次が鋏を前髪に入れる。
鋏の下から普段の顔が現れ、こそりと息を吐いた。
自分ばかりがこんな気持ちになるのは、余りにも一方的過ぎるから。
勿論表情には出さなかったけれど。
「……どや工藤?これでええか」
大体を切って散らすと、こちらを見た。頷く。
「それでいい」
「男前やろ?」
「いつもと変わんないけど」
「……ったく、何なんや一体」
「だから、いつも通りが良いんだって」
「……?」
「あ、ここもう少し切った方いいかも」
彼の疑問には触れず、彼の前髪を摘み上げて言った。
普段通りで居てくれないと、こちらが困る。
誰にも、あんな彼の表情を見せたくないというのに。
end.
2910御礼、テーマは「新一くんが好きなまたは良いなぁ〜と思う服部氏のしぐさ」でした。
由槻様、リクエストありがとうございます〜!
……というか、テーマから微妙にずれた気配濃厚です。すみません……
でもでも、独占欲の強い新一さんが書けて嬉しかったりします。実は。