時間を止めて。
even if
カラン・・。
少し溶けた氷が音を立てる。
グラスを傾けて、琥珀色を飲み込む口元。
その伏せがちの顔は、真上にある光に照らされていた。
長いまつげが、頬に影を落とす。
肘を突いて手の甲で口元を隠しながら、それらを見つめていた。
するとその視線に気づいたのか、ふと顔を上げてくる。
「カミュー?」
綺麗な、声だと今更ながら思った。
そんな声が、自分の名前を呼んだだけで、顔が緩んでしまいそうだ。
「いいえ、なんでもないです」
笑って言えば、少し不思議そうに眉をしかめてまたグラスに口をつける。
耳元を掠めるのは氷がたてる音と、酒場に流れるジャズ風なメロディ。
周りには仲間達が静かに酒を飲んでいた。
こくん、と上下する喉元を見る。
するとそこには一つの風車を象ったようなシルバーのネックレスが。
が髪を掻き揚げると、それもシャラン・・と音を立てた。
「それ、どうしたんですか?」
装飾品等を殆どつけないにしては、珍しい。
すると、はそれを親指で引っ掛けて掲げて見せた。
にっこりと、笑う。
「この前、誕生日にヤムがくれたんだ」
そんな、嬉しそうに、笑わないで。
そんな、幸せそうに、見つめないで。
「そう、ですか。似合ってますよ」
掠れてしまった声。
それを隠すようにして自分のグラスを傾けた。
「カミュー、飲みすぎじゃない?」
「・・・・」
お願いだから私を見ないで。
飲みすぎてしまうのも、やけに鼓動が高まるのも。
全部全部あなたのせい。
グラスの中身を一気に飲み干した。
酔いが、回る。
届かないのなら、いっそ押し付けてしまおうか。
醜いこの独占欲。
私だけを見つめて、私だけのものになって。
決して自分から離れないように、繋ぎとめてしまえたらどんなに楽だろうか。
「あ、ヤム!」
立ち上がる彼女。
傍で笑う彼。
それを見つめる自分。
からんっと氷だけのグラスを光に透けさせた。
自分のグラスはいつまでも空っぽで。
彼女のグラスはいつでも、彼で満たされている。
「馬鹿みたいですね」
笑う彼女。
笑う彼。
見つめる自分。
もし。だなんて。
そんな馬鹿げた事、思ってしまう自分。
どうやら今夜は、かなり酔い過ぎなようだ。
それもこれも全部アナタのせい。
愛しいアナタのせいなのに。
笑う、彼女。
見つめる、自分。
ねぇ、こっちを向いて?
end。
イメージは平井堅さんの曲です。
ちょっとこういうのも書いてみたくて、やってみました。
カミューの悲恋。
初のカミューが悲恋とは・・・カミューファンの皆様申し訳ないです。
この曲、とっても大人で素敵ですv
でも、高校入試の時、これを聞きながら勉強してたので、
ちょっと聞いてると泣けてきますね(笑)
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