glasses


 

 

 全面ガラス張りの建物は、扱う品物のイメージを現しているのか。
 初めて入る店の中には、同じような形の商品がずらりと並んでいた。良く見ればそれぞれに形や色は違っていたのだが。
 視力が落ちて、文字が見づらくなったので眼科で処方箋を出してもらった、と新一から聞いたのは昨日だった。
「コンタクトにはせえへんの」
「普段は裸眼で全然大丈夫だから。本読む時がね、ちょっと」
「俺、眼鏡屋なんて入った事ないで」
「まあいいじゃん。ちょっとつきあえって」
 そう、無理矢理引っ張ってこられた―――という方が正しい。
「似合わんわ……」
 戯れに手に取ったフレームの、余りの不似合いさに直ぐに外す。
 金属製の細いフレームは、どちらかというと彼の方が似合うに違いない。

「なあ。どう、これ」
 鏡に映った彼が聞く。
 水色の飴のようなフレームに、目が縁取られている。  
「ええけど、こっちもどうや」
 手に持ったままのフレームを差し出すと、そっぽを向かれた。
「……嫌」
「かけても無い癖に却下かい」
「似合わないの分かるし」
「ほか。……なら、こっちはどうや」
「俺フレーム太いの嫌いなんだよね」
「……。なら、これ」
「いまいち」
「これは」
「ちょっとなー」
「これ」
「その色嫌」
「……ワザと言っとるやろ」

「だってお前が、気に入らないのばっかり選んでるから」
「………」
「他は、他」
「いっそ、これなんてどや」
「……本気で?」
「………」
「服部って色のセンス無いよなー」
 人に散々選ばせて転手古舞させたあげくそんな事を言う。
「ほっとけ。どうせそんなん要らんわ。ほんならお前の姉ちゃんでも連れて来れば―――」
「―――」
 黙り込んだ様子に、失言を悟った。
「……そんな、只でさえ痛い腹探られるような危険な真似はしたくないし、な」
「―――あ」
「ま、アイツの前では掛けねえけど」
 彼が太いフレームを嫌がったのも、濃い色のフレームを選ばなかった訳も、ようやく思い至った。
 無意識にでも彼女に連想させ、思い出させるような事を避けようとしていたのだ。
 出来るなら、無闇に記憶を掘り返すような真似はしないに越した事はない、から。
「ったく。だからお前連れて来たのに……もういいわ、コレにする」
 新一は手近にあったフレームを掴み取った。
「……ソレ、か?」
「大して使わないだろうから。だったら何かけたって一緒だし」
「そんなら最初からそう言えや……けどソレ、まだ掛けてな」
「コレ、お願いします」
 寄ってきた店員に、掴んだ金属製の細いフレームを渡す。そのまま椅子へ案内された。
「……何笑ってんだよ、気色悪い」
「いや、何も」
 こみ上げた笑いを噛み殺すのに必死だ。横目で睨まれたが止まらない。
 フレームを掛けさせられ、着け心地を聞かれていた新一が頷くとこちらを向いた。
「どう?」
「似合うてるで」
「………」
 新一は何か言いたそうにしていたが、店員に向き直った。

 

 

 

 


end.

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2810hit御礼、テーマは「転手古舞」(てんてこまい)でした。
どうですか転手古舞ってますか……?ううんどうだろう……。
でもまあ、たまにはこんな普通なラブを捧げても良いですよねらきあ様(笑)
リクエスト、ありがとうございました!


 

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