merry-go-round
右腕を掴まれる感触に、平次はぱちりと目を開いた。
目は開いたけれど思考は眠りの上を揺れている。顔を擦り幾度か瞬きをしていると、まただよ、と隣から呆れた呟きがして手が離れた。
重い頭を持ち上げて隣を見れば、起こしてくれたらしい新一は不機嫌な表情だ。
「……あー……また、寝とった?」
「大分な。……ったく、誰の付き合いで始発から乗ってんだよ」
「あー。そら……スマン事で」
寝惚けている事もあって素直に謝ったら、んな簡単に謝んなと何故か怒られた。
元朝参りのハシゴをしよう、と最初に言い出したのは確かに自分だった。
七福神にまつわる神社仏閣でもいいし、五色の名前を冠している不動尊を五カ所全部回るのも面白い。どうせなら人が一番出る元旦が目出度さも倍々だ、などと信心とゲーム性をない交ぜにして環状に走る電車に早朝から乗り込んだ。
しかし大晦日からの寝不足と残る深酒でこの体たらく。うたた寝の度に新一に起こされ、けれどすぐに瞼が下がる繰り返しだ。思ったより乗客が居る車中で、何度か左隣の乗客へ頭を凭せかけそうにもなった。
未だ明けない空。室内の灯りを反射して向かい側の窓ガラスに自分達の姿が映っていた。腫れぼったい瞼に弛緩した今の自分の表情を再確認する。
「ホンマ、色男も台無しや」
「台自体無いし」
「……いけずな事言うわ」
「またあっち隣へ傾いてったから起こしたけど、次は置いて出るからな」
「んー……おおきに」
「……全っ然聞いてないし」
「けど置いてかれるんは適わんなあ……」
「――服部」
「……うん?」
瞑りそうな目を何とか開けると新一はこちらを見ずにこっち、と言った。怪訝な顔をしていると、首を右に傾げた。
「なん……」
「こっち、貸すから」
「そら……おおきに。けど」
言葉を続けようとして目に入った、赤みの差した頬。マフラーの隙間の白い首。
彼の言葉の外側を見つけ平次は笑みを抑えられず、続く言葉を消し去った。
逆隣に傾いたから置いていく、のであれば、新一の側に寄り掛かる分には構わない、という事で。
「……何だよ」
「何でもあらへん。ほな、御言葉に甘えて」
空けてくれた左肩の方に軽く寄り掛かる。側で、高くつきそうだって思っただろ、と声がした。
「けど、今日ばかりは神様が代りに払てくれるやろ」
「やっすい神様」
「今の俺には貴重や。……着いたら起こしてな」
言って目を瞑ると呟きが聞こえた。
「――何甘えてんだか」
言葉程強くはない口調で。
電車の振動が不意に平次の身体に響いた。
「……」
頭の片側に重りが乗せられているようで、目が覚めても直ぐには身動きが取れない。状況を把握しようと視線を巡らせていると、小さな寝息が降りてきた。
勿論、降りる駅は過ぎていた。
「……まあ、ええか」
白んでゆく空の眩しさにも彼の起きる様子は無い。
何駅分、或いは何周分を神様に立て替えて貰えるか内心でお伺いを立てつつ、平次は幸せに目を閉じた。
end.
38810御礼、テーマは「工藤くんに甘やかされる服部くん」でした。
アクビさま、リクエストありがとうございました!
たまには、メロメロに甘やかされている彼をみたい、とのことでしたが、
……めろめろ……かどうかはともかく(ええー)甘やかしーな感じに見えますでしょうか?
それにしても、大きく時期を外してしまいました……新年のご挨拶も兼ねようと思っていたのはいつの昔か。
こんな感じで宜しければ(汗)またどうぞよろしくお願いいたします。