桜傘
真っ青な空に咲いている桜は、何だか間が抜けていると思う。
不自然に浮き上がり乖離している、青色と薄紅色。
「作り物みてー……」
桜の下でベンチに座り缶ビール片手に、何とはなしに見上げている。
傍らには、食べ尽くした焼きそばやら味噌おでんやらのパックが積み重なっている。
そしてその側に、彼の上着が無造作に投げられている。
結構な量の露店モノでは物足りなかったらしい当人が、ようやくパック片手に戻ってきた。
「出来立てやでー。ほい」
「ん。……山降りてどこまで買いに行ったかと思った」
「丁度作り置きのんが切れててなあ、待っとったらこんなかかったわー」
受け取った焼き鳥のパックは確かに熱く、すぐにベンチに置いて広げた。
彼はそこから一本取って隣に座ると、口にくわえながら片手に持っていた缶ビールを開けた。
「昼間っからそんな飲んで大丈夫かよ」
「やって、焼き鳥はツマミやし。お前の分も買うてきたで」
渡されたもう一缶を素直に受け取り、先の缶を空けた。
「サンキュ。……やっぱ、タコ焼きは止めたか」
「ったり前や。あんなん絶対買うて堪るか」
「俺結構好きだけど。タコ入ってる焼きモノなら、ネーミング的には同じだろ?」
「名前でどれもこれもひとつにくくらんといてや。名前と中味にはな、強ーい結びつきがあるんやで」
「あーはいはい」
力説を軽く流す位にして新しい缶を開け、串に手を伸ばす。
その手の甲に、冷たい滴がぽたりと落ちた。
「え」
「あ……雨か?」
「……天気雨、だ」
見上げた空は青いままだ。
桜の枝が雨避けになるものの、花の隙間から幾滴かがこぼれ落ちてきた。
首の隙間に落ちた滴に肩をすくめる。
「冷たっ」
「雲も無いし、すぐ止みそうやけどなあ」
見回すと、すぐ側にはいないが点在している花見客も慌てた様子もなく、帰るそぶりは見えない。
見上げると、枝に付いた滴が集まりそこここに落ちようとしていた。
「……にしては、結構多いかも」
「なんなら、俺の上着被りや」
脇に除けていた上着をふわりと頭から被せられた。
「……桜見えないんだけど」
「そんなら、顔だけ少し出せばええやろ」
視野の狭まりに文句を言うと彼は苦笑して、被せた上着をずらして調整した。
「これでどうや」
「まあ、悪くな―――」
視界が広がった途端、左目の上に重さを感じた。
反射的に瞬くと、飛び込んだ滴が目から頬に流れた。
「……睫に雨粒落ちるて……工藤、器用やな」
「うるさ―――」
左目の視界がぼやけたまま、こすり落とそうと手を伸ばすと、頭が引き寄せられた。
「―――」
上着を両手で掴んでいた彼の顔がやけに近い。
頬に伝った滴が舐め取られた。
「な、……」
「水分補給」
「……この、酔っぱらい」
「酔っぱらいついでや」
桜を傘に上着の下で、軽く唇が触れた。
end.
3910御礼、テーマは「雨」でした。 特に「春雨」ということで、「はるのあめ」です。
でも「春に降った天気雨」は少し意味合いが違うかもしれません……そもそも時期外した感も大ですが。
由槻様、リクエストありがとうございました!
只「こっそり系」 は私のツボですが由槻様にも喜んで頂けるかどうかは謎です(汗々)
↑喜んで頂けました〜vvいいんですよ「ひっそりこっそり系」☆<増えてるし