あと少し、だけ。
遠回り
あたたかい、と思った。
その後に感じたのは、自分の体を支える両腕で。
ゆっくり目を開ければ、揺れる黒い髪。
「あ、気がつきました?ごほっ」
耳元を掠めた声、ぼんやりとしていた意識がはっきりする。
ハヤテはいつもの咳をしつつ、顔を少し振り向かせてきた。
どうやら、自分はこの幼馴染におんぶなんてものをされているらしく。
状況がよく掴めなくて、辺りを見渡して見れば、いきなり体に激痛が走った。
「・・っ・・っ」
声もなく痛みを耐えていると、ハヤテが歩みを止める。
「無理しないで下さい、あなた重症なんですから」
低い、声。
やっと落ち着いたが目を開けると、ハヤテの顔が、少し見えた。
触れ合っている部分が暖かくて、ハヤテの服を掴む。
「・・?」
そういえばハヤテがベストを着ていない。
不思議に思ったが、すぐに自分の肩にそれが掛けてあるのに気づいた。
いつのまにか歩き出していたハヤテと一緒に、自分も上下に揺れる。
「・・・・どうして勝手に行動したんですか」
怒っているような声色に、は服を掴む手に力を込める。
怒るのも無理はない。
任務中に持ち場を離れた自分。
子供が盗賊に襲われていたとはいえ、してよいことではなかった。
でも。
「・・・・ほっとけなかった・・・」
掠れたの言葉に、ハヤテはため息をつく。
よいしょ、との体を抱え直した。
ごほ、とハヤテの咳が響く。
カラスが、空の何処かで鳴いていた。
視線を上げれば、赤く染まった空が広がっていて。
とても、寂しかった。
「心配、したんですから」
少し震えている、ハヤテの体。
相変わらず顔は見えなかったが。
「・・ごめん」
ぽす、と。
はハヤテの背中に頭を置いた。
とくんとくん。
伝わる鼓動とぬくもりに、安堵が零れ落ちる。
大きい背中、力強い両腕。
小さい頃はあんなにも頼りなかったのに、と、は少し笑った。
「ね、ハヤテ」
「なんですか」
「そこ、右行こうよ」
「・・・遠回りになるじゃないですか」
「いいの、そっち」
「アナタ、自分が怪我してるのわかってるんですか?」
「もちろん」
「・・・しょうがないですね」
ため息交じりの言葉にも、優しさがあるのを判っているから。
はぎゅっと、ハヤテの首に腕を回した。
今日は生きていても、明日は判らない。
明日こそは死んでしまうかもしれない。
明日こそハヤテは死んでしまうかもしれない。
明日こそ二人とも死んでしまうかもしれない。
ねぇ、だから、触れ合っていられるこんな時を。
少しでも多く感じていたいんだよ。
end。
おんぶネタです。
忍の傍にはいつも死と別れが平行して並んでいて、
いつ交わってしまうかわからない不安があるとおもうのですよ。
だから、一緒にいれるときを大事にしたい。
そんな感じで書いてみました。
ハヤテさん・・・あんまり咳してないなぁ・・。
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