異性同士にも友情は成立するもので。


 色。



太陽が赤く染まり、夜の来訪を告げる。

そこは威勢のいい船乗り達が集う船着場。
その端のほうで、いつも釣りをしてるヤム・クーに、ついさっき帰ってきたは逢いにきていた。

駆け足でその場所へたどり着けば、その光景に一瞬驚く。

あぐらをかき、釣竿を持っているいつものスタイルではなく、
両手を頭の後ろで組み、横になっている姿。

「ただいまー。ヤームーー、・・寝てンの?」

青い着物の裾から、白い腕が覗いている。
でも長い前髪のせいで肝心の目が見えない。

「・・・・・」


そういえば。
自分はヤム・クーの目を見た事ない気がする。
・・いや、ない!!


「これは見るチャンスだわなv」
いそいそと仰向けになっている彼を跨ぎ、腹筋辺りに腰掛けて、そーーーっと前髪に手を伸ばした。
「ヤム・クー?」
もう一度、本当に寝てるかどうか確かめる。
返答は・・ない。
おっし!!
確認がすんだは、意気揚々とヤム・クーの前髪に触れた。
さらさらと、けっこう手触りがいい金髪。
やけに長いその前髪を、そっと払った。
現れる、肌の色。

初めてみる彼の閉じている瞼。
しかし、自分が見たいのはそこではなく、その中身。
さてさて。
どうやって起そうか。


「くすぐり、は確かヤムってきかないし。目潰し・・・も駄目だな、つぶしてどうする。」
ぶつぶつと一人ごちて、考える。
「目潰しは嫌ですね」
「でしょー?どうせつぶすなら見てからつぶすよ・・って」
ばっ!っと声のした方に視線を向けた。
そこにはいつのまにか起きているヤム・クーの姿。
「ぎゃあ!いつから起きてたんじゃい!!」
「結構前から。・・そうですね、さんが走り寄ってきたとこらへんから」
「最初からじゃん・・・って、・・・ヤム・・・の目って」
やっと目的のものが目の前にあることに気づいた
思わず見つめる。まっすぐ。
「ああ、見た事ありませんでしたっけ?」

金糸の間から自分を見据える色は、青。


青、というより、水色に近いかもしれない。
体を起こして頭を掻くと、またその前髪に隠れてしまった。
ヤム・クーの腹部に座っていたため、まっすぐ向き合う。

「?そんなに俺の目の色以外でした?」

ふるふると首をふる
「いや。なんか。予想どうりな気がする」
別に、予想してたわけではないのだけれど。
期待を裏切らない、その色。

「あ!そうだ、あれだな。ヤムの目は海の色だね」


にっこりと微笑んだは、腕を伸ばしてまたヤム・クーの前髪を払った。
そこにあったのは、驚いたようにしている海の色。
「・・初めてですね。そういう意見は」
「だって、ヤムって海ばっかみてるしさー。きっと移ったんだって、色が」
「そうですかね」
「そうですよ」



ぽて、とヤム・クーはまた横になってしまう。
「まだ、眠いですね・・」
深く息を吐いて、空を見つめているようだ。
その胸に、とす、とは頭を置いて、ヤム・クー乗っかるように体重を預けた。
耳を、青い着物越しの心臓に当てる。
とくりとくり、と規則正しい心音。
は、ゆっくりと瞳を閉じた。

「・・・ヤムって海の匂いする」
「魚臭いってことですか?」
「ちがうっつーの。潮の香りってこと」
「ああ」
よかった、と軽く笑いを含んだ声。



「なんか・・あたしも眠いかも」
「寝てもいいですよ、俺も寝るし」
胸から直接聞こえる低めの声。
どうやらその声には催眠効果があるようで。
「・・んじゃおことばに甘え」
「あ」
思い出したように、自分の言葉をさえぎるヤム・クーを不思議に思って、顔を上げた。


そこには、青と、海と、笑顔があって。

「おかえりなさい、さん」









「ただいま」






二人を、アカイアカイ夕日が照らした。





end。





やっぱヤムはええのぉ。
書いててめっさ楽しいのです。
でも実際、ヤムの目の色って何色なんでしょう。
海の色ってのは私的理想です。
文頭にもあるように、二人は友達。
でもって結構仲良さげな感じでね。
あれなのです、よく異性同士に友情はないよ、とか言う人いらっしゃいますが、
私はそうは思わないので、こういう作品に。
この二人の感じはシリーズ化しそうな気がします。



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