not daily calendar
新たに紅茶を淹れている間、砂時計ばかりを眺めているのも飽きて部屋を何となく見回した。
その前は壁に掛けられた時計ばかり見ていた。
紅茶でも飲んで気持ちを落ち着かせようと思ったけれど既に二杯目だ。
なんだかなあと新一は溜息を吐く。
見渡しているのは自分の家のリビング。自分が普段目にする当たり前の光景。
何も変わっている所は無いし、元より何も変わる筈がない。
一点で目を留める。
勿論それも普段の一部だ。
やけに周りから浮いて見える日めくり。それすらも。
手元の微かな音が止んだ。くびれた硝子の小瓶の底に砂が落ち切る。
新しい紅茶を注ぎ、視線を戻しながらティーカップに唇を寄せた。
彼が勝手に買ってきて壁に掛けたそれ、の今の日付は一ヶ月前。
彼が訪れた時だけそれはめくられ、溜まった分が破り捨てられる。
「めくらんかったら日めくり言わんやん」
「買ってきたお前がめくる係だろ」
「係って何やねんなー……ったく」
ぶつくさ文句にいつもの応酬。鮮やかに思い出す、いつかの記憶。
つまりは。彼とひと月、ここで会っていないという事だ。
紙といえども積もれば厚く、重い。嫌でも突きつけられる、会わないでいた時間の重さ。
あまり見ていたくはない。けれど、かと言って外す気にはならない。
これは、きっと次への重りだから。
入口の慌ただしい空気に、手近な本を拾い上げて視線を落とした。
ややあって、騒々しい空気の主が現れた。
「まいど。来たで」
「おう」
「何や、久々っちゅうんにつれないのう」
「別に」
「迎えに出てもくれへんしな。淋しいわ」
「茶は出すけど。同じのでいいだろ」
「ええで。サンキュ――お、まだやっとらんな」
「何を」
「日めくりやん」
「……ああ。忘れてた」
直ぐに反応したと悟られないよう、言葉にクッションを置く。
ただ、その前にポットを持つ手を一瞬止めてしまったのは悟られなかっただろうか。
「あない目立つトコ貼ってんで? 忘れるも無いやろ」
「お前の為に残してんだよ」
「そら嬉しいわ」
頭をぽんと叩かれて、自分の失言に気付いた。
そのまま壁に向かった平次の手から小気味良い音が聞こえる。
重りが引き上げられる音が。
「……残して、やってんだよ」
「今言い換えても遅いっちゅうねん。にしてもこら、めくり甲斐あるわ」
「来年も」
「ん?」
「来年も買うのか? それ」
「買うて欲しいんやろ」
「……」
ようやく全部破り終わった平次は、今度は紙を丸め嵩を減らそうとひたすら潰している。
「見てみ、こらダルマや」
「思ったより大きいな」
「せや。一月、長かったやろ」
「まあ……な」
「何や工藤。素直やん」
「――買ってもいいぜ、それ。けど」
軽く腕を振った先のゴミ箱へ、紙玉が音を立てて入った。
会えないでいた日々が丸ごと捨てられた、音。
「けど?」
「めくる係はお前だけどな」
end.
19910御礼、テーマは「カレンダー」でした。
こちらも秋さまにリクエストのお題を幾つか挙げて頂いておりまして……大変長らくお待たせいたしました。
しかも頂いた時期が「来年」のカレンダー購入時期というあたりが……あああすみません……
通年可能な話を考えていて良かったです(汗) あと、紙って重いねという体験談(苦笑)
思いのほかラブな話になって嬉しかったのですがいかがでしょう……
リクエスト、ありがとうございました!