分け与えるもの。
適温。
ごほっ。
冬の月明かりが眩しいほどの夜。
そんな中、今まで人生色々で他の上忍達と飲んでいた(というか、飲まされていた)月光ハヤテは一つ咳をした。
そんなに無い、自宅までの帰路を、少しゆっくりめに歩く。
顔がほてっていて、冷たい夜風が気持ちいい。
いつもはそんなに飲酒をしないハヤテだったが、今日はアンコの愚痴に付き合っていたため、ついつい飲みすぎてしまったようだ。
はぁ、と目の前の夜空に息を吐きかければ、それはみるみる内に白くなる。
「あー、今夜は月が綺麗ですねー・・けほ」
歩みを止めて、暫くその夜の太陽を見つめていた。
風が、ふく。
木々が、ざぁああああああっと音をたてて流れていった。
ハヤテは朝と夜、どちらかといえば夜が好きだった。
何処か静かな世界。
血と戦いの忍の世界から、切り離されているような気がするから。
んが、その世界を崩す女が一人。
「ハー―――ーヤー――――テー――――!!!」
どげし!!!
いきなり後ろから背中を飛び蹴りされ、ハヤテはもろ食らってしまった。
「いっ・っ・!!」
声にならない痛みに、ハヤテは仰け反って地面にずっこける。
砂利に鼻がすれて、ひりひりした。
「まだまだだな!隙が有りまくりだったぞ!」
どすん!と横たわった自分の背中に、誰かが乗ってくる。
まじで、結構痛いんですけど・・・・。
こんな事をするのは知り合いの中では一人しか思いあたらない。
「・・・・・さん・・・。重いです・・・」
「あーーーー!ひどい!!思春期の女の子になんてことを!!」
「もう、女の子って年でもないでしょう」
「いやーー!!やめてーー、思い出させないでーー!!」
自分の上でいやいやをするように首を振り、耳を押さえる。
ハヤテも見えてはなかったが、気配でなんとなくわかった。
腕を後ろに回し、の腕を軽く掴むと、身体を反転させる。
そうすることで、腹筋の上に座る状態になったを、下から見上げた。
とは下忍の時からの腐れ縁。
何故か中忍、上忍となったのも同じ試験でだった。
それから何度か同じ任務をこなし、お互いのことはもう嫌というほど知っている関係。
そう、嫌というほど毎日顔を見ているのに。
にこにこと笑っているの顔に、ハヤテはため息をついた。
いつも、この笑顔に騙されるんですよ。
自分を蹴ったことを怒ろうとしたハヤテだったが、のその笑顔に、その気もそがれてしまった様だ。
「・・・ごほっ・・それで、人を後ろから呼ぶのに、なんでとび蹴りするんですかね?」
腕を両側に広げて、ハヤテは大の字になる。
視線は、の後ろに輝く月に向けた。
もつられて、後ろを振り返る。
「だってハヤテ帰っちゃうからさー、あたしがアンコの愚痴の相手になりそうだったんだよ?」
だから、とび蹴りはその罰。とはニシシと悪戯っぽく笑った。
「あー、それはすいませんね」
「うわ!!心がこもってない謝り方!!」
「そんなこと言われても・・・」
「・・よし!」
いきなりは立ち上がった。
それによって、ふ、と楽になる腹筋。
はハヤテに手を差し出す。
「ハヤテ君にはあたしを家まで送っていく、という償い方を贈呈しよう!!」
・・・・。
「・・ごほ・・・・正直に言うと、いらないですかね」
「まーまー、遠慮しないでv」
手を掴まないハヤテの腕を、自分から掴んでぐいっとむりやり立たせた。
ハヤテはやれやれというような表情で、自分の背中についた汚れを叩く。
「・・ま、どうせ家近いですしね」
「そーそー、素直で宜しい」
にぱ。と笑って、はハヤテの手をとった。
ぎゅっと指を絡ませて強く握る。
ハヤテはそれを咎めもせず、とてとてと歩き出した。
それに続く。
「ハヤテ手ぇ熱いなー、相変わらず」
「昔からこうですからね」
「冷え性っぽい顔してんのに」
「どんな顔ですか、それ」
ハヤテは頭一個下らへんにいるに視線を下げながら、少し笑った。
も微笑みかえし、手を更に握る。
「でも、あたしは手冷たいから丁度いいや」
「・・そうですね」
『ちゃん、ちゃん。どーしてないてるの?』
『うっく・・っひく・・おとうさんに・・っく・・おこられちゃっ・・たの』
『どーして?』
『おとうさんのたいせつなとけいこわしちゃったから・・』
『・・・・』
『もう・・おうちかえれないよ・・』
『・・だったら、いっしょにあやまりにいこよ』
『・・・・そしたらハヤテまでおこられちゃうよ?』
『いいよ、ちゃんといっしょなら』
『・・・ありがと、ハヤテ』
その時、繋ぎ合った掌は。
「あの時、結局二人ですごく怒られて泣いたよね」
「ああ、あれ、結構トラウマになってたりしてますし」
困ったように頭を掻くハヤテに、はぷっと吹き出す。
「今でもお父さん見ると固まるしね、ハヤテ」
笑い混じりの震える声。
ハヤテは、そんなにため息をついた。
視線を上げれば、月がまた眩しくて、目を細める。
『あたしねー、つきだいすきなんだ―』
『どうして?』
『だってよるのくらいのをあかるしくてくれてるから』
『だったらぼくとけっこんしようよ』
『なんで?』
『ぼくとけっこんしたら、みょうじにつきがはいるよ』
『ほんとだー!うん!!あたしハヤテとけっこんするー!!』
『やくそくだよ』
『うん!』
ちらり、とハヤテはに視線を向けた。
「なに?」
いきなり見られたため、は驚くように声を上げる。
ハヤテはまたため息をついて、視線を戻した。
「ちょっ!なによ、ため息ついて!!」
「いえいえ、ごほっ・・なんでもないですよ」
「なんでもなくないだろ!!気になるって」
「なんでもないですって。ほら家つきましたよ」
するりと手を離して、ぽん、との頭に手を置いた。
は拗ねているようにハヤテの腹筋辺りに軽くパンチをする。
それに、くすりと微笑んで、わしゃわしゃと髪を掻き回した。
「さんは昔と変わってないですねって思ってたんですよ」
「それってイヤミ?」
「褒め言葉です」
「・・・あっそ」
もう一度、少しだけ強くしたパンチをハヤテに食らわした。
なんとなく、だったけれど。
「それじゃおやすみなさい」
「おう、おやすみ」
は右手。
ハヤテは左手。
つなぎ合っていたその掌は、今はちょうど適温になっていた。
はうう・・ハヤテさんむつかしい・・・。
初ハヤテドリームを、キリ番を取ってくれたスズ様に捧げます。
つーかこんなもので申し訳ないです(泣)
ちびハヤテ登場です。
5、6才の感じでしょうかね。
昔もせきしてたんでしょうか。
もどる。